自社の優れた技術を新しい事業に活かせないか、あるいは既存事業の枠を超えたイノベーションは起こせないか、多くの企業がそのような課題を抱えています。技術(シーズ)を起点とした製品開発は、時に市場の需要(ニーズ)と合致せず、失敗に終わることも少なくありません。今回解説する「MFTフレームワーク」は、その課題を解決するための強力な思考ツールです。本記事では、MFTフレームワークの基本から具体的な実践手順、成功事例までを分かりやすく紹介し、あなたのビジネスに新たな視点を提供します。
MFTフレームワークとは?
MFTフレームワークは、新規事業開発や用途開発の際に、自社の技術や強みをどのように市場に結びつけるかを体系的に整理するための思考法です。このフレームワークを活用することで、これまで気づかなかった新たな事業の可能性を発見できます。
技術と市場を「機能」で繋ぐ思考法
MFTは、Market(市場)、Function(機能)、Technology(技術)の3つの要素の頭文字を取ったものです。最大の特徴は、技術と市場を直接結びつけるのではなく、その中間に「機能」という概念を置く点にあります。
技術が持つ本質的な価値や役割を「機能」として捉え直すことで、一つの技術が持つ多様な可能性を引き出し、思いもよらない市場ニーズと結びつけることができるようになります。
コンサルティングファームADL社が開発
MFTもともとは技術経営(テクノロジー・マネジメント)の分野で用いられていましたが、その汎用性の高さから、現在では製造業に限らず、幅広い業界で新規事業開発やイノベーション創出のために活用されています。
なぜ今MFTフレームワークが重要なのか?
テスラとアメリカ国内のEV産業のことを考えてみましょう。ほんの少し前まで、テスラは我が世の春を謳歌していましたが、中国EVメーカーの台頭と政治的な混乱から、一気に斜陽化しました。EVは中古車市場にほとんど出回らず、バッテリーのリサイクル技術が十分に成熟していないため、SDGsの視点からも微妙な捉え方をされ始めました。
要するに、プロダクトライフサイクルが著しく短くなっているのです。こんな状況下で、企業が成長を続けるためには、たえざるイノベーションが不可欠です。MFTフレームワークは、そのイノベーションのアイデアを体系的に生み出すための手法として、ますますその重要性を増しています。
技術シーズ起点の開発の限界を打破する
自社の優れた技術(シーズ)を起点に製品開発を進めるアプローチは、時に「技術の独りよがり」に陥りがちです。どれだけ高性能な製品を開発しても、そこに市場の需要がなければ、ビジネスとして成功することはできません。MFTフレームワークは、「機能」という視点を挟むことで、技術シーズと事業機会(オポチュニティ)を客観的に結びつけ、事業化の成功確率を高めます。
固定観念から脱却して新たな市場を発見する
多くの企業は、無意識のうちに自社の技術を既存事業の延長線上で捉えてしまいます。MFTフレームワークは、技術を一度「機能」に分解し、その機能が価値を発揮できる市場をゼロベースで探索するため、従来の固定観念から脱却する手助けとなります。これにより、これまで考えもしなかった異業種やニッチな市場への参入機会を発見できるのです。
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MFTフレームワークを構成する3つの要素
MFTフレームワークを効果的に活用するためには、3つの構成要素を正しく理解することが不可欠です。それぞれの要素について詳しく見ていきましょう。
Market(市場):複数の事業機会(オポチュニティ)が含まれる事業ドメイン
Market(市場)は、製品やサービスを実際に利用する顧客や、その技術が解決できる、顧客のモヤモヤ=事業機会が存在する領域を指します。ここで、ニーズや課題、ペインといった、ありふれた概念を用いたくないのには、以下の2つの理由があります:
- ニーズという言葉の定義は極めて曖昧で、ジョブマップのコンセプトを作ったトニー・アルウィック氏の調査によると、ある一つの企業の中に、なんと12通り以上のニーズの定義が存在したことがわかっています。ニーズという言葉を実務で使用すると、隣の部署とすら、本当のところ会話が噛み合わないということになりかねません。
- 上に取り上げたテスラの全盛期、テスラは、「社会課題を解決したから」モデルSを売りまくったわけではありません。単純に、カッコいいから売れたのです。カッコよくなければ補助金がついても売れていません。ある自動車のサイトはこの現象を、「テスラは脱酸素という苦い野菜を、甘いデザートに変えた」と巧みに表現しました。
| 具体例 | |
| 顕在市場 | すでに製品やサービスが存在し、競争がある市場(例:自動車市場) |
| 潜在市場 | 事業機会(顧客の欲望、解決されていない課題、いわゆる『満たされていないニーズ』など、必ずしも言語化されているとは限らない『モヤモヤ』)が存在する、自社にとって未探索の市場 |
| 新規市場 | 技術革新や社会の変化によって新たに生まれる市場(例:サステナビリティ関連市場) |
Function(機能):技術が提供する本質的な価値
Function(機能)は、MFTフレームワークの核となる要素です。これは、技術がもたらす具体的な働きや効用、価値を指します。技術そのものではなく、「その技術によって何ができるのか」「どんな課題を解決できるのか」という視点で考えます。一つの技術が複数の機能を持つことも珍しくありません。この機能を多角的に洗い出すことが、新たな発想の源泉となります。
MFTを使いこなすコツは、このFを、確実に、技術者が考えることです。このとき、要素技術/技術シーズが、あらかじめ新しい事業アイデアのために整理されていることがとても重要です。
Technology(技術):自社の強みとなる経営資源
Technology(技術)は、文字通りの科学技術や製造技術だけでなく、特許、ノウハウ、ブランド力、独自の販売網、優秀な人材といった、企業の強みとなるあらゆる経営資源を含みます。自社が保有するこれらの資源を正しく認識し、棚卸しすることが、MFTフレームワーク活用の第一歩となります。
MFTフレームワークの実践手順
ここでは、MFTフレームワークを実際に活用するための具体的な4つのステップを解説します。この手順に沿って思考を整理することで、誰でも体系的にアイデアを創出できます。
手順1:Technology(技術)の棚卸しを実施する
まず、自社が保有するTechnology(技術・経営資源)をすべてリストアップします。製品のコア技術はもちろん、製造プロセスにおけるノウハウや、他社にはない特殊な設備、顧客との強固なネットワークなど、あらゆる強みを洗い出します。この段階では、できるだけ網羅的に挙げることが重要です。
手順2-1:Functionが活かせるMarket(市場)を探索する
この二つ目の手順に、従来のやり方では Functions (機能)をあらいだすステップが来ていて、その際に
などとされていたのですが、そんなこと言われても、特に技術者であるあなたは、困ってしまうと思います。だって、市場探索もしていないのに、その時点で価値につながるかどうかなど、わかるわけがないからです。
だから、手順2では、どのような Market(市場)で求められているかを探索します。例えば、「精密な制御が可能」という機能であれば、従来の工業製品だけでなく、医療機器や農業、エンターテインメントといった全く異なる市場でも価値を発揮できるかもしれません。
従来のやり方ではここでも、「そんなこと言われてもどうしたらいいんだよ?!」と言いたくなるような助言がなされていました。
人間にはバイアスというものがあり、なかなか発想を飛躍させることができません。これが簡単にできれば誰も苦労はしないわけです。
ここではウンウン唸って発想を捻り出すのではなく、AIディアソンのような、生成AIツールに任せてしまいましょう。
手順2-2:Function(機能)を多角的に洗い出す
ステップ1で洗い出した技術が持つFunction(機能)を考えていきます。
この時に、従来のやり方だと、
とされていたのですが、このやり方には欠点がいくつかあります。
- 最悪、全ての機能が事業機会に刺さらないという悲劇が原理的に防げない。
- 2、3個のアイデアを出した以降、それ以外の発想がなかなかできないことがあまりにしばしばある。
- 技術者が自分のFのアイデアに惚れ込み過ぎ、それに合う市場機会を、どんなに市場規模が小さくてもいいから、無理やり探しにいく「IKEA効果」が生じる。
正解は、手順2-1の市場探索と、同時に実施することです。不思議なもので、この方法を取ると、どんなにご自分がアイデアパーソンでないと確信なさっている方でも、発想が次々と出てくることは、私があるクライアント企業に提供してみてわかっています。
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手順3:事業アイデアを具体化して検証する
最後に、技術、機能、市場の有望な組み合わせを見つけたら、具体的な事業アイデアへと落とし込みます。ターゲット顧客は誰か、どのような製品やサービスを提供するのか、収益モデルはどうするかなどを検討します。そして、そのアイデアが本当に市場に受け入れられるのか、インタビューやアサンプションテスト(≠MVPや試作品)を通じて検証を進めます。
つまりMFTのプロセスは、実は、現代では、Opportunity Solution Tree を描いていくプロセスそのものです。
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MFTフレームワークの代表的な活用事例
MFTフレームワークの考え方を理解するために、有名な活用事例を2つ紹介します。
NEDO
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、2025年7月に発表した報告書「Innovation Outlook Ver.1.0」において、MFTロジックモデルを活用しています。この報告書では、社会課題(Mission)を起点に、解決に必要な機能・提供価値(Function)を定義し、それを実現する技術(Technology)を体系的にマッピングする手法を採用しました。この分析により、将来性や革新性、日本の強みなどを評価し、13のフロンティア領域を提案しています。
参考:国内外の市場・技術・政策動向を俯瞰した報告書「Innovation Outlook」を発行しました | ニュース | NEDO
文部科学省のGX技術開発における俯瞰的分析
文部科学省の革新的GX技術開発小委員会では、MFTフレームワークを活用してグリーン分野における研究開発の全体像を俯瞰しています。2024年3月の会合では、アーサー・ディ・リトル・ジャパンの支援のもと、MFTのミッション部分に社会的インパクトデータ(CO2削減ギャップなど)や、論文・特許・投資データを付与することで、重要な研究領域や国内外の投資ギャップをバブルチャートで可視化する手法が報告されました。この分析は、政策的に優先すべき技術テーマの抽出に役立てられています。
参考:革新的GX技術開発小委員会(第8回)議事録:文部科学省
MFTフレームワークを成功させる3つのポイント
MFTフレームワークは強力なツールですが、その効果を最大限に引き出すためには、いくつかのポイントを押さえる必要があります。
MECEを意識して抜け漏れなく分析します
各要素を洗い出す際には、MECE(Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive:モレなく、ダブりなく)を意識することが重要です。機能の洗い出しに漏れがあれば、有望な市場を見逃す機会損失に繋がります。体系的・網羅的に思考を整理することで、分析の精度が高まります。
顧客にとっての価値を常に意識します
技術や機能を考える際、どうしても作り手側の視点に偏りがちです。しかし、最終的に対価を支払うのは顧客です。常に「この機能は顧客にとってどのような価値があるのか?」「顧客は本当にこの課題を解決したいと思っているのか?」と問い続ける姿勢が、事業の成功には不可欠です。
シーズとニーズの両方の視点を持ちます
MFTフレームワークは、技術(シーズ)から発想を広げる際に特に有効ですが、市場(ニーズ)から逆算して考える視点も同様に重要です。シーズ起点のアイデアとニーズ起点のアイデアを両方出し合い、それらを「機能」を介して結びつけることで、より実現可能性と革新性の高い事業アイデアが生まれます。
まとめ
MFTフレームワークは、技術と市場の間に「機能」という概念を置くことで、企業の持つ潜在的な可能性を最大限に引き出す思考法です。このフレームワークを活用すれば、固定観念を打ち破り、新たなイノベーションの種を見つけ出すことができます。ぜひ、あなたの会社の技術や強みをMFTフレームワークに当てはめて、新しい価値創造への第一歩を踏み出してください。
MFTフレームワーク(Market・Function・Technology)は、単なる整理のための図表ではありません。それは、技術の「可能性」と市場の「ニーズ」という、一見乖離しがちな二つの要素を、「機能(Function)」という共通言語で翻訳し、事業の蓋然性を劇的に高めるための羅針盤です。
もし、貴社の新規事業開発やR&Dの現場において、以下のような課題をお持ちでしたら、思考のミッシングリンクを埋める必要があります。
- 「技術(Technology)と市場(Market)の接点が見出せず、せっかくのシーズが宙に浮いている」
- 「顧客にとっての『機能的価値(Function)』を言語化できず、社内の企画承認が得られない」
- 「MFTで整理はしてみたものの、そこから具体的なアクションプランへ落とし込めない」
「Start up, Scale up.」は、MFTフレームワークを単なる穴埋め作業では終わらせません。貴社独自の強みを深く理解した上で、市場への適合性を検証し、戦略を「絵に描いた餅」にしないための実行プロセスまで伴走します。論理的な整合性と、現場での実行力の両輪で、事業化への道を切り拓きます。
複雑な変数を、シンプルで力強い「勝ち筋」へ。 貴社の技術が最も輝く市場を、私たちと一緒に見つけに行きませんか。

イントラプレナーとして、合計8つの新規事業開発を経験。1,300回に及ぶ顧客インタビューの実施経験を持つ。生成AIによるアイディエーションの世界初のサービスである、「AIディアソン」を、2023年の1月に上梓。それ以降も次々とAIサービスをローンチしている。
翻訳書の発行される前の版の、The Four Steps to the Epiphany (邦訳「アントラプレナーの教科書」、リーンスタートアップの下敷きになった本)を所持するほど、古くから事業開発の方法論を考究。最近はアメリカで最新とされるプロダクト開発のメソッドである、継続的発見(Continous Discovery)手法を取り入れ、エフェクチュエーションと組み合わせて事業開発に応用。
