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新規事業開発手法リーンスタートアップとは何か?

 

新規事業開発とは、地雷を避けながら進むことと見つけたり

と、前の記事で指摘しました。

この記事は、地雷群を、科学的な実験を繰り返すことで回避していく

リーンスタートアップ

の基礎編です。

※リーンスタートアップについてよく知っていると思われる方も、ぜひ一度ご笑覧ください。

必ず得られるものがあると思います。

新規事業開発手法リーンスタートアップもプロダクト開発の悲劇から始まった

リーンスタートアップ/The Lean Startup Method は、

2011年にエリック・リース氏によって書かれた以下の書物でフレームワーク化されました。

エリック・リース氏は、IMVU社に参画する時点で、すでに2社のスタートアップを経験していました。

イェール大学在学時に、Catalyst Recruiting社を起ち上げてすぐに店じまい。

卒業後にシリコンバレーに移ってきて、There, Incに入社、

3Dバーチャルワールド製品を上梓しますが、これも売れずにすぐに失敗。

(出典:Wikipedia からの孫引きですみません。)

若いリース青年は3社目こそは成功させるのだ!と燃え立って、

IMVU/インヴュー社にCTOとして参画します。

アバターつきのインスタントメッセンジャーアドオンを提供するサービスを造ろうとしていました。

ポイント① 新規事業の戦略「ネットワーク効果」

IMVU創業当時の2000年代初頭、当時は、Slack など影も形もありません。

周囲の人間がはまったら、自分も参加せざるをえず、抜けられなくなり(スイッチングコスト高)、

雪だるま式にユーザベースが膨れていく

ネットワーク効果

を狙い、かつ、すでにMicrosoftなどをはじめとした大手がすでに存在する

インスタントメッセンジャー市場において、差別化のため、

既存のアプリケーションへのアドオンを通じてその機能を提供するという、

卓抜な戦略を同社は具備していました。

ポイント② 新規事業を開発する手法 アジャイル

リース氏はどうやら、過去の2社の失敗を、

製品のランチが遅すぎて顧客のフィードバックを得るのが遅くなった

(特にThere, Incは製品をランチするのに、リース氏の入社から2年もかかっているようです)

せいだと認識していたので、当時はまだアメリカでも珍しかった

スクラムチームを率いて(すなわちアジャイル開発です)

半年間で必死で製品版のコードを書き上げます。

アドオンとしてのIMなんて、誰も作ったことはありません。

これは過酷なスケジュールでした。半年間では造りきれない部分が残ります。

不具合が多すぎ、チームの中にはリリースを伸ばす声が多々ありました。

きっと、サービスランチの前の晩には、

「あのバグも残っているな、このバグも残っているな……」

と、トリアージしても取り切れなかったバグリストを眺めながら、CTOであるリース氏はくよくよ悩んだでしょう。

しかし、スピード優先、リース氏は思い切って世の中にIMVUを送りだします。

その翌週は、誰も残ったバグを引きませんでした。

その翌々週も、幸いにして誰もバグを引きません。

というか、ひと月たっても、何も起こりませんでした

And then — nothing happened! (Eric Ries, “THE LEAN STARTUP”, currency)

それもそのはず、

IMVUを誰も使わなかった

からでした。

ポイント③ バニティメトリックス

IMVUはサービスをランチして数か月間、4万円~5万円の月額売り上げしかたてることができません。

累計ユーザ数のホッケースティック曲線のような、

バニティ・メトリックス(欺瞞のKPI)
で自分自身をごまかしていたCxOたちですが、一向にレベニューが上がらないので、
いよいよこれはヤバい!
とようやく色めき立ちます。

ポイント④ ユーザテスト

その時点になって、遅まきながら、同社はユーザテストを敢行します。
ユーザ候補にお金を払って、サービスを使ってもらうわけです。
最初のユーザは女子高生でした。
アバターには、かわいい、かわいいと大受けします。
ところが、一番肝心の、メッセージのやり取りを友達とやってみてと依頼されると、
謝礼を返してでも使用したくないと、ガンとして拒否。
理由を聞くとむくれて、
「あたしが使ってみてもいないサービス、友達に紹介できないよ。
だってこのメッセンジャーがダサかったらさ、あたしがダサいって思われるじゃん!」
女子高生としては、自らがまずアリかナシかを確認したいわけですね。
じゃないと自分が「ナシよりのナシ」と評価されてしまう。
この女子高生はもういいや、顧客じゃない、とリース氏たちは諦めて、帰宅してもらいます。
ところがです。
その次のユーザも、その次の次のユーザも、口裏を合わせたように、同じくメッセンジャー機能の使用を拒否。
「自分がまっさきにそれを問題と認めたといいたいところだが、」
という意味のことを、リース氏は自著 THE LEAN STARTUP に書いています。
「その実、自分が最後の最後まで、それが現実だと認めなかった。」
CxOたちは、ようやく浮足立ってきます。
卓越した戦略 ネットワーク効果

も、はずみ車がまわる最初の一撃を与えることすらもできない、という現実に直面します。

ポイント⑤ピボット

そこでリース氏たちは、身を切るような

ピボット(事業転換)
を決断します。
すなわち、
現状のサービス(アプリケーションのアドオンとしてのIM)
とは
大きく異なるサービス(スタンドアローンのIM)
へと、抜本的な変更を行ったのです。
CTOであるリース氏の立場に立って、
「身を切るような」
と表現しました。
なぜならそれは、自らスクラムを率いて彼が書いてきた
何千行ものソースコードをどぶに捨てる
ことを意味するからです。
プログラムを一度でも書いたことある方、このくらくらするような徒労感、想像できると思います。
ここでエリック・リース氏、慨嘆します。名言です。
顧客に価値をもたらさない、すべての努力は無駄だ
そして身を切るようなピボットの甲斐あって、
生まれ変わったIMVUは大ヒットするのです。

ポイント⑥ MVP/Minimum Viable Product

この時点で、エリック・リース氏は、もっとむなしい洞察をえます。
「ってことはアレか、我々が半年かけてえいえい築き上げたIMVUのシステムは、
LP(ランディングページ)を用意して、
『使ってみる』ボタンが押下されたら、『工事中』ページに飛ぶ
という、サクッと書けるウェブページと同じ成果しかもたらさなかったってことじゃないか!」
このひらめきこそ、MVP/Minimum Viable Productのはしりです。
MVPについてはのちにこのブログで大々的に取り上げますが、
ここでエリック・リース氏が言っているのは、
いの一番に、そのサービスに本当に市場性があるかどうかを、めちゃめちゃ簡単な仕組みを使って確かめろ
ということです。

新規事業開発手法リーンスタートアップとは何か?

リーンスタートアップの要諦を煎じ詰めていえば、

  1. 顧客に否定→修正される前提でサービス仮説を立て、
  2. 仮説を検証するのに最低限必要なMVPを素早く造って世に出し、
  3. 顧客の反応を確かめて、
  4. ①に戻ってサービス仮説を修正する

というサイクルになります。

新規事業開発のネタの宝庫:IMVUのエピソード

このエリック・リース氏自身の原体験は
新規事業開発のあるある
の宝庫なので、細かく分析する価値があります。

ポイント① 新規事業の戦略「ネットワーク効果」

ネットワーク効果、ベゾス氏がBUILD TO LASTの用語を引用していう

フライホイール/はずみ車

は、もし利用するのだったら、あらかじめ最初にどうやって一撃を与えて勢いをつけるか、

目算を立てておく必要があります。私自身が

たったいま実施している試みは、

このブログをSNSやメールなどで友人知人にシェアさせていただき、

Googleが本ブログを認知して、狙ったキーワードに関して上位に食い込むようになるまで、

口コミベース a viral loop でアクセス数を増やそうとするものです。

ポイント② 新規事業を開発する手法 アジャイル

私がリーンスタートアップ/The Lean Startup Method の説明をし始めると、

「あーあー、リーンスタートアップね、知ってる知ってる、アジャイルのことでしょ」

と、中途半端な理解のまま解釈してくる方がときどきいますが、

リーンスタートアップの始祖エリック・リース氏その人からが、

思い切りアジャイルで線形プロダクト開発を実施し、大失敗した
わけです。
リーンスタートアップ ≠ アジャイル
したがって、覚えていただくべき定義式は、以下になります。
リーンスタートアップ=顧客開発ランチパッド×アジャイル
スティーブ・ブランク氏(もはや私の中では、スティーブ・ブランク師)がフレームワーク化した
顧客開発ランチパッド
に関しては、おって本ブログで丁寧に取り上げていきます。

ポイント③ バニティメトリックス(欺瞞のKPI)

スタートアップが、VCはおろか自分たちまで騙すために参照する

多くは累積の値を持つKPIです。これを、

バニティ・メトリックス

バランスシートに出てくる数値は実はすべてこれで、

累計売上を積み上げていって、ホッケースティック曲線を眺めて自分を慰めるのは、

事業の問題を正しくとらえることに何ら役に立たないのは自明です。

ポイント④ ユーザテスト

ここで意外と大事な注目すべきポイントは、

リース氏たちがユーザテストではご法度とされていることをやっていることです。

すなわち、サービス提供者側が、

システムの使い方を説明してしまった

と思われることです。

実はこれはユーザテストでは決してやってはいけないことの一つです。

UIだけですべてを語らせない限り、テストにならないからです。

ポイント⑤ピボット(事業転換)

ピボットとは、大きく分けると、今までとは全く異なるサービスを起ち上げ直すこと、

もしくは、全く新しい顧客セグメントを相手にし始めること、です。

過去に、下記のようなピボット/事業転換の事例があります。

企業ピボットの軸従来の事業現在の事業
富士フィルムHDナノテクノロジー銀塩フィルム製造化粧品製造
PayPalセキュリティ技術モバイルセキュリティソフトメールを使用した決済サービス
Instagramすでに具備していた機能位置情報を共有できるサービス写真共有SNS
YouTube動画シェア技術動画を使用した出会い系サイト世界最大の動画シェアメディア

私に言わせれば、ピボットとイテレーションは全くの別物で、

かつ、ピボットには2種類あります。

これは別頁にて丁寧に説明します。

ポイント⑥ MVP/Minimum Viable Product

まずは本当に市場性があるかどうかをめちゃめちゃ簡単な仕組みを使って確かめろ
MVPに関しては、別途章立てが必要な深いテーマですが、
ここで定式化されたものが、基本の基です。
このエリック・リース氏式のMVP、現在はモノづくり系のスタートアップで多用されています。
未だ試作品もろくに完成していない新規製品の、デザインははっきり図示したウェブサイトを構築しておいて、
LPで購入ボタンが押されたら、
「売り切れです……」
と確信犯的に表示するというものです。
この購入ボタンの押下数をトラックし、ビジター数で単純に割れば、
当該製品を完成しきらずしてその市場性がわかるという寸法です。

新規事業開発メソッドリーンスタートアップ:終わりに

今回は、リーンスタートアップのフレームワークを作ったエリック・リース氏の原体験を丁寧に分析することで、

リーンスタートアップメソッドのアウトラインをご理解いただきました。

次回は、リーンスタートアップのかなめの一つである、

ピボット

について語ります。