事業開発→事業継続→事業再生で必要なもの:SmartHRの事業コア

SmartHRは、企業・従業員・社労士・自社の「四方よし」のサービスで大成功を収めた

事業開発→事業継続→事業再生で必要なもの:SmartHRの事業コア

事業開発→事業継続→事業再生で必要なもの:事業コア

スマートHR社は、今年5月に約125億円を調達し、日本の6社目のユニコーンとなりました。

BMC/ビジネスモデルキャンバス(扉絵参照)とVPC/バリュープロポジションキャンバスを描いてみると、

同社がしっかりした事業コアをもってケイパビリティを培い、データをため、

そのデータをもって一貫した方向性で新規事業へと担当領域を広げていこうとしていることが如実にわかります。

SmartHRは、企業・従業員・社労士・自社の「四方よし」のサービスで大成功を収めた

SmartHRは、顧客のペイン(困りごと)によくアドレスしたサービスである

事業コアその1:労務の知識

あまり着目されていないのですが、現在軸になっている事業コアは、 実は、

労務に非常に詳しい副島労務研究所所長・執行役員が入社されたことに始まります。

副島現執行役員が入社される前のSmartHRは、

小企業むけのサービス、その時点での社員でも想像のつくビジネスプロセスのドメインでサービスしていたのですが、

顧客企業はどんどん大型化して、労務のプロ抜きでは回らなくなってきたところに、

副島現執行役員が入社され、PM的な役割を引き受けたことが、

うなぎ登りに業績を伸ばしていくはずみ車が回りだすきっかけを与えたようです。

出典:CORALブログ「SmartHR創業CEO宮田さんと新CEOになる芹澤CTOにバトンタッチの舞台裏を聞いた」

これが強力だったのは、単にSaaS開発の技術力だけなら他社には絶対にない強みとは言えないのに対し、

そもそも顧客の業務全体にプロとして通暁する人的リソースの参画は、競争優位性をあたえたはずだからです。

当時から国内の労務関連のサービスの市場は完全なるブルーオーシャンとは言えなかったので、

この強力な強み、ケイパビリティの獲得は、同社の成長を強くプッシュしたはずです。

事業コアその2:蓄積されたデータ

同社が次に獲得してきた強みは、SmartHRに貯蔵されるデータそのものです。

同社の好評のサービスにCOVID-19禍で重宝されているアンケート調査機能がありますが、これは、

「誰がどんな給与体系か」 「誰がいつどの部署から退職してしまったか」

といった情報をすでに蓄積しているSmartHRにとってみると極めてシナジーの高い機能で、

ここでさらに人材マネジメント系の情報を蓄積していくことができます。

同社が人材マネジメント系の機能の拡張に力を入れるといっているのは、

きれいな一貫性を持った戦略といえるでしょう。 その一方で、

同社は積極的にAPIをオープンにし、 それどころかソフトのデザイン、構築ノウハウまでも公開して、
人事労務人材マネジメント以外の、企業運営に必要なシステムとの連携を、 もろ手を挙げて歓迎している

姿勢も評価できます。 Uberのように、むやみやたらと多角化に打って出ない姿勢は評価されてしかるべきです。

およそシナジー効果がぴんとこない買収を80社以上も繰り返して 大失敗したRIZAPとは比較にならない、

これは首尾一貫した経営といえると思います。

SmartHRの、外から見える懸念点

SmartHRが市場から高い評価をうけるその背景には、同社のARR(年間経常収益)が群を抜いて高いことがあるといわれ、

それから個人的にはその解約率の驚異的な低さも影響していると思いますが、

管理人が若干不安なのは、財務状況が必ずしも順調とは思えないことです。

2019.12期 純損失17.13億円→2020.12期 純損失37.19億円と、財務状況は、実は改悪しています。(日刊工業新聞)

なにが赤字を生み出しているか、詳細はわからないのですが、

管理人は、2018年の貸借対照表を圧迫していた減価償却費の残存と、

最近街のあちこちでとみに見かける同社の広告の費用を疑っています。

同社のサイトでは平成30年度までしか財務状況が追いかけられないので、 これから情報が出てくるのを待つしかありません。

同社の、例えば電車の車内吊り広告が赤を生み出しているとしても、

これは一概に否定されるべきではないと思います。

なぜなら、同社がターゲットとする企業のセグメントは、 例えば最近C-UnitedがSmartHRの導入を決めた通り

(出典:HRzine「カフェ・ベローチェや珈琲館を展開するC-UnitedがSmartHRを導入ーSmartHR」

様々なインダストリーにまたがって広がりつつあるからです。

PCやスマホばかり見ていては仕事にならない業態の会社の人事部には、

バイラルマーケティングよりもこちらのほうが効果がある可能性は否定できません。

ただ、調達した資金を損失補填に回している状況が長続きするのはよくないので、

どこかでコストの見直しをする必要に迫られるかもしれません。

これが黒に転じたら、あるいは、同社は晴れてIPOするのかもしれませんね。

SmartHR 社長交代劇の舞台裏

さて、今回話題になったCEO交代劇ですが、いままで裏に何かあるのではとモヤモヤしていたのが、

Newspicks【直撃】SmartHR、異例の「CEO退任」の舞台裏 を読んですっきりと納得がいきました。

宮田前CEO「SmartHRはこれまで順調に成長してきましたが、今後より大きくすることに対して自分は向いていないと感じた。そして再度、(自分自身は)新規事業をやったほうがテンションが上がると思った。」
芹沢新CEO「宮田さんは火種を作るのが得意で、私は火を大きくすることが得意。」

戦時のCEOと、安定後のCEOのロールを明確に分けたほうが会社の安定した成長にとって良いということは、

古くはエジソンの例もあり、名著CROSSING THE CHASMにも語られている通り、昔からままあることです。

In the realm of high tech, pragmatist CEOs are not common, and those there are, true to their type, tend to keep a relatively low profile. Dan Warmenhoven at NetApp, Jeff Weiner at LinkedIn, John Chen at Sybase, John Donahoe at eBay, even such visible leaders as Meg Whitman at HP and Michael Dell at Dell—low on drama, high on integrity and commitment. They tend to be best known by their closest colleagues, from whom they typically have earned the highest respect, and by their peers within their industry, where they show up near the top of the leaderboard year after year.
(Moore, Geoffrey A.. Crossing the Chasm, 3rd Edition (Collins Business Essentials). Harper Business.)

出典:

典型例がAppleです。

現クックCEOになってからイノベーティブでなくなったのだのなんだの悪口を言われているようですが、

いまのAppleのCCC/キャッシュコンバージョンの異常な高さを生み出している無駄のないサプライチェーンの実装は、

実はオペレーションは不得意なジョブズ前CEOではできない技でした。

クック氏が入社して、無駄なプロダクトラインや いろいろなメーカーが同じパーツを作成しているぐちゃぐちゃな状況をばっさばっさと裁断、整理しなければ、

現Appleの超高収益企業体質はあり得ません。

同じことはSmartHRにあてはまらないとだれがいえるでしょうか?

オペレーションの得意な芹澤新社長が、実はそんなに良くない財務状況の問題を解決しつつ、

市場もさらに開拓していけることに期待しましょう。

参考リンク

Newspicks【直撃】SmartHR、異例の「CEO退任」の舞台裏 「Newspicks 【売上2倍】SaaSユニコーン「スマートHR」の成長は本物か」 https://comicbook.com/gaming/news/SmartHR-free-games-november-december-2021/

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