事業開発の新常識:明日から課金してください
新規事業開発のカギ:PlusidentityのMVP戦略
Plusidentityとはどんなスタートアップか?
Plusidentity の「MVP」と製品ランチ
Plusidentity のセキュリティ基準もおそらく「MVP」ならでは
新規事業開発のカギ:マーケットを変えながら、ランチを繰り返していく
事業開発の新常識:正式な?サービスローンチは必要ないです
あなたの開発中のそのサービス、
をする必要は、実はないのです。
Yコンビネーターが教育した、ソフトウェアのスタートアップたちは、
なんてことは、露考えなくて良い、としつけられます。
極端な話、プロダクトは一生完成しなくてよいのです。
ハードウェアのスタートアップですら、
新規事業の鉄則は、
事業開発の新常識:明日から課金してください
YコンビネーターのCEOマイケル・サイベル氏は、スタートアップの創業者からの FAQ の一つである
と指示しています。
という考え方は根本的に間違っている。自分のプロダクトがいいものかどうかを知りたければ、
ユーザがプロダクトを使うさいのハードルを少しだけ上げ、ユーザが使い続けるかどうか見ることだ
出典:Michael Seibel – Building Product
とも発言していますので、この二つのステートメントを掛け合わせると、
そんなことが可能でしょうか?
新規事業開発のカギ:PlusidentityのMVP戦略
Plusidentityとはどんなスタートアップか?
Plusidentityがユーザであるスタートアップの従業員に提供する利便性は、
しかし Plusidentity は、たった1か月で最初のプロダクトをランチしました。むろん、
たった1か月で、完璧なセキュリティを担保する製品を作るのは、逆立ちしたって無理です。
そこまでしっかりしたセキュリティなど求めるわけがない
ランサムウェアでゆする馬鹿がいるわけない。
成熟していないスタートアップが最も気にするのは、それよりも、それこそ、
セキュリティを気にして、パスワードとかいちいちタイプしている暇なんかない!
ジョブの要素 | 要素の値 |
Progress/推進したいこと | 開発に使用している複数のシステムへのSSO |
Conditions/おかれた状況 | 自社製品ソフトウェア開発中に、Slackでコミュニケーションしながら |
Obstacles/その状況での障害 | SSOのシステムに充てられる予算が限定されている |
Imperfect Solution/イマイチの解決策 | Okta、OneLogin |
Quality/妥協できる、下辺の品質基準 | 個人情報を預かっていないので、セキュリティは正直そこそこでよい |
Plusidentity が推進してくれる、スタートアップのソフトウェア技術者の Job To Be Done
上記のジョブのステートメントの、特に Obstacles と Quality をご覧ください。
そこそこの品質で良いから、価格勝負で
ローエンド破壊型のイノベーションをしかけることができるのです。
Plusidentity の「MVP」と製品ランチ
スクショでも取っておきたかったのですが、この会社の誕生時のサイト、
iPhoneアプリでのSSO?→鋭意開発中です。
AndroidアプリでのSSO?→鋭意開発中です。
(LinkedIn創業者 リード・ホフマン氏)
- デメリット1:製品のランチが遅くなる
- デメリット2:自分たちのサービスの価値がわからなくなる
- デメリット3:自分たちがいまいかなる仮説を検証しているのか、わからなくなる
デメリット1:製品のランチが遅くなる
これは一目瞭然でしょう。スタートアップのマジョリティを占める Slack ユーザにのみ、
的を絞ってASAPで開発したからこそ、1か月かからずに最初のMVPが世に出せたのです。
これは逆に、失敗したときのデメリットも最小化できることを意味します。
この記事でとりあげたファーストリテイリングの野菜通販事業のように、
全てのサービスを整えてから広いエリアにランチしたら、
失敗したときにダメージが大きいのは火を見るよりも明らかです。
とかのたまうコンサルや経営学者の助言は、
さっぱりメイクセンスしませんので、無視しましょう。
デメリット2:自分たちのサービスの価値がわからなくなる
Plusidentity が最初から有償でランチしたのは、
です。
当たりまえですが、無償でランチしたら最後、
が全く不明になります。
のと、
という二つの現象を比べたとき、どちらが有益なフィードバックをもたらすでしょうか?
圧倒的に後者です。前者だと、
という本気度が甚だ低いユーザからは、有効なフィードバックがほとんど得られないのに比べ、
金を支払ってほしいとお願いしている後者のユーザからならこの上なく真剣なフィードバックがえられ、
売れないなら売れないで、売れない理由を突き止め、
様々なパラメータを変更してイテレーションで仮説検証を進めていくことで、
収益を拡大していくヒントが得られます。
その結果どうしても売れないと結論されれば、MVPの段階でピボットすればいいだけの話です。
デメリット3:自分たちがいまいかなる仮説を検証しているのか、わからなくなる
大企業がよくやるように、最初から機能をそろえた、充実した
をランチした場合、どうなるでしょうか?
そこそこユーザがついたとしても、
のです。
Plusidentityの場合、最初のMVPで証明したかった仮説はきわめて明確です。
低セキュリティでもその分 安価ななSSOに価値を見出すか?
わざと Slack のみに絞ったところが絶妙なのです。
なぜなら、Slack 自身が、まずはスタートアップ業界を制覇し、
巨大既存企業は、末端社員レベルからのボトムアップで攻略したサービスだからです。
Plusidentityは、最初のMVPがバカ売れしてほしいとは、恐らく毛頭考えていなかったでしょう。
この段階では、まずは、スタートアップが使うのか?という上の価値仮説が検証できれば良いのです。
同社の場合、
10社のユーザがつくことによってたちまち上の価値仮説が正しいことが証明されたのですが、
万が一これが完全否定されても、ピボットを考え始めればよいだけで、その際、
たった数週間で開発したMVPを葬り去るのは、すこぶるダメージが小さいわけです。
この最初の価値仮説が証明されたら、
低セキュリティ(どこまで妥協できるか?)でも、その分 低価格(いくらぐらい?)なSSOに価値を見出すか?
という新たな仮説を、イテレーションで段階的に検証していけばよいということです。
Plusidentity のセキュリティ基準もおそらく「MVP」ならでは
(最近になってSOC2を要約取得しています。)
(大企業の皆さんは、既存の他社サービスを使ってください)
という確信犯的なやり方です。
新規事業開発のカギ:マーケットを変えながら、ランチを繰り返していく
↓
無償でPoC
↓
価格を付けて販売開始(「正式」なサービスローンチ)
というのは、ほとんどの場合で膨大な資源の無駄をともなう開発手法です。
なぜなら、たまたまうまくいけばいいのですが、誰も買わなかった場合、
数か月かけて一生懸命に開発
↓
1年間、無償でPoC
↓
価格を付けて販売開始(「正式」なサービスローンチ、PR Times とかに告知、話題にはなる)
↓
しかし、誰も買わない、かつ、売れない理由は皆目不明
↓
「結果としてうまくいかなかったけどよく頑張ったね」と、
結果として大失敗して株主から預けられた資金を無駄に使ったのに、
そこそこの人事評価を、担当者は得られる
という、外部から見ると、笑い話にしかみえない珍妙な落ちがつくことすら、ままあるからです。
だから、
なのです。
Plusidentity をはじめとしたYコンビネーターの教えを受けたスタートアップたちは、これを絶対にやりません。
- まず、Slackのみ対応で、一番尖ったユーザ(イノベーター)のいるはずの、スタートアップに絞って市場試験
- 次に、Slackより使用者数の多いはずの、Chromeの拡張機能対応で、SMBの市場試験
- …………
というように、様々なタイプのマーケットに
そのマーケットに一番響く有償のMVPを投入していくことで、
への道を段階的にたどっていくのです。
次の記事では、
をあらためて議論し、それと上記のターゲット市場の話を結び付けて語ります。
ここで語った無償のPoCに関する議論を、よりコンパクトに自著で語っております。