事業再生のカギ:強みをどう生かすか?

富士山

事業再生のカギ:強みをどう生かすか?

イントロダクション

さて、いきなりですが、今回はクイズから始まります。

富士山の周囲では古い森が長い間ずっと残っていますが、それはなぜでしょうか?
林業に頼らずとも暮らしていける産業があったから
さて、なぜなぜ分析を続けましょう。
あなたは対象の時代に生きています。
夜になると鬼が出て人を食らっていた時代ですね。
あなたの手元にある、他にはない資産(強み)とは、
平均気温、年間通じてたった三度の、夏の昼なお暗き洞穴です。
令和の現代では観光地になっている「氷穴」とかですね。
氷穴

富士氷穴(撮影 富岡功)

いまは危険なので許可なく立ち入れないのですが、
氷穴以外にも、もっと広大な洞穴が、富士山周辺には複数あるのだそうです。
これを有効活用して、林業がなくても、周辺の住民が十分に暮らしていけるビジネスを考えてください。
ここでポイントは、この天然の冷蔵庫を活用したいという顧客が、全国から訪れてこないと、
住民皆が食っていけるだけの付加価値(GDP)は生み出せない、ということです。
洞穴群の天然の冷蔵庫を活用して、年間通じてコンスタントに稼げるビジネスを考えてください
回答を与える前に、ここでじらしを入れます(笑)

「電柱を使ったビジネスを10分で10個考えてください」

これは、私がリーンスタートアップなんて言葉が存在しなかった当時、
恐らく日本では最も早いタイミングでスティーブ・ブランク氏の著作を紹介して、
顧客開発ランチパッドを管理人に教えてくれた師匠から、
一昨年だったかに、Facebook上で私に出題された問題です。
私は10分足らずの間に、以下のビジネスのアイデアを片っ端から列記していきました。
  1. 電柱の上の方に持ち物を吊り下げる昇降可能なカゴをつけ、簡易貸しロッカーとする。
  2. Google maps と連動し、mapを使用してもまだ迷ってしまう方向音痴を 「ちげぇわ、こっちだ、こっち!」 と叱り付ける
  3. 電柱同士を網で繋げてドローンの落下を防ぎ、任意の場所をドローン特区とする。 ちなみに、太い電柱のルーフトップは、羽休めのできる駐機場をかねる
  4. Runkeeper と連動し、ジョギングの道中、電柱たちが魅力的な異性の声で応援するほか、 ゴール地点で「ごぉおぉる!」と叫ぶ
  5. 図々しく歩道を猛スピードで走っている自転車に対して突然枝木を伸ばし、ウエスタンラリアートして、110番する。 罰金五万円✖️違反者数でオペレーションする
  6. 雷の音が聞こえてきたら、しゃきいいいいん!と上に伸びて、避雷針と化す
  7. 酷暑の折、Suicaをピッとやると、道沿いの最上部の大傘がバタバタっと開いて、日陰の道ができる
  8. 「進撃の巨人」の無垢の巨人に、人間を食べる時の箸として貸し出す
  9. デートの後、どうしても告白できないあなたに代わって、「ねえ、こいつ、君のことが好きなんだってさ。つきあってやってよ」 と電柱がコクってくれる
  10. 電柱の側面で野菜を育てる。緑化と気温コントロールも兼ね、 下のほうについた野菜は、100円を箱に入れれば買える
  11. 電柱同士をワイヤで繋ぎ、滑車とモーター付きのカーゴをその上で走らせるUber Eats
  12. 若い女性が夜道を通る時、道の上に、警察官のホログラムを投影してくれる
  13. 人感センサーで周囲の人影を察知し、カメラを使わずに、混雑状況をヒートマップ化
  14. ダイナミックに経路を変えられる電気バスの停留所。高齢でスマホが使えない住民がボタンを押すと、 向かう方向の一致するバスが寄ってきてピックアップ。 電柱なので、バッテリーチャージャーかねる。
  15. 電柱同士を雲梯でつないで、信号を待ちきれないセッカチさんに、ショートカットをワンコインで提供。 筋トレを兼ねているので、雲梯を降りたところの電柱は、プロティンの自販機を兼ねる
  16. 迷子の子供に声をかけて110番してくれる
  17. 歩行禅している人を警策で打ってくれる
  18. COVID-19 感染者が出たエリアに警告を出す

もちろん、大半が、箸にも棒にも掛からぬ事業アイデアです。

⑧なんて、どさくさ紛れに、ギャグをいれています。

しかし、ふざけているように見えて、ここで大事なのは、

これらを短時間に速射できた

という点です。

リーンスタートアップで事業開発をやっていると、

アイデアを大量消費します。 なぜなら、新規事業の成功確率は、

1万分の1

だからです。

顧客に聞いてこれは売れないアイデアだ、となったとき (そしてとくに事業開発開始初期はたいていの場合そうなる)、

短時間でとっさに次のアイデアを切り替えて提示する必要があるのです。

事業アイデアが固まらないうちに顧客インタビューをずっとやっている事業開発の初期段階では

午前中のA社のインタビューで拒否られて企画がおしゃかになったので、

ランチタイムにナプキンの裏にビジネスモデルキャンバスを描き直し、

そのアイデアを午後にアポどりしてあるB社に提示する

といった荒業が必要になることはしょっちゅうです。

こんなときに、なかなかアイデアが浮かばない……とか言っていられないわけです。

ビジネスモデルキャンバスのフレームワークを作ったアレクサンダー・オスターワルダー氏の講演に参加したときも

似たようなワークショップをやりました。

「今あなたの手元に自転車が2台あるとします。

隣の人と組んで(共同創業者)10分間の間に5つの事業アイデアを案出し、

ビジネスモデルキャンバスに描いてください」

お気づきでしょうか? このときの「電柱」「自転車」が、この記事でとりあげた

事業コア=強み=リソース=ピボットの軸

になります。

ちなみに私が連射したアイデア群を見た師匠は、

「さすがです(笑)」

という反応でした。

事業再生のときは、手元にあるリソース、強みを有効活用せよ

さて。先ほどのクイズの答です。

洞穴群の天然の冷蔵庫を活用して、年間通じてコンスタントに稼げるビジネスを考えてください
蚕の卵の保存ビジネス
大正時代、絹産業が拡大の一途をたどっていました。
そのとき、絹産業が抱えていたペイン(痛み)とは、
蚕の卵が作られる時期が特定の季節に偏っているため、
材料が入手できる時期も限られてしまう
という問題でした。
群馬県の富岡製糸場の近くに、荒船風穴という世界文化遺産があります。
明治時代に庭屋清太郎という人物が、
蚕種抑制すなわち蚕が糸を紡いでいく季節のみに原材料が入手できる状態を
四季に平均化するために、冷たい風穴に卵を保存するというアイデアを思いつきました。
これは大変なイノベーション、いわばBPOだったと思います。
収入が年間通じて変動しないので、おそらく蚕が糸を紡がない時期にやっていた
アルバイト的な仕事も、絹産業者も製糸業者もしないで済むようになったはず。
富士山周辺ではこのアイデアを換骨奪胎して、
広大な洞穴群を使って、いわば蚕の卵の冷凍保存業を始めたのです。
遠くは九州からも海を渡って蚕の卵が運び込まれるといった繁盛ぶりで、
保存とその目録の管理だけで大変な手間だったと思いますが、
なにせ、特に西のほうの気温の高いところでは実現しようのないサービス、つまり、
他にはないユニークバリュープロポジション
を誇っていたので、
これだけで確かに周囲の住民たちが食っていける一大産業の態をなしたでしょう。
出典:以上の話は、富士青木ヶ原樹海の散策のガイドさんからうかがった話です。

事業再生のときは、手元にある強みを有効活用せよ(富士フィルムの事例)

名著 Lead and disrupt
がベストセラーになってから国内外で引用されることの多い富士フィルムも、
これと全く同じ技を使っています。
2000年前後、銀塩フィルムの市場が突然「蒸発」するという
会社の存亡にかかわる緊急事態に直面した富士フィルムの古森社長(当時)は、
「社内に眠っているシーズをすべて棚卸せよ」
という命令をすべての部署に出します。これこそ疑いなく、
事業コア=強み=リソース=ピボットの軸
の棚卸です。
その中に、写真が時間が経過して酸化が進むことで劣化するのを防ぐ、
ナノテクノロジー
がありました。 富士フィルムは、これを用いて、意外なことに、
化粧品
を造ろうと考えます。
古森社長自身の言葉をお借りします。
「写真メーカーの化粧品と聞くと、意外に思われるかもしれない。
しかし決して、畑違いの分野に参入したわけではない。
写真フィルムと化粧品は、一見、まったく異なる分野に見えるかもしれないが、実は共通点も多い。
写真フィルムの主な原料はゼラチン、つまりコラーゲンだ。
そして人間の皮膚も、その七○パーセントがコラーゲンで構成されている。
たとえば、肌のつや・はりを保っているのはコラーゲンなのだ。
富士フイルムはそのコラーゲンを、写真フィルムの技術開発を通じて、八〇年近くも研究し続けてきた実績がある。
また、体の老化の原因と深く関わるとされる「酸化」は、写真の色褪せの原因にもなる。
人間の肌が老化するのは、酸化作用が働くからであり、
写真が時間の経過とともに色褪せてくるのも酸化作用が働くからである。
時間が経てば写真がどう変化するか、どんな物質を与えれば劣化が防げるかといったノウハウは、それこそお手の物だ」
出典:
※上記は、事業再生を目指す方には必読の名著です。
富士フィルムもまた、危機に際し、 「氷穴」「電柱」「自転車」 をフルに有効活用して、
新しい事業を想像したわけです。
そしてこの動きこそ、 ピボット/事業変換 にほかなりません。

終わりに

特に会社が危殆に瀕していままで事業だけではビジネスがたちいかないとき、
自社の持つ強みを見定め、 それを軸に新しい事業を作っていく動きは非常に大切になってきます。
御社も今一度、自社の持つ、他者にはない強みというものを棚卸してみてください。
他者には決して負けない強みが見つかれば、
そこから利益の出る事業を創出していくことは、十分可能なはずです。

コメントを書く

送信いただいたコメントは承認後、表示されます。

CAPTCHA