「素晴らしい技術はあるのに、既存の市場ではもう売上が伸びない」
「この素材をもっと別の分野で活かせないだろうか」
「ビジネスプラン通りにはパイプラインが広がらない」
用途開発とは、既存技術を別の市場や用途へ展開し、新たな市場価値を生み出す取り組みです。新規事業開発の中でも、すでに保有している技術資産を活かせるため、研究開発投資を事業成果へ比較的低コストかつ短期間で結びつける有力な方法として注目されています。ただし、用途開発は「何か別の使い道を考える」だけでは成功しません。重要なのは、技術の強みを、どの市場で、どんな価値に結びつけるかを見極めることです。
この記事では、用途開発の基本的な考え方、進め方、仮説検証の方法、そして成功事例までを体系的に解説します。読み終える頃には、手元にある技術が持つ可能性を再発見し、明日からどのようなアクションを取ればよいかが明確になるはずです。
用途開発とは?
ビジネスの現場において「用途開発」という言葉は頻繁に使われますが、その定義があいまいのまま進められていることも少なくありません。まずは、この取り組みの本質を明確にし、似た言葉である「新技術(製品)開発」との違いを整理します。
既存技術の転用
用途開発とは、一言で言えば「既存の技術や素材・製品に対して、これまでとは異なる新しい使い道(用途)を見つけること」です。技術そのものを新しく作り出すのではなく、技術が提供する「価値」を再定義し、必要なら応用技術を別途開発して、それを必要とする別の顧客層へ届ける活動を指します。
たとえば、ある素材が持つ「軽い」「強い」「熱に強い」「透明」「剥がしやすい」といった特性は、競合ひしめく今の市場の今の使い道(用途)では至極当たり前でも、別の市場では大きな価値になることがあります。このように、既存技術の強みを別の市場の文脈で活かすのが用途開発のコツです。つまり用途開発の本質は、単なる横展開ではありません。技術の特性を、別の市場で、新しい価値として成立させることにあります。
例えば、もともとは工業用の接着剤として開発された技術を、医療の品質基準を満たすようチューニングし、皮膚接合テープとして転用する場合などがこれに当たります。技術的なベースは同じであっても、使う人と目的が変われば、それは立派な用途開発です。
つまり、基礎技術を含む技術開発が「0から1を作る」活動であるのに対し、用途開発は「1を10にも100にも広げる」ための活動であると言えます。
新規開発との差異
多くの企業で混同されがちなのが「新技術(製品)開発」※と「用途開発」です。これらを明確に区別しておかないと、プロジェクトの予算配分や目標設定でズレが生じます。
※ちなみに「新規事業開発」という用語には百社百様の定義があるので、ここでは使用しません。例えば富士フィルムによる化粧品開発(用途開発の典型例)は、あの当時は、応用技術の新規事業開発と呼んでもまったく問題なかったはずです。
「新技術(製品)開発」と「用途開発」の間の最大の違いは「技術的リスクの有無」にあります。新技術シーズ開発では新しい技術や製品そのものを作り出すため、開発に失敗するリスクが伴います。一方、用途開発はすでに存在し、機能が証明されている技術を扱うため、技術的な不確実性が低いのが特徴です。
以下の表に、それぞれの違いを整理しました。自社のプロジェクトがどちらに当てはまるかを確認してみてください。
| 項目 | 用途開発 | 新技術(製品)開発(基礎研究含む) |
| 技術的起点 | 既存技術・既存製品 | 新技術・新機能 |
| イシュー | 市場で選ばれるか? | 本当に造ることができるのか? |
| 主なリスク | 損益分岐点に届かない | モノが出来上がらない |
| 開発期間 | 比較的短い | 長期。基礎技術開発には10年以上かかることも |
| 必要な視点 | 技術マーケティング | 技術革新・エンジニアリング |
| 投資コスト | 抑制可能(販路開拓費が主) | 莫大(研究開発費が主) |
【関連記事】技術マーケティングとは?研究成果を「売れる用途」に変える考え方と進め方
なぜ今、用途開発に取り組むべきなのか?
多くの企業が今、血眼(ちまなこ)になって用途開発に取り組もうとしています。なぜ、単なる新製品の開発ではなく、既存技術の用途開発がこれほどまでに重要視されているのでしょうか。その背景には、市場環境の変化と経営効率の問題があります。
市場成熟への対策
一つの市場だけで戦い続けることには限界があります。どのような製品や市場であっても、導入期から成長期を経て、やがて成熟・衰退期を迎えるからです。特に日本の製造業が強みを持つ多くの分野では、すでに市場が飽和状態にあり、価格競争が激化しています。
このような状況下で既存市場にしがみついていると、利益率は下がる一方です。しかし、視点を変えて別の成長市場へ技術を持ち込めば、再び高収益を狙うことが可能になります。用途開発は、企業の寿命を延ばし、持続的な成長を実現するための生存戦略そのものです。
投資対効果の最大化
経営的な視点で見ると、用途開発は非常にコストパフォーマンスの良い戦略です。ゼロから新しい技術を研究開発するには、膨大な時間とコスト、そして優秀な人材が必要です。しかも、それが必ず形になるとは限りません。
一方で用途開発は、すでに過去の投資によって完成している技術資産を活用します。サンクコスト(埋没費用)として捉えられがちな過去の研究成果を、追加の大きな設備投資なしに収益化できるため、ROI(投資対効果)を劇的に高めることができます。
ただし、ここで注意すべきなのは、完成した技術があることと、それが事業になることは別だという点です。
技術的に優れていても、
- その市場で本当に必要とされるのか
- 既存の代替手段より優位性があるのか
- 導入や継続利用のハードルを越えられるのか
が、応用技術の開発開始前に十分に見極められていなければ、用途開発はうまくいきません。
失敗しない用途開発の進め方
用途開発の重要性は理解できても、実際に「どうやって新しい市場を見つけるのか」という手順がわからなければ動きようがありません。ここでは、闇雲なアイデア出しで終わらせないための、確実なステップを紹介します。
自社技術の棚卸し
最初のステップは、自社が持っている技術や素材の「棚卸し」です。ただし、ここで重要なのは、「どんな技術があるか」「その特性(物性)はそれぞれどんなものか?」を一覧にするだけでは不十分で、その技術が持つ強み/制約/その「読み替え」の可能性をリストアップすることです。たとえば、
- 何が(競合製品より)どう優れているのか
- 逆に、何が弱みや制約として見えるのか
- その特性は、別市場では強みに変わらないか
- どんな条件下で、最も性能を発揮するのか
といった観点で整理する必要があります。
なぜ、技術的には欠点だと思っていた特徴も含めて洗い出すことが大切かというと、例えば「粘着力が弱くてすぐ剥がれる」という特性は、固定用テープとしては欠点ですが、「きれいに剥がせるメモ(付箋)」としては最大の強みになります。
すなわち、用途開発では、現在の用途の中で見えている強みだけでなく、読み替えれば別市場では新たな価値を帯びそうな特性を拾うことが重要です。
【関連記事】要素技術開発とは?──今あらためて現場で問う要素技術の定義と開発戦略
機能の抽象化
次に行うのが「機能(MFTフレームワークでいうところのF)の抽象化」です。これは用途開発において最も重要な思考プロセスです。技術の具体的な仕様を、一度「つまり、何ができることなのか?」という一般的な言葉(機能的価値)に変換します。
例えば、「特定の波長の光を99%カットするフィルム」という仕様があったとします。これを抽象化すると、「特定のものを遮断する」「見えなくする」「保護する」といった言葉に変換できます。
このように言葉を抽象化することで、業界の壁を越えた連想が可能になります。「光を遮断する」なら農業用の遮光シートに使えるかもしれませんし、「見えなくする」ならプライバシー保護フィルターに応用できるかもしれません。具体的なスペックのままでは思いつかないアイデアも、抽象化というフィルターを通すことで選択肢が広がります。
この抽象化によって、
- どの市場で
- どのような事業機会につながるか
- どんな用途仮説が立てられるか
を広く検討しやすくなります。
【関連記事】MFTフレームワークとは?新規事業に役立つ活用手順や事例を解説
仮説検証の反復
有望そうな用途候補が見えても、いきなり製品化してはいけません。
用途開発で重要なのは、「ニーズがあるか」を一発で当てにいくことではなく、用途仮説を小さく検証しながら、どの市場機会にどのようなビジネスモデルで製品を提供したら、持続的なビジネスが成立しうるか?を見極めることです。
| 確認すべき問い | アクション例 | |
|---|---|---|
| 市場機会の理解 | 顧客は現在どのような業務フローで、どの制約や不便を受け入れているか? | 顧客インタビュー、業務観察、代替手段の確認 |
| 採用条件の確認 | 顧客はどの条件なら、新しい用途や解決策を検討するか? | 導入条件のヒアリング、意思決定者の確認、予算・稟議条件の整理 |
| 技術的適合 | 自社技術は、その用途で必要な性能や条件を本当に満たせるか? | 小規模PoC、有償サンプルワーク評価、限定条件での実証 |
| 競合優位性 | 既存の代替手段と比べて、選ばれる理由が本当にあるか? | 競合比較、コスト試算、運用負荷や切替障壁の確認 |
ここで重要なのは、以下の2点です。
- ヒアリングのさい、顧客に「ニーズはありますか?」「この技術を使いたいですか?」と直接聞かない
理由は3つです。
(1) 実は本音では全く要らないのにあなたのメンツを立てるためだけに顧客が「あります」とおためごかしを言う場合がままある
(2) あなたの想定するニーズ以外に、意外だがもっと市場価値の高い問題点が出てくるのを未然に防いでしまう
(3) 顧客自身が、見せられて初めて欲しくなるような今まで全くなかったような製品コンセプトを、最初から言語化できるとは限らない - 無償でPoCやサンプルワークを提供しないこと
無償提供だけでは、相手の本気度も、導入時の判断基準も測れません。少なくとも、「評価にどこまでコミットしてくれるのか」「導入判断を誰が行うのか」「有償なら成立するのか」を確認しながら進める必要があります。
この段階で見るべきなのは、「その場の欲しい/欲しくない」ではありません。
- いまどんな業務プロセスなのか?
- どこに不満があるのか
- 何が変われば検討対象になるのか
- 誰が何を基準に採用判断するのか
を継続的に確かめ、用途仮説を更新していくことが大切です。
このように、顧客との対話を通じて仮説を継続的に磨き込む考え方が、いま全米で最も優れたプロダクト開発のメソッドであると話題を呼んでいる、Continuous Discovery/継続的市場探索です。用途開発は、思いついた用途を一発で当てる活動ではなく、複数の市場機会・用途・採用条件を視界の中にいれておいて、それらを比較検討しながら、どれがもっとも市場価値が高そうかを、反復的にかつ並列で見極めていく活動だと考えた方が、成功確率はぐんと高まります。
【関連記事】Continuous Discovery Habitsとは?実践方法・OST・インタビューの基本を解説
用途開発のアイデアを広げる思考フレームワーク
手順通りに進めても、どうしても良いアイデアが出ないことがあります。そのような「思考の行き詰まり」を打破するために有効な、2つの視点(フレームワーク)を紹介します。
属性からの連想
技術そのものではなく、その技術が持つ「属性」に着目して、パズルのように組み合わせ先を探す方法です。
例えば、「水を弾く(撥水性)」という属性を持っているとします。ここで「水」を嫌う場所やシーンを連想します。「雨の日の窓」「入浴時のスマホ」「調理中の油跳ね」「医療現場の血液」など、シーンを具体的に書き出していきます。
「属性×シーン」のマトリクスを作ることで、脳内の検索範囲を強制的に広げることができます。自分たちの業界の常識にとらわれず、全く関係のない業界の「困りごと」と自社の「属性」を結びつける訓練が、画期的な用途を生み出します。
顧客代行の視点
もう一つは、「もし自分がその業界の製品開発担当者だったら?」と想像するアプローチです。これを「顧客代行」の視点と呼びます。
自社の技術を売り込むのではなく、ターゲット業界の課題解決を代行するつもりで考えます。例えば、自動車業界を狙うなら「EV化で車体が重くなって困っているはずだ」と仮説を立てます。そこに対して自社の「軽量化素材」を提案するのです。
「買ってください」という姿勢(プロダクトアウト)ではなく、「あなたの課題を解決する手段を持っています」という姿勢(マーケットイン)に切り替えるだけで、見えてくる用途の質が大きく変わります。
用途開発の成功事例
最後に、優れた用途開発の事例を見ることで、成功のイメージをより具体的にしましょう。有名な事例の裏には、必ず「技術の再定義」が存在しています。
大塚化学の段階的な用途展開
大塚化学株式会社は、チタン酸塩製品「ティスモ」「テラセス」を開発し、当初は自動車用ブレーキパッド向けに展開していました。その後、基盤技術を活かして電池材料や塗料分野への用途開拓を進めています。さらに、ティスモと各種エンジニアリングプラスチックスを組み合わせた複合材料「ポチコン」を開発し、自動車部品やスマートフォン部品、LEDリフレクター、カメラモジュール、フレキシブル基板など幅広い分野への展開に成功しました。この事例から、既存技術の特性を理解し、段階的に用途を広げていくアプローチの有効性が学べます。
パウダーテックの既存技術を活かした多様な展開
パウダーテック株式会社は、電子写真用キャリアや鉄粉の開発で培った造粒技術、焼成技術、樹脂被覆技術を活用し、フェライト粉体の用途開発を進めています。真球状ナノフェライト粉を磁性流体や磁性インクに、板状フェライト粉を電磁波シールドや金属光沢顔料に展開しました。また、エアロゾルデポジション法を用いてバインダーレスで屈曲性の高い磁性複合材料を開発し、電子部品や電子材料への応用も実現しています。さらに高比表面積フェライト粉を水処理や土壌改良用途に展開するなど、コア技術を軸に幅広い分野への用途開拓に成功しました。
【参考文献】用途開発の成功事例5選!新規事業を生み出す、具体的な進め方を解説
まとめ
繰り返し述べてきたとおり、用途開発とは、既存技術の「別の使い道」を思いつくことではありません。自社の技術シーズを棚卸しし、その機能を抽象化し、どの市場で、どの用途なら本当に価値が立つのかを見極めていく活動です。
そのためには、
- いま持っている技術の強みを整理する
- その技術が生む機能を抽象化する
- 複数の用途仮説を立てる
- 顧客との対話や小さな検証を通じて、その仮説を更新していく
というプロセスが欠かせません。
ただし、ここで難しいのは、用途候補が複数見えてきたあとです。有望そうな市場機会のうち、どれを追うべきか。どの顧客の、どの状況に対して価値がアピールできるのか。そして、どの解決策を採用して製品化すべきか。用途開発が本当に難しくなるのは、まさにこの「整理と比較」の段階です。
そこで有効なのが、上述の Continuous Discovery のツールとして定義されている、Opportunity Solution Tree/オポチュニティーソリューション(市場機会解決策)ツリー です。
OSTを使うと、
- そもそも何をアウトカム(大目的)として狙うのか
- どの市場機会(モヤモヤ)=「顧客は現在どのような業務フローで、どの制約や不便を受け入れているか?」を重視するのか
- どの用途仮説が、どんなエビデンスで有望とみなせるのか
- どの解決策を検証すべきか
を、感覚ではなく構造で視覚的に整理できます。いわば、用途開発の「進捗管理」ができるのです。
用途開発を、思いつきやブレストで終わらせず、「どの技術を、どの市場で、どんな価値として具現化するか?」 を筋道立てて判断したい方は、次にこちらの記事を読んでください。
【関連記事】Opportunity Solution Treeとは?基本的な考え方、描き方、事例多数を解説

イントラプレナーとして、合計8つの新規事業開発を経験。1,300回に及ぶ顧客インタビューの実施経験を持つ。生成AIによるアイディエーションの世界初のサービスである、「AIディアソン」を、2023年の1月に上梓。それ以降も次々とAIサービスをローンチしている。
翻訳書の発行される前の版の、The Four Steps to the Epiphany (邦訳「アントラプレナーの教科書」、リーンスタートアップの下敷きになった本)を所持するほど、古くから事業開発の方法論を考究。最近はアメリカで最新とされるプロダクト開発のメソッドである、継続的発見(Continous Discovery)手法を取り入れ、エフェクチュエーションと組み合わせて事業開発に応用。
