新規事業の市場参入の鉄則:セブンのコーヒーはスタバと競合なんかしていない

中目黒スターバックスのディスプレイ

新規事業の市場参入の鉄則:セブンのコーヒーはスタバと競合なんかしていない

本日は久しぶりにゆっくりとコンビニのコーヒーを飲んできました。

「ゆっくりコンビニコーヒーを飲む」人はいない

いや、すみません、いきなり嘘です。

ゆっくりとコンビニのコーヒーを飲む

っておかしいですよね?

なぜなら、コンビニコーヒーが推進してくれる ジョブというのは、下記のようになっているからです:

ジョブの要素 要素の値
Progress/推進したいこと 淹れたてのコーヒーをゲットする
Conditions/おかれた状況 あまり時間のない中で
Obstables/その状況での障害 周囲には、都合よくテイクアウト(to go)のカフェがない
Imperfect Solution/イマイチの解決策 自販機でコーヒーを買う
Quality/妥協できる、下辺の品質基準 スペシャリティコーヒーほどでなくてもよいが、淹れたて
コンビニコーヒーが推進してくれる Job To Be Done

実際、今日の私は、先日、高いところにあるものをとろうとして椅子から落ち、ろっ骨を折っていなければ、コンビニにコーヒーを飲みに来ていないわけで。時間があってゆっくりしたいときなら、躊躇なく、エクセルシオールカフェかタリーズにいきますね。

外科で番号札を受け取り、受付が始まる20分の間に、どうしても一杯コーヒーが飲みたくなったから、いちばん近くにあるセブンへ行って、「キリマンジャロブレンド」を頼んだ、というわけです。

一昔前に比べてコンビニコーヒーも提供するプロダクトの品質が高くなっており、「キリマンジャロブレンド」も、淹れるのに従来のコーヒーマシンとは別のものが用意されておりまして、凝っていました。

セブンで飲むキリマンジャロブレンド

コロナ騒ぎで、イートインスペースはあれど椅子は全部取り払われており、ゆっくりできるような環境ではありませんが、20分くらいでサクッとお茶するには最適なわけです。

ここで認識すべきは、

このコーヒーは、スタバなどスペシャリティコーヒーと全く競合していない

という事実です。

 

「コンビニコーヒーはスタバをディスラプトしている」?!

リクルートで知る人ぞ知る大きな新規サービスを起ち上げ、その後、独立して、現在は新規事業発想のコンサルタントなどをなさっている方が、コンビニコーヒーは廉価版のサービスでスタバに、

ローエンド型破壊的イノベーション

をしかけたという意味の発言をなさっていました。

日本では、新規事業開発で名の通った方でしたので、唖然としましたね。

いやいやいやいや、絶対にあなた、テキトーをおっしゃっているでしょ?それとも、

コンビニで買い物したこと、ないの?

どう考えても、

コンビニがスペシャリティコーヒーと競争しているわけがない

んです。

↓の写真は、私があるセブンの店舗の前で撮影した写真です。

(どうも、 ブルーマウンテンブレンドを試験的に売っている実験店舗のようで、うまく売れたら全国展開されるのかも。)

スタバ限定店舗販売ブルーマウンテンブレンド

そして、 ↓の 写真は、最近のセブンならおよそどこでも売っている、ペット詰めのスタバブランドの珈琲です。

昨年、缶コーヒーもでましたよね。

もうお分かりかと思いますが、

セブンがスタバと競争しているのなら、ライバルのブランドのプロダクトを普通に店頭に並べるわけがない!!!

ですよね?どう考えても?

この曲解「コンビニコーヒーはスペシャリティコーヒーのディスラプターだ」も、

何が何でも企業同士を競合させないと気が済まない従来の戦略論

マーケットを、年齢や職業のセグメントに「みじん切り」にしたくてしょうがない従来のマーケティング理論

の弊害でしょう。誰もかれも、

ジョブ理論をちゃんと勉強していない

から、こうなるのです。

スタバを「安かろう悪かろう」でディスラプトするとはこういうことです

Starbucks にとっては世界で第2位の大市場である中国で、スタバとガチで戦っていた中国のユニコーン

Luckin Cofeee 瑞幸珈琲

が、Chapter 15 を申請しましたね。売上の数値を操作して中国でもアメリカでも当局に目をつけられ、SECに膨大な賠償金を支払って、苦境に陥っていたようです。

出典::Forbes ”Luckin Coffee Files For Bankruptcy Seven Months After Nasdaq Delisting”

このプレイヤーは、ごめんなさい、事実確認していないのですが、恐らくスタバや日本マクドナルドより先に、店内であっても、スマホのアプリから電子決済(WeChatペイなど)で注文するメカニズムを導入しています。

QUARTSの記事 A startup challenging Starbucks in China is now worth $1 billion

これが、急激に発展する中国のIT環境の波に乗って、どんどん売上を伸ばしてきました。

デリバリも最初から重視しているようです。

さて、肝心のコーヒーですが、ここが提供するものは、サイズが一種類しかないようです。

トールもグランデもなく、ひたすらスタンダードなカップサイズ。

そのお味は、ネットで見る限り、

そこそこいける、スタバともそん色ない

という意見と、

うーん、ぶっちゃけまずい💧

という意見に分かれるようです。

そして極めつけは、店舗。スタバみたいにラグジュアリーなスペースを確保しているような印象は受けません。

スタバが高級な立地を選ぶのに対し、場所がらもそこそこのところに、席数の少ない店舗を設けているようです。

以上、ネットで拾った話ばかりで、私自身が入店したことがないので断言したくないのですが、ネットの話を総合する限りでは、

Luckin Cofeee 瑞幸珈琲 こそ、ロースペックだがその分低価格で、スタバに典型的なローエンド型破壊的イノベーションを仕掛けている

ように見えます。

実際、スタバに敵愾心むき出しで、独禁法違反疑いを公的なレターで表明したこともありますし。。。

しかし、コンビニの立ち位置は、Luckin Cofeee 瑞幸珈琲とはまるで違います。

 

躊躇なくコンビニコーヒーを選ぶ状況は、金持ちにもありうる

例えば、普段はスペシャリティコーヒー好きでスタバを愛用しているあなたが、

子供を連れてドライブに出かけたとします。

いつまでに、どこどこのインターに着いていないと渋滞してしまうかも

と焦って家を出たら、なんと、家族で車中で食べようと思っていた弁当を置いてきてしまいました。

高速に乗る手前に、スタバとセブンが並んでいます。

弁当買わなきゃいけないけど、缶コーヒーは好きじゃない、淹れたてのコーヒーも飲みたいな

と思ったとします。

どちらに飛び込みますか?

お金持ちだとしても、この状況でスタバに飛び込む人は、ほとんどいないはずですよね。

すなわち、病院近くのセブンに躊躇なく入店した冒頭の私と同じで、

大のコーヒー好きにもかかわらず、遠方のスタバやタリーズを探さずに

スタバは好きだけど、弁当は買えないし、珈琲が出てくるスピードも必ずしも速くないから、困るな
=この状況ではセブンのがコンビニエントだよな

と、瞬時に判断するはずです。ここでポイントは、

マーケティング理論的には同じセグメントの顧客が、状況によっては、全く異なる選択を行う

という点です。

スタバの通常店舗は、コーヒー好きが、そのラグジュアリーな空間もひっくるめて時間をつぶす場所、です。

一方でセブンは、同じコーヒー好きに、

  • 「周囲に淹れたてのコーヒーをサクッと飲める店が見当たらない」
  • 「そこでゆっくり楽しむのではなく、質はそこそこでいいから、コーヒーを別の場所にもっていって飲みたい」
  • 「ついでに、淹れたてのコーヒー『も』入手したい」

すなわち、この2つのプレイヤーは品質や価格などでは顧客から選択されず、状況によって選択されているのです。

セブンはコンビニコーヒー立ち上げ時から今に至るまで、

スペシャリティコーヒーと勝負しよう

などとは、ゆめゆめ考えていないのです。

スタバやタリーズにとっても、コンビニは、ライバルなんかでは全然なくて、

むしろ、商品を顧客に送り届けるチャネルの一つです。

お互いに相手が、

「自分たちのサービスが対応しきれない顧客の状況にアドレスしている」
=「相手が 雇用 (Hire) される顧客の状況では、自分たちの product and service が解雇 (Fire) されている

と知っているので、競争する気は起きないわけです。

だからこそ、コンビニコーヒーは、潤沢な市場を開拓できたのです。

ここから得られる教訓は、

新規事業が既存の市場に参入する際は、
既存のプレイヤーが顧客に遂行させる気のないジョブを顧客に遂行させよ

です。

スタバのコーヒーとコンビニコーヒーは、製品 good としては全く同じコーヒーですが、プロダクト product としてはまったく別種で、かつ、従来のプリミティブな

ジョブ理論を知らないマーケティング理論

では扱いきれない領域で上手に共存していることがおわかりいただけましたでしょうか。

 

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