新規事業の開発において、途中でコストが膨らんだり市場に受け入れられず失敗したりして悩んでいませんか。この記事では、無駄な投資を防ぎ成功確率の高いプロジェクトを選別する手法を解説します。お読みいただくことで、確実な利益を生み出す開発プロセスを構築できるようになります。
イントロダクション──なぜ天才マーケター森岡氏はP&Gにクビにされかけたのか?──
米国P&G本社が日本に導入せよと厳命してきた、化粧品「フィジーク」のコンセプトを聞かされたとき、天才マーケター森岡氏は愕然としました。
いまでこそもともと、洗剤で汚れを落とすという「ダーティケア」が原点のP&Gには、真逆の「ビューティケア」を売るのに大きなハンデがありました。要するに「洗剤を作っている会社の化粧品をあまり顔に塗りたくりたくない」というイメージです。(ちなみに同社ブランドSK-IIは、1970年代にマックスファクター日本法人が日本酒造りの杜氏の手肌の美しさから着想を得て開発したもの)
「フィジーク」のコンセプトは、「あなたを解放する」というもの。独立戦争を戦ったことのない日本人には、この「解放する/to liberate」という単語がいっこうにピンときません。加えて、1本1,980円という価格設定。P&Gが得意な一般のドラッグストアやGMSを中心としたマスチャンネルを通じて、マスブランドとして売る戦略で、その大上段な値付けは一体どういうつもりなのか?
WHO、WHAT、HOW、どれもが焦点を外していて、しかもその3つがガタガタであり、ちぐはぐになっている。
しかし、フィジークはすでに日本でのテストマーケット開始が決定されており、半年後には福岡・佐賀エリアの店頭に並ぶことになっていたのだ。
(森岡毅著『苦しかったときの話をしようか』ダイヤモンド社刊)
しかし、本社はこの案件をごり押ししてきます。なぜならば、当時のP&G社長の pet project 肝いりだったからです。ブランドマネージャーとしてはデビュー戦だった森岡氏は、上司に「貴方はフィジークが成功すると思っているのか? テストマーケットを1年遅らせてくれ!」とねじ込みます。最終的に上司はキレて、こうはっきり叫びます。
結局涙を呑んで森岡氏はこの案件を受け、部下や販路の関係者全員に「私はフィジークの可能性を信じているからやってくれ」と苦しい嘘をついて悩みに悩みながら必敗が確定しているテストマーケティングを実施し、そして、予想通りの大惨禍を生み出します。
森岡氏のミッションは、むろん失敗だけでは完遂しません。撤退戦を戦い、あろうことか、負けることが確定しているとわかった戦いを強いられたにもかかわらず、敗戦の責任をとって詰め腹を切らされかけます。すなわち、クビにされかけたのです。この後どうなったかは、ぜひ、上掲書をご参照ください。
ここで指摘したいのは、P&Gでは昔からステージゲート法がフル活用されているという点です。だから、この「鬼子」である「フィジーク」も、ステージゲートを潜り抜けてきているはずなのです。
ステージゲート法の全体像
ステージゲート法は、おおよそ二つのバージョンにジャンル分けすることができます。
- イノベーションマネジメントによる、多産多死的な事業開発の管理
- スタートアップたちが導入している、アイデア→Customer / Problem Fit→Problem / Solution Fit……とやっていく管理方法
この二つの手法、別物なのですが、ステージゲートと名付けられた理由は共通しています。事業開発を複数のステージに分割し、次のステージに進むにあたり、ゲートウェイを設けて一定の要件がクリアできているかを評価、その要件を満たしたものを次のステージへと進ませ、開発の次段階を遂行するというやり方です。そして最後まで到達できたアイデアのみを本格的に事業化します。
この記事では、議論の発散を防ぐため、①にのみ絞って解説→反論していきます。典型的には、アイキャッチ画像(扉絵)のようなステージに分かれるようです。どうも、各々の段階で、
- 壁打ちして、いわゆる「スジのいいアイデア」「きらりと光るアイデア」「骨太のアイデア」かどうかを判定
- プロトタイプ開発、PoCしてみて、フィージブルでないアイデアを捨てる
- 事業化をトライアルして、アーリーアダプターがつくかどうかを確認
- サービスローンチする
……と、数多くの事業アイデアについて並行に進めていき、ふるいをかけていくらしいのです。「どうも~らしいのです」とあいまいにどうしてもなってしまって恐縮なのですが、こんな金ばかりかかる無駄だらけのやり方、私は一度もやったことないですし、全くもってオススメできないからです。
【関連記事】ありきたりな新規事業アイデアを、成功事例に基づいたスジのいいアイデアに生まれ変わらせるためには
ステージゲート法の特徴
ステージゲートの特徴として、絶えず市場からのフィードバックを得られることが挙げられる、そうです。果たして本当でしょうか?
本当に顧客のフィードバックを豊富に得られて、自分たちの事業アイデアがサクッと躊躇なく捨てられるのなら、リクルートのチームがホットペッパーの改善を目的に動いていたとき、瓢箪から駒的に、エアレジの事業アイデアのインサイトを顧客と接しながら得たということが可能なはずです。要するに、一つのアイデアを追いかけているうちに、顧客のひょんな一言から、思わぬ新たな着想を得て、大ヒット事業を造る可能性が開ける、というものです。
最近話題の新規事業開発手法であるエフェクチュエーションでも、この「意図的に取りに行く偶然」が極めて重視されています。しかし、ステージゲートを守るのなら、これが原理的に不可能となります。
ピボット(それまでの事業企画をひっくり返して方向転換)して、以前のステージに戻るというサイクルがないからです。矢羽根は、パラレルに、しかし、前に前にだけ進みます。できるのは、途中で止まることだけです。そして、途中で止まった事業には会社がリソースを注ぎ込むことをやめます。ソ連軍の有名な狙撃手のエピソードを描いた「スターリングラード」という映画の冒頭、ドイツ軍から逃げ出そうとしたソ連軍兵士に対し、背後からソ連軍自身が銃弾を打ち込むシーンが出てきますが、似たような状況です。
したがって、事業アイデアのイテレーション的なカイゼンは望めますが、今まで一生懸命育ててきた、かわいいかわいい自分たちの事業アイデアを、思い切ってゴミ箱にぶち込むときはためらいます。実際、このタイプのステージゲートを解説したあるサイトでは、
と勇ましいことが書かれています。いや、頼むから、そこで進軍ラッパ鳴らすなよ……。
初期段階で迷ったら、金と人を投入する前に、事業アイデア自体を変えろ。大失敗を防ぐための鉄則です。
もう一つの特徴は、多量多死をためらわないを実現できることだ、そうです。…………ううむ、これは非常にまずくないでしょうか。さらに、多段階に少しづつ投資するから、出費が少ないのだそうです。ほんとですか?
これらの特徴がどれだけ「ナシよりのナシ」かは、このページの下の方で指摘します。
【関連記事】なぜ生成AIに「この商品は売れますか?」と素で訊いてはいけないのか?
【関連記事】リーンスタートアップとは?メリットや事業成功へ導く手順を詳しく解説!
デザインレビューとの違い
ここでいったんステージゲート法の批判を中止、デザインレビューとの違いを説明しておきたいと思います。
ステージゲート法が事業全体の成功を判断するのに対し、デザインレビューは製品の技術的な品質を担保するための評価です。両者は目的が異なるため、適切に使い分けることが重要になります。以下の表で、違いをわかりやすく比較します。
| 比較項目 | ステージゲート法 | デザインレビュー(DR) |
|---|---|---|
| 評価の主な目的 | 事業としての成功と収益の確保 | 製品の安全性や品質の担保 |
| 評価の対象 | 市場性、収益性、戦略への適合性 | 設計図面、技術的な仕様、試作品 |
| 参加する担当者 | 経営陣、事業責任者、マーケティング担当 | 設計技術者、品質保証担当、製造部門 |
事業全体の成功を評価する
ステージゲート法は、プロジェクトがビジネスとして成立するかどうかを総合的に評価します。市場の魅力や競合との差別化、そして自社の収益にどれだけ貢献できるかが厳しく問われます。
たとえば、画期的な最新技術を使った新製品であっても、顧客がその価値にお金を払わなければビジネスとしては失敗です。この手法では、常に市場の視点を取り入れ、利益を生み出せる事業のみを育成していきます。
つまり、作ること自体を目的にするのではなく、売れるものを見極めることに重点を置いています。経営的な視点から、投資対効果を最大化するための判断を下すことが特徴です。
設計品質と技術的妥当性の評価
一方でデザインレビューは、主に設計や開発の現場で実施される技術的な評価を指します。図面や試作品が仕様書通りに正しく作られているか、安全性や耐久性に問題はないかを確認します。
たとえば、自動車の部品を開発する際、要求された強度を満たしているかを専門家がチェックするのがデザインレビューです。より良い製品を造るために、技術的な視点から改善点を洗い出します。
つまり、デザインレビューは「製品を正しく造れているか」をチェックする活動です。それに対して、ステージゲート法は「そもそも正しい製品を造っているか」を判断するフレームワークだといえます。
ステージゲート法のメリットは?
いったん、まず、ステージゲート法のメリットと世間で言われていることを復習しておきます。ステージゲート法を導入することで、あくまで線形プロダクト開発という大前提はあるものの、開発におけるリスクを早期に発見し、プロジェクト管理や意思決定を大幅に効率化できます。組織全体で同じ基準を持つことで、無駄のない開発体制が整います。
以下の表に、導入によって得られる主なメリットを整理します。
| メリットの種類 | 具体的な効果と利点 |
|---|---|
| リスクの低減 | 見込みのないプロジェクトを早期に中止し、無駄な投資を防ぎます |
| 業務の効率化 | タスクと目標が明確になり、スケジュールの遅延を防止します |
| 透明性の確保 | 客観的な評価基準により、関わるメンバーの納得感が高まります |
開発リスクを早期に発見できる
プロジェクトの初期段階から厳格な審査を行うことで、致命的なリスクをいち早く見つけることができます。技術的な実現性の低さや市場のニーズ不足といった問題を、早い段階で洗い出します。
たとえば、開発の終盤になってから法規制の壁にぶつかったり、競合から優れた類似製品が発売されたりすると、これまでの投資がすべて無駄になってしまいます。こまめにゲートを設けて状況を確認することで、被害が大きくなる前に軌道修正や中止の判断を下すことができます。
結果として、一つの大きな失敗で企業が深刻なダメージを受ける事態を避けることができます。小さな失敗を早めに経験することで、致命傷を防ぐことができるのです。
プロジェクト管理の効率化
開発の工程が明確なステージに分割されるため、各担当者が何をすべきかがはっきりとわかります。それぞれの段階で求められる成果物が定義されているため、迷いなく作業を進めることができます。
これにより、部門間での作業の重複や連携ミスを防ぐことができ、組織全体の生産性が向上します。次に何をするべきか迷うことが少なくなるため、スケジュール通りにプロジェクトが進行しやすくなります。
また、リソースの分散を防ぎ、有望なテーマにのみ優秀な人材を集中させることが可能になります。効率的な進行は、開発担当者のモチベーション維持にもつながります。
意思決定プロセスの透明化
ゲートでの審査基準があらかじめ明確になっているため、意思決定のプロセスが透明化されます。なぜそのプロジェクトが承認されたのか、あるいは中止になったのかという理由が誰の目にも明らかになります。
判断基準が上司の感覚といった属人的なものにならず、客観的なデータに基づいて議論されます。そのため、開発を中止された担当者も理由に納得しやすく、次のプロジェクトに前向きに取り組むことができます。
不公平感がなくなることで、組織内のコミュニケーションが活発になり、建設的な意見交換が生まれます。企業全体として、論理的に事業を評価する文化が根付いていきます。
ステージゲートの流れ──各ステージ、ゲートでの検証例
各ステージのゲートウェイをくぐれる条件には、たとえば以下のようなものがあるそうです。
ステージ1 アイディエーション
①自社の戦略に適合している/②潜在的な技術競争力がある/③市場が魅力度のいずれかが評価できる。
……いや、いずれかじゃダメですよね? 最初から要件ゆるゆるです。
こんな条件はすべてアイデア段階でクリアしてないと、プロダクト/マーケット・フィット(行列のできるラーメン屋状態)達成は永遠にできません。
最悪、少し緩和してもいいのは、②潜在的な技術競争力がある、のモート(競合から身を守る盾に当たる差別化要因)の要件だけです。
例えば、Airbnbには創業時モートが浅かった。
線形プロダクト開発の世紀の大失敗例イリジウムの事業アイデアも(ぜひ「あわせて読みたい」に挙げた、当サイト別記事をお読みください)、このステージは余裕で突破できてしまいます。
①も②も、完璧に満たしていたからです。
ステージ3 開発
開発にコミットできるステークホルダーがいること(自社だけで開発しきれないときは、協力してくれる企業がいる、など)が、このステージを突破できる大事な要件だそうです。すなわち、Feasible であること、ですね。
ですが、ちょっと待ってください。
開発ステージに達する前に、しつこい顧客インタビューによって、あるいは MVP / Minimum Viable Product を速攻で世に出して、確実にそこに大きな市場があることを検証するステージはどこに??
Feasibility Study/実装可能性スタディよりも、市場から必死で求められるかどうかの市場性スタディ/Desirability Study のほうが何倍も大事です。
なぜなら、市場で売れないものをいくら開発製造することができても、そこには意味などないからです。
ここでこのような説明が聞こえてきます。この段階でプロトタイプを作ったり PoC したりするからわかると。
その PoC、もしかしたら無償ではないですか? 無償の PoC は百害あって一利なし、全く無効な検証方法だと、私はこのブログで何度も証明しています。
もう一つ、心底イタいのは、世紀の線形プロダクト開発の大失敗例イリジウムの事業アイデアも、ここまで到達でき、この段階に至る手前で、すでに何億ドルもどぶに捨てていたことです。なぜなら、衛星電話は、宇宙に衛星をあげてみない限り、フィージブルかどうかわからないからです。
イリジウムプロジェクトでいうなら、このステージで、当時の副大統領アル・ゴア氏がテストコールをかけています。
イリジウムの場合、衛星同士が絶えず対話する複雑なコンステレーションメカニズムを実装しない限りプロトタイプとすら呼べなかったので、72個の衛星をこの段階で打ち上げ終えていました。
最初の PoC は、イリジウムの場合は失敗でしたが(ゴア副大統領の声は相手に伝わらなかった)、ここまでにすでに何億ドルも消えてなくなっていた事実は変わりません。
そしてそれは、泣いても笑っても回収不能のサンクコストでした。
ステージ4 事業化トライアル
このステージで検証する要件、アーリーアダプターがいることだそうです。
遅すぎる。
ここで初めて、本気の顧客がつくことの検証ですか?
多段階投資とおっしゃいますが、ここまでにどれだけ多くの工数とキャッシュを捨ててますか? イリジウムだったら億ドル単位ですよ、すでに。
心底不思議で仕方ないのですが、なぜ、ビジネスモデルキャンバスを片手に顧客を片端から訪ね歩き、客の課題を言語化し、ダメなキャンバスを顧客の前で燃やして書き直していくリーンスタートアップメソッドでやらないのですか?
この方法でやった場合、キャッシュアウトは、A3の紙数十枚と付箋紙代だけで済みます。
さらにいいのは、前に戻るサイクルがあるので、案件は一つ、たったの1チームという最小単位で、複数の事業アイデアを高速に検証していけます。
事実:iPhoneもまた、このような「背水の陣」方式では開発されなかった
ここまで読んできてくださったあなたの頭に、このような疑問が浮かんだかもしれません。
そんなこといったって、iPhoneも、ステージゲート法ではなかったにせよ、ジョブズの天才的ひらめきから、似たような不退転の状況で生み出されたのでしょう?
いいえ、それは Apple による「大本営発表」であり、二重三重の意味で、事実ではありません。以下が事実です。
- iPhone の前に、音楽ケータイ ROKR E1 の手痛い、ブランドを毀損しかねない大失敗があった。すなわち iPhone はピボットの結果だった
- iPhone はそもそもジョブズの発案した事業アイデアなどではない
- 2007年に発売された初代 iPhone は、ボロボロの MVP で、Apple の真の偉大さは、それを倦まずたゆまずコツコツ顧客からのフィードバックをもとに改善し続けたことにある
詳しくは、「あわせて読みたい」に挙げた、当サイト人気記事「iPhoneは、天才スティーブ・ジョブズの発明だという大嘘」をご覧ください。
ステージゲート法の巨大な問題点
断言しますが、このやり方でやったら、どんなにアイデアの数が多くても、間違いなく、ことごとくプロダクト/マーケット・フィットは達成しません。
よほどの僥倖がない限り、高い確率で見事に全滅です。
このやり方は、単に、たくさんの案件にまんべんなく人と金をばらまいて、並行で線形プロダクト開発を進めているだけだからです。
そして上記の通り最悪中の最悪は、多産多死を自社内で、それぞれの案件に人とモノをある程度はかけて実現しようとしていることです。
当然、多段階投資を謳いつつも、コストの総計は膨大なものになります。
プロトタイプと MVP の違いが皆目分かっていないので、このプロセスの推進派が思っている以上に、実は各案件に金がかかっているのです。
かつて私は、ある一流商社に、私が一から作った事業開発を学べるトレーニング「インキュベータートレーニング」を提供したことがあります。
全体としてこのトレーニングは大成功で、今でも当時のことをはっきり覚えており、仲良くさせていただいている大切なお客様を生み出した、私の人生にとって非常に大切な経験でした。
いまでもこの商社様には大変感謝しております。
ただ、ある商社マンだけは、私の話をろくに聞かずに、私の話の間中、ずっと露骨に内職をしていました。
私の同僚が見かねて、「どのような基準で、ある事業に投資しますか」とその方に質問しました。
そのときの答えの全文を覚えているわけではありませんが、その回答の中に強烈に引っかかる表現が1つありました。
それは、ある事業アイデアにお金を張るという表現です。
この「張る」という表現は、ルーレットの目にチップを載せるという意味です。
おそらくこの商社でも投資ポートフォリオを組んで、ステージゲート方式でどの事業にどれだけの金を突っ込むか、という議論をしているのでしょう。
私は自分の話をしているときに内職されてもいっこうに構いませんが、この「張る」という表現を聞いたとき、率直に言ってこの人に対する気持ちは、微妙というか、モヤモヤするというか……
「シンプルに嫌い!」藤巡査部長
「聖子ちゃん、声出てる」源巡査部長
©傑作警察漫画『ハコヅメ』
例えば万が一私自身がこの商社の株を持っていたとします。そしてこのセリフを私の目の前で言われたとします。
当然のことながら、この張られるお金の中に、私が貯めてきた貴重なお金が幾分かは少なくとも混じっているわけです。
果たして私はこの商社マンを、高野山の僧のように徳の高い人物だと評価することができるでしょうか。
……このように、ポートフォリオを組んでステージゲート方式で新規事業開発を系列で開発していくやり方(ビジコン含む)は、つまるところ、自社がすでに散々失敗してきた線形プロダクト開発以外のやり方を知らないので、仕方がなく同じ轍を踏んでいるのに、「モノを造ってやってみなければ丁半はわからない」というコンテキストで千三つという表現が言い訳として用いられているにすぎません。
チップを張られた新規事業がプロダクトマーケットフィットに達する確率は、千三つどころか、1万分の1です。
百歩譲って、その事業が利益を出すことが成功だと定義したとしても、柳井氏ですら「一勝九敗」ですから、ポートフォリオ全体に「張られた」金額の総計を上回る売り上げをすべての新規事業が合算しても上げられるかというと、そうでない確率の方がはるかに高いわけです。
そう考えていくと、このポートフォリオを組むやり方は、要するに運任せだろ! と株主総会でつるし上げられても文句を言えない側面を、最初から原理的に含んでいるわけです。
成功確率を高めるよう、ステージゲート法を改変するには?
Procter & Gamble(P&G)の本社には、「失敗の壁」と呼ばれるユニークな展示があります。
これは、過去に失敗した製品を展示することで、会社が犯した過ちを忘れないようにし、同じ過ちを繰り返さないようにすることを目的としています。
- ファブリーズ スセントストーリーズ
ファブリーズ スセントストーリーズは、15分ごとに香りを切り替えることで、においに慣れるのを防ぐように設計された消臭剤でした。
しかし、見た目がCDプレーヤーに似ていたため、消費者が使い方を誤解したりして、消費者に受け入れられませんでした。 - チャーミン スペースメーカー
チャーミン スペースメーカーは、パッケージの場所を取らないように圧縮されたトイレットペーパーでした。
しかし、形が崩れてしまい、使いにくかったため失敗しました。 - クレスト
クレストは歯のホワイトニング市場への参入が遅れ、消費者に十分アピールできませんでした。
この内容を引用した記事には、失敗を恐れない。失敗から学び、改善するとあるのですが、いやいや、そもそも、「(完成品を世に出して)市場を試験場にする」(濱口秀司氏)を極限まで避けることが、ぶっちぎりでいちばん大事なのではないでしょうか? そもそも、本来そのためのステージゲート法なのでは?
ここで、言わずと知れた、P&G の大ヒット作 スイッファー(Swiffer) をとりあげます。
最初は、P&G のダーティケアの能力を生かし、全く新しい床洗剤を開発するという企画でした。
公衆トイレを掃除している様子を思い浮かべてください。あれがアメリカ一般家庭でどこでも行われていた、掃除の光景です。
開発者たちは、いくつかの家庭を訪れ、各家庭の掃除がどうしてこんなにめんどくさいことになっているのか、ということをその当時の様子をよく観察しました。
重いバケツを持って移動、思いきり洗剤を吸った重たいモップを「うんせ」と持ち上げて床に叩きつけ、ぐいぐい各部屋を掃除していく。
このとき、観察していた側は気づきます。
本当に顧客の行動にともなう苦痛を解消したいなら、そもそも、この重い掃除道具を軽くしてしまうのが特効薬だ
そして、重くなる原因の一つ、洗剤を開発するのを、モノを造りはじめない状況であっさり中止してしまいます。
そこで、バケツもモップもいらない、静電気で汚れを引き付ける掃除道具「スイッファー(Swiffer)」が誕生しました。
ここで、P&G の他製品の造り方とこのスイッファーのそれに決定的な相違があることに気づかれたでしょう。
そう、スイッファーでは最初の企画「新しい床洗剤を、完璧にお釈迦にしているのです。それも顧客の行動を観察した後に」。
すなわち、企画上の方向転換、ピボットを行っています。
いうまでもなく、早期に顧客の声を取り込み、製品の形を全く変えてしまったのが勝因です。
ここまで述べてきたことからわかるのは、以下のことです。
- ステージゲート法でもビジコンでも、高い勝率など期待すべくもない。(むしろ、全滅に終わらなければ御の字)
- 大切なのは、事業アイデアを並列で追いかけることでなく、「縦に並べる」こと。すなわちあるスロットの資金を、ピボットした後の別の企画に注ぎ込むことができる可能性を積極的に残しておくこと。
まとめ
この記事の要点をまとめます。
- ステージゲート法は、プロセスの途中で「以前の工程に戻る(ピボット)」という概念が欠落しており、失敗が確定しているプロジェクトを止めるのが難しい仕組みです。
- 「多産多死」を組織内で実現しようとすると、各案件に過度なリソースが分散され、結果として膨大なコストと時間の浪費を招きます。
- 重要なのは案件を並列に並べることではなく、顧客観察から得たインサイトに基づき、初期段階で柔軟に事業アイデアそのものを書き換える勇気を持つことです。
- 投資対効果を最大化するには、形骸化した審査ゲートを設けるよりも、キャッシュアウトを最小限に抑えたリーンスタートアップの手法で高速に検証を回すべきです。
既存のフレームワークに固執せず、顧客の痛みを解決する本質的な開発プロセスを構築して、確実に利益を生み出す事業を実現しましょう。
次は、あなたの事業アイデアが「スジのいいもの」かどうか、具体的な顧客インタビューの手法を用いて検証してみませんか?
