iPhoneは、天才スティーブ・ジョブズの発明だという大嘘

iPhoneは、天才スティーブ・ジョブズの発明だという大嘘

最初に、この記事のタイトルをもう一度お読みください。

iPhoneは、スティーブ・ジョブズの発明だという大嘘

それをこれから細かく論証していきます。

なぜ、この論証に価値があるかというと、

iPhoneは良くも悪くも、前例として、

あの「神機」iPhoneという前例があるから

 

iPhoneだけは別ですよね

という文脈で、引用者に都合のいい解釈で事実を捻じ曲げられて引用され、

事業開発における文脈をおかしな方向へと引っ張っていくからです。

 

 

iPhoneの発想

iPhoneを発想したのはAppleの窓際候補のエンジニア3人

iPhoneは、もともとAppleでニュートンというPDAを造っていたチーム(通称ENRI)が、

いったん自分が創業したAppleを追い出されたジョブズが同社に凱旋、

バリューチェーンの専門家ティム・クック氏をコンパックから引き抜いて

中年太りのごとく肥大化していたAppleのプロダクトラインに大鉈を振るわせ、

ニュートンが生産中止になってしまいヒマを持てあまし始めたのがそもそものきっかけでした。

ジョブズは生前、最近世界のニュースに登場しない日はない例のあの人をほうふつとさせるほど

実は自分では真実だと確信してたんじゃ?

というとんでもないウソをいくつもついていますが(笑)、iPhoneに関するウソの一つが、

非常に有名なiPhoneの発表キーノートに含まれているあの一言です。

我々はマルチタッチと呼ばれる新しい技術を発明したのだが、こいつがとんでもなくイケてるんだよ

……ええと、マルチタッチの技術は、本当のところ、実に1970年代にさかのぼります……。

つまり、枯れに枯れまくっていた技術、という訳です。

 

SHIFTの生みの親である濱口秀司氏も、iPhoneを

技術×ビジネスモデル×UX、いずれの要素でも新しかった

と分析してしまっていますが、技術に関しては、氏のようなパナソニック出身のイノベーターすら、Appleの

大本営発表

を信じてしまった、ということになりますね。

 

PDAを開発していたチームENRIは、このマルチタッチスクリーンという

陳腐きわまる技術

に注目し、それと電話を組み合わせることを考え付きました。

バッテリーも材質も、その時に手に入ったものを組み合わせ、ついにプロトタイプを完成させます。

そして、かつて、中のボードが見えるというセンシュアルなiMacのデザインでq

世界中をブイブイ言わせた伝説的デザイナー、ジョニー・アイブ氏に相談します。

いかんせん相手は、頭に血が上ると、

エレベーターの中のささいなやりとりだけで従業員をクビにすると評判のおっかないCEO。

アイブ氏がジョブズに見せてもいいと太鼓判を押さない限り、おいそれとデモもできません。

iPhoneはAppleにとって最初のケータイではなかった

もう一つ、ENRIが慎重にならざるを得なかった理由がありました。

Appleの最初のケータイ電話プロジェクトが悲惨な失敗を喫していたのです。

皆さんよくご存じのとおり(?)

そもそもAppleが最初に出した音楽ケータイは、もちろん、

iPhoneではありません。

私はかつてソニーエリクソンが全世界に輸出した、ヨーロッパ初の

横置きカメラUI

を誇るフィーチャーフォン

S700i/コードネーム Tamao (←さとう珠緒さんからとられた)

の新規事業開発にかかわっていたので誇りをもって言いたいのですが、

Tamaoの子孫に当たるモデルはWalkmanケータイと呼ばれ、

機種によっては北米で100万機を売り上げる大ベストセラーになっていました。

[参考] 高橋幸太郎 著, 「ソニー・エリクソン 〜グローバル携帯〜: かつて日本のケータイが全米でNo1になった」, 日本経済新聞出版社刊

iPodを擁するAppleが、音楽ケータイを出したがったのも、当然のことだと思います。

ジョブズは、当時Appleに部品を納めていたベンダーにして

その当時絶頂期で全世界で1、2を争う売り上げを誇っていたモトローラに相談します。

そしてモトローラの既存機種の筐体(きょうたい)にiPodのソフトウェアを(むりやり)乗せた

ROKR E1

を大々的に発売します。

恐らくジョブズにとっては屈辱でしょう、このときのジョブズのキーノートが未だにYouTubeに上がっています。

その動画の中の彼は、心なしか鬱に見えます。

それもそのはず、オペレーター(モバイルキャリア)とモトローラの意向を

組んだ最終製品であるROKR E1は、

妥協の塊

と化していたのです。

Appleはそのずば抜けた外見のデザインもUI/UXも製品の独特のティーアップの演出も、いっさいを封じられ、

ROKR E1は全然 Different でない凡物と化していました。

発表されたROKR E1は、発売前から前評判が最悪。

WIREDマガジンはこう書いて嘲笑します。

これが未来のケータイだって?Appleも焼きが回ったんじゃないの?(笑)

ジョブズはブチ切れ、のちに訴訟になりかけたアクションを起こします。

なんと、こちらはベストセラー間違いなしの iPod mini の発売日を

ROKR E1のそれに思い切りぶつけ、

デマーケティング(自社製品を自ら売れなくする施策)

を行ったのです。

そしてApple社内には、

おれは電話なんか大嫌いだ

と、放送禁止用語の悪態で電話という電話を罵倒するジョブズがいました。

そしてジョブズはiPhoneを全然評価しなかった

いよいよ偉人スティーブ・ジョブズの前にiPhoneのデモ機が置かれました。

そして……

以下は、

Brian Merchant, “The One Device: The Secret History of the iPhone“, Little, Brown and Company刊

の拙訳です。

「彼(スティーブ・ジョブズ)は完膚なきまで無感動だった」

アイブは証言する。

「彼は、どうもこのデモ機のアイデアに何ら価値も見いだせないようだった。
そして私は、これがすごいアイデアだと感じてしまった自分を馬鹿のように感じた。
私は言った。
『ええと、まあ、例えばです、デジカメの背面を思い浮かべてくださいよ。
どうしてまたあんな小さな画面と、ボタンがいっぱいついているのでしょうかね。
あれ、全部ディスプレイにしてしまえばいいでしょ』

それが、私がそのとき思い浮かべられた喩だった、
その喩によって、どれだけこのデモ機が時代を先取りしているかを説明したつもりだった」

「でも、スティーブは、とことん、全く持って感興がわかない(太字引用者、訳者)ようだった」とアイブは続けた。

……さて、このままだとiPhoneは世に出ないことになります。ENRIピンチ!

大嘘『iPhoneは天才スティーブ・ジョブズが天啓を得て、一発で世の中に送り出したものだ』の弊害

iPhoneは天才スティーブ・ジョブズが天啓を得て、一発で世の中に送り出したものだ

と誤解なさっている方が、世の中にはごまんと存在するようです。

この、自社の新規事業に甚大な悪影響をもたらす根本的な誤解を

Yコンビネーター元CEOマイケル・サイベル氏は、

天才・偽スティーブ・ジョブズ伝説/Fake Steve Jobs

と呼んで、決してこの

フェイク・スティーブ・ジョブズを真似するな

と、スタートアップのCEOたちに釘を刺しています。

ここから、最低でも、以下の3つの教訓を得ることができるでしょう。

(1) iPhoneのアイデアは「スジが悪い」と評価された

だって、ジョブズ自身が、iPhoneの最初のデモ機を見て眉をしかめたんだから、間違いないですよね(笑)?

新規事業開発の部門長の方に

iPhoneみたいなスジのいいアイデアを持って来い!

といわれたら、

ええぇ、あのジョブズが全く評価しなかったアイデアレベルでいいんですか?

と聞いてあげてくださいね(笑)。

(2) iPhoneは、その前のROKR E1から企画を根本的に変更した(ピボットした)結果だった

スティーブ・ジョブズはROKR E1の失敗によって

スマートフォンを含めた電話という電話が大嫌い

になっていました。よく

iPhoneはスマートフォン市場に後から参入して、ライバルを瞬く間に駆逐した

的な言い方をされるんですが、

この意味で全くこの表現が全く持って頓珍漢であることがわかるはずです。

スティーブ・ジョブズは、あの有名なKeynoteの中でも繰り返し述べている通り、

iPhoneはiPodに電話機能をつけた

つもりでした。

すなわち、ブラックベリーやMicrosoftとガチンコで競争する気は毛頭なく(というか多分はなも引っ掛けていない)、

iPodの愛好者に

「君ら、音楽端末と電話機と両方持ち歩くのは、いかにもダサくないかい?」と尋ねた

のです。

従来のスマホがiPhoneに駆逐されたのは、これは結果論にすぎません。

その証拠に、海外のスマホでないケータイ(フィーチャーフォン)のユーザも、

従来のスマホを経由することなく、大量にiPhoneに巻き取られたのです。

(3) iPhoneは「マルチタッチスクリーン先にありき」の用途開発だった

マルチタッチスクリーンの技術は、私のようなおじさんが小さい頃からあった、

シリコンバレー古来の伝統的な技術

でした。

この意味でiPhoneは、

枯れた技術しか使わないキーエンスのやり方で開発された、と言ってもいいでしょう。

要するに、新しいハードウェアを開発するにあたって時おり必要とされる、

要素技術の基礎研究

プロセスを吹っ飛ばしたということです。

そのくせiPhoneが賢いところは、その応用技術を

すべてきっちり知財で固めたというところです。

その証拠に、知財を見ていたら、全世界のケータイ電話メーカーが

Appleがケータイを開発中だとわかったそうです。

iPhone誕生秘話裏話

ジョブズはコロッと態度を変えた(笑)

さて、ジョブズの拒絶に直面するという大ピンチを迎えたENRIですが、

ここで起死回生の機会が訪れます。

再びThe One Deviceから拙訳です。

「スティーブが最初のプロトタイプを見たとき」とストリッコンは言う。
「彼の評価は
『このものはトイレでメールを読むのにしか役に立たない』
か、あるいは
『トイレでメールを読めるデバイスが欲しい』
だったと思います。どちらの言い方もしていた気がします。
いずれにせよ、それが製品仕様となりました。
スティーブはメールを読めるガラス板が欲しかったのです。
ある時、ENRIグループがIDスタジオの周りに立っていると、グレッグ・クリスティーが入ってきました。
彼は定期的にジョブズとマルチタッチについて会議をしていました。
「スティーブからの最新情報は?」と誰かが尋ねました。
「うん」と彼は言いました。
「まずみんなに留意してほしいのはだ、
スティーブがマルチタッチを発明した(太字引用者、訳者)
ということね。
だから皆さん、(開発記録の)ノートを書き直しておいてね」
そして彼はニヤリと笑いました。
ENRIのメンバーはあっけにとられ、笑いました – それはいかにもスティーブ・ジョブズならではの発言でした。
今でも、モスバーグ事件が話題に上るとフッピは面白がります。
「スティーブは
『そうだ、私はエンジニアたちに
これとこれとこれをするものが欲しい、と言ったんだよ』
と言いましたが、それは全くのでたらめ(太字引用者、訳者)です。
彼は一度もそんなことを求めたことはありませんでした。
ENRIチームのデモを見る前に、スティーブがマルチタッチについて話すのを誰も聞いたことがなかったのです」

なぜ、Microsoft CEO は、iPhoneを嘲笑したのか?

2007年に初代のiPhoneが発表された時、

当時スマートフォン業界をブイブイ言わせていたMicrosoftの社長、

スティーブ・バルマー氏は、この新しい珍妙な

スマートフォン

を嘲笑しました。

テレビの前で思い切り馬鹿にしてしまったので、その様子が録画に残り、

気の毒に、今でもこのバルマー氏の嘲笑はYouTubeで見ることができます。

よくこの動画はバルマー氏の先見の無さを示す例として

既存のプレイヤーは全く新しい製品が出てきたときにその価値をよく理解できない

という例えで引用されてしまうのですが、私はこのバルマー氏の

嘲笑は全くもって正当だった

と断言します。

それはバルマー氏が言っている通り、世に出たてのiPhoneは誰が見ても、当時の水準から見ても

何の役にも立たないガラクタ以外の何物でもなかった

からです。

そのすこぶるつきのガラクタっぷりは私が

スプリントジャパン社

に寄稿した以下の記事で徹底的に告発していますから、省略しますが、

https://sprintjapan.com/articles/tomioka001-iphone/

とにかく全く役に立たない代物でした。

どうして私がこのことを断言できるかと言うと、

当時米国内のしかもAT&Tのネットワークでしか使用できなかったiPhoneを

わざわざ私はアメリカまで行って、Appleショップに列を作って買って使った人間だからです。

(そして余談になりますが、このiPhone初代は日本に帰ってきて、トイレに落とされるという悲惨な末路をたどることになります…)

上掲の記事にも引用した、

名和高司氏のイノベーション理論を、その著書

「経営改革大全 企業を壊す100の誤解」(日本経済新聞出版刊)

から引きます。

(リーンスタートアップが生み出す)あまりにも安易な試作品(MVP)が世の中に出回り、「がらくた市」状態になってしまったからだ。
(中略)MVPなどといういい加減な商品を出すこと自体、アップルにとっては自殺行為に等しい。
(中略)思いつきの「0→1」は粗大ゴミでしかない。「1→n」に成長する見込みのある1をはじめから目指すべきだ。大化けする1を狙わない限り、初めから失敗が見えているというのである。

Appleは、

「1→n」に成長する見込みのある1をはじめから目指

して、ROKR E1を開発してしまい、

発売前にジョブズ自身がこれを叩きつぶしました。

そして、その反省を大いに活かして、やはり

「1→n」に成長する見込みのある1をはじめから目指

して、しかしROKR E1の二の舞だけはごめんだったので、

初代iPhoneという

がらくた

のような

安易な試作品(MVP)

を試しに世に問うてみたのです。

ちなみに、バルマー氏は

キーボードがついていない

とiPhoneをなじっていますが、これ、全く至当な指摘ですよ。全っ然おかしくない。

だってその当時のiPhoneのOSには、

横置UIのキーボードがなかった

のだもの……

当時の横文字ユーザーはスマホのキーボードを両手の指で器用に叩いて入力してましたから

(私ユーロスターに初めて乗ったとき、外の光景じゃなく、乗客のこの操作の素早さのほうにえらく感動してしまった記憶があります(笑))

iPhoneはバカにされて当然でした。

Appleの真に偉大なところは、

  1. ハードウェアは年に1回
  2. iOSはちょいちょい

アップグレードすることで、ユーザと対話しながら改良に改良を重ね、

(iOSがぽろっと改悪されても、

ほどなくそのユーザインターフェースが改善され、

以前よりむしろ使いやすくなるのは、

Appleがユーザからのフィードバックをこの上なく重視している証拠です)

安易な試作品(MVP)

として世の中に誕生したiPhoneを、今あなたが手にしているかもしれない。

「神機」iPhone15や16

まで、コツコツと仕立て上げてきたことです。

コメントを書く

送信いただいたコメントは承認後、表示されます。

CAPTCHA