"S:\マイドライブ\Plan 技術マーケティング_研究開発の成果を事業に変える方法

技術マーケティングとは?研究開発の成果を事業化する進め方のポイントと成功事例

自社の研究所には、世界に誇れる優れた技術がある。しかし、その技術がなかなか製品や売上につながらない。こうしたジレンマは、多くの技術系企業が抱える共通の課題ではないでしょうか。その解決策こそが「技術マーケティング」です。本記事では、技術マーケティングの基本的な考え方から、具体的な進め方、そして成功事例まで、研究開発の成果を事業の柱に変えるためのノウハウを分かりやすく解説します。

技術マーケティングとは?

技術マーケティングは、単なる製品の販促活動ではありません。自社の技術を起点として、どの市場で、どのような価値を生み出せるかを探索する活動です。

多くの企業では、優れた技術があっても、それが売上や事業につながらないという問題が起こります。その原因は明確で、「何を造るか」から考えてしまっているからです。製造業の、特に化成メーカーでは、研究開発には10年単位の月日を要することもあるので、これは無理からぬことです。

そこで、その開発された技術を、

  • どの市場で
  • どの事業機会に対して
  • 顧客行動の、どのような変化を生みたいのか(アウトカム、目的)

を改めて探索して、そこへ向けて応用技術を開発するなり、オープンイノベーションを志したりすべきです。この意味で技術マーケティングとは、技術シーズを「売れる用途」に変換するための活動です。

技術を起点に顧客価値を創出する活動

技術マーケティングとは、自社が持つ独自の技術(コア技術)を競争優位性の源泉と捉え、その技術を顧客にとっての価値に転換していく一連の活動を指します。製品が完成してから売り方を考えるのではなく、技術開発の段階から市場機会を深く理解し、この技術で「どのような客層の『モヤモヤ』を解消できるか」「どのような顧客の、思いもよらぬ欲望を満たすことができるか」「新しい体験を提供できるか」を、調査、整理していくことが中核の活動です。

一般的なマーケティングとの根本的な違い

一般的な製品マーケティングが「顕在化している市場ニーズ」への適合を起点とするのに対し、技術マーケティングは「技術シーズ」を出発点に、顧客の実際の行動や利用文脈の中から機会(オポチュニティ/Opportunity)を特定し、用途仮説を構築・検証していくプロセスです。ここでいう機会とは、定義が極めてあいまいで、再現可能な方法で発見できない、「潜在ニーズ」どやらではなく、インタビューや観察(ビジネスエスノグラフィ)によって明確に確認できる、事業機会=「顧客のモヤモヤ」=顧客の(自覚のない)欲望・未解決の課題・解消されていない不満のことを指します。そのため重要なのは、事業アイデアを最初から一つに絞り込むことではなく、複数の用途仮説を並行して立て、顧客との継続的な対話を通じて、どの仮説が実際の行動変化につながるかを検証し続けることです。

項目 一般的なマーケティング 技術マーケティング
起点 市場・顧客ニーズ 自社の技術シーズ
主な対象 顕在ニーズ 事業機会=「顧客のもやもや」
目的 既存市場でのシェア獲得 新市場の創造・開拓
アプローチ ターゲットを絞り込み、直線的に訴求 多様な可能性を試し、用途を探す(用途探索)

 

なぜ今、技術マーケティングが重要なのか

現代は、市場の成熟化やグローバル競争の激化により、単に性能が良いだけでは製品が売れない時代です。技術を深化させるだけでは、すぐにコモディティ化の波に飲まれてしまいます。このような状況下で持続的に成長するためには、自社の強みである技術を軸に、他社には真似のできない独自の市場価値を創造し、新たな事業の柱を築くことが不可欠です。技術マーケティングは、そのための最も有効な戦略なのです。

 

技術マーケティングの具体的な進め方

技術マーケティングを成功させるためには、体系化されたプロセスに沿って進めることが重要です。ここでは、その具体的な4つのステップを解説します。

ステップ1:自社技術の棚卸しと強みの可視化

まず、自社の技術を要素技術レベルで整理します。ここでは「何ができるか」だけでなく、

  • 何が他社より強いのか
  • 何が模倣されにくいのか
  • どこまで実証できているのか
  • (できたら)その技術を応用した、どんな機能(MFTでいうF/ファンクション)が提供可能なのか

まで精査します。技術マーケティングは、技術の棚卸しなしには始まりません。このとき、特許取得のときとは異なる視点での整理が必要です。その整理の方法は、以下の記事に書きました。

【関連記事】要素技術開発とは?──今あらためて現場で問う要素技術の定義と開発戦略

ステップ2:技術特性と市場機会の結びつけ

次に、市場や顧客の変化を見ます。重要なのは、今ある需要だけではありません。法規制、人口動態、産業構造、環境対応、労働力不足など、将来どの方向へ世界が動くかを見ます。

ここで注意点として、この段階でいきなり、いわゆる市場調査を始めてはいけない、ということがあります。それを行うと、「せっかく人と金とをこの市場調査に突っ込んだんだから、元を取るまではやめられない」と、開発者の意識がその市場にばかりロックし、他の市場機会が見えづらくなってしまうからです。例えば水素にかんする製品ばかり検討しそれに夢中になってしまうと結果的にそこに開発リソースが「全振り」となって、水素の市場が将来予測ほどうまく伸びなかったときのリスクが大きいですよね?

それよりも、ここでは、複数の未来シナリオを考えることが有効です。

【関連記事】シナリオプランニング:事業アイデア発案に役立つ、将来の不確実性に備える

ステップ3:技術と市場をすり合わせる→仮説を顧客との対話で事業機会仮説を磨く

ここが活動の中核です。リボン図のように、単に技術と市場を別々に見て、真ん中でむすび合わせるだけでは意味がありません。

  • この技術は、どの市場で活きるのか
  • その市場では、どの市場機会が最重要か
  • 自社の強みは、競合のそれよりも、圧倒的に優位に働くか

を往復しながら考えます。この段階でも、最初から一つに絞り込まず、複数の用途候補を比較することが大切です。なぜなら、これも、仮説が一つしかないと、人間はどうしてもそれが正しいことを証明したくなり、確証バイアスの罠にはまるからです。

有望な用途候補が見えたら、顧客や業界関係者との対話に進みます。ここで「この技術はすごいですか」と顧客に「ドヤる」ことにはデメリットしかありませんし、ニーズ調査を行うわけでもありません

  • 顧客は普段、どのようなステップで仕事を行なっているのか?(Jobs to be done、ジョブマップ)
  • その顧客の欲望/顧客の抱える問題は、本当に強烈か?

を、顧客/ユーザとの対話で明らかにしていきます。技術者がこの会話に参加すると、解像度が一気に上がります。

なお、こうした用途探索のプロセスは、単なる情報発信ではなく、顧客との対話を通じた事業仮説検証そのものです。コンテンツ発信は補助的に使用しても良いですが、「集客」のためではなく、検証を進めるするための手段として位置づける必要があります。

ステップ4:事業構想のロードマップ化

最後に、用途仮説を時間軸に落とし込みます。どの市場から入るのか、何を先に実証するのか、どの技術課題をいつ解消するのかを整理し、技術ロードマップに落とし込みます。ここで初めて、「技術開発の計画」が「事業を伸ばすための地図」になります。

技術ロードマップとの関係

注意していただきたいのは、技術マーケティングと技術ロードマップは、別物ではない、ということです。両者は表裏一体の関係にあります。

  • 技術マーケティング は、どの市場でどんな価値を創るかを探索する活動
  • 技術ロードマップ は、その仮説を時間軸に沿って実行可能な形に整理する道具

です。言い換えれば、技術マーケティングがなければ、技術ロードマップは、顧客の意思が全く入らない、開発のガントチャートになりがちです。逆に、技術ロードマップがなければ、技術マーケティングは会議室の議論で終わります。両者はセットで考えるべきです。

【関連記事】技術ロードマップの作り方とは?成果を出す作成手順と運用のポイント

技術マーケティングを成功させる5つのポイント

技術マーケティングは簡単な道のりではありません。成功確率を高めるためには、いくつかの重要な心構えと組織的な工夫が必要です。

ポイント1:アウトプット(成果物)ではなくアウトカム(大目的)を見る

最大のポイントです。何が重要かといって、何を造ろうとしているかではなく、どの市場の顧客の行動変化をもたらし、その結果、市場価値を生み出そうとしているか?が最重要であるにきまっています。この視点がないと、技術マーケティングは、技術説明会で終わります。

バルミューダは、しっかりしたアウトカム(この事業を追いかけることで当社はどうなりたいのか?どう世の中を変えたいのか?)を定めず、いきなりバルミューダフォンを開発、量産し、その結果、ソフトバンクの在庫にうず高くそれを積み上げたまま、スマートフォン事業から惨めに撤退する憂き目に遭いました。

【関連記事】バルミューダの新規事業「バルミューダフォン」の失敗を予言してしまいました

ポイント2. 必ず複数の市場、複数の市場機会を同時に検討する

技術マーケティングでは、単一の仮説に惚れ込みすぎないことが非常に重要です。なぜなら、上でも述べた通り、人間はある企画に惚れ込むと、いつの間にか、顧客の本音を無視して、確証バイアスで、その企画/アイデアを証明する証拠ばかりを無意識に探し始めるからです。それによって、フォルス・ポジティブ(偽陽性)の罠に自らハマります。
複数案を並べて比較する方が、成功確率が上がるのは、複数のアイデアがあれば顧客にダメ出しを食らったときに、素直にその案を捨てられるからです。

ポイント3:開発者・技術者の積極的な参画は不可欠

技術マーケティングの主役は、技術を最も深く理解している開発者・技術者自身です。マーケティング部門に任せきりにするのではなく、技術者が顧客との対話の最前線に立ち、市場の生の声を直接聞くことが成功のカギとなります。技術的な知見と市場ニーズが結びついた瞬間に、革新的なアイデアが生まれるのです。

ポイント4:技術情報を分かりやすく伝える努力

どれだけ優れた技術であっても、その価値が相手に伝わらなければ意味がありません。専門用語を並べるのではなく、その技術がもたらす具体的なメリットや解決策を、相手の知識レベルに合わせて平易な言葉で説明する努力が求められます。図やグラフ、動画などを活用し、直感的な理解を促す工夫も有効です。

ポイント5:部署の壁を越えた全社的な協力体制の構築

技術マーケティングは、研究開発、マーケティング、営業、製造など、様々な部門の連携が不可欠な活動です。部門間の縦割りを排し、プロジェクトの目標達成に向けてフラットに議論し、協力し合える組織文化を醸成することが重要です。経営層がリーダーシップを発揮し、全社的な取り組みとして推進する姿勢が求められます。

 

技術マーケティングの成功事例

理論だけでなく、実際の企業がどのように技術マーケティングを成功させたのか、具体的な事例を見ていきましょう。

【3M】15%カルチャーが生んだイノベーション

ポスト・イットで有名な3Mは、技術マーケティングの代表的な成功企業です。同社には、業務時間の15%を自身の興味がある研究に自由に使える「15%カルチャー」という制度があります。この文化から、当初は失敗作とされた接着剤の技術が、社員の遊び心からメモ用紙に応用され、世界的な大ヒット商品へと繋がりました。技術シーズの自由な探求を許容する文化が、新たな価値創造の土壌となっています。

【富士フイルム】コア技術の転用による事業転換

写真フィルム市場の急激な縮小という危機に直面した富士フイルムは、写真フィルムで培ったコア技術を他の分野に転用することで、大きな事業転換を成し遂げました。例えば、写真の色あせを防ぐ抗酸化技術は化粧品へ、フィルムの主成分であるコラーゲンの知見は再生医療分野へと展開されました。自社の技術を深く棚卸しし、全く異なる市場ニーズと結びつけた見事な事例です。

【TOTO】顧客価値を追求した洗浄技術の開発

TOTOのタンクレストイレ「ネオレスト」は、技術を顧客価値へと昇華させた好例です。同社は「トルネード洗浄」という強力で節水効果の高い新技術を開発しましたが、単にその性能をアピールするのではなく、「掃除のしやすさ」という顧客の根源的なニーズに応えるために技術を活用しました。フチ裏をなくしたデザインを実現し、多くの消費者から支持される大ヒット商品となりました。

まとめ

技術マーケティングとは、研究成果を宣伝することではありません。技術シーズを起点に、どの市場でどの顧客価値を創るかを探索し、売れる用途へ変えていく活動です。つまり、一言で言えば、用途探索と呼び換えてもいいのです。

もし技術ロードマップが「開発項目の一覧表」で止まっているなら、その前段にある技術マーケティングが弱い可能性があります。市場の変化、市場機会、用途候補、技術の強みを行き来しながら、事業として成立する筋道を見つけることが必要です。

そして、その整理をさらに一段深く進めるうえで有効なのが、Opportunity Solution Tree(OST)です。どのアウトカム(大目的)を追い、その下にぶら下がるどの市場機会の解決に取り組むかを決定し、どの打ち手(ソリューション)を実装するかを、技術マーケティングを進めながら構造化して進捗をトラックしたい方は、次の記事もご覧ください。

【関連記事】Opportunity Solution Treeとは?基本的な考え方、描き方、事例多数を解説(アメリカの最新プロダクトマネジメントの手法)

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