新規事業の失敗例:アレクサも隠す Amazon.com の黒歴史 fire phone

新規事業の失敗例:アレクサも隠す Amazon.com の黒歴史 fire phone

みなさん、fire phone

って手にしたことがありますか?

いや、そもそも見たこともないですよね?

というか、今まで存在を知りもしなかった人が、日本人の大半だと思います。

それもそのはず、Amazon.com のプロダクト開発の

黒歴史

の最も闇の深いところに位置するからです。

ベゾス氏は pets.comなどの失敗例については自分から

「私は昔から失敗ばかりしてきた」

と堂々と語りますが、明らかに fire phone だけは、

「なかったこと」

にしています。

今回はその黒歴史を暴いていきます。

 

新規事業開発者の必読書「こち亀」

さてさて、例によって、いきなり脱線から入ります。

これから新規事業開発に取り組む方、もしくは既存の事業からピボットして、事業再生を狙う方。

騙されたと思って、下記のコミックスを読んでみてください。


古い漫画ではありますが、若い方もタイトルぐらいはご存じでは?いわゆる

こち亀

です。

このコミックスの中に、両さんが もんじゃ焼き屋(駄菓子屋)の店頭でおにぎりショップを開くという話があります。

このとき、両さんの顧客の行動の分析はびっくりするほど鋭いです。いわく、

ここは駅から離れているが、工場が近くにあり、ランチで皆苦労しているはずだ。

であるがゆえに、もんじゃ焼き屋の目の前にあるハンバーガーショップは売れている。

そこで両さんは、さまざまな種類のおにぎりの販売を皮切りに、

タイ焼き型おむすび製造機を開発、投入、

自分でおにぎりを作るセット

や、

2か月間保つ冷凍おにぎり

といった斬新なランナップを次から次へと投入し、おにぎりショップを繁盛させていきます。

それを目の前で見ていたハンバーガーショップの店長は、

まずは自店でもおにぎりを売り始めます。しかしかなわないと見るや、

うどん、おでん、ドーナツなど手広く売り始め(いわゆる競争戦略、多角化というやつですね)

しまいに自分自身を見失って、

ロレックス、ゲームソフト、ラーメン、ビデオテープなど

手当たり次第に製品をふやしていきます。

このときの両さんの洞察も慧眼です。

「タコのように手を広げると自滅する恐れがある。

ファーストフードの原点はおにぎりにある。

うちはおにぎり一本でいい

で、ここがギャグマンガこち亀の真骨頂なのですが、

いろいろ手広くやったにもかかわらず、両さんについにかなわなかったのでしょう、

目の前のハンバーガーショップはつぶれて、最終的に

駐車場

になってしまいます……。

何十年か前に、最初に読んだときは、腹の皮がよじれるほど笑いましたが、

これ、まじめな話、いまでも現実に見かけませんか?

なんでまた、スポーツジムがジーンズ売っているの?

それとは逆に、なんでまた、紳士服のメーカがジムを経営しているの?

街中歩いていて、「え??」と戸惑う瞬間、ありませんか?

餅は餅屋に任せればいいのに、なぜ、ラーメン屋が餅を売ろうとするのでしょうか?

Apple vs. Amazon.com 戸外にいる顧客との接点をかけた闘争

実はこんな戦いに似たものを、GAFAのうち、2つのAがずっと繰り広げていたのです。

iPodの脅威から生まれたkindle

iPodが馬鹿売れしているのを横目に見ていたベゾス氏は、とうの昔に、

iPodの大ヒットのカギは、
(1) 戸外で多数の楽曲を持ち歩け、
(2) 多数の楽曲から選べ、
(3) その楽曲のダウンロードが簡単なことだ

と見抜いていました。

したがって、

Appleが書籍のドメインに入ってきて同じことをやられたら、食われるな……

と真剣に憂えていました。

スタートアップの電子書籍端末に触発されたベゾス氏は、

今までハードウェアなんて造ったことはないがやってみよう

と思い立ちます。

そうして、ラボ126(aはアルファベットの1番目、26番目はz)というR&D機関を創設します。

ベゾス氏は子供のころから本の虫ですから、ユーザーインターフェースにとてもこだわります。

「端末自体は景色の中に溶け込ませ、読書中に一切意識させるな」

と厳命をくだし、自らテストに加わって端末を洗練させていきます。

そして2007年11月、紆余曲折を経て、ようやく kindle の初代端末が世に出ます。

今思えば、

キーボードはついているわ、重いわ、防水ではないわ、信じられないほど使いにくい

初代kindleですが、

ベゾスが出版社と「ゲリラ戦」を展開して安い値段で書籍ソフト多数をゲットしたため、

とてもよく売れます。

スティーブ・ジョブズ氏の最大の発明といわれるiPadが出てくるまで、

タブレット市場を完全に席巻します。

現在など、端末は iPad と上手にすみ分けつつ、

Amazon.com のECサイトの売上の中で実に8割が電子書籍です。

このときkindleがみっともないUXのわりに売れたのは、

ベゾスが本の虫で、

本を大量に読む習慣のある人間の気持ちを誰よりもよく知っていた

からこそ、大ヒットを飛ばすことができました。

私もkindleを3枚併用する本の虫ですが、

  1. 1枚は風呂で読むため
  2. 1枚はベッドサイドで読むため(夜6時以降にiPadの放つブルーライトを見ると眠れなくなるため)
  3. 1枚はコードやおしゃれバッグなどに常時入れておくため

に、iPad3枚とすみわけをちゃんとしながら使っています。

↑みなまでいわんでください、

ここまでたくさん本や記事を読むために多くの端末をそろえている私が変わりものだというのは自覚しております……

iPhoneの脅威から生まれた fire phone

さて、2007年ときいて、何かを思い出しませんか?

Amazon Music はAppleに敗れた

そうですね、Amazon Music が生まれた年です。

そして、Appleにロープライスで迎撃され、このプロダクト単体では敗北を喫します。

ちなみに音楽をめぐる Apple との競争にベゾス氏が敗れたのは、

ベゾス氏は若いころから音楽にてんで関心がなかった

からでした。

ボブ・ディランのドマニアで、若いころから音楽に耽溺してきたジョブズ氏が考える

アーティスト/曲目

ユーザーエクスペリエンス

値段感

いずれも、ベゾス氏が、かなうはずがなかったのです。

逆に、Appleの iBooks Storeは、今に至るも、kindleの陰で見る影もないですよね。

ジョブズ氏がベゾス氏のような異常な読書家ではなかったからです。

AppleはiPadにkindleのアプリをいれさせていますから、

もうこのドメインでは彼らと競合しない=餅は餅屋

と決めたということで、この判断は正しいと思います。

もとへ:fire phoneとは何者か?

いやいや、すみません、知っててわざとボケてみました。

2007年といったら、皆様ご存じの通り、6月に

初代iPhone

がランチされています。

世に出たときは、MicrosoftのCEOスティーブ・バルマー氏に笑い飛ばされた

iPhone

ですが、みるみる、イテレーションで、

歴史上最も数が出ている、おばけコンシューマープロダクト

へと変貌を遂げていきます。

Appleがモバイルショッピングに本格的に入ってきたら、顧客接点を全部持っているから、食われるな……

ベゾス氏の額に、汗がにじみます。

そこで、困ったときのラボ126に銘じて、

モバイルショッピングマシーン

fire phone を造らせ、2014年にランチします。

そして、値段を下げたりいろいろやってみましたが、

結局全く売れず、

8300万ドル分の売残りを廃棄、
1億7000万ドルの損失を計上

するに至ります。

名著 The Bezos Letters (参考文献で取り上げています、この本自体は新規事業開発者必読書)の

著者スティーブ&カレン・アンダーソン氏は、Amazonの発表を引用して、これを

a successful failure 成功のための失敗

と位置付けていますが、

いやいやいやいやいやいやいやいや、

これどう考えても、フツーに「やっちゃった系」です。

1億7000万ドルを一気に溶かすなんで、堂々たる男前な大失敗ですよ。

確かに同じ技術を使ってラボ126はAmazonエコーを造っているのかもしれませんが、それは言い訳にならない。

“The Amazon Way on IoT” の著者ジョン・ロスマン氏も、

「これも実験のうち、その証拠にベータ版としてのみランチされた」

「これもピボットとイテレーションの一環だ」

とおっしゃっていますが、

であればなぜ、あれだけ一気にたくさん製造して、

のちに値段を0.99ドルまで下げてまで売りさばこうとしたんです?

ピボットだ、イテレーションだ、いわれても、

全然 Minimum Viable Product になっていないです。

これも明らかに牽強付会で、ジェフ・ベゾス氏ご本位のおっしゃる、

ブラックスワン

ではないっでしょうか。

新規事業開発 fire phone はなぜ大失敗したのか?

さっきアレクサとした会話:

私「アレクサ!Amazon.comが最も失敗した事業は何?」

アレクサ「わかりませんでした、すみません」

こうしてアレクサですら黒歴史として隠したがる(?)fire phone のスキャンダルですが、

失敗した原因は一目瞭然です。

Amazon.comといえば、

実験

で有名です。

ベゾス少年は、時計などを分解して組み立て直すのが大好きな子でした。

こうおっしゃっています:

「実験はイノベーションのカギだ。予想通りの結果が出ることはめったになく、多くを学べるから」

Amazon.com は社員に、顧客を巻き込んだ小規模な実験を奨励しています。

実際、Amazonエコーもダッシュボタンも、当初は「ベータ版」としてPrimeユーザーのみに展開しています。

(参考文献の “The Amazon Way on IoT”参照、これも、非常におすすめの本です。)

先日ランチした Amazon Astro も、まずは社員自ら試用していたようです。

そして、会議室に「顧客」が座る空席をわざわざ設けたりして、

「顧客から始めよ、そして製品・サービスへ遡れ」

を全社員に徹底しています。

同社の事業企画には必ず、ランチ時のプレスリリースがカバーされています。

しかしこの fire phone だけは、明らかに、

Appleこわい(涙)

ラリー・ペイジ君、あれだけ応援してあげたのに、Android なんぞ出しおって、けしからん(怒)

と、コンペと張り合うこと=競争戦略が動機になってしまっています。

(これもベゾス氏の表向きの考え方と矛盾します。

氏は、『競合なんぞどうでもいい、顧客第一』を標榜しているのだから)

そして、ハンバーガーショップのくせに、おにぎりを店頭に並べ始めたのです。

要は Iridium と全く同じあやまりでした。

顧客が誰も欲しがらないものを、線形プロダクト開発(プロダクトアウト)で造ってしまったのです。

The continued disappointing sales reflected a major problem: no one wanted it, and no one bought it.
(Anderson, Steve. The Bezos Letters: 14 Principles to Grow Your Business Like Amazon.)

このようにセールスが低空飛行を続けたのは、大きな問題を示唆していた:
誰もそれを欲しがらず、そして誰もそれを買わなかったのだ。

プロダクトをとにかく出すことだけを目的に

ラボ126を駆り立ててしまったのです。

あの、

「倹約がなにより大事」

が社則の Amazon.com が、多額の資金を突っ込んで。

さて次は、この線形プロダクト開発の失敗を事実上強いている

社内プロセス

の話をします。

参考文献

fire phone に触れていなかったり、

その扱いが牽強付会だったりするところを除けば、

いずれも新規事業開発者が一読に値する名著です。