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究極の事業再生:圧倒的なV字回復を成し遂げた日本マクドナルドの秘策とは?

イントロダクション: 事業再生の背景

2014年の鶏肉偽装問題、2015年の翌年の異物混入問題………立て続けに致命的な不祥事が起こりました。

幸か不幸か、収益が真っ逆さまの右肩さがりの折も折に、

サラ・カサノバ氏は日本マクドナルドの社長に就任しました。

レイ・クロックのもとに集まった人材の中でも経営の才覚にかけては出色の一人だった藤田田氏が、

ファーストフード店なのに銀座に一号店を電撃オープンさせるという奇策から始まって

辣腕をふるって急激にスケールさせていったその会社の、

カサノバ氏はもとCMOだったこともあるのですが、火中の栗を拾うような就任は、

もともとロシアにマクドナルドの支店を造るところからそのキャリアを始めた

気丈な彼女にとってみても、けっして裁くのがたやすい状況ではなかったと思います。

Getty Images でカサノバ社長の画像を検索すると、

日本流の平身低頭をする彼女ばかりが出てきて、胸が詰まります。

このどん底の状況から、彼女はいったいいかにして、

2020年12月期の連結決算は、過去最高益

というプラトーまで、自社の業績を文字通りV字回復させていったのでしょうか?

「ママ目線」プロジェクト「もう何がしたいのか分からん」

カサノバ社長は食中毒事件発生に際し、社長御自ら、47都道府県をすべて回り、

マックに飛び込んで顧客の声を聴く行脚を始めます。

そのときの様子が、下記のように皮肉なトーンでマスコミに描写されています。

母親がメニューや店舗、自社の食品加工工場について意見を述べる取り組み「ママズ・アイ・プロジェクト」を開始すると発表した。
プロジェクトのコンセプトは
「食品について特に厳しい目を持つのは、いつも家族のことを想う母親(ママ)である」。
一連の異物混入事件などで離れた女性客やファミリー客を呼び戻す作戦とみられるが、ネット上では厳しい意見が目立つ。食の専門家も「飲食店のプロが素人に意見を求めるのは論外」と手厳しい。

出典:JCASTニュース「マクドナルドの「ママ目線」プロジェクト 「もう何がしたいのか分からん」との厳しい指摘も」

上掲記事で注目すべきは、管理人自身がブロック体にした一文

食の専門家も「飲食店のプロ(サービス提供者)が素人(顧客)に意見を求めるのは論外」
です。私に言わせれば、食この考え方そのものが論外です。

事業再生のカギ:顧客インタビューから出てきたインサイト

カサノバ社長は、日本全国で、主に店にいる主婦層の意見を片っ端から直に聞いていきます。
カサノバ社長「お客様、特に小さな子どもを持つお母さん方の声にじっくり耳を傾けました」
彼女が考えたのは、自分自身が女性であることもあり、
家族でマックに来る人たちのいろいろな意味での決定権を持っているのは母親だ、ということでした。
すると皆さん、口をそろえて、主に3つのポイントを指摘したそうです。
  1. 「おもてなしがいまひとつ」
  2. 「お店が古いね」
  3. 「マクドナルドはマクドナルドらしくあってほしい」
ここで注目すべきは、かつてはデフレの王者といわれたマクドナルドの強み、「安さ」が一切出てこなかったことです。
レイ・クロックがマクドナルド・システムズ社を大きくできた理由の一つが、
いま同社の原則の一つとなっている清潔さ/クレンリネスでした。
マクドナルドが米国で勃興しつつあったとき、顧客はみな、
そのシースルーで工場みたいに清潔な厨房に目を見張らせたのです。では、徹底して
原点回帰
すればよい。カサノバ社長は、
おいしいバーガーとポテト、モダンできれいな店内環境があり、
そしてスマイルでサービスをする、そんな楽しいマックにもう一度戻ろう(カサノバ社長)
と、ビジネスリカバリープランを策定します。
そして、社長自らが店頭をわざわざ回らなければ決してできない、ドラスティックな大決断をします。
220億の借り入れ
です。倒産が一時 噂されたほど業績が下がっていたマクドナルドにしてみれば、蛮勇を必要とする大決断でした。
そしてこの資金を、新規の店舗展開には使わず、チェーン店を含めた既存店舗97%の内装・外装リフォームに投入します。
  1. 「おもてなしがいまひとつ」
    →カウンターの前のキューを、注文するキューと食物を受け取るためのキューに二分、食事の用意状況をディスプレイ
  2. 「お店が古いね」
    →外装を真新しく。街に出たら、他のチェーンとマックを比べてみてください、マックはUFOみたいに新しいです。
  3. 「マクドナルドはマクドナルドらしくあってほしい」
    →原点回帰で店舗体験を徹底的に改善
この店舗改装に終わりはなく、最低でも全店の90%は常に改装した状況を維持したい。(カサノバ社長)

彼女にやれることは、顧客の声を吸い上げて、それに徹底的にアドレスし、

社長にしかできない決断

で解決することでした。

食の専門家も「飲食店のプロ(サービス提供者)が素人(顧客)に意見を求めるのは論外」
などという考え方が傲慢そのものだと知っていたから、
社内プロセスとしてクレンリネスを徹底的に改善して広告することは必要条件にしかすぎず、
顧客にとってのクレンリネスは、店舗を外側から見た第一印象で決まってしまう
と突き止めたうえで、この問題を根本解決することに成功したのです。
私がこのことを知ったとき本当にびっくりしたのは、
店舗の3分の2を占めるフランチャイジーもまた、日本マクドナルドにとっては、お客様
だということをよく知っていたからです。
店舗を改装する=すくなくてもフルにはサービスを提供できなくなる
分の資金繰りの補填を本社がやるのは当然で、オーナー様の不安のコントロールもやったのでしょう。
いろいろな意味で目もくらむような、力業の大改革だったはずです。

まさに事業再生:日本マクドナルドのV字回復

2015年にビジネスリカバリー策定からそのロールアウトを進めて、
2016年12月期以降、日本マクドナルドの業績好調が続くようになり、
2019年には顧客満足度が最高に達します。

ゲストエクスペリエンスリーダーはともかく、

テーブルデリバリー、モバイルオーダーといった施策も、

COVID-19流行はるか前から実装、強化され始めたことは注目に値します。これらは、

「顧客がどんどん忙しくなっている」→
「いかにして顧客の待ち時間を最小に(=ぎりぎりまでファーストに)するか?」

のみを徹底的に考えた、実は施策だったのです。私自身も

マクドナルドのアプリをときどき使いますが、イテレーションでどんどん改良されており、

カウンターの前に行列ができているときの、テーブルに座ったままのモバイルオーダーも

本当に便利で清潔だ(三密にならないから)と感じました。

マクドナルドは、COVID-19を受けCMの内容を少し変えるだけで、

たちまちコロナ禍の外食チャンピオンになりました。

そして、2020年には過去最高益を達成します。

奇跡的なV字回復を成し遂げたカサノバ社長は、このようにおっしゃっています。

私は『Go! GEMBA』という言葉を好んで使います。
最も重要な場所はオフィスではなく現場、すなわち店舗です。

リーンスタートアップの下敷きになった「顧客開発ランチパッド」フレームワークを作った偉大な

スティーブ・ブランク氏が聞いたら、その通り!とハタと膝を打つでしょう。

読者の皆様、この言葉、ぜひ金科玉条にしてください。

これが、ブランク氏のいう、

そのものです。

事業再生に絶対必要なこと:必ず責任者が顧客のところへ行く

そしてもう一つ、大組織に属しているイントラプレナーたちに重要な教訓があります。

あなたのレポートする先にいる事業部長クラスが、自席に偉そうに鎮座しっぱなしで

「あの案件はどうなったんだ?来年売上はいくら立つのだ?」

などと偉そうにのたまうだけのバックシートドライバーなら、

お前も一緒に客んとこ行くんだよ!!ふざけんな!!

と、ケツを思い切り蹴ってやりましょう。

そいつみたいな癌細胞が、組織を腐らせます。

その結果クビになったら、悪いこと言わない、辞めなさいそんな会社。

(ただしもちろん、管理人は責任とれませんよ。)

そんなところに長い間勤めていたら、私なら死ぬとき絶対後悔します。

インタビューア 「イスにどっかと腰をおろし、司令塔に徹するのもCEOの役目では。」
カサノバ社長「確かにそれも重要かもしれません。しかし、マクドナルドのような会社にとっては、最も重要な場所はオフィスではなく現場、すなわち店舗です。ビジネスは常に店舗から生まれ、問題を解決する場も店舗なのです」

カサノバ社長(今は会長におなりになりました)が自らちょくちょく現場に赴くのは、

自分にしかできない決断の材料がそこにしか転がっていない

と骨身に染みて知っているからです。私が

イントラプレナーとして事業開発を進める際、顧客開発チームの責任者は、必ず事業部長レベルのお偉方にしていました。

顧客開発を進めるリーダーこそ私ですが、肝心なところの顧客インタビューに上を連れ出さないと、

「富岡、本当に顧客がそんなこと言っているのか?」

と決断スピードが鈍るからです。そして事業開発においては、決断の遅れは決定的に悪い影響を必ずもたらします。

参考文献

JCASTニュース「マクドナルドの「ママ目線」プロジェクト 「もう何がしたいのか分からん」との厳しい指摘も」

ダイアモンドオンライン マクドナルドが「V字回復」を果たせた秘密、カサノバ社長が明かす

日経スタイルキャリア 「現場へGo!」 マクドナルド社長の危機突破力

週刊東洋経済