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イントロダクション
私はリーンスタートアップのプロセスの大切な一環である
のスキルを徹底的に磨くため、一時期、街行く人にいきなり話しかけて友達になる練習を、日本でも有名な PUA/Pick Up Artist について、必死で練習したことがあります。
日本では「ナンパ」と蔑称されるこの活動ですが、アメリカや韓国では「頭の回転が早い男が、男を磨く活動」としてリスペクトされていますし、声をかけられた女性も、つれなく断ることはままあれど、異常なこととしては捉えないです。大ヒット映画 “TOP GUN” には、トム・クルーズ氏演じるパイロットが、バーで美人にライチアス・ブラザースの名曲を歌ってアプローチするシーンがありますが、これも堂々としたナンパなわけです。
真夏の銀座で汗みずくになりながら、最初のころは女性に悲鳴を上げて逃げられたりして(女性の方マジごめんなさい)、周りのブランドショップにはにらまれるわ(こちらもご迷惑をおかけし申し訳ない)、自身のレジリエンス(七転び八起きの精神)をとことん試される、非常にしんどい特訓でした。はっきり言って、二度と体験したくないとその時は思ったものです(顧客インタビューの視点からは、この記事「事業開発を成功させる顧客インタビュー:その実行に必要な「瞬間ラポール」とは?」で詳しく説明しています)。
最初は「こんないかにも理屈だけの、女慣れしてなさそうな男がナンパなんてできるわけがない」という態度だった、師にあたるPUAでしたが、どうしても顧客インタビューが上手になりたい私が、なんど断られても突撃していく姿を認めたのでしょう、しまいに缶ジュースをおごってくれ、
としみじみ聞くまでに態度が軟化しました。ここから始まる、誰とでもあっという間に仲良くなるための修業は、とても良い経験だったと思っています。なぜなら、
なわけで、女性の反応を見ながら、自分自身のコーデや姿勢、話し方を変えていくことでしか、絶対に実績が上がらないからです。
新規事業開発の「壁打ち」の壁=自社のオフィスの内壁
ところで、日本の企業の中には、事業企画/ビジネスプランの
なる活動を行う会社があります。私は初め聞いたときは、この慣習の意味が、正直ピンときませんでした。
というのも、女性の手も握ったことのない男性どうし、恋愛本を片手に自宅にこもって、
「いや、ああすればもっとモテるだろう」
と、むなしい議論をしているのと、どこが違うのかわからなかったからです。
私のPUAの師匠が、こういいきっていました。
これを事業開発のコンテクストで言い換えると、
となります。
では、どうすればいいか?
モテたければ=自分のサービスをたくさん売りたければ、
て、女性=顧客に声をかけに行くしかないのです。少なくても生成AIが出てくる前までは、そのように言わざるを得ませんでした。
顧客インタビューに関しては、この記事「新規事業インタビューで成功を掴むための秘訣」で解説しています。
新規事業開発の失敗要因
新規事業開発の失敗要因 もっとも「あるある」は?
イリジウム、fire phone の、大失敗事例から容易に類推できる通り、新規事業開発が失敗する要因の、未だに最大のものは、
というものです。非常にシンプルですが、これが理由です。
顧客開発ランチパッドをフレームワーク化したスティーブ・ブランク氏が、たった一言で、この現象を見事に表現しています。
メディアの Inc.が100社のスタートアップにインタビューしてみた結果、これを裏付ける検証結果を得ています。
42 Percent of Startups Fail for This 1 Simple Reason: the startup didn’t solve a big enough problem.
訳:42%のスタートアップがこのたった一つのシンプルな理由で失敗している、(顧客のかかえる)大した問題を解決しなかったから
新規事業の失敗の背景
今でこそ、極めて高い利益率をずっと維持しているソーシャル・ショッピング・サイト
ですが、堀江貴文氏のおすみつきで、2年もの紆余曲折を経て粒粒辛苦の末ようやくランチした当時は、
(須田将啓氏のインタビューより)
という状態だったそうです。これでは社員を到底食わせられませんね。
この後、須田氏は改善活動を繰り返して収益性を改善していくわけですが、このエピソードをもって、
と、能天気にやってはいけないわけです。
なぜなら、アーントラプレナー/イントラプレナーがどんなに心血を注いでイテレーションを繰り返しても、一生損益分岐点を超えない事業プランのほうが当たり前だからです。
須田氏は、もちろん極めて有能であり、抜群のレジリエンスを持ち合わせていたからこそ、成功をつかみ取れたのですが、あくまで一握りの成功者なのです。
というのは、あまり科学的な考え方とはいえず、思い込みの域を出ません。
Yコンビネーターにアプライしてくる1万社のうち、Product/Market Fit に到達するのは、たったの1,2社です。ということは、現時点で起業家として活動している私自身も含めて、
と、悲観的に思っている思っている方が無難だということです。
いまでは日本の若い女性も持ち歩くようになった GoPro のカメラデバイスですが、創業者のニック・ウッドマン氏は、失敗を恐れたそうです。GoProより前、2つのスタートアップを失敗させ、こりごりしていたからです。
出典:Forbes: Five Startup Lessons From GoPro Founder And Billionaire Nick Woodman
リーンスタートアップをフレームワーク化したエリック・リース氏も、2社のスタートアップを失敗させ、3社目のIMVUも危うく同じ憂き目に合わせかけたところで、スティーブ・ブランク氏から伝授されたやり方で事業内容をピボットさせ、涙ながらに、半年かけて書いた何千行ものソースコードをどぶに捨てながら、成功に転じさせています。
新規事業の失敗要因:新規事業開発の社内プロセスの問題
新規事業企画承認のプロセス
大企業で新規事業開発を行おうとすると、以下のような
社内プロセス
を通らざるを得ないものです。
- 誰かが新規事業企画を思いつき、チーム内で称賛される
- デスクトップリサーチで市場調査を行うなど、マーケティング部門がMRDを造る
- 潜在顧客5人くらいにニーズを聞いてみる
- 社内で有能とされる人々の意見で事業プランを磨く(壁打ち)
- 社内で念入りに準備した、無難な事業プランで、社内のゲートウェイを潜り抜け、一千万の投資を得る
- スクラムで、半年かけてサービスを構築する
- 無償のPoCを半年かけて回し、PR TimesにPoCの様子を掲載してもらう。
- 事業化(この「事業化」が、必ずしもバラ色の意味合いを持たないという分析をこの記事「事業化の成功ステップ:具体的な方法と実践的なヒント」で行いました)
- 営業広告などをやるが、一向に売れない……
扉絵(アイキャッチ画像)に書いた通り、このすべてのステップに指摘を入れたいところはありますが、この記事ではあまり風呂敷を広げず、⑤、⑥に着目しましょう。④はすでに本記事冒頭で批判済みです。
事業プランの承認者は誰か?
ある大手のメーカーさんで、リーンスタートアップの講義を行ったとき、
と怒られたときの話は、あらためてここに丁寧に書きました。さて、上記の⑤、⑥を見てみましょう。
最初にいきなり、なぜか事業プランが確定してしまいます。そして、社内だけで、全くといっていいほどお客様の声を聴かずに、(『モノもないのに聞きにいけない』という、いいわけがたいていなされます)いきなりどかんと1千万(!)もの投資がつきます。
私は思わず!マークをつけてしまいましたが、大企業は、どうもこれを大金だと思っていないようです。私も、かつて携帯電話の基地局を全国に敷設する仕事をやっていたので、気持ちは重々わかります。
Yコンビネーターを卒業して、ドローンのOSを造っていたスタートアップ Airware がNASAなどの大組織から来た幹部に資金を湯水のごとく使われて結局何ひとつ価値あるものを生み出せないまま倒産した通り、この
は、新規事業開発において致命的です。
Airware のエピソードがさらわれている参考文献です。
[出所] オマール・アボッシュ, ポール・ヌーンズ, ラリー・ダウンズ 著, 「ピボット・ストラテジー 未来をつくる経営軸の定め方、動かし方」, 東洋経済新報社刊
ちなみに Airbnb についた最初の投資額、たったの2万ドルの、雀の涙です。
そしてこれを、なんとなくかっこよさげだからとアジャイル開発で造ってみたりするわけですが、スクラムだろうがガントチャートしこうがハイブリッドだろうが、
Garbage in, garbage out./ゴミを入れてもゴミしか出ない。現に、
わけですし。
つまり、この社内で新規事業開発の企画を通すプロセスが持つ欠点のうち最大のものは、
ことです。これぞ、イリジウムや fire phone が大ゴケした理由そのものですね。
次は、
をテーマに書きました。