事業開発の基本:こんな顧客インタビューは絶対やってはいけません

事業開発の基本:こんな顧客インタビューは絶対やってはいけません

事業開発の基本:こんな顧客インタビューは絶対やってはいけません

イントロダクション:怒られちゃいました

事業開発に必須:必ず「潜在ニーズ」を見つけ出す顧客インタビュー」で説明したプロブレムインタビューは、

Customer/Problem Fit (確かにその問題が存在すると検証された状態)

を達成するところまで行うべきで、その関門の突破を確認するまで、

ソリューションインタビュー

は行うべきではない、としました。

売り込み営業は、お客様の口を緘させ、情報を全く引き出せなくすることにかけては、破壊的威力がある
ということも、この記事の冒頭で説明しました。
私は、大手コンサルファーム勤務時代、お客様の代行で、顧客インタビューを行ったことがあります。
クライアントがすでに持っているソリューションを座右にはおいておくが、
新しいサービスを建てつけるためのプロブレムインタビューを行っているのだと理解して、
いつも通りインタビューを進めました。若い同僚たちは、
ここでこんな質問するのか
ここでこんな風に話をもっていくのか
としきりと感心してくれました。
ところが、そうして顧客の口から引き出した、新しいサービスのネタになりうると思ったインタビューログを、
クライアントの担当者の上長に見せたときです。
本部長レベルの食のその方は、zoomの向こうで眉をしかめられました。
御社(私が勤務していたコンサル会社)は、我々の実施したいことがわかっているのかね?
顧客のほかのペインも大切かもしれないが、弊社の既存のソリューションのニーズ調査をやってくれないと困る
………私は絶句しました。意味がさっぱり分からなかったからです。
このご発言を、この記事に書いたMicrosoftの事例に当てはめてみましょう。

ゲイツ氏とアレン氏が、IBMの顧客インタビューを私に依頼したとして、

富岡は、我々の実施したいことがわかっているのかね?
IBMのほかのペイン「OSがなくて困っている」も大切かもしれないが、
Microsoftの既存のソリューションBASICのニーズ調査をやってくれないと困る
というふうに指摘していたとしたら、今のMicrosoftはあるでしょうか?
すべからく、というべきでしょう、そのクライアント様からは、追加発注はありませんでした。
もちろん私は、少なくとも今は、そのクライアントが悪い、この本部長が馬鹿だ、とは寸毫も考えていません。
そのとき私が得た教訓は、このようなものでした。
担当者レベルがリーンスタートアップで新規事業開発を進めようとしているのに、 予算を握る=売上を上げる責任を負う部署のトップがその意味を分かっていないと、とん挫するから、 顧客開発ランチパッド Step 1. Phase 0 の Buy-in を実施を怠るべきではない
顧客開発ランチパッド Step 1. Phase 0 の Buy-inとは、
今回は(試しに)リーンスタートアップのやり方で行くけれども、みんなオッケー?
と、事業部責任者レベルまで含めて合意を開発開始前にとっておくことを意味します。
これは、スタートアップにおいてもとても大切なことで、いずれそのやり方をどこかで重点的に語ります。

事業開発で必須の顧客インタビューのさい、決してしてはいけない質問群

この記事の中で、

殆どのアーントラプレナー/イントラプレナーが、 プロブレムインタビューをまともにやっていないんだな………。

と思わずこぼしましたが、それは、

他人の顧客インタビューを聞いたり、インタビューイとしてこちらがインタビューを受けてみたりして、

心の底から実感していることです。

あるスタートアップのインタビューを受けました

そのスタートアップは、ある嗜好品を一ひねりしたプロダクトを開発し、

B2Cで販売していこうという企画の持ち主でした。

インタビュー前にコンセプトを聞いた瞬間、正直、

えっ、それ、売れるの?
と思いましたが、ここに書いた通り、スタートアップのアイデアなんてそれくらいでないとスケールしません。
その嗜好品を名指しにしてしまうとスタートアップが特定されてしまうかもしれないので、
仮に、クリステンセン教授とマクドナルドには申し訳ない?けれど、ミルクシェイクに置き変えさせていただきます。
インタビュアー(そのスタートアップのCEO)「ミルクシェイクは飲みますか?」

インタビューイ「あまり飲みませんね、ミルクシェイクを飲みたいときは、カフェに行ってタピりますね、もっぱら」

インタビュアー「最近若い女性にミルクシェイクが大人気なんですよ。仕事しながらミルクシェイクを飲むことで業務効率が上がるという統計もあるのです」

インタビューイ「そうなんですね、それは知りませんでした」

インタビュアー「ミルクシェイクが手軽に飲めるように、簡単に一杯分のミルクシェイクが作れる、パッケージを作ってみたんですよ」

インタビューイ「なるほど、それは大変面白いですね」

インタビュアー「弊社では、リモートワークをされているご家庭にこのパッケージを届けて、飲んでもらうことを考えているのです。
伺ったところではご夫婦ともにリモートワークされているようなので、お試しの導入検討いただけないでしょうか?」

インタビューイ「そうですねえ、御社の製品が我が家で受けるかどうか、ちょっと妻に相談しないとなあ」

インタビュアー「なるほど。。。では一回持ち帰っていただいて、さらにご検討いただけますか?」

インタビューイ「そうですねえ…………………………………。
そうだ、こうしましょう。私が若い女性の知り合いにつなぎますよ、その知り合いにインタビューしてみてください」

インタビュアー「ありがとうございます!頑張らせていただきます」

あるスタートアップのインタビューを受けました(内心の声)

これを、2者の心理状態まで書き込んで実況放送してみます。
なお、当然のことですが、スタートアップ側の心理は私の推察です。
インタビュアー「ミルクシェイクは飲みますか?」

インタビューイ「あまり飲みませんね、ミルクシェイクを飲みたいときは、カフェに行ってタピりますね、もっぱら」
内心の声『というか、ミルクシェイクなんて全く飲まないよ……。

インタビュアー「最近若い女性にミルクシェイクが大人気なんですよ。仕事しながらミルクシェイクを飲むことで業務効率が上がるという統計もあるのです」
内心の声『タピオカ派か、これは説得しないと!』

インタビューイ「そうなんですね、それは知りませんでした」
内心の声『だから何?こちらが流行を知らない中年オヤジだって、あてこすっているの?
タピオカだってモチベあがるし、リラックスもできる
でしょ。』

インタビュアー「ミルクシェイクが手軽に飲めるように、簡単に一杯分のミルクシェイクが作れる、パッケージを作ってみたんですよ」
内心の声『そうだ、潤沢なマーケットはあるとすでにわかっている。この顧客がそれを理解していないだけだ

インタビューイ「なるほど、それは大変面白いですね」
内心の声『だからタピオカしか飲まないといってるだろうが!本当に私と関係ない話をするな、この人たちは(怒)

インタビュアー「弊社では、リモートワークをされているご家庭にこのパッケージを届けて、飲んでもらうことを考えているのです。
伺ったところではご夫婦ともにリモートワークされているようなので、お試しの導入検討いただけないでしょうか?」
内心の声『営業営業!いったんPoCしたら、この人はダメでも、この人の奥さんとか、知り合いがわかってくれるさ』


インタビューイ「そうですねえ、御社の製品が我が家で受けるかどうか、ちょっと妻に相談しないとなあ」
内心の声『こないだ、全然飲まなくて古くなった紅茶を、缶ごと捨てたばかりだ、嫁は、邪魔になってしょうがないというに決まっている』


インタビュアー「なるほど。。。では一回持ち帰っていただいて、さらにご検討いただけますか?」
内心の声『といいつつ、新規事業開発専門だから、新しいものには目がないだろう。なんとか使ってみてほしい』

インタビューイ「そうですねえ…………………………………。
そうだ、こうしましょう。私が若い女性の知り合いにつなぎますよ、その知り合いにインタビューしてみてください」
内心の声『ああ、この人たち、事業を開発するには、察する力がなさすぎる。
結論NOに決まっているだろうが、何をどう検討しようが。
いいこと思いついた、当社の若手の顧客インタビューアにこのイケてないインタビューを経験してもらって、他山の石としてもらおう』


インタビュアー「ありがとうございます!頑張らせていただきます」
内心の声『よし、いきなり導入には至らなかったが、線はつながった!!

あるスタートアップのインタビューを受けました(壁打ち分析)

さて、上記をお読みになり、いかがでしたか?恐ろしくなかったですか、

両者の理解の齟齬

が?率直な言い方しかできずに大変申し訳ないのですが、このインタビュー、見ての通り、ボロボロです。

<指摘事項>

  1. タピオカが出てきた時点で、掘り下げないのはもったいない
    私だったら、タピオカの魅力をとことんユーザの口から引き出します。
    タピオカが具備していてミルクシェイクにない魅力を同定して、
    その魅力をミルクシェイクに追加できれば、このような、
    特定の市場に参入してそこをひっくり返すタイプのプロダクトには当然有利に働きます。

  2. 顧客がこちらの想定通りの行動を将来必ず取るものだと絶対にきめつけない
    私はテニスをしていましたが、その時代に、ゴルフクラブの営業さんに、
    「あなたがゴルフを始めるとしたら、どのクラブを選びますか?」
    と訊かれたら、
    「死ぬほどどうでもいいわ、こんなやつのインタビュー、二度と受けるものか」
    と内心で即、思います。

  3. 顧客は、キャズムを乗り越えてEarly Majorityに最初の橋頭保を築くとき以外、説得しようとしない
    説得しないと売れない商品には魅力がないと、自分に厳しく考える

    ナイキが起ちあがる前、アメリカで街中をランニングしていると、
    馬鹿にされて飲み物をぶっかけられたという衝撃的なエピソードが、”Shoe Dog”に書いてありました。
    圧倒的な魅力を将来は誇るかもしれないサービスであっても、時として
    ユーザの教育には、かくも時間がかかるものなのです。

  4. タピオカだろうがミルクシェイクだろうが、普段どのようなコンテキストで
    口にされているのか、顧客のジョブ分析をまるでやろうとしていない
    ジョブ理論についてはこのカテゴリ参照のこと。

  5. ユーザを少しでも沈黙させたら、非常にまずい兆候と受け止める

終わりに:インタビュアーにとり恐ろしいのは False Positive

今回は私のところにわざわざインタビューしに来てくださったスタートアップさんに

申し訳ないことに、悪い例になっていただきました。

言い訳するわけではないのですが、私はインタビューを途中で打ち切り、上記の事項を

大きなお世話ですが、あなたがたのためですから

と全部フィードバックして、(一応、言葉の上では)感謝されました。本当は納得していないかもしれないけれど。

顧客からフィードバックをとるとき一番やってはいけないこと、それは、

顧客の本音と建前を乖離させること

です。

上記のインタビューで一番痛いのは、本音と建前を乖離させてしまったにもかかわらず、それを感知できずに、

このインタビューはいい線まで行けたのではないか

と、大いなる錯覚をしてしまったことです。

この False Positive、自分に都合のいい勘違いは、

顧客インタビューの件数は増えても意味のあるフィードバックが一向に積みあがらない
→結果、御社の事業はうまくいかない

という、本当に恐ろしい結果をもたらします。

重々気を付けてください。

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