ジョブズもフォードも、「人々は自分のニーズを知らない」などとはいっていない

「インタビュースキルは、めちゃくちゃに過小評価されているスキルです」
(アメリカの最新プロダクトマネジメントメソッド Continuous Discovery 継続的市場探索メソッドを体系化した、テレサ・トーレス)

新規事業_インタビューでググると、必ずと言っていいほど。

ニーズをとらえることが大事

と出てきます。

確かにある意味そうなのですが、この言葉が放言(さかしげに言葉を言い放っただけ)以上の価値を持たないことは、関連記事で説明した通りです。かんたんに言ってしまうと、「ニーズ」という用語は科学的に定義不能だからです。そして、「ニーズをとらえる」ために口にしてはいけない質問というものが、私に言わせると、1ダース以上あります。

そのうちの典型例が、相手の欲しいものをストレートに訊いてしまうというものです。

【関連記事】生成AIをフル活用した新規事業インタビュー実践マニュアル  2026年最新版

 

顧客の欲しいものを訊いてはならない

典型的なNG質問

顧客インタビューでしばしば頂く、典型的なNG質問とは、こんなものです。

【NG質問 その1】どんな機能がついていたら、この製品をお買い上げくださいますか?

 

【NG質問 その2】機能Aは、10点満点で何点分だけ、ほしいですか?/機能Bは何点分だけ、ほしいですか?……

この2つの質問があまり有効ではないことを指摘するには、ジョブズの有名な言葉を引けば足ります。

 

You can’t just ask customers what they want and then try to give that to them. By the time you get it built, they’ll want something new.
お客様に何が欲しいかをただ尋ねて、それをそのまま提供しようとしても上手くいかない。製品が完成する頃には、彼らが欲しいものは、すでにもっと新しい何かに変わってしまっている。

このジョブズの名言は、別の、もっと有名な名言

People don’t know what they want until you show it to them.

とまとめて、

顧客は製品を見せられるまで自分のニーズを知らない、だからニーズを訊いても意味がない

と意訳されることが多いのですが、それははっきりと誤訳です。

顧客は、この、科学的に定義不能な曖昧な用語「ニーズ」の裏にある

自分が、万難を排してでも なさざるを得ないこと(ジョブ/Jobs to be done)

は、明確に自覚している/していないの差はあれ、誰よりもよく知っているからです。

太古の昔、人類が火を発見したときのエピソードでこれを喩えてみましょう。火が登場する前の人間は、動物の中では、顎の力が弱く、消化器官も劣っていたため、一日中、生の食物を咀嚼していました。火が登場してから、食事の時間が圧倒的に短くなり、両手が使えることも相まって、食事以外の様々なクリエイティブな活動を行うことにより、大脳が異様に発達することになります。このとき、

火を利用して食物を調理し、圧倒的に短時間でおいしく衛生的な食事をとり、大脳を発達させたい

などという、わけのわからない「潜在ニーズ」など、あったわけがありませんが、しかし、

「食事をせざるを得ない」というジョブは確実に実在し、できれば おいしい食べ物を食べたいというニーズもあった

はずですよね?したがって、太古の人類にとり、ジョブズのいう「見せられるまで分からなかった」ものとは、

おいしい食べ物を食べたいというニーズでなく、食べ物を食べやすく・おいしく・かつ衛生的にしてくれる魔法のような「火」というソリューション

のほうです。

ジョブズもフォードも、「人々は自分のニーズを知らない」などとはいっていない。自分が探し求めるソリューションを知らない、と指摘したのだ。(トニー・アルウィック)

要するに、「ニーズを知らない」のではなく、どんなプロダクトがあったらその自分のやるべきこと(ジョブ)を、よりスムーズに効率よくこなせるか、あるいは自分の期待を超えた何かが実現できるのか、が、想像の外にあるのです。

【関連記事】iPhoneは、天才スティーブ・ジョブズの発明だという大嘘

もしFacebook創業時にこのNG質問が訊かれていたら

Facebook創業前に、それが製品としてデビューを飾ったハーバード大学の学生にインタビューを実施して、

友達どうしで参加する、「友達の近況を時系列で追える」「写真にタグ付けできる」ウェブサイトを考えているんだけど、これ以外に、どんな機能がついていたら使う?
このウェブサイトがほしいとしたら、1から10のリッカート尺度で何点ぶんほしい?

と訊いたとしましょう。おそらく、反応として、

……なんじゃそら?

という戸惑いと、適当に点数を付けた、いい加減きわまるスコアしか得られないことは、想像に難くありません。しかし、このときも、顧客である学生は、ニーズを知らないということはありえません。誰しも、久しぶりに会った友人知人とお互いの近況報告で盛り上がった経験が、少なからずあるはずだからです。

ここで想像してみると面白いケースをあげます。男子学生から、いまアメリカで大変な人気になっている OnlyFans のように、

自分の推しのセクシーな姿が見られる機能

が欲しいという要望がでてきた場合、ザッカーバーグ氏らは、いったい どうすればよかったのでしょうか……?

このタイプの質問で顧客の本音が出てくるものがあるとすれば、それは、製品化した後に、自社サービスのユーザーに対して問う

この製品が明日サービス終了になったら、どれほど困りますか?1-10点で答えてください。

という、Eメールソフト Superhuman の創業者ラフル・ヴォーラ氏が考えた質問だけでしょう。

 

ポイント:企画されたソリューションに対する感想を最初から訊いてはならない

要するに、自分たちの念頭にあるソリューションを最初から前面に押し出して、その感想を訊くのはNG、ということになります。ほかのNG質問のパターンをあげてみたいと思います。

行動パターン把握インタビュー

新規事業開発の最初の段階では、自分たちのソリューションに対する感想を訊くよりもはるかに、顧客の行動パターンを把握する方が重要となります。

そのタイプのインタビューの中での、NG質問とOK質問をあげてみます。

典型的なNG質問

  1. ✖私たちが企画しているこの製品を、あなたなら、どのように使いますか?
  2. △この競合製品を購入する前に、どのような問題を解決しようとしていましたか?

①は、私が聞かれている側(インタビュー相手)なら、すぐにこう考えると思います。「いったい、なんで自分がそんなこと考えて答えなきゃいけないんだ?!」

②は、一見自分たちのソリューションを前面に押し出していないのでOKに見えますが、その実、その効果はそうとうに微妙といわざるをえません。あなたがiPhoneユーザーだったとして、「iPhone 16 を購入する前にどのような問題を解決しようとしていましたか?」と訊かれたと思ってください、一瞬、回答につまりませんか?

この質問が有効なのは、新規事業のアイデア段階フェーズにおいてでなく、自社サービス購入後の感想を訊くときなのです。(余談ですが、この二つの質問は、生成AIが「インタビューではこれをぜひ訊け」と推してきた質問なので、一般に正解とされているのでしょう…。)

OK質問

  1. 〇普段、どのような状況で、何が理由で、その特定の作業をこなさないといけないんでしょうか?
  2. 〇普段その作業は、どんなプロセスで、誰とどう関係しながら こなしていますか?段階に分けて説明してください
  3. 〇この競合製品(代替手段)の助けを借りて、普段どのようにお仕事をなさっていますか?

これらの質問により、顧客の「潜在的なニーズ」や行動パターンを把握し、新たな製品やサービスの開発に活かすことができます。

 

顧客の問題発見を発見する

上記の「行動パターン把握インタビュー」を実行するときに、

行動をとる途中、どんな局面でどんなストレス(面倒くささ)を感じるか?

ということを突き止めるのが問題発見インタビューです。ここで肝要なのは、フォルスポジティブ(顧客の本音を自分に都合の良いように誤解すること)を誘導しないこと、です。

 

典型的なNG質問

  1. ✖ 現在使用している製品にどのような不満がありますか?
  2. ✖ 理想的には、どのような機能があれば助かりますか?
  3. ✖こんなことを不満に思ったことはありませんか?

①は、いま使っている製品に心の底から満足している顧客は少ないので、顧客から出てきたフィードバックは、「そこは修正しても大して嬉しくない」という、どうでもいい不満まで出てくる可能性があります。あなたが女性なら、スキンケア製品について考えると想像がつきやすいでしょう。

②はもっと致命的で、顧客は自分の問題そっちのけで、自分なりの、想像上の解決策を話し始めてしまうからです(その典型例が、上で取り上げた「推しのセクシーショット」です)。

③は、事実上、自社製品へのニーズを訊いているのに等しいです。明らかにこのインタビューアは、「そんな不満がある」と顧客に認めさせるために誘導しています。

顧客インタビューの大目的は、

顧客が自分の行動パターンをファクトベースで描写し、その行動の中のどこに「夜も眠れないような」問題を感じているか?を、告白してもらう

ことであるということを忘れないで下さい。でなければ、ありもしない問題を問題と認識し、最終的に事業は失敗することになります。

OK質問

  1. ⚪︎ 普段その作業は、どんなプロセスで、誰とどう関係しながら こなしていますか?段階に分けて説明してください
  2. ⚪︎そのプロセス上のどこで、どのようなストレスを普段感じていますか?

うまいインタビューを有効に実践する方法:Continuous Discovery

要するに、最初から自分たちのソリューション案を見せて感想を尋ねるやり方では、顧客の本当の行動も、そこで生じている切実な問題も見えてきません。必要なのは、「どんな機能が欲しいですか?」と尋ねることではなく、顧客が普段どんな状況で、どんなプロセスをたどり、どこで面倒やストレスを感じているのかを、ファクトベースで聞き取ることです。

しかし、ここで多くのチームが次の壁にぶつかります。インタビューで顧客の行動や問題を聞き出せたとしても、それをどう整理し、どう仮説に変え、どう継続的に検証していけばよいのかが分からないのです。

この問題に対する、いま最も有力な実務上の答えが、Continuous Discovery Habits(継続的市場探索)です。顧客との対話と小さな検証を継続しながら、市場機会を見つけ、Opportunity Solution Tree(オポチュニティ・ソリューション・ツリー)で仮説を整理していく方法です。単発の「顧客の声集め」で終わらず、売れるプロダクトに近づくための具体的な進め方を知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

【関連記事】Continuous Discovery Habitsの実践ガイド:プロダクトの市場価値を最大化する継続的市場探索の方法

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