ジョブズもフォードも、「人々は自分のニーズを知らない」などとはいっていない

「インタビュースキルは、めちゃくちゃに過小評価されているスキルです」(アメリカの最新プロダクトマネジメントメソッド Continuous Discovery 継続的市場探索メソッドを体系化した、テレサ・トーレス)

新規事業_インタビューでググると、必ずと言っていいほど。

ニーズをとらえることが大事

と出てきます。

確かにある意味そうなのですが、この言葉が放言(さかしげに言葉を言い放っただけ)以上の価値を持たないことは、関連記事で説明した通りです。かんたんに言ってしまうと、「ニーズ」という用語は科学的に定義不能だからです。そして、「ニーズをとらえる」ために口にしてはいけない質問というものが、私に言わせると、1ダース以上あります。

そのうちの典型例が、相手の欲しいものをストレートに訊いてしまうというものです。

 

顧客に「何が欲しいか」を訊いてはならない:顧客インタビュー最大のNG質問

典型的なNG質問

顧客インタビューでしばしば頂く、典型的なNG質問とは、こんなものです。

【NG質問 その1】どんな機能がついていたら、この製品をお買い上げくださいますか?

 

【NG質問 その2】機能Aは、10点満点で何点分だけ、ほしいですか?/機能Bは何点分だけ、ほしいですか?……

この2つの質問があまり有効ではないことを指摘するには、ジョブズの有名な言葉を引けば足ります。

You can’t just ask customers what they want and then try to give that to them. By the time you get it built, they’ll want something new. お客様に何が欲しいかをただ尋ねて、それをそのまま提供しようとしても上手くいかない。製品が完成する頃には、彼らが欲しいものは、すでにもっと新しい何かに変わってしまっている。

このジョブズの名言は、別の、もっと有名な名言

People don’t know what they want until you show it to them.

とまとめて、

顧客は製品を見せられるまで自分のニーズを知らない、だからニーズを訊いても意味がない

と意訳されることが多いのですが、それははっきりと誤訳です。顧客は、この、科学的に定義不能な曖昧な用語「ニーズ」の裏にある

自分が、万難を排してでも なさざるを得ないこと(ジョブ/Jobs to be done)

は、明確に自覚している/していないの差はあれ、誰よりもよく知っているからです。

太古の昔、人類が火を発見したときのエピソードでこれを喩えてみましょう。火が登場する前の人間は、動物の中では、顎の力が弱く、消化器官も劣っていたため、一日中、生の食物を咀嚼していました。火が登場してから、食事の時間が圧倒的に短くなり、両手が使えることも相まって、食事以外の様々なクリエイティブな活動を行うことにより、大脳が異様に発達することになります。このとき、

火を利用して食物を調理し、圧倒的に短時間でおいしく衛生的な食事をとり、大脳を発達させたい

などという、わけのわからない「潜在ニーズ」など、あったわけがありませんが、しかし、

「食事をせざるを得ない」というジョブは確実に実在し、できれば おいしい食べ物を食べたいというニーズもあった

はずですよね?したがって、太古の人類にとり、ジョブズのいう「見せられるまで分からなかった」ものとは、

おいしい食べ物を食べたいというニーズでなく、食べ物を食べやすく・おいしく・かつ衛生的にしてくれる魔法のような「火」というソリューション

のほうです。

ジョブズもフォードも、「人々は自分のニーズを知らない」などとはいっていない。自分が探し求めるソリューションを知らない、と指摘したのだ。(トニー・アルウィック)

要するに、「ニーズを知らない」のではなく、どんなプロダクトがあったらその自分のやるべきこと(ジョブ)を、よりスムーズに効率よくこなせるか、あるいは自分の期待を超えた何かが実現できるのか、が、想像の外にあるのです。

フォードの「もっと速い馬」は、本人が言った記録すら実はない

ジョブズと並んで、この文脈で必ず引き合いに出されるのが、ヘンリー・フォードのこの「名言」です。

If I had asked people what they wanted, they would have said faster horses.もし顧客に何が欲しいかと訊いていたら、彼らは「もっと速い馬」と答えただろう。

新規事業の企画書やセミナーで擦り切れるほど引用されるこの言葉、実は、フォード本人が言った・書いたという記録が、どこにも存在しません。フォードの発言や著作を遡った調査でも出典は見つからず、この言葉が流通し始めたのは、フォードの死後ずいぶん経ってからのマーケティング文献です。つまり、「顧客はニーズを知らない」論の二大根拠は、片方が誤訳(ジョブズ)、もう片方が本人の発言ですらない(フォード)、というのが実態です。

しかも、仮にフォードが本当にこう言っていたとしても、です。「もっと速い馬」という答えをよく見てください。顧客は「速く移動せざるを得ない」というジョブを、自分の知っている唯一のソリューション(馬)に乗せて、完璧に語っています。この答えが証明しているのは「訊いても無駄」ではなく、その逆──訊けばジョブは出てくる、ただしソリューションの皮を被って出てくる、ということです。インタビューアの仕事は、訊かないことではなく、答えの皮を剥いでジョブを取り出すことです。

歴史の皮肉も添えておきましょう。現実のフォードは、「顧客の声を聞かなかった」ことで王座から転落しています。T型フォード一本槍(色は黒のみ)に固執し、多様化する顧客の要望を掬い上げたゼネラルモーターズに、1920年代後半、市場の主導権を明け渡しました。「顧客に訊くな」の象徴として引用される当の本人が、顧客に耳を貸さずに敗れているのです。

もしFacebook創業時にこのNG質問が訊かれていたら

Facebook創業前に、それが製品としてデビューを飾ったハーバード大学の学生にインタビューを実施して、

友達どうしで参加する、「友達の近況を時系列で追える」「写真にタグ付けできる」ウェブサイトを考えているんだけど、これ以外に、どんな機能がついていたら使う?
このウェブサイトがほしいとしたら、1から10のリッカート尺度で何点ぶんほしい?

と訊いたとしましょう。おそらく、反応として、

……なんじゃそら?

という戸惑いと、適当に点数を付けた、いい加減きわまるスコアしか得られないことは、想像に難くありません。しかし、このときも、顧客である学生は、ニーズを知らないということはありえません。誰しも、久しぶりに会った友人知人とお互いの近況報告で盛り上がった経験が、少なからずあるはずだからです。

ここで想像してみると面白いケースをあげます。男子学生から、いまアメリカで大変な人気になっている OnlyFans のように、

自分の推しのセクシーな姿が見られる機能

が欲しいという要望がでてきた場合、ザッカーバーグ氏らは、いったい どうすればよかったのでしょうか……?

このタイプの質問で顧客の本音が出てくるものがあるとすれば、それは、製品化した後に、自社サービスのユーザーに対して問う

この製品が明日サービス終了になったら、どれほど困りますか?1-10点で答えてください。

という、Eメールソフト Superhuman の創業者ラフル・ヴォーラ氏が考えた質問だけでしょう。

 

ポイント:企画されたソリューションに対する感想を最初から訊いてはならない

要するに、自分たちの念頭にあるソリューションを最初から前面に押し出して、その感想を訊くのはNG、ということになります。ほかのNG質問のパターンをあげてみたいと思います。

行動パターン把握インタビューのNG質問・OK質問

新規事業開発の最初の段階では、自分たちのソリューションに対する感想を訊くよりもはるかに、顧客の行動パターンを把握する方が重要となります。

そのタイプのインタビューの中での、NG質問とOK質問をあげてみます。

典型的なNG質問

  1. ✖私たちが企画しているこの製品を、あなたなら、どのように使いますか?
  2. △この競合製品を購入する前に、どのような問題を解決しようとしていましたか?

①は、私が聞かれている側(インタビュー相手)なら、すぐにこう考えると思います。「いったい、なんで自分がそんなこと考えて答えなきゃいけないんだ?!」

②は、一見自分たちのソリューションを前面に押し出していないのでOKに見えますが、その実、その効果はそうとうに微妙といわざるをえません。あなたがiPhoneユーザーだったとして、「iPhone 16 を購入する前にどのような問題を解決しようとしていましたか?」と訊かれたと思ってください、一瞬、回答につまりませんか?

この質問が有効なのは、新規事業のアイデア段階フェーズにおいてでなく、自社サービス購入後の感想を訊くときなのです。(余談ですが、この二つの質問は、生成AIが「インタビューではこれをぜひ訊け」と推してきた質問なので、一般に正解とされているのでしょう…。)

OK質問

  1. 〇普段、どのような状況で、何が理由で、その特定の作業をこなさないといけないんでしょうか?
  2. 〇普段その作業は、どんなプロセスで、誰とどう関係しながら こなしていますか?段階に分けて説明してください
  3. 〇この競合製品(代替手段)の助けを借りて、普段どのようにお仕事をなさっていますか?

これらの質問により、顧客の「潜在的なニーズ」や行動パターンを把握し、新たな製品やサービスの開発に活かすことができます。

問題発見インタビューのNG質問・OK質問

上記の「行動パターン把握インタビュー」を実行するときに、

行動をとる途中、どんな局面でどんなストレス(面倒くささ)を感じるか?

ということを突き止めるのが問題発見インタビューです。ここで肝要なのは、フォルスポジティブ(顧客の本音を自分に都合の良いように誤解すること)を誘導しないこと、です。

典型的なNG質問

  1. ✖ 現在使用している製品にどのような不満がありますか?
  2. ✖ 理想的には、どのような機能があれば助かりますか?
  3. ✖こんなことを不満に思ったことはありませんか?

①は、いま使っている製品に心の底から満足している顧客は少ないので、顧客から出てきたフィードバックは、「そこは修正しても大して嬉しくない」という、どうでもいい不満まで出てくる可能性があります。あなたが女性なら、スキンケア製品について考えると想像がつきやすいでしょう。

②はもっと致命的で、顧客は自分の問題そっちのけで、自分なりの、想像上の解決策を話し始めてしまうからです(その典型例が、上で取り上げた「推しのセクシーショット」です)。

③は、事実上、自社製品へのニーズを訊いているのに等しいです。明らかにこのインタビューアは、「そんな不満がある」と顧客に認めさせるために誘導しています。

顧客インタビューの大目的は、顧客が自分の行動パターンをファクトベースで描写し、その行動の中のどこに「夜も眠れないような」問題を感じているか?を、告白してもらうことであるということを忘れないで下さい。でなければ、ありもしない問題を問題と認識し、最終的に事業は失敗することになります。

OK質問

  1. ⚪︎ 普段その作業は、どんなプロセスで、誰とどう関係しながら こなしていますか?段階に分けて説明してください
  2. ⚪︎そのプロセス上のどこで、どのようなストレスを普段感じていますか?

 

顧客インタビューのNG質問一覧:約束どおり1ダース、OK質問への言い換えつき

冒頭で「口にしてはいけない質問は1ダース以上ある」と書きました。約束どおり、12個を一覧にしておきます。共通する病はひとつ。どの質問も、顧客に想像・予測・忖度を語らせている点です。言い換えの方針も常にひとつです。行動の事実だけを訊く──これに尽きます。

NG質問 なぜNGか 言い換えるなら(OK質問)
✖ どんな機能がついていたら買いますか? 想像上の購買を語らせるだけで、実際の行動と乖離する 最後にこの種の製品を買ったとき、何が決め手でしたか?
✖ この機能は10点満点で何点ぶん欲しいですか? 点数は社交辞令で埋まり、行動を予測しない (製品化後のみ)この製品が明日使えなくなったら、どれほど困りますか?
✖ 私たちが企画しているこの製品を、あなたならどう使いますか? 企画者の仕事を相手に肩代わりさせている 普段その作業を、どんなプロセスで、誰とどう関係しながらこなしていますか?
✖ この競合製品を購入する前に、どんな問題を解決しようとしていましたか? 過去の購買動機は美化・再構成されて出てくる その製品(代替手段)の助けを借りて、普段どのように仕事をしていますか?
✖ 現在使っている製品に、どんな不満がありますか? どうでもいい不満まで噴出し、切実な問題が埋もれる そのプロセスのどこで、どんなストレスを普段感じていますか?
✖ 理想的には、どんな機能があれば助かりますか? 顧客が自分の問題そっちのけで、想像上の解決策を語り始める 直近でその作業が一番面倒だったのは、いつ、何が原因でしたか?
✖ こんなことを不満に思ったことはありませんか? 「ある」と言わせる誘導尋問になっている (誘導をやめる)その作業の途中、手が止まるのはどんな場面ですか?
✖ いくらなら買いますか? 口頭の支払意思と実際の財布は別物 いまその問題に、いくら・どれだけの時間を使っていますか?
✖ この製品、便利だと思いませんか? 同調圧力で「はい」しか返ってこない 最後にその作業をしたときの状況を、順を追って教えてください
✖ もしこういうサービスがあったら、使いたいですか? 仮定形の質問は社交辞令の製造機 同じ目的のために、いま何を使い、どんな工夫をしていますか?
✖ あなたのような方は、普段〇〇にお困りですよね? ペルソナの押し付けと確認誘導の二重NG 直近1週間で、一番時間を取られた仕事は何でしたか?
✖ 将来、〇〇を導入する予定はありますか? 人は自分の未来の行動を予測できない 過去に〇〇を試したことはありますか?そのとき何が起きましたか?

まとめ

ジョブズは「ニーズを訊くな」とは言っていません。フォードに至っては、引用されるあの言葉を言った記録すら存在しません。顧客は自分のジョブを誰よりも知っています。知らないのは、ソリューションの方です。だからインタビューで訊くべきは、欲しい機能でも理想の姿でもなく、顧客が普段どう行動し、そのどこでストレスを感じているかという事実です。

そして、個々の質問の良し悪しの先には、もう一段大きな設計の問題が待っています。聞き出した事実をどう仮説に変え、何を、どの順番で確かめていくのか。インタビューを単発のイベントで終わらせず、検証の手順として回し続けるための全体像は、次の記事にまとめています。

【次に読む】▶︎ 新規事業の仮説検証とは?何を、どの順番で確かめるのか

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