picwing は『AX/アナログ・トランスフォーメーション』で成功した
AX前のサービス
ピボット→AX後のサービス
picwingの現在
picwingから学べる教訓
桃太郎のおばあさんに洗濯機を売る問題
イントロダクション
知る人ぞ知るメーカーのグループ会社のソフトウェア企業が主催する
ある、DXがらみのウェビナーの、ワークショップ部分でのzoomセッションの様子。
参加者A:なぜ弊社ではAIを使ったDXが大々的に進まないのでしょうか?
A氏と同じグループ参加者である、管理人富岡:それは
『DXをどうして進めなければいけないか』
が十分議論されてないからでは?」
ファシリテーター:トミオカ様のおっしゃることもごもっともですよね、
担当の方が進めなきゃと思っていても経営陣に問題意識がないと……
トミオカ:え?いやそうじゃなくて、Aさんの会社で、ほんとうにDXやんなきゃいけないんですか?
どのような戦略から、どういう因果でその結論になったんです?
ファシリテーター:いまはDXを進めない限り going concern が危ういといわれており……
トミオカ:ええ?すみません、さっぱりわからないのですが、米国のスタートアップ picwing みたいに、顧客の
『アナログ・トランスフォーメーション』
を進めて、危殆に瀕していた事業を立て直して大成功、エグジットした例もありますけど、それ、どう説明なさいます?
ファシリテーター:米国の例をあげられていますが、日本の経営者はDXに関する問題意識が低く……
トミオカ:………………(今日家族の夕飯何作ろっかな……)
picwing は『AX/アナログ・トランスフォーメーション』で成功した
picwing/ピックウィング 社も、Yコンビネーターの2000年代のバッチの卒業生です。
AX前のサービス
サービスを開始してしばらくの間は、老夫妻の家庭に、WiFiのフォトヴューアを設置し、
その端末に対して、娘/息子夫婦が孫の写真を送ることによって、
アメリカの対岸からリアルタイムで孫の成長を見守ってください、
というような ほのぼのとしたサービスを提供していました。
アメリカは広いのでこのサービス売れそうなのですが、どっこい、これが、
CEOは、自社が倒産の危機に陥っているとき、自ら老夫妻の家庭に設置する端末を製造していて腕に大けがをし、
人生のどん底を味わいます。あるインタビューに答えて、CEOは、
と冗談めかして言っていますが、孤独で、筆舌に尽くしがたい苦しい時期だったと思います。
ところが、あるときに、自社のサービスがなぜ売れないのか、気づきます。
正解を申し上げる前に、読者の方々も原因を考えてみてください。
………そうです、これは私が、
と名付けた問題に他なりません。よく考えれば実に当たり前のことですが、
のです。
ピボット→AX後のサービス
そこでCEOは、サービスからデジタルをそっくり取っ払いました。すなわち、
と、こういうベタなサービスに切り替えたわけです。すなわち、顧客サービスの
です。そうしたら、CEOの悩みの種だった
しました。このAX、Wi-Fi環境問題を解決したのみにとどまりません。実は新しい価値をアピールしています。
picwingが顧客に果たさせているジョブはこうです。
「おじいちゃんおばあちゃんが孫の成長を見守る」
ところが、このジョブを遂行するには、パパママの協力が必要であり、ママの本心を分析すると、
「面倒くさい、うちのおじいちゃんが写メみれるだけでこんなサービス必要ないじゃない、そこまで価値ないわよ」
と思っていたはずなのです。しかし、AX後、ママの心境はこう変わりました。
「わざわざ手間のかかる印刷も郵送もしてくれるし、おじいちゃん喜んでいるし、解約しにくいわね」
業績はぐんぐんよくなり、picwing は大企業に買収されるハッピーエンディングなエグジットに至ります。
高度な技術はいっさい必要なく、
いわばちょっとした用事を労働集約的に果たすだけのあきれるほど単純なサービスのほうが、
最新のデジタル技術を用いたサービスよりよほど収益性が高かったわけです。
picwingの現在
読者の中には、
と思われる方もいらっしゃると思います。
ところが、確かに以前ほどではないでしょうが、今でも一定の収益を上げているのです。
カスタマーセグメントは、ご高齢な方々のみならず、拡張されてきています。
とか、
とかいう状況において、子供を育てている親から伴侶に対してこのサービスを用いて
子供の成長を見せてあげるというユースケースが存在するからです。
私自身がそのように子供のもとを離れてネットに接続できない環境に置かれたら、
単価が高くてそのために生活を切り詰めざるを得なくなっても、このサービスを確かに利用すると思います。
picwingから学べる教訓
3つの教訓/lessons learned がこのエピソードからは得られると思っています。
- DXをすること/させることを目的にした「ためにするDX」を進めるのは、愚者の道である
顧客/ユーザにとって、御社の押し売りしようとしているDXは、実はどうでもいいかもしれないのです。
顧客/ユーザは、技術の押し売りをとても嫌がります。 - 三方よし:サービスの提供に必要なステークホルダー全員を幸せにしなければならない
picwing の場合、たとえおじいちゃんおばあちゃんが料金を負担しているとしても、
パパママに協力させる気になるようなサービスを設計しないといけない - 桃太郎のおばあさんに洗濯機を売るのには様々な困難が伴う
次節で説明します。
桃太郎のおばあさんに洗濯機を売る問題
桃太郎のおばあさん、わざわざ川まで行かないと選択できないなんて、あまりに不便すぎますよね。
そこであなたは、おばあさんに洗濯機を売ろうと考えます。
しかし、たちまち多くの障害にぶつかります。
桃太郎のおばあさんの場合、
- そもそも、おじいさんと住んでいる家に電気水道が来ていない
- 電化製品をみたことがないので、操作の仕方がわからない
→操作しやすいよう声の出る洗濯機がありますが、たぶん、腰を抜かして恐れおののくでしょう - ①、②がたとえクリアできたとしても、「自分で洗わないと洗濯した気がしない」と、がんとして使わない
と、いくつかの障害を乗り越えないと、いくら便利な洗濯機を家に導入しようとしたとしても、
使ってくれるようにならないわけです。したがって、売上を立てるのが至難です。
私はコンサルファームに勤務していた時代、picwing と同じ問題で玉砕したクライアント二社にぶつかっています。
うちひとつは、発案されたご担当者様が社内の「DXビジネスコンテスト」で優勝してしまい、
PoCをやったらある官公庁が「素晴らしいサービスだ!」と称賛し表彰したにもかかわらず、
ほとんどユーザがつかずマネタイズが全くできず、PoCだけ打ち上げ花火のようにやって、闇に葬られる形になりました。
そのサービスも、ご高齢の方々にスマホアプリを持たせ、操作させようとしていました。
このとき、事業開発者には、
という、
が働いていたと思われます。
本来なら、このような前提条件は、ビジネスエスノグラフィなどを通じてきちんと証明する必要があるわけです。
次回は、DXに史上初で最も成功した企業の例を挙げたいと思います。