林業で起業したい方必読 一本の木材から徹底的に搾り取れ!

林業で起業したい方必読 一本の木材から徹底的に搾り取れ!

林業は起業の選択肢となるか?

一般に林業は衰退産業とみられており、

Web 3などという言葉と違って、森林という言葉は、

起業家や新規事業開発担当の心をときめかせることはないのかもしれません。

実際、林業は、

令和元年でGDPのうち、たった0.04%のみを占める

にしかすぎません。

しかし、あたかもイーロン・マスク氏の Space X が、

宇宙産業のそれまでのルールを大きく変え、

独自のビジネススキームをてこに巨大化したように、

この日本の林業界の常識に挑戦している企業があります。

林業とは?

日本の林業は、国によって大切な事業領域として久しく位置づけられてきたにもかかわらず、

残念ながら、斜陽産業として衰退の一途をたどってきました。

日本は実に国土の

67%

が森林で、このメンテは、木材の生産のみならず、動物との上手な共存や地球環境の保全、

土砂災害防止、水源涵養と、多岐にわたる意味で重要です。

しかし、人が暮らしている平野部に近い、戦後に植林された部分は、

持ち主不明、持ち主がいたとしても間伐が行わず将来の森林が育たないなど、

荒れ放題の面積が増える一方………。

このメンテを担う林野庁は、林業の活性化を、長らくの使命として活動してきました。

その一環として導入された施策

緑の雇用

がきっかけで、若者が林業へ新規就業するケースが増えてきたようです。

林業の抱える課題

実際、林業で、既存のルールに従って起業することは、

簡単ではないと思えます。

林業の業務サイクル、

植え付け→下草刈り→枝打ち→間伐→伐採(主伐)

は息の長い、結果がすぐには目に見えにくいサイクルであることにプラスして、

最もおおきな弊害の一つは、

「我々、森林作業士のポケットには、絶えず《死》が入っている。
それは、ちょっとしたことで飛び出してくる」
池田憲昭.多様性:人と森のサスティナブルな関係(自然科学、哲学).archjointvision

とすら言われる、致死率が建築現場の十倍以上といわれる厳しい環境。

加えて、事業開発の専門家としては、

バリューチェーン

の冗長さが大いに気になります。

林業ではこのバリューチェーンの中に多数含まれるプレイヤーを、大雑把に

川下、川中、川下

に分けたりするのですが、

実際には、もっと多数のプレイヤーが間に挟まっています。

林業家→伐採搬出業者→原木流通業者→製材所→製品市場→製品問屋
→小売業者→プレカット工場→プレカット流通業者→ハウスビルダー

これだけのプレイヤー群がかかわり、中間マージンをとっていくため、

左端の林業家の取り分は著しく少なくなってきます。

上記のバリューチェーンの図の出典である下の書籍には、

林業のことを知らない人たちにとってはショッキングな

価格帯について言及されています。すなわち、

60年かけて育てた1本のスギの丸太の値段は4000円前後、
樹齢120年の、高級とされる吉野杉でも、丸太一本がたったの1万数千円。

このお話にならない売上が、現在の日本の市場のルールでまともに

林業ビジネスを始めた場合の、過酷な条件となります。

これだけの収益を、上に書いた通り、林業者たちは、

文字通り命がけでとりにいかないといけないわけです。

↑この書籍は、

日本の林業の知られざる厳しい実情を暴き出した、

これから林業に従事しようとする全ての方々の必読書といえます。

外国産木材の輸入による衰退

上記の買いたたきにしかみえない安値は、

質が高くかつ廉価で、サービスも行き届いた

外材が日本の木材市場のマジョリティを占領してしまった

影響が否定できません。

上掲書の「絶望の林業」の著者 田中淳夫氏は、

林野庁の補助金がかえって日本の林業者の経営意識を低くし、

外材の業者と、まともには戦えないようなビジネスしかできないまでに

骨抜きにした、という意味のことを、抉るように指摘しています。

近年の行政は、木材生産量を増やすためには税金を注ぎ込み、
結果、森林の公益的機能を失っても致し方なし、というスタンスである。
だがこれでは、林業の活性化のためと言いつつ、
公共事業漬けに陥らせるやり方にほかならない。
産業を育成するどころか壊死させる。
ビジネスとしてもモラルハザードを引き起こし、
正常な経営感覚をゆがめてしまうだろう。
(田中淳夫著「絶望の林業」新泉社刊)

カナダに害虫が大量発生して木材が取れず、

世界的に木材が異常な高値を付けた2021年の状況を、

日本の林業者がフル活用して大きく巻き返した、という話も聞きません。

フォーブスジャパンもやはり、

補助金抜きでは日本の林業者が木材の生産ができず、

補助金はいきなりは増えないため、増産は簡単ではない、

という歯がゆいジレンマを指摘しています。

https://forbesjapan.com/articles/detail/46982

林業活性化のチャンス

しかし、実は日本の林業は、ヨーロッパの専門家がうらやむような

を、生来備えているはずのです。

日本各地の森林の土壌を初めて見て触ったヨーロッパの森林官たちは、
「素晴らしい」
「腐葉土の層が、信じられないぐらい厚い。フカフカで野菜の栽培もできそうだ」
「こんなA級の土壌は、ヨーロッパの森林にはない」
と感動した。
池田憲昭.多様性:人と森のサスティナブルな関係(自然科学、哲学).archjointvision

日本の森の腐葉土は、ヨーロッパではめったに見かけることのできない

圧倒的に質の高いもののようです。

したがって、うまく育てていけば、素晴らしい樹木ができるはず。

問題は、林業家の労に十分に報いられず、経営者としてのやる気をそぐ

ビジネスモデル

にあります。

林業界のディスラプター「森の学校」

森と林業の村として地方創生の秀逸な事例として

今ではすっかり有名になった

岡山県 西粟倉村

の地歩を築いたスタートアップの一つ、

㈱西粟倉・森の学校(以下、「森の学校」)

は、このビジネスモデルをひっくり返すことに挑戦している企業です。

私はたった今、くだんの西粟倉村に滞在しており、

リアルタイムにこの記事を書いています。

とても面白いのは、創業者の牧 大介氏はもともと林業畑ではなく、

西粟倉村にコンサルタントとして入り、

過疎化を防ぎとめるための手段として、

世田谷区とほぼ同じ面積の西粟倉村の実に95%を占める森林を

活用すべしと村に提言なさった人物だ、ということです。

森の学校のコンセプトの基礎的な部分を一口で解説すると、

カスケード

をフル活用しています。

「カスケード」とは、英語で「連なる滝」を意味する。
原木を、まず上段にて、
最も価値の高い「楽器や家具(A材)」、
1段下がったところで「建築材(B/C材)」、
さらに1段下がって「梱包・土木(C材)」、
その下で「パーティクルボードやパルプ材(C/D材)」、
最下段で「エネルギー材(D/E材)」という多段階で利用することだ。
原木丸太の価格は森林土場で、
A材が5~30万円、B材が1万円、C材が7000円、C/D材が5000円、D/E材が3000円
となる。
私たちが普段、食する肉にも、同じようなカスケード利用がある。
値段が高い順に
「極上ヒレ/ヒレ」「ロース/カルビ」「バラ肉/挽肉」「レバー/ハツ」「ホルモン」と。
池田憲昭.多様性:人と森のサスティナブルな関係(自然科学、哲学).archjointvision
(管理人注:池田氏はドイツ在住の森の専門家であることに注意)

森の学校は、下表のように、各レベルの部材を最も付加価値の出せる形で

活用しているところにあります。

加工 販売/活用方法
B/C材 森林組合土場などで、競争が少なく付加価値高いまま販売
C/D材 パーティクルボード カベハリ/ユカハリ 家具のOEM生産(少量) カベハリ/ユカハリはシールのついたオリジナル家具で、 ネットで各家庭に直売
D/E材 端材 簡単な工芸品 チップ 端材とその加工品は、自社工場の中で直売。 チップをバイオマスとして活用、 燃やしてウナギの養殖/イチゴの栽培などを行う

ユカハリ/カベハリは簡単に着脱ができる木製の床材/壁材で、

我が家でも活用していますが、

経年劣化してきたときもDIYで簡単に新しく張り替えられるところに

長所があります。

また、アイキャッチ画像にアップした通り、同社はレストランを営業されています。

ここでは西粟倉で罠にかけて捉えたシカ肉のジビエを食べることができるほか、

チップを使って温室栽培したイチゴを用いたプリンも販売しています。

※ちなみに、西粟倉村にも多数いるシカは、若芽を食べてしまうため林業の天敵です。

誰でも端材を購入できる Hazai Market がこのレストランの隣にあります。

私が森の学校のコンセプトが首尾一貫していると感じたのは、

これら B to C のビジネスが、

子供に木のおもちゃをあたえて木育とするというような

中途半端な目的のために営まれているのではなく、

ネット/ECサイトで西粟倉の木のことを知ってもらう
→家族で西粟倉を訪ね、森の学校のレストランや Hazai Market で木に親しむ
→将来その家族が家を建てる際、西粟倉の木材を指名してもらう

という、競争しないための工夫だということです。

すなわち、この記事で取り上げた Netflix のような、

顧客に首尾一貫性を感じさせないような多角化/拡張を

いっさいやっていないのです。

終わりに

私は成功事例をとりあげてひそみに倣えとする教訓の与え方を嫌います。

ですが、もともと林業者ではなかったからでしょう、

この森の学校のやり方は、以下の田中淳夫氏の指摘に対する

有効な反論になっていますね。

林業の世界は、プロダクトアウトであるべきだ。
一般の市場ではマーケットイン、つまり消費者の欲しがるものを
生産して提供すべきという経営論が強いのだが、
林業など自然資源を対象にした場合には合わない。
多くの人が欲しがる商品を見つけても量産は難しいからだ。
太さ二〇センチのクロガキの丸太を一〇〇本集めようとしても不可能だ。
無理して調達しようとすると、
クロガキを探して大量の柿の木を切り倒し環境を破壊するか、
染料を注入したようなニセモノの参入を招く。
それよりも今そこにある資源(木材)に合わせて、
世間が欲しがるもの、高価格で取引されるものを作り出していくべきなのだ。
(田中淳夫著「絶望の林業」新泉社刊)

確かに純粋な製品、要素技術としての木材は、

リーンスタートアップのやり方で製品化しようといったって、

そうはいかないでしょう。

しかし、木材とそれにまつわるビジネスモデル自体は、

エンドユーザ(この場合は家を建てる人)に合わせて創出することが可能で、

実際にそれを行ったのが森の学校です。

田中淳夫氏が嘆いてやまない日本の林業がこのやり方だけで

いい方向にひっくり返るなどとは、私は申し上げません。

ただ、これから林業で起業しようとする方々には、

林業といったって木材を既存のやり方で売るだけではない

ということを留意するために、この事例は価値があると信じます。