事業の到達目標:Product/Market Fit/プロダクト/マーケット フィットの4条件

PMF到達のために満たす必要のある4つの条件

事業の到達目標:Product/Market Fit/プロダクト/マーケット フィットの4条件

PMF/Product/Market Fitの正確な定義と、それを満たすのは至難の業である件、ここに書きました。この記事はその後編です。

あるメーカさん相手に、デザインスプリントを回したときの話です。

Yコンビネーター出身の Pebble/ぺブルが、三回にわたるクラウドファンディングで

Kickstarter.com/キックスターター史上最高の、莫大な開発費を調達した、という話をしました。

※Pebbleは、eペーパーベースのおしゃれな時計を販売製造するスタートアップで、Fitbit に買収されてエグジットしました。そしてその Fitbit がまた、Googleに買収されるという、親亀の背中に子亀を乗せてみたいな感じになっております。

ハードウェア製品を、市場がそこにあるかどうかにかかわりなく造りたいから造るという
のやり方でなく、市場性をまず確かめてから造り始める
の手法の典型例として挙げたつもりだったのですが、案に相違して、眉をしかめられました。
「でも、購入した人が使ってみたらク〇だったんでしょ」
ま、そうなんですが、だから何なの?と私は思いました。
「需要があるかどうかわからずに製品を出すことだけを考えてまっすぐ開発を進め、ク〇売れないのと、
クラファンのページを小ぎれいに作って(MVP)需要があることをまず確かめてから本チャン製造に着手するのと、
どちらがましでしょうか?その判断ですね」
と指摘しましたが、クライアントは渋面。
気持ちはわからないでもないです。要するに、大企業のメーカーとして、
そんなク〇みたいな製品は、たとえクラファンの投資家/ある意味ク〇でも納得してもらえるはずの顧客相手の製品であっても世に出せない
と、こういう信条でしょう。
ヴィンランド・サガのハーフダンのいう、
『誇り』を差し出してもらおうか。男ってのはバカな生き物だ、命と誇りを天秤にかけりゃ大抵『誇り』が勝つ

というやつでしょう。

ちなみに、ハーフダンに借金することを拒んだ誇り高き男の一家は、食うものが買えずに、

幼い子供含めて餓死/凍死した、というてん末なんですけどね………

事業の至高の目標 PMF/Product/Market Fit を達成するためには

このPMF/Product/Market Fitの正確な定義と、それを満たすのは至難の業である件、ここに書きました。

事業が目指すべき涅槃PMFを達成するのには、4つの条件をみたす必要があります。

  1. Desirability/市場性
  2. Viability/事業継続性
  3. Adaptability/適応性
  4. Feasibility/実現性

一つ一つ、解説していきます。

①Desirability/市場性

この条件は、リーンスタートアップの問題意識そのものですので、詳細はこの記事にゆずりますが、

Yコンビネーターのマントラふうにいうと、

「たくさんの人が欲しがるものを造れ」

となります。この条件の検証こそ、イントロダクションで引用した Pebble がいの一番でやったことです。

Pebbleを世に出しても誰も買わなければ、お金と創業メンバーの青春の無駄遣いです。

ちなみに、Fire phone の大失敗でさすがに懲りたのか、Amazon.comはエコーのランチの際、

まずはアメリカのプライム会員のみに売ってみて、市場性の検証をしています。

②Viability/事業継続性

国産旅客機といえば、どう言葉を飾っても、

国家的犯罪

としか言いようのない、膨大な税金を注入したにもかかわらず事業として大失敗した三菱の

MRJあらためスペースジェット

しか思い浮かばない方が多いと思うのですが、

これが初の国産旅客機というわけでは実はありません。

戦後初の国産旅客機YS-11は、日本航空機製造によって開発されました(④Feasibility/実現性条件クリア)。

プロダクトのランチ後、全世界のエアラインに引っ張りだこで、
180機も売れました(①Desirability/市場性条件クリア)。

ただし、ベストセラーを世に出したにもかかわらず、メーカは赤字倒産しました。その理由はなんと、

売れれば売れるほど赤字がかさむ

恐ろしいプロダクトだったからです。理由は、主に二つあったといわれています。

  1. 戦後初めて日本国内で製造した機体のため足元を見られ、原価割れの値段で売り続けた
  2. サプライチェーンの管理がずさんで、製造コストに無駄があり、製造が高くついた

したがって、事業が継続できなかったわけです。

ビジネスモデルキャンバスでいう、

RS>CS(KPIでいうなら、LTV>ACAC)

が達成し続けられなかったわけですね。

これは、Viability/事業継続性の条件が満たせなかった典型的な部類です。

加筆:実は、Adaptability/適応性も同時に満たしていませんでした。
YS-11が製造された時代、すでに世界はジャンボジェット旅客機の時代に突入していたからです。

参考文献

③Adaptability/適応性

ジョン・ドゥーア氏という、アメリカのビジネスの世界では知る人ぞ知る投資家がいます。

Amazon.comやGoogleが生まれたての小規模だったころからお金をつける先見の明で知られ、

Amazon.comの経営陣にも加わっており、OKRに関する著書も出しています。

ドゥーア氏は娘さんの環境に対する問題意識に触発され、2007年に、

「これからはネットよりもグリーンテックが『くる』ぞ!」

と宣言するTEDをぶち上げ、太陽光発電をはじめとしたグリーンテックに多額の投資を行います。

しかし、ことごとくといっていいほど、グリーンテックのスタートアップたちはコケます。

先見の「先」があまりに先過ぎたのです。

ちなみに SDGs/ESG というタームができるのが2010年代半ばですから、顧客の問題意識がまだまだ未成熟でした。すなわち、

事業を始める際は時宜に即したものを起ち上げましょう。

という、いわゆる、

Future PMF/Product/Market Fit

を目指せ、というやつですね。

これが4条件の中で最重要という説があるのですが、

そうかなあ?

と管理人は疑義を挟みたい今日この頃です。

いや、いいたいことはわかりますよ。上とは異なる例をあげましょうか。

2008年のAirbnb/エアビー創業時、その創業者が狙っていたミレニアル世代は、最高齢でも27歳でした。

いちばん金持っていない世代ですね。

ゆえに、この層を相手にAirbnbという酔狂なサービスが出てきた際に

大手ホテルチェーンは、Airbnb登場の際、これを鼻もひっかけなかったわけです。

「我々は Airbnb には商機がないと侮っていた」 Best Western International CEO, David Kong

ところが、若くて金を持っていない層、

Technology Adoption Life Cycleでいうところのイノベーター

であった彼らを火付け役として、Airbnbがキャズムを3年で乗り越えるときには、

すでにホテルチェーンでは追いつけないような状況になっていました。

当然、3年後には、全世代の年齢が上がっていますし、加えて、

ジェネレーションXにも、予想を超えるようペースでスマホが普及して、Airbnbを使い始めたからです。

注意:Airbnb創業の1年前に初代iPhoneが世に出ています。

だから、

未来がどうなるか見据えろ

というわけですがね。管理人は、でもそれでは

直近で身銭が稼げないのでは?

といいたいのです。

日本のコンテック業界ではスケールしてすでに有名になっているスタートアップの創業者が、

こんな苦労譚を語っておられました。

創業してしばらくは、スマホが普及していないので、建設現場/建設会社にPCを自ら設定して回ったと。

こんなので利益がガバガバ出るわけないわけです。管理人が

桃太郎のおばあさんに洗濯機を売る問題

と名付けた障害です。

桃太郎のおばあさんの場合、

  1. そもそも、おじいさんと住んでいる家に電気水道が来ていない
  2. 電化製品をみたことがないので、操作の仕方がわからない
  3. 「自分で洗わないと洗濯した気がしない」と、がんとして使わない

と、いくつかの障害を乗り越えないと、いくら便利な洗濯機を家に導入して、使ってくれるようにならないわけです。

そのスタートアップの場合、ブレイクスルーが得られたきっかけは、スマホの普及でした。

建設会社の方々は、PCに対しては距離を置いたけど、現場であってもスマホなら使えたし、

こちらでシステムにアクセスしてくれるようになったのです。

このような事態に対処するための、最も賢いやり方は、PMFをいきなり目指すのではなく、

変形ロボ戦略(バルキリー戦略)

で事業を始めることだと思っています。

Netflix 創業時のエピソードからヒントを得たこの戦略については、別の場所で丁寧に語りたいと思います。

④Feasibility/実現性

日本の大企業、特にメーカーさんは、何はなくてもこれを満たそうとするわけですが……

ぶっちゃけ、これが一番どうでもいいわけです。だって、イントロダクションに書いた通り、

プロダクトが造れて世に出せたとしても、上記の①~③までを満たせなければ、全く意味ないから。

終了。

と書きたいところですが、世間の方々があまり意識しないフィージビリティもありますので、

ファーストリテイリングの事例を挙げておきましょう。

エフアール・フーズ

という社名を思い出せる人、失礼ですが、非常に珍しいのではないでしょうか。

この会社は、高級野菜の宅配サービスをやっていた、ファーストリテイリングの子会社でした。

SPAの強みであるバリューチェーンを野菜の宅配に活かすというアイデアで創始された事業です。

SKIP/スキップ

というこのサービス、ランチ当初は高価にもかかわらずよく売れたのですが、すぐに行き詰まりました。

衣料品とは勝手が違ったからです。ある意味当たり前の話なのですが、

  1. 契約農家からの供給が安定せず、かつ、
  2. 野菜は流通の途中で腐敗してしまう

ためで、このため30億の赤字を出し、わずか2年でファーストリテイリングはこの事業から撤退しました。

このエピソードは柳井氏の懐の深さを説明するのによく引用されます。

いわく、スキップで失敗した責任者である柚木氏を一時期は降格、降給せざるを得なかったが、

のちに再登用してGUの社長に据えたと。

失敗から学ぶことが大事だと、こういうわけですね。

終わりに:ファーストリテイリングの失敗から学べること

あるいはムカッと来る読者がいらっしゃるかもしれず申し訳ないのですがね。

SKIP/スキップの失敗した原因の①、②、なんでまた、

大々的にサービスを世の中に出してみるまで分からなかったのかしら?

企画段階でよく考えればすぐにわかったはずですし、

このリスクを回避する手段がビジネスプランにかっちり語られていたとしても、私が

柳井氏なら、

「柚木くんの自宅の周辺だけで小さく事業を始めて、少なくても1年間、つつがなく回るかどうかテストしろ」

と、絶っっっっ対に言います。いわゆるMVPです。

アパレルなら4シーズン回してみることの大切さを知っているはずなのに、非常に不思議です。

事業なんて、始めてから大なり小なり、不測の事態が生じないはずは絶対にないものです。

そのさい、

失敗した際の撤退基準をきめておく

なんていうのはまぬけリーンな考え方を知らない者のやることです。

MVPをまずはソッコーでランチするのが重要なのは、PMFの4条件のうち、少なくても①、②、④を、

予算とお金をかけずに試験することができる

からです。

イリジウムの世紀の大失敗の要因のうち一つは、最後まで、

全世界での一斉サービスローンチにこだわった

ことです。最初から大量生産した Fire Phoneにも同じことが言えます。

まずは、小さな実験で自分たちの仮説が正しいかどうかを検証する。

これこそ、The Lean Startup Method/リーンスタートアップの基本のキです。

参考文献

アイキャッチ画像の4つの円が交わっている図は、下記の本からの引用です。

タイトル直訳「海軍の中の海賊」。かつてスティーブ・ジョブズ氏が、大企業・大組織を海軍に、

Apple の自分たちを海賊に例えたことのもじりです。

大組織の中でリーンスタートアップを実行したい場合の必読書の一つでしょう。

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