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事業は必ず三方よしで:ヘルスケアスタートアップの雄Dr.s Prime

イントロダクション

「これは『ステーキハウス症候群』ですね」

眼鏡をかけた有能そうな外科医は、即座に、聞いたこともない病名を口にしました。

私の症状は深刻を極めました。

なにせ、昨晩7時ごろから、一口も水が飲めないのです。

喉を通って胃のほうに降りていくのですが、食道の途中で引っかかって、

ひどい胸やけがおこり、すべて嘔吐してしまいます。

ことはその日の前の晩、新宿のステーキハウスで、本当に硬くて、大きな肉をむりやり飲み込んだ時に始まります。

その日の夜に緊急病院にかかって若い当直医に診てもらったら、

「急性胃腸炎」
との診断。でもほんとうなの?
胃に入る前に、何かにブロックされて、全部口へ戻ってくる感覚でしたから
緊急病院で点滴してもらった以外、全く水分が取れない状況で、私はパニックになっていました。
もちろんほとんど眠れずに、私は翌朝、「確実にこれは入院だな」と思いながら、
この病院の外来にかかったのでした。
そうしたら、
診断から1時間もたたないうちに全治
です!
話は簡単で、食道と胃をつなぐ穴をすっぽり硬くてかさばる肉塊がふさいでいたため、
水一滴通らない状況だったのを、胃カメラで撮影しながら胃へと押し込んで、終わり。
その外科医の方は本当に判断が早く、コメディカルの方も手際が抜群に良くて、
胃カメラの処置も非常にスムーズで、術後の処置の説明も明確でした。
『ステーキハウス症候群』はその医師の命名です。
肉塊が胃の入り口をふさいで嚥下を妨げる症状で、実はよくあることなのだそうです。
実を言うと、私=管理人は、確信犯でした。
ここだったら確実に治していただけると
管理人が大変高く評価するスタートアップ
Dr’s Prime/ドクターズプライム
のサービスが入った病院であり、したがって手が確実に足りているはずだと思ったのです。

ヘルスケアスタートアップの雄 Dr.s Prime 誕生の経緯

Dr. Prime は。救急病棟の医師の田(でん)氏が、

救急車のたらいまわしなど絶対あってはならない

というビジョンを掲げてスタートしたスタートアップです。

大病院の医師は、ただでさえ、異常に残業の多い職業です。

厚生労働省が医師の残業時間の上限を
「年1900ー2000時間」
とする制度案を示したことからもわかる通りです。

「二次救急」病院の救命救急病棟ともなると、その忙しさは殺人的で、

三日間完徹もあると聞いたことがあります。

ここで、二次救急病院は、24時間体制で救急患者を受け入れるなどの条件を満たしている病院で、
病院群輪番制や共同利用型病院方式などの方法で急患に対応するのが特徴です。

このような、

医師の命を削って患者を一人でも多く助ける

というような窮境では、医療事故も起きかねないので、病院側としては、

あらたな救急車がきても、これ以上は受け入れは無理、かわいそうだけど……

という状況に容易に達するわけです。

Dr. Prime は、ここに着眼しました。

田氏は、医師のつてで、アルバイトしたい腕の立つ外科医を多数知っていました。

この両者を、Airbnb/エアビーのようなプラットフォームで結びつけることを考えたのです。

医師側からいっさいに料金をもらわずに、病院に課金する。

すなわち、ホスト側にのみ、課金します。

バイトの契約成立で、勤務が終わって謝礼がバイトの医師に支払われた後、

医師と病院がお互いに相手を評価します。

評判がずっとよくない病院/医師は、プラットフォーム上に長くいられず、淘汰されていきます。

事業で最も大切なこと:エンドユーザの抱えた巨大な問題にアドレスできている

YコンビネーターのCEOマイケル・サイベル氏は、
この動画の中で、
「天才的なパートはソリューションじゃない、プロブレムだ」
と指摘した後、プロブレムに関して下記のように定義します。
マイケル・サイベル氏の定義式
Problem = Who (≠Everyone,  but you cannot be an artist) × Frequency × Intensity
石川明氏の定義式と事実上、同じですね。
「不」の大きさ = 広さ × 頻度 × 深さ
(「はじめての社内起業」石川明 著、ユーキャン自由国民社刊)
マイケル・サイベル氏のいう
“Problem”(問題)
とは、”Pain”(苦痛、困りごと、「不」)と呼び変えていいので、両者は全く同じことを指摘しています。

1.  Who 広さ

サイベル氏は、上掲の動画の中で、
「君たちの顧客は誰か知っているか?、Everyone なんていう漠然とした存在なんかじゃないぞ」
と指摘した後、後半で、
「ごく一部の人にうける作品を作る『アーティスト』になってはならない、
多くの人が君たちのサービスを使用しなければ意味がない」
という意味のことを言っています。
これはかけあわせれば、
Problemがはっきり定義でき、かつ
その Problem が解決した場合の TAM = Total Available Market の大きさは十分か?
という意味です。
2.  Frequency 頻度
サイベル氏は、
「その顧客ができる限り頻繁にぶつかる問題じゃなきゃ、おいしくない」
とも指摘します。
3.  Intensity 深さ
サイベル氏は、これを、
「その問題が深刻すぎて悲鳴を上げている顧客を見つけろ」
とうまいこと定義しています。
私自身はここを表現するとき、
「顧客がそれが原因で夜も眠れない痛み Pain を見つけて下さい」
と言っています。
イメージは、Value Proposition Canvas における Pain Reliever =  Pain Killer です。
Dr. Prime は、この段階で上記のすべての条件を余裕でクリアしています。
マイケル・サイベル氏が設定するスタートアップの事業アイデアの「なるべくこのほうがいい」基準の一つ、
「できる限り自分が知り尽くしている業界の、できたら自分自身も抱えている深刻な問題にアドレスする」
も満たしています。
1.  Who 広さ

https://www.hospita.jp/search/?pref=13&tag=4663

上記のサイトによると、二次救急を行う病院の数は、東京都だけでも230件にも上ります。

これをプレミアム・ターゲット・セグメントと考えた場合、TAM/月は、
230件× Dr.’s Prime導入後に増えた救急車数/月 × 一件当たりの平均治療費(←患者の支払い+医療保険から出る)
になるので、仮に、10台、10万円を見積もっても、
230件× 10台/月 × 10万円=¥230M/月
となり、十分大きな金額のマーケットとわかります。
「一件当たりの平均治療費」がどのあたりにくるのか、
管理人には正確には見当のつけようがないですが、
Dr.’s Primeの創業者はもともと救命救急病棟で立ち働いていらしたので、相当正確に推定できるでしょう。
2.  Frequency 頻度
救命救急病棟が忙しくなるタイミングは、可能性としては、毎日です。
それこそ、年末年始夏休みも関係ありません。
これは十分すぎるほど頻繁な問題の発生と言えます。
ただ、当日募集してすぐにアルバイト医が派遣できるわけもないので、このサービスは事前予約になっているようです。
Dr.’s Primeのインタビューに答えている吉祥寺南病院は、
シフトを組んでもカバーしきれないところをDr.’s Primeで埋めるため、だいたい週一の発生頻度のようです。
出所:Dr.’s Primeによる吉祥寺南病院の Testimonial
3.  Intensity 深さ
救命救急病棟で働く医師は、1週間休みなしも当たり前と聞きます。
したがって、
「助けてあげたいのはやまやまだけど、てんてこ舞いなこの現状で、これ以上搬送されても絶対に受け入れ不可能!」
という困りごとの強さ、深さは、計り知れないわけです。
そこへ腕の立つ助っ人が現れ、新しく搬送された急患を見てくれれば、
これは大助かりでしょうし、ぶっちゃけた話、現場の常勤の医師たちは、
「助っ人が来たら自分たちも少しは休める……」
と思っているはずです。
上で見た通り、この三要素にしっかりアドレスできているサービスは、スケールする可能性が非常に大きいのです。

事業は必ず三方よしで:Dr. Prime のビジネスが満たしているある最高の条件

私がこのビジネスを知ったとき素晴らしいと思ったのは、

エンドユーザ=患者のペイン、すなわち、

救急車のたらいまわしにあったら自分は死んでしまう
にアドレスすることで、
患者自身と保険会社からビジネスモデル全体に注ぎ込まれるお金を確保しておいて、
患者、病院、バイトしたい外科医、救急隊、そして、Dr. Prime本体
という
「三方よし」ならぬ「五方よし」
をみたしている、ということです。
(ここで、東京都の救急隊には、Dr.s Prime が導入されている病院のリストが渡されています。
したがって、救急隊は、困ったらここに運び込めばまずたらい回しはないと知っているわけです。)
以前、楽天が、出店している店に訴訟を起こされかける事態がありました。
三木谷氏を若いころから直接知っているあるアントレプレナー(大成功したひと)が、もう10年近く前に、
「あれは店舗側が損をする構造になっていて、ひずみが出きており、うまくいかない」
と言っているのを聞いたことがあります。
これは、三方よしをみたしていないからです。
Dr. Prime は、ビジネスモデルキャンバスのKPに含まれる
すべてのステークホルダーズにメリットがあるビジネスの構造をしているため、
とても頑健な基盤を持っているといえます。

終わりに

Product/Market Fit プロダクト/マーケット・フィットの条件の一つに、

Viability/事業存続可能性

があります。

できたら未来永劫、この事業が利益を出しつけること

の意です。

これを満たし続けるのは非常に困難なのですが、

  1. 十分に大きなTAMにアドレスし
  2. 顧客の深刻なペインを十分に解消し
  3. 三方よしを満たす

という三条件を整えることができれば、これは達成可能です。

読者のあなたの事業も、これをぜひ狙ってください。