有償PoCを成功させるための実施手順

有償PoCを成功させるための実施手順

この記事は、日本で唯一、有償PoCを自社で成功させた会社が本音で語る、ネット広しといえど、ほかにはない

有償PoCの実践マニュアル

です。

 

本記事をウェブから見つけてきた時点で、あなたは間違いなく勝ち組と言っていいでしょう。

なぜなら、今日も日本のどこかで起こってしまっている

PoCに成功↑→事業に失敗↓

という事象を確実に防ぐ唯一の方法が、PoCを有償化することだからです。

 

それから、以下の「恒等式」が成り立つことも指摘しておきたいと思います:

有償PoC = (本物の)MVP (Minimum Viable Product) = 事業化

いま述べたことの意味の解説は、本記事 末尾の「あわせて読みたい」に譲るとして、早速、私にしか語れない、有償PoCの実施手順についてステップごとに述べていきます。

 

有償PoCの実施手順

ここでは、ヒット事業となった弊社(株)StartupScaleup.jpのサービスである、「AIディアソン」の実際の事例を織り交ぜて各ステップを説明していきます。

Step 1. 撤退(もしくはピボット)の基準について決める

要するに、(成功基準でなく)潔く身を引くための失敗基準を厳密に決めておく、ということです。

いきなりこのステップが最初に来て、心弾まないのは、実体験から、心底よくわかります。

私自身が、自分が決めた撤退基準に引っかかって自身が創り出した事業をとり潰す際に、トリキで一人でやけ酒をくらった記憶が鮮明ですから……。

お気持ちはわかりますが、始める前に、現実を正面から見据えましょう。

あなたが手掛けているのは新規事業です、神様や仏様といえど、成功するかどうかはわかりません。

さらには最初に事業計画を立てる段階で、あらかじめ、いつ、どういう判断基準で撤退を決めるかという見極めポイントを明確にします。
事業がどのように大きくなるかを予測し、ある時点で顧客が所定人数に達しない、あるいは、初期投資が回収できていない場合には、撤退するというように、撤退ルールを決めておくのです。
菅野寛. 経営の失敗学 (日本経済新聞出版) . 株式会社 日本経済新聞出版社.

この菅野教授の撤退基準を、有償PoCの実施次点で、自分に厳しく定めておきます。

同著で菅野氏は、ファーストリテイリングの野菜事業SKIPの失敗事例を語っていらっしゃるのですが、この事業が2年足らずで撤退するまでの赤字が30億。

御社に、

まあ、30億くらいの赤字ならなんてことないか、しょうがない

と、経営陣が太っ腹に あなたの失敗をとがめない余裕があるというのなら、有償PoCには失敗基準を設けず、事業が大きくなりかけたら設定する手もあるでしょう。

現実には、PoCだからこそ、大出血しないで撤退できる、だからこそ、株主を含めた様々なステークホルダーに、健康的な評価基準でその失敗を評価されうるのだ、と考えるのが一般的ではないでしょうか。

AIディアソンの場合は、「三ヶ月以内に発注がたたなかったら撤退」とわりきりました。

ちなみに、この節はとても悲観的な書き出しにしましたが、実際には、PoCに失敗したからといって、この世の終わり、と考えるのは早計です。

開発しかけていたものをほかに転用して、ほかのビジネスで展開する、ピボット(事業転換)という手が残っているからです。

 

Step 2.  どんなMVPで仮説を検証するのかを決める

MVP (Minimum Viable Product)について世間に誤解なさっている人が多く、話すと長くなるので、「あわせて読みたい」に挙げた ほかの記事に説明を譲りたいのですが、いちばん大切なことだけ指摘しておきます。

MVPは、その製品/サービスに価値があるかどうかの検証に使える「あるモノ」ではあるものの、(粗製乱造された)プロトタイプとは限りません。

というよりも、たとえプロトタイプといえど、たいがいの場合、開発にそれなりの経費と時間がかかってしまうため、ここはなるべく「それ以外の何か」ですませたいところです。

Stripeの最初期、エンジニアたちがお客様のオフィスに押しかけてクレジットカード会社のAPIをいちいち個別にお客様のサービスの課金システムにつなぎこむという

SI事業

が、「プロトタイプでないMVP」でした。

(しかも、Stripeは、確信犯的に、そのSI事業に、業界水準よりはるかに高い値段をつけました。詳しくは「あわせて読みたい」の記事参照。)

この「プロトタイピングしないMVP」には、もう一つ非常に大きなメリットがあります。

それは、モノを全く作らないため、できあがったプロトタイプに思い入れが生じようがない、というものです。

したがって、Step 1 でさだめた撤退基準に万が一引っかかってしまった場合、精神的にも資金的にもダメージ少なくあきらめることが可能です。

AIディアソンの場合、38通りの傑作MVPの前例を覚えさせた自作の生成AIサービス「MVPデザイナー」に相談して、いくつかのMVPを考えてもらい、最終的にStripeと同じ「オズの魔法使い型」MVPとしました。
すなわち、Python でコードを書いたりすることなく、発注のたびに、コマンドプロンプトを私が生成AIにあれこれ入力する、という、原始的なサービスです。

ちなみにここで、

原則、有償PoCに使用してはいけないのは、複数機能を持つプロトタイプです。

なぜなら、顧客がどの機能を目の色変えてほしがっているのか、不明確になるからです。

現在の AIディアソンには、現在では事業アイデアを目利きしたり開発ロードマップを描いたりする機能が付属していますが、当初は機械的にアイデアを出すだけでした。
私の価値仮説は「研究開発で技術シーズを造らざるを得ない製造業は、事業アイデアを喉から手が出るほど欲しがっている」だったからです。

(万が一、すでに複数機能を持つプロトタイプを開発していたら、それはそれなりに、うまく有償PoCを進めるやり方があります。軌道修正は可能ですので、ご安心ください。)

 

Step 3. PoC参加者を集める

有償PoCのお客様は、メインストリームではない

というのが非常に大事です。

大ヒットをもくろんでいきなり大口の大本命のお客様にもちかけると、いろいろ障害が発生することになるでしょう。

Yコンビネーターでは、「いちばん最初に、知り合いのスタートアップに売れ」と教わります。

なぜなら、彼らは喫緊の課題を抱えていさえすれば、面倒な稟議プロセスなど吹っ飛ばしていきなり購入してくれるからです。

営業で集める

実はAIディアソンでは、このやり方で、いま思い出しても歯噛みしたくなる、手ひどい失敗をしました。

営業代行サービスを使用してソリューション営業を行ってもらい、PoC参加者を集めようとしたのですが、多くのお客様にお声がけしてもらったものの、購入する、すなわち有償PoCにつきあう気のある顧客はついに一社も現れなかったのです。

商談までこぎつけても、連戦連敗、それどころかついに全敗でした。

これは、いま反省するに、すこぶる当たり前のことです。

なぜなら、「ぽっと出」の、海のものとも山のものともしれない、使用実績のないサービスを使ってやろうと思う奇特な顧客は、

自分の抱えた問題を解決するのに死に物狂いで、目の色が変わっている顧客

だけだからです。

(リーンスタートアップ運動を実質的に創始したスティーブ・ブランク氏は、こうした顧客を、アーリーバンジャリスト/Earlyvangelistsと呼んでいます。)

すなわち、サービスをさっくり紹介しただけで、「さっさと売れ、ほら、この金を持っていけ!」と、財布の口を大きく広げる顧客です。

手痛い失敗に後悔した私は、のちに、あるうまい「探索型有償PoC営業戦略」とでも呼ぶべき戦略を思いつき、業務委託の営業の皆さん経由で、AIディアソンに強い興味を示す熱心なお客様方を捕まえることに成功します。

(ここでポイントは、この手の「探索型有償PoC営業戦略」には、原則、自社の営業リソースを投入しないことです。)

 

Web広告で集める

こちらの方が営業よりもはるかに順当な方法で、オススメできます。

オススメはできますが、こちらにも、営業とそっくり同じ留意点があります。

広告でテコ入れすることでサービスをヒットさせるやり方をしてしまっては本末転倒です。

ペッパーは、PRに大成功し、事業に大失敗した製品です。

ペッパーは、2014年に鳴り物入りでデビューを果たしました。

孫正義氏自身が大々的に登場したソフトバンクの巧みなPR戦術が功を奏しました。

それは、製品としてのペッパーを露骨に押し出す「売らんかなPR」ではなくて、「ペッパーのある生活」というストーリーを巧みに演出して見せるという、今でもマーケターの間では評判の高い、ある意味天才的と言っていいPR戦略でした。

この卓越したPR戦略と、ソフトバンクグループ独特の強力な営業のおかげで、ペッパーはデビューしてすぐ大ブームを起こし、売れに売れます。

しかしにもかかわらず、そのたった4年後の2018年に日経クロステックは、「ペッパーを導入した企業がペッパーの契約を更新しようとしない」と言う悲劇をすっぱぬきます。

そして人知れず2021年にペッパーは、生産中止に追い込まれてしまうのです。そしてソフトバンクロボティックスは、

最初大いに売れてしまったペッパーのせいで196億もの損を計上

します。

ここで出すWeb広告は、高い広告費と引き換えに、「本当のところ製品として魅力がないペッパー」を、センセーショナルに売り出すためのものではありません。

一次的なハイプなど、有償PoCにとっては百害あって一利なし、です。

そうではなくて、ジョブ理論にしたがって、

あなたは こういうことで困っていませんか?

というトーンで、お客様の行動パターンと、その行動の途中で生じるストレスを指摘した広告をうち、「目の色の変わったお客様」を集めるのです。

(「あわせて読みたい」に挙げたジョブ理論の記事の中で、この手の広告の書き方を概観しました。)

ここで、そのようなお客様がどれだけ集められるか?自体が、そのサービスの将来の売れ行きを大枠で占う格好の検証、テストになっている、ということを指摘しておきます。

AIディアソンの場合、ある事情があってWeb広告がつかえなかったのですが、使えたとしたら、弊社で独自に開発した生成AIによるジョブ理論的広告文サービス「広告道場」でもって、この種の広告を作成するでしょう。

 

有償PoCの実施

さて、この段階で重要なのはプライシングです。

ここで、Yコンビネーターの鉄則ですが、

開発者自身が「こんなにとってもいいのか?」と思えるほどの値段を請求する

ことが重要です。

そのためにオススメなのは、社内ではPoCと銘打っていても、社外的にはPoCとうたわない、「本音と建前」戦略です。

あなたがやろうとしているのは「無償のPoCをすっ飛ばしての、即日 事業化」であることを思い起こしましょう。

(サービスに値段をつけて売る、すなわちこれ、事業化ですよね?)

サービスに対して対価を頂くのだから、堂々としていなければいけません。自信なげな態度がもっともよくないといっていいでしょう。

誰しも、自社製品に自信を持てない人からわざわざお金を払ってまで何かを買いたくないからです。

と、偉そうなことは、本当のところ、私には恥ずかしながら言えません。ここでも私は失敗したからです。

AIディアソンの場合、試用版と称して、廉価で売っているうちは、全く有償PoCに参加してくれる顧客は現れませんでした。

よく考えたらそれはそうです、造りたてのほやほやと分かっているものに、特に大企業は手を出すわけがありません……。

そこで、

思い切ってαともβともトライアルとも名乗るのをやめ、後にパートナー企業に「高すぎだ」と文句を言われることになる大上段な値段を付けて「正式なサービス」と称したら、いきなり売れました。

しかも発注書は、大企業にしては、異常なスピードで出ました。

ご担当者様、喉から手が出るほどこのサービスが欲しかったのです。すなわち、私の仮説は見事証明されたのです。

逆に言えば、高い値段をつけても買ってくれる「目の色が変わった顧客」が現れないサービスは、大した価値提案を持っていない可能性が高いわけで、したがって失敗基準に抵触する確率が高くなる、とならざるを得ないわけです。

 

PoC実施後に必ずやるべきこと

PoC終了直後、必ず顧客にアンケートにあたるミーティングを、なるべく対面で実施しましょう。

ここでは、「どれだけご満足いただけましたか?」などという、お世辞を誘導するような質問はしてはいけません。

ほかの記事に書いた通り、無償のPoCが百害あって一利なしである理由の一つは、この種のお為ごかしをお客様に口にさせることです。

お世辞、お為ごかしを訊いてその場で気分はいいかもしれませんが、製品を改良するヒントには、全くならないですよね。

必ず伺うべき質問、

  1. 顧客はどんな仕事をこなす際にどんな局面でどんなストレスを抱えていて、それはこのサービスによってどの程度軽減されたか?
  2. このサービスで不満が残ったところはどこか?

を、深く聞きこんでいきます。

これらは、自社サービスを改善していくための何より貴重なフィードバックです。

あのiPhoneも、天才スティーブ・ジョブズが天啓を得ていきなり完全体として生み出した製品などではなく、2007年に世に出たときはガラクタだったのを、顧客のフィードバックをフル活用しながら Apple が倦まずたゆまずコツコツコツコツ改善してきた結果なのだ、ということを忘れないようにしましょう。

新規事業のインタビューに成功する秘訣に関しては、「あわせて読みたい」の別記事を参考にしてください。

 

まとめ

ここに書いたことは決して机上の空論ではないのですが、実際にやったことがないと、そう思えてもおかしくないと思います。

こんなに短いブログ記事で、私が苦心した過程全て、テクニック全てを開示できるはずもありません。

(株)StartupScaleup.jpは、日本で唯一、有償PoC実施を支援できる会社です。

地に足のついた、本当に有益なPoCを効率的かつ効果的に行うのをサポート申し上げます。

詳しくは、下記から資料をご請求ください。

    お問い合わせ区分

    お名前

    メールアドレス

    電話番号

    お問い合わせ内容

     

    あわせて読みたい

    あなたが興味を持ったトピック あわせて読みたいほかの記事
    AIディアソン製品の最新動向 AIディアソン:次世代ビジネス支援ツールの全貌
    ピボット戦略の実践方法 ピボットの成功パターン:失敗から学ぶ事業転換術
    MVP開発の核心 MVPの重要性:新規事業 成功の秘訣を徹底解説
    ユニクロSKIPの失敗事例 Product/Market Fit達成のための3原則
    Yコンビネーターの投資戦略 Yコンビネーターが支援するスタートアップ成功の秘訣
    StripeのMVP開発手法 PoCから学ぶ:Stripeの初期開発プロセス
    ジョブ理論の実践活用 ジョブ理論を活用した顧客分析の実践ガイド
    iPhone開発の裏側 スティーブ・ジョブズが語ったiPhone開発秘話
    顧客インタビュー 生成AIをフル活用した新規事業インタビュー実践マニュアル – 2025年最新版 –

    コメントを書く

    送信いただいたコメントは承認後、表示されます。

    CAPTCHA