新規で取り扱いたい技術やアイデアがあるが、事業として実現可能なのか、判断に迷うこともありますよね。
そんなときはPoC(Proof of Concept)を活用して、検証を行うことがおすすめと一般にいわれますが、本当にそうでしょうか。
「PoC祭り」「PoC疲れ」といった、生産的でない事態が生じる原因はどこにあるのかを解説します。
PoC(Proof of Concept)とは
PoC(Proof of Concept)とは、元々は創薬の言葉です。
「ある分子が創薬の標的であると考えて、その標的に作用する物質が疾患の治療薬になり得るという仮説(コンセプト)を設定した場合、その物質が患者に対して実際に治療効果を示す(太字引用者)ことを、適切な指標を用いて直接的(場合によっては間接的)に実証すること」
出典:薬学用語解説
新規事業開発の文脈の中では、一般論として
であるとされます。
商品の開発にコストがかかるにもかかわらず、PoCは、しばしば無償で行われます。
PoCが成功しても、事業化が失敗する理由・デメリット
PoCを実施し、それ自体は成功裏に終わっても、ほとんどの場合、事業化には失敗します。
上で説明した通り、
であり、
ため、PoCを実施するのは意味はほとんどないどころか、結果として
百害あって一利なし
となるのです。
例えばアルツハイマー型認知症の症状の軽減・予防に役に立つはずの新薬が開発されたとしましょう。
PoCはこの場合、この「はずの」の部分を検証するために行われるのは自明の理で、
その薬品メーカーでなくても、誰もわざわざこの新薬に市場があるのか、すなわち
を検証しようとは思いませんよね?すなわち、
なのです。
新規事業の事業がどれくらいスケールするかを測るには、フィージビリティ・スタディの前に
を行っておく必要が必ずある、というわけです。
売れないものがいくら実現可能であったからといって、製造することに意味などないでしょう。
この原理を知らずに、世の多くの企業が、PoCに人材や多額の予算をかけ、
新規事業開発にメリットをもたらさない形でPoCを実施しているようです。
もし御社が過去にこのようなことをなさってしまったとしても、それは決して御社のせいではありません。それは
です。
(確かめたければ、PoCでググってみられることをお勧めします。)
新規事業の重要度は「市場性」>「実現可能性」
「市場性」を検証することが重要であって、「実現可能性」しか検証できないPoCは、実施するメリットがとても薄いといわざるをえません。
しかし、これはPoCの定義次第、あなたの考え方次第ともいえます。
なぜなら、ことは単純で、無償のPoCがNGなら、
を実施すればいいだけの話だからです。
これなら、市場性と実現可能性を一気に検証できます。
ほとんどのPoCが失敗に終わるまでの流れ
実際にPoCを行う際は、数ヶ月間かけて多額の予算でプロトタイプの開発を行い、半年〜1年間かけて無償でPoCを実施する流れです。
価格を付けて販売開始され、プレスリリースが発表されて、世間を多少 騒がせます。
しかし誰も購入しません、そして、ここがイタイところなのですが、
その理由は、実はきわめて単純なものです。
私はかつて、あるものを100円ショップで買ったら、購入した翌月に一部が壊れたことがあります。
あなたは、私がその100円ショップに、
と、血相変えて怒鳴りこみに行ったと思いますか?
……つまり、
のですよ……。
有償のPoCを実施する手順
ここまで説明したように、無償で実施するPoCには意味がありませんが、
一般的に実施されているPoCの流れについて、留意点をあげておきましょう。
なぜなら、あなたが
を実施するさい、これらのポイントが重要になるからです。
ここでは、各ポイントを説明するさい、
を例に取り上げます。
PoCの目的を明確にする
何のためにPoCを実施するのか、どんなことを知るために検証を行うのか、どんなデータが必要なのかを明確にします。
目的が明確でなければ、指針や方向性がぶれてしまい、PoCを有効に実施できなくなってしまいます。
ゴールのイメージを具体的に想定し、方向性を定めることで無駄な検証を削減してコストを最小限にできます。
Stripeの場合、
という目的でPoCを実施しました。
PoCで実施する検証方法を決める
具体的な検証方法を決めて、PoCの計画を立てます。
PoCを実施する流れ収集するデータなどを明確にして、必要最低限のものを作りましょう。
より効果的かつ具体的な結果をえるためには、検証方法や実施する内容はユーザー視点を意識し、
開発者の視点に偏らないように注意する必要があります。
PoC実施前にユーザーのいる現場などを確認すると、ユーザーと目線が近づくでしょう。
Stripeの場合、
という、一見めちゃくちゃに見える作戦を決行しました。
PoCで使用する試作品を製作する
PoCの実証で使用するシステムや、製品の試作品を製作します。
最小限の機能だけを搭載するが、きちんと目標を達成できるだけのクオリティは必要です。
Stripeの場合、上に書いた通り、
しました。
そこに「製品」らしきものがあるとすれば、それは、システム開発者としての社員のスキルだけでした。
彼らには、このリソースだけできちんと目標を達成できるだけのクオリティが達成できる自信が十分にあったのです。
PoCによる実証をはじめる
ここまで決めた内容に沿って、PoCによる実証を開始します。
一般に言われているPoCでは、
とか言われていますが、決してこんな進言を採用なさらないことをお勧めします。
なぜなら、こんなやり方をしていたら、
からです。
まざまな属性を持ったなるべく多くの人たちに参加してもらう無償のPoCが正しいやり方なら、
百貨店やスーパーの試食コーナーで配られた食品は、毎回飛ぶように売れてしかるべきですよね。
なぜ、試食コーナーを最近めっきり見かけなくなったかというと、コロナのはるか前から、
からですよ。
有償のPoCの目的は、
=市場性(捕まえられる) × フィージビリティ(造れる)
を一気に検証することです。
Stripeの場合、当然、完全に逆張りしました。
のです。
これなら、本気度百%の顧客しか、当然集まりませんよね?
PoCで獲得したデータを評価する
実証によって収集したデータを整理して、評価します。
実現性や必要なコスト、実現にあたってのリスクや課題などを確認し、改善点を見つけ出すことが大切です。
Stripeの場合、評価は、これ以上なく簡単でした。
その売上額のみがKPIです。
有償でPoCをやれば、このように誰の目にも明確な、とても科学的な結果が出ます。
いい結果が出た際は本格的な開発に進み、悪い結果の場合は評価した内容をもとに、改善やゴールの修正などを実施し再度PoCを行いましょう。
無償でPoCを行う3つの欠点とは
無償でのPoCには、以下3つの欠点が必ず伴います。
本当に売れるかどうか わからない状態で開発コストを投じる
PoCではあくまでも実現可能性を基に製品を開発するため、市場性つまり市場に需要があるか検証しない状態で開発が進みます。
無駄なコストを削減できるPoCですが、そもそもユーザーが求めていなければ実現ができないため、PoCに投入されたすべてのコストが水泡に帰します。
いわゆる「溶かす」という行為ですね。
無償であるため、価値のあるデータを得られない
無償でPoCを行い、顧客インタビューを行う場合は、無償だから協力した手前
という、本来最も珍重すべき意見が出てきません。
この怒りの表明の後に、本来なら喉から手が出るほどいただきたい、改善点にまつわる本音の忌憚のない意見をいただけるはずなのに……。
お世辞、おためごかしのデータが集まっても、それは、開発者の
が加速するばかりです。
こうして無償のPoCで いわば「甘やかされた」製品を有償にしたとして……果たして売れるでしょうか?
社内では「頑張った」と評価される
PoCでは開発コスト・人的資源・情熱をフルに使って検証するため、結果に関わらず上司への進捗報告を定期的に行えます。
結果的に価値がないデータを検証していたとしても、使ったコストが莫大なため社内では「頑張った」と評価されるケースが少なくありません。
冷静に考えましょう、実際にはこの方、何を「頑張った」のでしょう?
もしかしたら、
だけなのではないでしょうか……?
無償のPoCの事例
無償で行われたPoCの事例について、私が実際に見聞きした事例を、紹介します。
ある金属加工メーカーの例
このメーカーは、小職のクライアント企業の競合です。
そのメーカーは、あるオフィスの大型の調度・機器(@約100万)を、無償のPoCにかけました。
どのお客様も、搬入の時はニコニコでしたが、実際に使い始めたら、ばったり
となったそうです。
それでもめげず、その製品を上市し、東京のJRのある駅ででかでかと広告を張りました。
(私はその広告の写真を撮り、未だに持っています。)
先日ふとそのメーカーのサイトで確認したら、その製品は
になっていました……。
ある化成メーカーの例
このメーカーは、ある、画期的な新素材を開発しました。
そして、海外のある展示会で、その素材を無料で少量ずつ配りました。
その試用品(サンプルワーク)は飛ぶように
気をよくしたプロダクト開発チームは、帰国してすぐビジネスプランの売上計画を上方修正し、すぐに量産に踏み切りました。
その結果、
まとめ
もしかしたら、この記事にお付き合いくださった あなたは、そんなふうにイラついているかもしれません。
あなたの感情を逆なでしていたらお詫びします。
実際、私自身も、過去にうっかり無償のPoCを(上司の命令で)実施させられ、
で泣く泣く事業を葬り去った、とても苦い経験があります。
しかし、ご心配には及びません。
なぜなら、いまデカコーン/ユニコーン化した企業であっても、必ず過去に一度手痛い失敗をし、そこから復活することで、さらに成長した事例が、いくらでもあるからです。
弊社株式会社StartupScaleup.jpは、
を持っています。