新規事業の競争戦略/どんな事業領域に参入すればよいか?

新規事業の競争戦略/どんな事業領域に参入すればよいか?

どんな事業領域に参入すればよいか?

過去に、何度か私は以下のような依頼を受けました。

既存事業がレッドオーシャン化してきたから、弊社もいよいよ新規事業開発に取り組む。

ついては、

①どんな事業領域に参入すればよいのか、教えてほしい。
②成功事例のある、参入しやすく収益性の高い事業を教えてほしい。

よく考えると、これらの依頼はとても奇妙です。

新規事業を英辞郎で訳すとa start-up businessとなるのですが、

このa start-up businessでは、どう頑張っても

①も②も説明できないのはお気づきの通りです。

なぜなら、

①すでにある市場に参入する=後発である=既存のプレイヤーがいる
②成功事例は他のプレイヤーのもの

となることから、どう考えても「新規性」はないからです。

私は、日本で新規事業と十把一絡げに呼ばれているものを、

以下の2つにはっきりと分けて考えるべきと思います。

  1. 新奇事業
    今までに市場にいっさいなかった/市場にはあったものの、
    大ヒットした成功事例が今までに全くない、本当の意味で新規性の高い事業
  2. 陳腐(ちんぷ)事業
    すでに一定以上の市場ができているため他社の芝が青く見え、
    当社でも二匹目のドジョウをお手軽にすくいにいけそうな事業領域に、
    当社としては初に参入する、物まねの、相対的新規事業

②の方は挑戦的な表現のため不愉快に思われたかもしれませんが、

よく考えれば②の方は労多くして報われることが少ないのに、

あたかもこちらが本道であるかのように錯覚されている方があまりにも多いので、

実態を正視していただくことが重要と考えたのです。

実は深く考えずに②を選択したのを、

3Cを基本に、他社の事例と市場性を細かに研究し、
イノベーションの競争戦略に基づいて新規事業に挑戦する

などと、華々しくはあっても中身のない言葉で社内をけむに巻くのは自殺行為です。

いくら社内を説得しやすくても、お客様の立場に立ってみれば、

どこかで聞いたことのある陳腐なサービスと捉えられることに変わりはない

のです。むしろ、

本来、イノベーションを起こす、つまり今までになかった革命的な新規事業で
世の中を大きく変えることが目的である我々が、物まねに逃げるのは知的怠慢だ

と、厳しく自社のあり様を捉えることが重要です。

その上で「今回は陳腐事業に参入する」と決めたのなら別段とめはしませんが、

②には実は短所が多々あります。

競争戦略を考えながら既存市場に参入することの欠点

①市場性

競合による成功事例があるということは、先行者利益は当然望めません。

市場全体が大きいとしても、その事業領域では互いに押し合いへし合いして、

一社当たりとしては狭い市場をとりにいくことになります。

しかも後発なので、顧客の認知に関しては不利です。

さらに、成功事例がある=その市場がサチるまでの期間がより短いということにほかなりません。

②収益性

競合他社と自社で、内部のビジネスシステムが全く同じということはあり得ません。

大企業がモートの低いスタートアップの事業を規模の経済をいかしてコピーする

などの例外的な場合以外は、後発のほうが、

自社のビジネスシステムをチューニングして、

収益性を上げていくまでに時間がかかることは自明の理です。

また、儲かっている競合他社と似通ったビジネスシステムをたまたま持っていた場合は、

価格競争に陥るタイミングが早まった

ということに他なりません。

自社のストーリーとの合致

この記事で取り上げたNetflixのゲーム事業参入に見られる通り、

いくら競合の芝が青く見えたとしても、自社のストーリーときれいな整合性を持たない場合、

単にお金と人を無駄にしただけで利益が上がらない羽目になりかねません。

Amazon.comの「陳腐事業」にうまく行ったものが多いように見えるのは、

実は、自社のストーリーに合致すると思われる多くの事業を造っては潰しする中で、

それを強化することに成功したものが生き残ってきたにすぎないのです。

途方もない金額のMGMの買収ですら、Amazon.comにとっては、

競争優位性の確立などではなく、主要のEC事業を強化する施策でしかありません。

この企業がまたどうしてこの領域に進出したのだ?

と世間を戸惑わせる陳腐事業は、

どんなに競合他社が同事業で大儲けしていたところで、失敗する確率は高いのです。

まとめ

このように、一見、

他社の前例があるから成功する見込みが高い

事業領域に、自社が競争優位を発揮して参入する方式は、

新奇事業と比較して大成功する確率が大して変わらず低いわりに採れる実の少ない

実は損の多い新規事業開発

の方式なのです。

それでは、自社にとって最も実りある新規事業を選定するにはどうしたらいいのでしょうか?

別の記事で考えていきます。