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事業開発に必須:必ず「潜在ニーズ」を見つけ出す顧客インタビュー

イントロダクション

日本の新規事業開発界隈で、すなわち、この

スタートアップのパラディ島(註:「進撃の巨人」の最初読まれている方にはネタバレ)

の界隈では、麻生要一さんや石川明さんはじめ、リクルート出身の方々の活躍がとみに目立ちます。

それは日本の大企業ではリクルートのみが

経営危機に瀕さなくても、両利きの経営ができる組織の設計になっている

優秀な会社だからなのですが、その中に、

同社で人事系の大きな、当時は先駆的なサービスを起ち上げられ、

おかげでビジネスモデル構築方法で有名になってしまった、

かなり厄介な方
がいらっしゃいます。この記事の中で
コンビニコーヒーは廉価版のサービスでスタバに、ローエンド型破壊的イノベーションをしかけたぁ???

とかいう、

ピンボケ発言

をなさっていた方と同一人物です。 この方はほかにもいくつかピンボケ発言をしているのですが、

その中のアクーラ級戦略原潜なみの破壊力を持つピンボケ発言の一つに、

顧客インタビューをしても新規事業のアイデアなど出てこない、顧客は自分のニーズを知らないから
というトンデモがあります。

事業開発/事業再生のエンジン:顧客インタビューの種類

あははははっ!

いや、笑ってすみませんね。だって、

自分が顧客インタビュー 〇ソ下手 なのを棚に上げて、失礼にも、麻生要一さんの悪口を理不尽にのたまう

んだもの。

じゃあ、偉大な新規事業を開発したあなたに聞きますがね。次のエピソードはどう解釈なさるんですか?

IBMへの顧客インタビューによるMicrosoftのピボット

Microsoft創業時の事業をご存じですか?

OSでもアプリケーションでもないですよ。

時は大型コンピュータが主流だった時代、マイクロプロセッサーを使ったコンピュータキットはマニアの間で人気が出始め、(世界初のPC、管理人註)アルテア8800は大きな注目を集めました。

そもそも、このアルテア8800とは、エド・ロバーツが起こした会社MITS社が開発し製造したものでした。

アルテア8800の記事を雑誌で読んだ、当時ハーバード大の学生で、 プログラムを組むことが3度のメシより大好きだったピル・ゲイツは、友人のポール・アレンと共に、アルテア8800用のプログラム言語「BASIC」を作り上げます。

そして、すぐに彼らはアルバカーキにあるMITS社に飛び、 自分たちが開発した「BASIC」を売り込み、まんまと成功を収めます。
出典:

さて、ここで質問です。

いまのMicrosoftの主要プロダクト、Visual Basic ですか?

そんなわけがないわけです。

BASIC言語開発から事業をOS開発に変更

する、この大胆かつ最高のピボット(事業転換)をゲイツ氏とアレン氏が決断できたトリガーこそ、

IBMへの顧客インタビュー

です。

ゲイツ氏は、IBMにBASICを売り込もうとしてうまくいかず、

むしろ同社がコンピュータ市場の開拓にOSを必要としていることを聞き取って、

このピボットを決断し、アレン氏の知り合いから、Disk Operating System を二束三文で買い付けます。

これこそ、Microsoftの本当の始まりなわけです。

それ以降の同社のスムーズなキャズムの超えっぷりを、うっかり参考にしてはならない例外中の例外だとして、

ジェフリー・ムーア氏はこう巧みに評しています。

It was born inside a tornado of demand that IBM created, and all its subsequent acts of market development have been based on being the rich heir to that estate.
Microsoft社はIBMが創り出した需要の竜巻の中で生まれた、そして同社のそれに続くマーケット開発は、その資産から潤沢に受け継がれたものに依拠しているのである。
出典:

ちなみにこの歴史的ピボットは、

スタートアップの最初のアイデアなどどうせイケてないからこだわるな

という趣旨のポール・グレアム氏のブログにも

みんな忘れているみたいだけどサ

と、とりあげられています。これでも、

顧客インタビューをしてもむだ、顧客は自分のニーズを知らないから
とおっしゃいますか?

キーエンスのソリューション営業は顧客インタビューを徹底的に行う

上のように書くと、
同じ業界のプロだから、IBMは明確にニーズを持っていたんだよ
という反論が聞こえてきそうです。いやいや、私が、
顧客インタビュー壊滅下手な、元リクルート氏
を嗤った理由は、そこじゃないんです。
顧客インタビューをしても新規事業のアイデアなど出てこない、顧客は自分のニーズを知らないから
という爆弾発言の句点の前と後が、全然つながっていないからなんです。………どういうことか?
この記事で取り上げたキーエンスは、徹底したソリューション営業で知られています。
年収2000万を超す同社の技術営業は、徹底して詳細な顧客インタビューで、
画期的な新規プロダクトのネタを仕込んでいます。
開発担当者のもとには毎月、全世界の営業マンが顧客の工場に足しげく通って作成した「ニーズカード」が大量に届く。

「機器サイズを今の半分に」
「ペットボトルの不良を検知できるカメラが欲しい」

など、営業マンがヒアリングした顧客の悩みを詳細に記載。

開発担当者は膨大なデータを基に「まだ世の中にない機能」をキーワードに開発を進める。

これが顧客の心をつかむ。ある中国企業は
「他社がカタログベースの説明に終始するなか、キーエンスだけはニーズを捉えた提案を自らしてくる」
と評価する。
出典:日経新聞2019/05/08「平均年収2088万円 キーエンス、7期連続最高益の秘密」
上の日経新聞の記事は、この記事と軌を一にして、
キーエンスは顧客インタビューから潜在ニーズを掘り起こしている
と主張しています。だから、
顧客インタビューをしても新規事業のアイデアなど出てこないのは、
顧客がニーズを知らないからではなく、
あなたの顧客インタビューのスキルが「ナシよりのナシ」だからです
という結論に自然とならざるを得ないわけです。

事業開発/事業再生のエンジン:顧客インタビューの種類

なにゆえこんな勘違いが起こるか?

日本という、このスタートアップのパラディ島では、

① プロブレムインタビュー/顧客の抱える問題を聞き出すためのインタビュー

と、

② ソリューションインタビュー/顧客の抱える問題を解決するためのインタビュー

とがしばしば、ごちゃごちゃに語られるからです。

というかですね、殆どのアーントラプレナー/イントラプレナーが、①をまともにやっていないんだな………。

そして、Y-combinator/YコンビネーターのCEOマイケル・サイベル氏がいみじくも指摘している通り、

新規事業で大切なのは、ソリューションでなくプロブレム 

なわけですね。

We chose to create a company around a hot technology. We we are really excited about the tech. We eventually raised funds because there were enough investors that were excited about it, too.
But now, looking back, I think we had it backwards. We were the classic Silicon Valley startup in search of a problem.
(Y-combinator CEO Michael Seibel)
出典:Should You Follow Your Passion? ? Dalton Caldwell and Michael Seibel

この二つを、アッシュ・マウリヤ氏は、名著 Running Lean の中で明確に分けて定義しています。

①プロブレムインタビュー

プロブレムインタビューでは、以下のリスクに取り組むようにする:

  • プロダクトリスク: どんな問題を解決しようとしているのか?顧客はトップ3の問題をどのようにランク付けしているか?
  • マーケットリスク: 既存の代替手段は何か?現段階で、顧客はどのようにこの問題を解決しているか?
  • 顧客リスク: 誰がその悩み事を持っているか?それは、事業のスケールが見込める顧客セグメントか?

出典(一部、意訳しています):

②ソリューションインタビュー

You will start by double-checking your learning from the Problem interview, then look to test the following additional risks:

  • Customer risk: Who has the pain? How do you identify early adopters?
  • Product risk: How will you solve these problems? (Solution) What is the minimum feature set needed to launch?
  • Market risk: What is the pricing model? Will customers pay for a solution? What price will they bear?

出典:上掲書

簡単に言ってしまうと、①は、

Customer/Problem Fit (確かにその問題が存すると検証された状態)

達成前、②は、達成後、ということになります。

①をするときに、

お客さん、あなたの欲しいものは何ですか?どうしてほしいのですか?
などと、不器用にもストレートに聞くしかないほどインタビュースキルが下の下だから、

顧客が自分のニーズを知らないことを盾に使いたくなるのです。

プロブレムインタビューでどんな質問をすればいいのか?

The Lean Startup Method/リーンスタートアップの基礎である顧客開発ランチパッドの生みの親、

スティーブ・ブランク氏は、プロブレムインタビューでは究極的には二つの質問だけすればよい、

という趣旨の発言をしています。

(1) What is your biggest pain is in how you work?
仕事をするときに、いちばん大きな悩みは何ですか?

(2) If you could wave a magic wand and change anything, what would it be?
魔法の杖が手元にあってなんでも変えられるとしたら、何を変えたいですか?

確かに、私なんぞは、顧客インタビューをやっていると、これらの質問しか事実上していないことがままあります。

……みなまで言わなくてもよいです、言わんとしていることはわかります。

これ、日本人が日本人の顧客に対してまじめな顔して訊くのは、ぶっちゃけ、

ハズい

ですよね?だから私はいつもこうしています。

まず、断られる前提で、既存のソリューション/それに毛が生えた程度の新ソリューションを提案します。

そうするとお客様はまず、断ってきます。断ってきたら、しめたとばかりに、

そうですよね、やはりご不要でしたか。
(1) それでは参考までにお聞かせください、今一番お困りのこととは何でしょうか?
(2) 今回のご提案や、弊社のケイパビリティは、いったんすっかりお忘れください。弊社が
何でも屋でどんなお手伝いもできると仮定して、何をして差し上げたらいちばん助かりますか?

と訊くわけです。

このやりかたでサクッと訊いて、

こんなことをこの場でお話してもいいのでしょうか?

と戸惑われたことは何度かありますが、眉をしかめられたことは一度もないです。

皆様もぜひお試しください。

終わりに

今回は、プロブレムインタビューのやり方を説明しました。

次回は、

Customer/Problem Fit (確かにその問題が存すると検証された状態)

を達成する前に、ソリューションインタビューを始めてしまうことに伴う、甚大な弊害を説明します。