イントロダクション
突然ですが、ジャパンアズナンバーワンのころの車や電化製品のシェアが衰退してからも、
日本企業の製品が世界市場を牛耳っている例って、実は結構あるってご存知でした?
サンリオのキティは数年前にライセンス商売に切り替え、
レディー・ガガやマライア・キャリーのお気に入り。
を展開するエポック社はロシアでも人気だそうで、
昨今大きな市場を失って結構きついかもしれませんね。
ロシアの少女にもエポック社にも寸毫の非もありませんけれど。
ダイソーはアメリカなどで「1.5ドルショップ」を展開し、
という圧倒的な人気を博しています。
本日取り上げるのは、そういった企業の中でもひときわ地味かもしれませんが、
ラルフ・ローレンやPRPS、Nudie Jeans など高級ジーンズを手掛ける
トップブランドから圧倒的に支持されている、デニム生地メーカー
社です。
カイハラの成功を支えている3つの戦略
カイハラは創業1893年の、由緒ある企業で、もともとは備後絣(かすり)を生産していました。
大きな特徴は、日本国内に、垂直統合された開発生産設備を具備していることで、
これによってかえってコストダウンを図っています。
研究開発費
カイハラは、
- 攻めの研究開発
- 守りの研究開発
双方に早くから資金と人員のリソースを突っ込んできました。
①の「攻めの研究開発」は、同社の文化になっています。
は同社のポリシーで、現会長の貝原良治氏は、
という意味の発言をなさっています。
直近の例は、2021年の Makuake Of The Year に輝いた
の開発です。この製品は、
伸びる・戻る・顔(ジーンズ生地の髭状のしわのこと)
の三要素のバランスをとるため、実に10年もの年月を開発に費やしています。
外には出てきにくい情報ですが、当然この研究開発のコストは、
人材採用/人材育成にも向けられているはずです。
企業にとって最もキーとなるのはリテンションなので、ここには相当の工夫を凝らしているはずです。
②守りの開発は、早くは1954年の自動藍染機の自社開発に始まり、
1978年のスイス製のスルザー織機導入、藍染め連続染色機も自社開発、
多種類生産を効率的に行えるよう、製造工程のチューニングにも研究開発費を注いでいます。
バリューチェーン
カイハラは何度かの経営危機に直面しながら、バリューチェーンをチューニングし、文字通りの
で乗り切ってきました。
ここであえてバリューチェーンと表現し、サプライチェーンといわないのは、
明らかに後者の範疇外のピボットを何度か意図的に行っているからです。
同社が決行したピボットを時系列に並べます。
- 1970年の、サロン→デニム生地生産への、CS/カスタマーセグメントとVP/価値提案のビルディングブロックでのピボット
- 1978年の、染色・糊付けだけの事業から織布まで事業を拡大する
ビジネスモデルキャンバス上の、
VP/価値提案
KR/キーリソース
内でのピボット、
この結果、お得意様の中で大きな存在だった倉敷紡績が顧客から外れてしまいましたが、
このピボットは下請けを脱し、アパレルメーカへの直販へと舵を切ったことを意味します。
すなわち今度は、CS/Customer Segment 内のピボット。
このピボットは、マブチモーターも行ったものですね。 - 1991年のスピニング加工の開始、すなわち、生地メーカとしての垂直統合の完成。
これによりカイハラは、必要な時に、必要な量のデニム生地を提供することができるようになりました。
これは、デニム生地もまたファッショントレンドに振り回される、需要の安定しない、
したがって在庫の最適化がしにくい業界であることを鑑みるに、SPAモデルと称していいでしょう。
- 2021年のMakuakeにおけるB to Cのテストマーケティング販売。
- 時系列では書きにくいのですが、上記のピボットを通じて完成させた、競合メーカとは真逆の、国内特化型のサプライチェーン。
この国内特化の施策は、アパレルメーカに対する同社の価値提案のうち、スピードと品質に大きく寄与します。
このやり方は、本社のあるスペインとその周辺の国にしか工場を配さず、
TPS/トヨタ生産システムにより、1か月という超スピードで
新製品を世界中の支店に送り込むインディテックスの施策をほうふつとさせる、賢いやり方です。
キーエンス型事業開発
カイハラは、よく分析すると、驚くほどキーエンスに似た事業戦略をとっています。
それは五つの側面に分けることができます。
- 一つ一つの製品は比較的狭いが、その代わり多種類の市場を狙って
- 受託生産でなくソリューション営業で
- 高価だが高付加価値の
- 世界初のプロダクトを開発し、
- 途中の流通をぶっ飛ばして直接販売する
このうちこの節で強調すべきは①と②で、
その結果として③がくるということになります。
①は一見、同社が徹底しているデニム生地という特定市場の支配に反するように見えるのですが、
同社はバラエティ豊かなデニム生地を、しかしアパレルメーカからの受託生産になることなく、生産しています。
圧倒的なシェアと世界中のメーカからの受注は、実は一つ一つは小さい市場の合算なのです。
キーエンスもまた、この
とでもいうやり方を昔から採用しています。
その結果、カイハラもキーエンスも、安かろう悪かろうの市場は狙いません。
Makuakeに出品したジーンズも、カイハラの経営は2021年にはピンチだったにもかかわらず、
単価2万以上のハイエンドです。
両社はすなわち、競争を避けるすべを知っているのです。
そしてこれが可能なのはもちろん、上にも書いた、
アパレルメーカの命令をうのみにするのではなく、提案をして気に入ってもらうのだ
というソリューション営業です。
これももちろん、キーエンスが創業当時からずっと続けている、
顧客が気付かない
です。
だからキーエンス同様、カイハラは、多くの世界初を生み出してこられたのです。
カイハラの弱点と施策
あえてカイハラの弱点を考えます。
それは、デニム生地という特定市場の支配そのものです。
2020年からの欧米の最先端ファッションの基調は、
でした。
この基調は今に至るも基本続いており、
インスタグラムなどで欧米のファッショントレンドを追いかけ続けていると、およそデニムは見当たりません。
Makuakeで同社が展開したテストマーケティングは、国内だから成功した要素があります。
日本の、特に男性のファッションは、欧米のそれからは一巡以上遅れます。
国外でクラファンしていたら、目標額を達成できたか、もしかしたら怪しかったかもしれません。
ただし、
には、
というところをひっくり返した面もあり、そうした
コンビニくらいなら履いていっても全然おかしくないジーンズ
を目指すのはアリでしょう。
ちょうど、ワークマンが見出したホワイトスペースと同じですね。