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企業の成長戦略において、新規事業開発は不可欠な要素です。その出発点として、
という考え方が注目されています。自社に眠る独自の技術をいかにして新しい価値に変えていくか、その方法論を理解することは、持続的な成長の鍵となります。
この記事では、「技術シーズ」とは何か、混同されがちな「ニーズ」との違い、そして技術シーズを事業化するための具体的なステップまで、成功事例を交えながら詳しく解説します。
技術シーズとは?事業の種となる独自技術
技術シーズ(Seeds)とは、その名の通り「種」を意味し、ビジネスにおいては企業が保有する独自の技術、特許、ノウハウ、アイデアなど、将来的に新しい製品やサービスを生み出す可能性を秘めた根源的な要素を指します。これらはまだ具体的な形になっていないものの、育て方次第で大きな事業へと成長する可能性を秘めた「事業の種」と言うことができます。
研究開発の過程で生まれた新素材や、画期的な製造プロセス、独創的なアルゴリズムなどが技術シーズの具体例です。これらは、まだ市場の要求(ニーズ)と直接結びついていなくても、企業内部に存在する価値の源泉であり、イノベーションの出発点となります。
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技術シーズとニーズの決定的な違い
技術シーズを理解する上で、対義語である「ニーズ(Needs)」との違いを明確にすることが重要です。ニーズが顧客や市場の「これが欲しい」「こうなりたい」という要求や課題を指すのに対し、シーズは企業側の「こんな技術がある」「こんなことができる」という提供価値の源泉を指します。
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起点の違い:プロダクトアウトとマーケットイン
シーズとニーズの違いは、製品開発のアプローチにおける「プロダクトアウト」と「マーケットイン」の違いに直結します。
プロダクトアウトは、シーズを起点とする考え方です。「自社が持つ優れた技術やアイデアを基に製品を作り、市場に提案する」という、作り手主導のアプローチです。これに対し、マーケットインはニーズを起点とし、「顧客や市場の調査から課題や要望を把握し、それに応える製品を開発する」という、市場主導のアプローチです。
| 開発アプローチ | プロダクトアウト | マーケットイン |
| 主なメリット | 革新的な製品が生まれやすい、市場を独占できる可能性がある | 市場に受け入れられやすく、売上の予測が立てやすい |
| 主なデメリット | 市場の需要と合致しないリスクがある、事業化に時間がかかる | 競合が多く価格競争に陥りやすい、大きな革新は生まれにくい |
発想のスタート地点と思考プロセスの違い
シーズ技術を起点とする開発と、ニーズを起点とする開発の最も大きな違いは、「何から考え始めるか」という点にあります。以下の表は、その違いを明確に示しています。
| 項目 | 技術シーズ(シーズ起点) | ニーズ(ニーズ起点) |
| 発想の起点 | 企業が持つ技術・アイデア(作り手側) | 顧客の課題・要望(市場側) |
| 思考プロセス | 「この技術で何ができるか?」 | 「この課題をどう解決するか?」 |
シーズ起点は、自社が持つ独自の技術やアイデアといった「作り手側」の強みが全ての始まりです。そこから「この技術を使えば、どんな新しいことができるだろうか?」と考えを広げていきます。一方で、ニーズ起点は顧客が抱える課題や要望といった「市場側」の声がスタート地点となります。そして、「この課題を解決するためには、どうすれば良いか?」という問いから製品やサービスを考えていくアプローチです。このように、両者は全く逆の方向から事業開発を始めることがわかります。
技術シーズを起点とする戦略のメリット
シーズ起点の開発はリスクも伴いますが、成功した際には大きなリターンが期待できます。主なメリットを2つ紹介します。
競合優位性の高い市場を創出できる
シーズを基に生み出された製品やサービスは、これまで市場に存在しなかった新しい価値を提供するため、競合が存在しない「ブルーオーシャン市場」を創出できる可能性があります。独自の技術が模倣困難であれば、長期にわたって高い競争優位性を維持でき、価格競争に巻き込まれることなく、高い収益性を確保できます。
企業のブランド価値向上につながる
革新的な製品を世に送り出すことは、企業の技術力の高さを内外に示すことにつながります。「イノベーティブな企業」というブランドイメージが定着すれば、優秀な人材の獲得や、新たなビジネスパートナーとの連携にも好影響を及ぼすでしょう。Apple社が良い例で、同社が持つ革新的なイメージは製品だけでなく、企業全体の価値を高めています。
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技術シーズを起点とする戦略のデメリットと注意点
大きな可能性がある一方で、シーズ起点の事業開発には特有の難しさやリスクが存在します。
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市場に受け入れられないリスクがある
シーズ起点の最大のリスクは、作り手の自己満足に終わってしまい、市場や顧客から全く受け入れられないことです。どれだけ技術的に優れた製品であっても、顧客がその価値を理解できなかったり、価格に見合わないと判断されたりすれば、ビジネスとして成立しません。「技術の墓場」という言葉があるように、多くのシーズが事業化に至らずに消えていく現実も直視する必要があります。
事業化までの時間とコストがかかる
シーズはまだ「種」の段階であるため、市場に投入できる製品として完成させるまでには、多くの研究開発時間と投資が必要です。また、新しい市場を創造する場合には、顧客への啓蒙活動やプロモーションにもコストがかかります。そのため、長期的な視点での投資計画と、経営層の強いコミットメントが不可欠です。
H2:技術シーズを新規事業に活用する5ステップ
では、技術シーズをうまく事業化するためには、どのようなプロセスを踏めば良いのでしょうか。ここでは、代表的な5つのステップを紹介します。
ステップ1:自社技術(シーズ)の棚卸しと評価
まずは、自社内にどのような技術シーズが眠っているかを洗い出すことから始めます。研究開発部門だけでなく、各事業部が持つ特許やノウハウなどをリストアップし、それぞれの技術の独自性、先進性、応用可能性などを客観的に評価します。
ステップ2:応用可能な市場や顧客課題の探索
次に、リストアップした技術シーズが、どのような市場や顧客の課題解決に応用できるかを多角的に検討します。既存の事業領域にとらわれず、全く異なる分野での活用の可能性も探ることが重要です。この段階で、市場の規模や成長性、ターゲット顧客の解像度を高めていきます。
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ステップ3:ビジネスモデルの構築と検証
有望な市場を見つけたら、具体的なビジネスモデルを構築します。誰に、どのような価値を提供し、どうやって収益を上げるのかを設計します。机上の空論で終わらせないために、潜在的な顧客へのインタビューなどを通じて、そのビジネスモデルが本当に成立するのかを検証する作業が極めて重要です。
ステップ4:MVP(実用最小限の製品)による市場投入
いきなり完璧な製品を目指すのではなく、まずは「顧客の課題を解決できる最小限の機能」を持った製品、すなわちMVP(Minimum Viable Product)を開発し、迅速に市場へ投入します。これにより、少ない投資で実際の顧客からのフィードバックを得ることが可能になります。
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ステップ5:フィードバックを基にした改善と拡大
MVPを市場に投入した後は、顧客からのフィードバックを収集し、製品やサービスの改善を繰り返します。このサイクルを高速で回すことで、製品の価値を高め、徐々に市場でのシェアを拡大していきます。顧客の声を聞きながら、シーズとニーズをすり合わせていくプロセスです。
技術シーズの事業化に成功した企業事例
シーズ起点の考え方で成功を収めた企業の事例は、事業開発のヒントに満ちています。
【富士フイルム】既存技術を異分野へ展開したヘルスケア事業
富士フイルムは、写真フィルム事業で培った技術シーズを全く異なる分野に展開し、成功を収めた好例です。デジタル化の波により主力のフィルム市場が縮小する中、同社は写真フィルムの主原料であるコラーゲンに関する技術や、写真の色あせを防ぐ抗酸化技術を、化粧品やサプリメントなどのヘルスケア分野に応用しました。既存のシーズを新たな市場のニーズと結びつけることで、事業ポートフォリオの転換に成功したのです。
参考:
シーズとニーズの最適なバランスを見つける方法
シーズ起点とニーズ起点は対立する概念ではなく、両者を融合させることがイノベーション創出の鍵となります。シーズだけで突っ走れば独りよがりになり、ニーズばかりを追いかけると既存の枠を超える製品は生まれません。
重要なのは、シーズという強力なエンジンを持ちつつも、常にニーズというコンパスで進むべき方向を確認することです。開発の初期段階からマーケティング担当者を巻き込んだり、早い段階で顧客のフィードバックを得る仕組みを取り入れたりすることで、シーズとニーズの最適なバランスを見つけ、市場に真に受け入れられる革新的な製品を生み出すことが可能になります。
まとめ
技術シーズは、企業の未来を切り拓く可能性を秘めた貴重な資産です。その本質を理解し、市場のニーズと結びつける戦略的なプロセスを経ることで、単なる技術の種は、やがて市場を席巻する大きな事業へと成長します。
自社に眠る技術シーズを見つめ直し、新たな価値創造への一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
独自の技術シーズを事業として成功させるためには、市場ニーズの探索から、ビジネスモデルの構築、MVPによる高速検証に至るまで、極めて高度な専門知識と体系的なプロセスが要求されます。
もし、
- 「保有する技術シーズの応用領域が定まらない、市場性評価に迷っている」
- 「研究開発部門と事業部門の連携が取れず、事業化プロセスが停滞している」
- 「シーズ起点の新規事業を成功させるための、最適な戦略パートナーを探している」
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