事業開発の要諦:イノベーションのタイプ

イノベーションのタイプ

事業開発の要諦:イノベーションのタイプ

イントロダクション

大病から復活して講演などに元気な姿を見せてくださっていたクリステンセン教授ですが、

惜しまれつつ、先年、亡くなられてしまいました。

ちょうど、某商社でジョブ理論の話をしようとしていた矢先だったので、

いろいろな意味で管理人にとってはショックでした。

さて、そのクリステンセン教授の理論、理解するだけでも一筋縄ではいきません。

特に、2015年に管理人にとってのバイブルの一冊 “Competing Against Luck: The Story of Innovation and Customer Choice”

が上梓されて以降のクリステンセン教授の理論、

何気に、みんなにちゃんと理解されていなかったのでは??

という疑惑を、管理人はずっと抱いてきました。

それは、ジョブ理論が、とっつきやすげに見えて、甚だ直観に反するがゆえに、

実はそうとう難解、というのが理由の最大だと思います。

そこで今回は、後々皆様方のリファレンスとして利用いただけるよう、

晩年の教授によるイノベーションのタイプわけを、詳細に解説していきます。

元ネタ:Where Does Growth Come From? | Clayton Christensen | Talks at Google

このイシューにきちんとアドレスして解説しきった文書は珍しい と自信をもっておすすめできる記事です。

イノベーションのタイプ

  1. ポテンシャル・プロダクト/potential products
  2. 持続的イノベーション/sustaining innovation
  3. 破壊的イノベーション/ディスラプション/disruption (1)ローエンド(破壊)型 (2)新市場(創造)型
  4. 効率性イノベーション/efficiency innovation

ポテンシャル・プロダクト/potential products

コスプレが隠れた趣味という、すれ違う男性がみんな振り向くような美人の黒パツ美人の大企業受付嬢と、

少しだけお付き合いしたことがあるのですが(下品で失礼)、

デートの度にアレだったのはですね、

新しいコスをどう調達するか?

という悩みでした。

オンラインで買うと、彼女が可愛く映えるかどうかどうか不安だったので、毎回事実上、

ドン・キホーテ

ほぼ一択でした。

娘二人のサンタさんの格好をさせて、SNSで友達たちに自慢したいという、

不善純度100%のジョブを嫁と二人で果たしたときも、

ドン・キホーテ

一択でした。

冒頭に引用したYouTubeでクリステンセン教授が引いている譬えは、

「新卒の新入社員という『人間性の底辺(笑)』にいるクリステンセン教授の息子さんが

その企業に勤めるための独身の住居を構えるため、サクッと調度を調達する

というジョブ/the job to be done を果たす、そのために役立つショップとして、

聴衆の皆さんが思い浮かべるのはどこですか?」

です。これは、

IKEA/イケア(「アイケイア」と米国人は発音します)

一択ですよね、と。 こうして、

ある特定のジョブを果たすために事実上一択として思い浮かべられる企業は、
そのジョブにおける独占企業となって、大きな収益を上げ続けられる

というのがクリステンセン教授のインサイトです。

ここまでは、教授に一票入れられます。

しかし、このネーミング、「ポテンシャル・プロダクト」ってのはぶっちゃけ微妙かなと。

教授がこのように命名したのは、

プロダクトをランチしてみたら特定のジョブを結果としてよく果たすようになった、そういう意味でのポテンシャル

だからです。

私が常々心掛けており皆さんもオススメしたいのは、これを意図的に作り出すことです。意図的に、

そのジョブを果たそうと思ったら、これっきゃないっしょ!

となることです。

最近だと、zoomがそれ、意図的にやりましたね。

今のクライアントが Google Meet 使っているのですが、zoomになれていると、使いにくくて仕方ないです。

これがイノベーションの最初のタイプです。

持続的イノベーション/sustaining innovation

これはアレですね、

日本人がおこすのが大得意な「猪野兵衛さん」だが、あまりに退屈すぎて解説する気が失せるやつ

ですね……

教授が挙げている例はCPUの計算速度ですが、これは筋金入りの退屈なあるあるなので、

ジェームス・ワットによる、ニューコメンの蒸気機関の大幅改良

が、面白みがあると思います。

ニューコメンの蒸気機関は要素技術として画期的でしたが、 現場で応用できるような代物ではなかったので、

ワットが大学の裏庭でしこしこ設計図を書き直していたのに目をつけた

マシュー・ボールトンという大金持ちがエンジェルとして資金をつけまして、

「ボールトン・ワット商会」

が起ちあがりました(経済史上初?くらいのスタートアップかも)。

ところが、設計図を書き直しては実験、というこのサイクルに莫大な額の資金投入が必要で、なんと、

投資した資金を回収するのに20年かかった(!)

のですね。

出典:

私は大手のメーカーさんとかによく申し上げていたのは、

御社、量子コンピュータ研究されるのはいいのですが、損益分岐点は20年先かもですよ

という脅しです。 そりゃ、Google/グーグルみたいに広告でばかすか稼いで、

当たるも八卦当たらぬも八卦のイノベーションマネジメント

に、大枚はたける体力のある会社ならいいですけどねえ。

スタートアップの皆さんには、このような、蛮勇を要するR&D型の事業はお勧めできませんね。

絶対にランウェイが先に息切れするでしょう、出雲さんのミドリムシ、あれは奇跡のレベルです。

ちなみにワットの蒸気機関、悲惨なオチがついてまして。

皆さん世界史ならったとき、違和感、感じませんでした?

産業革命がイングランドで起こったのはいいが、そのほかの国はどうしたのか?
と。これはですね、現在の常識では許しがたいことに、
フランスなどヨーロッパ他国は、産業革命全体をまるパクリした
のですね。知財という概念がなかったので。
イングランドで誕生した、様々な産業革命のイノベーションズは、
諸外国にリバース・エンジニアリングされて完コピされたんですよ……。微妙でしょ?
まあ上でも申し上げました通り、日本の企業群、
こんな誰でも思いつくような、
起こすのは大変だけど大儲けが至難な猪野兵衛さん」
ばかり起こしている場合ちゃう
とマジで思いますね、老婆心ながら。

破壊的イノベーション/ディスラプション/disruption

破壊型イノベーションの破壊とは、市場の破壊を意味します。

(1)ローエンド(破壊)型

ディスラプションと言えばこのイメージじゃないでしょうか。
既存企業が、最も発言権のある既存の顧客相手に一所懸命持続的イノベーション起こしている最中に、
そんなに高性能じゃなくていいから、価格が安いものでよい
というところを狙って投入され、いつの間にか市場を席巻し、
状況をひっくり返すタイプのイノベーションです。
これがいわゆる
イノベーションのジレンマ

ですね。

これを説明するのに、ロボット掃除機の譬えを引きます。
ルンバでロボット掃除機が造れ、売れる、ということがわかったあと、
日本のメーカーは、
(1) 丸い形をしていないから、日本の家屋に多い、角が掃除できるロボット掃除機 とか、
(2) ルンバがコード類を巻き取るのがうざいから、それを防ぐギミックを備えたロボット掃除機
とかを出していますが、
我が家には2台もロボット掃除機があるのに、これらを採用していません。
だってさ、
(1) ぶっちゃけ、角には何か置いてあって、どのみちときどき掃除機かけるし!
(2) ルンバが動き回っても支障がないように、すでにすべてのコード類、ケーブル類まとめているし!
そんなところにCAPEXかけたくないです、
日本のメーカー、ジョブで要求される品質基準に対する思慮が全く足りない
だから、我が家の1Fほど掃除する頻度高くなくていい2Fの掃除には、
ルンバに対してローエンド破壊でぶつけられた、バッテリーメーカーANKER/アンカーの
Eufy RoboVac
を投入しました。
注:Eufy RoboVacは、ルンバの独占に近い市場をまだ破壊していませんし、将来も恐らく破壊まで至らないでしょう。
ぶっちゃけ、ルンバ君より、てはかかりますよ。
たとえばスタックしたときに、エラーコードをいちいちググらないと対処方法判らないとか。
でもそんなの、めったにおこらないですから、2Fはこれで十分です。
ところで
ANKER/アンカー
ですが、出自がバッテリーメーカーでロボットは専門外だった、というのが面白い。
同社はこれ以外でもあらゆる意味で非常に面白いプレイヤーなので、どこかで特集くみます。

(2)新市場(創出)型

クリステンセン教授自身もちらっとメンションしている
iPhone
ですが、管理人としては、
マルチタッチのフルスクリーン・タッチパネル・ケータイをイノベートしたのは
スティーブ・ジョブズ氏じゃないし
ということもご存じない方に、あまりiPhoneを語られたくありませんので、
別途、気合のこもった特集を組ませていただきます。ここでは、
Tesla/テスラ
一社で十分でしょう。
Teslaの異常さは、それが明らかにオートメーカじゃない、というところにあります。
以前、某オートメーカの事業開発へのコンサルにインボルブされたとき、
「ホワイトスペースの見つけ方を教えてくれ」
と、むしのいいお気持ちはわかる要望をいただいたので、あやうく、
「マスクさんが最近プレゼンした、テスラボットなんてホワイトスペースの最たるものですよ」
と申し上げるところでした。
Teslaが売っているものは、
バッテリーであり、発電機であり、四輪付きのロボットであり、エアコンであり、二酸化炭素排出権
です。そして強烈なのは、
オートメーカたちを、ガソリンエンジン車を売るのをやめる状況まで追い込んだ
ことです、まさにゲームチェンジャーです。
これが新市場創出型の破壊型イノベーションの典型例です。

効率性イノベーション/efficiency innovation

これも日本人の得意技ですね。
トヨタ生産方式がまさに、既存の固定概念をひっくり返すやり方で、これをやったわけです。
ちなみにこのやり方、ZARAなどのブランドを持つ
Inditex; Industria de Diseno Textil/インデテックス
もこれを何気に導入しており、おかげで新規の期中商品をたったのひと月で製造します。
私が着目している、このジャンルのイノベーターは、東大発のスタートアップ
ペプチドリーム
です。このペプチドリーム、
効率性イノベーションで市場破壊した
という、タイプ3と4かけ合わせの、前代未聞のイノベーションでした。
従来の製薬メーカーがピカ新の創薬の際に、
たんぱく質の掛け合わせを何千通りも試しているやっていることに着目したペプチドリームは、
最終消費財である薬を創って患者に売るのではなく、
中間生成物であるたんぱく質の組み合わせのライブラリを製薬会社に販売する
というビジネスモデルのイノベーションで、
たちまち新市場を創造、席巻したのです。

終わりに

このイノベーションのタイプの相違を理解しておくことは、

新規事業開発/事業再生を手掛けるときに、

自分がどこにいてどんなイノベーションを起こそうとしているのか?

を考える上で極めて重要です。一番まずいのは、

「競合がああいうイノベーションを起こしちゃったから、

対抗上、自分たちもなんかイノベーションを起こさなきゃ(あせあせ)」

となることです。

大企業がコンサルファームに競争戦略のコンサルテーションを頼んだりすると、

このようなとてもくっだらない儲けにくい話になりがちです。

ゲームをチェンジする側に立つ、自社にしかできないやり方で。

これが一番重要なことではないでしょうか。

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