公共事業の大失敗例:アウガのためには、MVPは作られなかった
線形プロダクト開発の大失敗例アウガ
アウガ企画時点で何をやっておくべきだったか?
終わりに
イントロダクション
この記事の扉絵(アイキャッチ画像)を見せられたとき、思わず感動してしまいました。
サクッと描き上げたたった一枚の絵で、我が家の二階の一室の未来の姿がパッと分かったからです。
今までは寝室として家族四人で寝ていた部屋を子供部屋にするということで、
隣の部屋を夫婦の寝室兼私の書斎にすべく、
現在ただいま、我が家に、リフォームの工事が入っております。
今日で作業は完了ということで、今から仕上がりが楽しみです。
この絵は、リフォームの業者が短時間で作成してきた、
最初の見積もりの一部です。 この絵を取り上げた理由は、これこそ、
と呼ぶにふさわしいと思ったからです。
リーンな事業開発のカギ:MVPとプロトタイプは異なる
の定義は、例によってこれも人によりさまざまのようなのですが、
管理人は、例によって、Yコンビネーターの定義をとります。
上記の定義を与えている、このYコンビネーターのブログ記事をきちんと解析する前に、
アイキャッチ画像に話を戻します。
この絵、プロトタイプと呼ぶことは、ちょっと難しいのではないでしょうか。
しかし、これは十分にMVPとして機能しています。
だからです。
我が家のリフォームにたとえていえば、 見積もりをいただいたとき、
その業者さんが抱えていた最大のリスクは、
というものでした。
それを解消するため、上から見た図面だけでなく、
出来上がりを明確に想起できるこの絵を、パースをとってサクッと短時間で描き上げ、
家主である我々の想定するリフォームとイメージが合うかどうか?
を確かめたわけです。
実際に、この絵が訴えかけるイメージと、家主である我々のイメージが異なる部分を、
この絵のおかげで、最も早期に見つけ出し、修正し、合わせこむことができました。
一方で、今回は個人の邸宅の一室の、しかも部分的なリフォームなので造られませんでしたが、
建築家の方々は、大きな建造物を造る前には、必ず、何百分の一のスケールの模型を作りますね。
あれは、MVPであり、同時にプロトタイプと明確に呼べるものです。
つまり、プロトタイプとMVPの集合関係は、
となっていることがわかります。
公共事業の大失敗例:アウガのためには、MVPは作られなかった
線形プロダクト開発の大失敗例アウガの歴史
だがしかし、ここに、ある意味、
と称してよい建物があります。
もっと正確に言うと、
という建物です。
青森市のアウガです。
アウガはもともと第三セクター・青森駅前再開発ビルが構想していた、青森市の中心地の開発計画を
紆余曲折あって青森市が引継ぎ、185億円の開発費をほぼ全額負担して、
「市が保留床を購入し、図書館、多目的ホールや男女共同参画プラザと駐車場を整備し、さらに青森駅前再開発ビルが残りの保留床を買い取ってテナントに貸し出す手法を採った」
(出典:NEWSポストセブン)
ものでした。
開発のときは、詳細な図面のみならず、必ず、模型が作られたはずです。
上記の、プロトタイプですね。
2001年のオープンからすぐに人が殺到したようにみえ、コンパクトシティの成功例として、
国内のみならず海外からも称賛されました。
が、実のところ、この施設はずっと赤字続きでした。売上が計画未達で、
2008年には第三セクター・青森駅前再開発ビルの債務が約23億円まで膨れ上がります。
青森市はこれを救おうといろいろ動きますが、
「翌2016年には資金回収をできなかったことを理由に鹿内氏が市長を引責辞任する事態となった。」
(出典:NEWSポストセブン)
Product/Market Fit/プロダクト/マーケットフィットの4条件のうち、
Viabilty/事業持続性
が、2回の会計年度だけしか達成できずに、アウガは破綻しました。
日経グローカルは、この失敗の経緯を、
「当初核店舗として予定した大型店の誘致に失敗。郊外の大型店に客を奪われ、衣料品も若者向け中心の限界もあり、売り上げは伸びず、借金で建てたビルを賃貸する三セク会社の負債が膨らんだ。」
(出典:2016/06/06 日経グローカル)
としています。
また、青森市の都市計画マスタープラン策定に携わった井上隆・青森大学教授は、
「『アウガは最初から失敗だった』と断言する。中心部に居住する若年層は少ないのに若者向けファッション中心の店舗構成としたうえ、三セクは市の出資比率が60%を超え経営陣には民間出身者が少なく実質的に公営――などの問題点を指摘」(出典:2016/07/25 日本経済新聞)
しています。
要するに、公営なので、
採算性とかろくに考えないで線形プロダクト開発(プロダクトアウト)で世の中に出してみたはいいが、
お客さんが当初の想定ほど寄り付かなかったという、あるあるのてん末ですね。
アウガ企画時点で何をやっておくべきだったか?
経営学者の方々に言わせると、
マーケティングをちゃんと行わないからそうなるのだ
になるでしょう。
確かに私でも、企画段階で、周辺の住民の聞き込みはたくさんやるでしょうし、
おそらく管理人なら、アウガが構想されている場所に通える場所に2週間滞在して、
ビジネスエスノグラフィを実施すると思います。
しかし最大の敗因を、管理人は、
せいだと考えています。
どういうことかというと、この場合最大のリスキーな想定/Assumption は、
だったわけですね。
膨大な資金を投入し、この巨大な箱モノを建造してからそれを検証するのだと、完璧に、
終わっている
わけです。後戻りできないから。
ですので管理人なら、更地の段階の建造予定地で、半年間くらい、
テンポラリーなイベントを張り続けます。
↓こういうイメージですが、スケートリンクよりもっと経費がかからない「電飾付き夜市」程度のイベントで十分です。
そして、入居を考えてくださっている企業に対して、自分が調査した結果を共有した上で
(例:この周囲の住民は高年齢層なので若者向きのアパレルはおそらく売れません、など)
そこに仮店舗を出店をいただきます。
ちなみに、アパレルショップの店員が店舗の表にさらすボディ(マネキンを指す専門用語)のコーデって、
東京都内だけですら、地区によって千差万別だってご存じですか?
丸の内、表参道、六本木の店舗のボディと、池袋の店舗のボディは、ずれているんだそうです。
セレクトショップの池袋店舗に勤めている、友達の売り子さんが愚痴を言っていました。
「私が一番イケてると思うコーデをボディに着せると、店長に
『かっこよすぎる、1割ぐらいイケてないと感じるコーデにして』
って怒られる」
その売り子さんはみる目があるので私なんかは
コーデが出来上がると見せてチェックしてもらったりするのですが、
彼女の目から見たコーデは池袋の価値基準からはカッコよすぎ
カッコよすぎるコーデだと、売れないんだそうです。だからわざわざ、かっこよさをダウングレードする。
これが上野、御徒町だと、また話が全く変わってくることは自明の理です。
おそらく青森市は、オープン前から、上野、御徒町に近い場所だったと想定されます。
だから、同じアパレルショップを出すのなら、その時点から10年くらいは売れそうな
高年齢層につよいブランドを並べられるセレクトショップがいい、とかですね。
逆に絶対だめなのは、実際にアウガでやってしまった、若者につよいハイブランドです。
客層から、このあたりの製品が一番売れそうだ感じだと思われるものを取り揃えていただき、
その一自店舗で売ってみていただく。
そして、店舗ごと製品ごとの売り上げなど、KPIを全部トラックする(イノベーション会計)。
半年間もとっかえひっかえいろいろな店舗に出店頂ければ、
終わりに
YコンビネーターのCEOマイケル・サイベル氏は、
「顧客の馬鹿でかい問題を解決することはグレートだが、そのために馬鹿でかいプロダクトをいきなり造るのはだめだ」
と、喝破しています。
Runnning lean/リーンで行くとは、ユーザがとっつけないほどみすぼらしくないが、
最も安上がりな手段で、一段階ずつ、その時点で最もリスキーな想定を検証して
リスクをつぶしていくことを意味します。
これが、