「安かろう悪かろう」サービスを競合にを仕掛けられたらどうするか?

美容院 vs QBハウス

「安かろう悪かろう」サービスを競合にを仕掛けられたらどうするか?

「あのMという店は、今は相当ヤバいです」
と、I店長は、自らがもともと店長を務めていた美容院を評しました。
私も思わず、
「ええっ、そりゃ絶対だめっすね!」
と叫びました。
プロダクトやサービスの価格を、むやみやたらと下げては決していけません
という話。

青山の美容院が私に遂行させるジョブ/jobs to be done

緊急事態も明けたしワクチン接種もとうの昔に2回とも済ませているし、
今日は久しぶりに、COVID19騒ぎの前までずっと担当していただいていた、
カリスマ美容師のI氏に頭髪をカットしてもらってきました。

カリスマ美容師I店長との出会い

このI氏とは、かれこれ4年近く髪を切っていただいています。
男性のカットをさせたら、東京で1,2位を争う腕で、カリスマ美容師といっていいです。
これは私だけの評価ではなく、ホットペッパーの評価です。
このI氏に出会うまで、私は東京のあちこちの美容院を、
ホットペッパービューティーを使って点々としていました。
思い切ったツーブロック、特に左右アンシンメトリーが、
自分にはハマると思っていたので、毎回指定するのですが、
毎度毎度、どんな店でもイマイチ物足りない出来でした。
なんかこう、微温的というかですね、
刈込に思い切りが感じられない美容師の方ばかりだったのですね。
手抜きとかではなく、深読みしすぎだとは思うのですが、
「失敗したときも、その月に直しを入れられるように、
ちょっと遠慮がちにバリカンいれておきました」
的な中途半端さを感じていました。
悶々としていたあるとき、ホットペッパービューティの本来の使い方に、
遅ればせながら気付きました。
それまでは「自宅や会社の近くで、かつ、ツーブロックに刈ってくれる店」というAND文の検索方法だったのですが、
そうではなくて、カットモデルをツーブロックかつ東京でクエリーし、人気トップから降順に見ていく、に変えたのです。
そして、画面上で
「お、これカッコいいなー」
とピンときたモデルの刈った店に行ってみたわけです。
その店が、めちゃくちゃおしゃれな青山表参道の一角にありました。
地下にあるその店舗の上も、左右も、すべてアパレルショップという、
着道楽の私にとっては地雷原なみに危険な一角に。
I氏はそのときも、すでにその店でいちばん腕の立つ、店長でした。
オーナーつまり社長さんは別にいらしたけれども。
初回、
「あなたの頭骨の形はツーブロックが似合います」
といきなりいわれまして、びっくりしました。
「私はお客さんの頭骨をみて、一番合った髪型に整えます」
……マヂすか。
で、バリカンで芝刈りよろしく刈り上げ、ばっさばっさとハサミでカットしていきます。
速い。そして、うまい。いや、決して安くはないけれども。
店の場所とスキルから、
安さを求めちゃいけないし、そもそも期待していない
わけで。
あっという間に、かつてみたこともないほどすっきりとクールで、
かつみじんも妥協が感じられないカットに仕上げ、頭髪を洗っていただいた後、
櫛を使って頭髪の必要なところを立たせながら乾かし、
ワックスとスプレーを両方とも使ってかっこよくセットするやり方まで
手取り足取り指導いただきました。
のちに私はこのセットの方法を自宅で再現するため、iPhoneで動画にとることになります。
いや、これは感動的な体験でした。

カリスマ美容師I店長のカットサービスが私に遂行させてくれるジョブズ/Jobs to be done

そこから、2020年春の最初の緊急事態宣言直前まで、毎月この美容院に通っていました。
男性が美容院/理容室サービスに果たしてもらうジョブの最も基本は、
「日常生活するのに煩わしくないように頭髪をカットすること」
ですよね。
これは、
機能的なジョブ
でして、
この美容院だろうが、QBハウスだろうが、変わらないわけです。
特に私は髪が伸びてくると仕事しながら前髪をつかんでねじる悪癖があり、
煩わしくて仕事に集中できないから、そうせざるを得ないだけです。
ところが、上記のジョブ以外に、
QBハウスには全く推進してもらうことができないジョブズ/jobs to be done を、
数多く、この美容院は私に果たさせてくれるのです。
感情的な jobs
  1. おしゃれな店舗で気分よくカットしてもらう。
  2. カットしてもらいながら、美容師とコーデの話とかする。
  3. どうせ頭を流してもらうのなら、ぶっちゃけ、美人/イケメンがいいっすよねー。
  4. カットのついでに、アパレルも見て回り、衝動買いを必死で抑えてみる。
社会的な jobs
  1. 流行を踏まえたシルエットを出せる髪型に頭髪を整える。
  2. いつもおしゃれな青山でカットしてもらっているんだぞ的な、 QBハウスに行く、シルエットかまいつけないおじさんと混同することなかれ的な、ね。
ここで重要なのは、ジョブズ/jobs to be done には上記の3種類あるのです、ということ。

青山の美容院 vs. QBハウス???

ですが、第2波と第3波の合間に一度だけ行ってみたら、
「実は独立するのです」
とI店長がおっしゃったので、LINE交換しました。
で、本日は独立して自分で始めた、外苑前の店に初めてうかがってきたわけです。

スピンオフでもスピンアウトでもなく、完全に自分の資本で開いたお店。

つまり、I氏は、社長兼店長ということですね。
で、例によって髪の毛をセットいただきながら、
「前の店はどうですか?」
とうかがったところ、
「あの店はやばいです」
と。
私「それは、店長が独立なさったから?それともコロナのせいですか?」
I店長「はい、ぶっちゃけ私が抜けた穴は大きいのですが、コロナはあの店はあまり関係なかったのです。
むしろ、来店しやすくなって、ウィークディ昼間の男性客が増えたくらいでした。
しかし、若手が十分に育っていなかったのです。」
私「なるほど」
I店長「で、客離れを防ぐために、QBハウスみたいな 3,000円カットをはじめまして……」
私は思わず、
「ええっ、そりゃ絶対だめっすね!」
と叫びました。
私が思わず、あかーん!と叫んだ理由、お分かりですか?
I店長が独立するまでは、QBハウスとその店は競争していなかったからです。
以前私はI店長に、QBハウスに対する印象を伺ったことがあります。
I店長は苦笑というかやや嘲笑というかを浮かべながら、
「QBハウスの美容スクールを出た美容師を打ちが雇うことは絶対ないですね。
変な癖がついていますから。
QBハウスでは、どんな頭の形でも、短時間で無難な形に切る、ということを教え込まれます。
一方でうちは、
尊敬する先輩の技をじっと見てテクニックを盗んで自分の技を磨き上げ、
個々のお客さんにあったおしゃれな髪型をつくる
という世界です。
私自身も他店でそのようにしてテクニックを学んだのです」
つまり、徒弟制度、ギルドだということですね。
「お客さんもかぶっていないです。
(確かに管理人も、やむを得ないとき以外、QBハウスにはいくきがしないわ……💦)
まれに、
『いつもは値段が高くて通えないけど、今月はボーナス出たから来た』
という方もいらっしゃいますが」
ここでポイントはもちろん、
両社は差別化を使用としてこのような戦略をとっているわけでは全くない
という事実です。
両社は互いに全く異なる別の顧客のジョブズにアドレスしているからです。

QBハウスが顧客に遂行させてくれるジョブズ/Jobs to be done

ちょっと思い出していただきたいのですが。
前回いつ、QBハウスの広告を目にしましたか?
私が思い出す限りでは、COVID-19がいちばん猖獗を極めていて
やむを得ず利用したQBハウスの店内のディスプレイで見たっきりです。
それもそのはず、
QBハウスでは広告をいっさい出していない
のです。
出す必要がないのは、駅ビルや駅前など、人がたくさん通るところに狙って出店し、
店舗を顧客の目にさらすことで、勝手にお客さんが入ってくるからです。
そして駅の近くに出店する戦略にはもっと深い狙いがあります。
QBハウスがお客様に遂行させる
機能的なジョブ
は、
「通勤通学途中などの隙間時間にぱぱっと手早く頭を刈る」
ということだと無言で主張しているのです。
そして
どんな頭の形でも最短時間で無難な髪形にする= 時間がない中でカットするというこのジョブ以外にサービスは一切アドレスしていない
ということです。
その代わり、お値段は安いですよ、と。
すなわち、QBハウスは、従来の美容院、理容院に対して典型的な
ローエンド型破壊的イノベーション
を仕掛けている、ということです。
お互いに全然別のジョブズにサービスをあてがっているため、
事実上、競争は生じません。
髪型はめちゃくちゃかっこよくなくてもいいから、お金も時間もかけずにカットを
という顧客と、
I店長がいつも相手にしている、
値段は高くてもいいし予約も取りづらくてもいいから、おしゃれな髪型でないと落ち着かない
という顧客では、
雇用 Hire しようとするサービスが全く別ものになるのは自明の理だからです。

ローエンド型破壊的イノベーションをしかけられたら既存のプレイヤーはどう反応すべきか?

さて、I店長が離れてしまって
 星一号作戦で109が後退した後のホワイトベース
よりもはるかに戦力ダウンした美容院ですが、
ローエンド型破壊的イノベーションを仕掛けてきた相手と同様、安かろう悪かろうのカットを提供する
という、
一番やってはいけない競争戦略
を採用してしまいました。
QBハウスは創業時からこれに全社的に徹底して集中しており、
カットに関しては、いわば、「トヨタ生産方式」ががっつり組み込まれている状態です。
ありとあらゆる無駄が廃された結果、
ベルトコンベアーに載せた数多くの客を、安く素早くかたっぱしからカットする薄利多売の方式
が成立しています。
一方で、青山の美容院は、
一人一人フルにカスタマイズしたカット
という真逆のものが、本来のバリュープロポジションでした。
サウスウエスト航空の
ビジネスセレクト
のように、
$10~$30のチケット代を上乗せする代わり、Aチケット確約、アルコールなどサービス
といった、リッチなプロダクトを提供してきたのです。
それなのに、今回は、わざわざ不利な競争の領域に降り、
同じペルソナの顧客をとりにいっていってしまいました。
これでは勝てるはずがなく、中途半端になって、みすみす叩きのめされるだけです。
かつて、日本の大手メーカーのある事業の担当者の方からこんな話を聞きました。
そのメーカーは、ある地方自治体関連のサービスで日本でトップのシェアを誇っていました。
ところがローエンド型ディスラプターが現れ、
機能をシンプルにして価格を下げた同様のプロダクトで
シェアをあっという間に奪われたそうです。
そこでこのメーカーがとった戦略は、
価格を下げつつも、自社の誇る高機能を担保する
という非常に遂行困難なものでした。
ところがよく聞いてみると、地方自治体の公共サービスのそのプレイヤーたちは、
  1. 機能はリッチでなくてもいいから低価格で
  2. 高価格でよいから高機能で
の二種類のセグメントに、真っ二つに分かれるというではありませんか。 私なら、①は思い切って捨てて、ディスラプターに譲ってしまいます。 逆に、②のニッチな顧客たちは、これは高機能高品質を極めるプロダクトで 高価格のまま、全部取りに行くと思います。 このような状況では、中途半端が一番いけないのです。
ローエンド破壊型イノベーションを仕掛けられたら 自分のサービスを雇用 hire している顧客の遂行しているジョブを、 もう一度ちゃんと観察しましょう

コメントを書く

送信いただいたコメントは承認後、表示されます。

CAPTCHA