【新規事業開発のDONT’s】顧客の潜在ニーズなど、探しに行くな 3.

【新規事業開発のDONT’s】顧客の潜在ニーズなど、探しに行くな 3.

顧客の潜在ニーズなど、探しに行くな1.で紹介したマーケティングの講座の中で、当然、下記のエピソードが登場しました。

もし顧客に、彼らの望むものを訊いていたら、 彼らは『もっと速い馬が欲しい』と答えていただろう

もちろん、みなさんご存じヘンリー・フォード氏の至言です。

このセリフを引いて、スティーブ・ジョブズ氏がおっしゃったセリフが、

フォードもああいっていることだし、私は市場調査に頼ったことがない

と言ったというエピソードも有名でしょう。

……え?ご存じない?

このスティーブ・ジョブズ氏の名言は、

初代 Mac が市場投入時にどのように苦戦、事実上、失敗したか?

iMac 、 iPod、iPhone、iPadがそれぞれどのような紆余曲折を経て開発、成長していったか?

を克明にたどっていかないと、本当のところ腹落ちしないのですが、

それはまたの機会に譲ります。

シャーロックホームズのジョブ

このフォード氏の至言のマーケティング理論による解釈、これがまた、

びっくりするほど役に立たない

はっきりいって。また、比較表つくってみましょう。

あなたは、シャーロックホームズです。

今日中に、というか今すぐ、どうしても、ある事件の関係者の話を緊急で聞きたいとします。

もしかしたらその人物が犯人かもしれないと、あなたは疑っています。

ホームズであるあなたのことです、こちらが話す言葉に対するその人物の微細な反応をうかがうために、

表情をじっくり見る

必要があります。電話は避けたいところです。

辻馬車の時代のホームズ

ワトソン君、行くぞ!

あなたは帽子をとって、その人物の邸宅へ赴くため、さっそうと部屋を飛び出します。

 

事象/表彰 英語のカテゴリ 日本語のカテゴリ 説明
馬車 Good(s) 物品 ただのモノ
品種改良を加えた速い馬の馬車 Wants / Product ウォンツ/プロダクト 顧客の捉え方で変化する、ニーズを
満たすための特定のプロダクト
速く移動したい Needs (潜在)ニーズ 本当に顧客が欲しいもの
生き残るために必要な大事なもの
ウォンツとニーズの違い

自動車の時代のホームズ

さて、ここで、あなたのために、時代を進ませます。

この世界では、辻馬車の代わりに、タクシーがけっこうロンドン市街を走っています。

 

事象/表彰 英語のカテゴリ 日本語のカテゴリ 説明
車両 Good(s) 物品 ただのモノ
馬車/自動車 Wants / Product ウォンツ/プロダクト 顧客の捉え方で変化する、ニーズを
満たすための特定のプロダクト
速く移動したい Needs (潜在)ニーズ 本当に顧客が欲しいもの
生き残るために必要な大事なもの
ウォンツとニーズの違い
ワトソン君、行くぞ!ロンドンのタクシーは高いが、仕方ない!

あなたは帽子をとって、犯人の邸宅へ赴くため、さっそうと部屋を飛び出します。

(私も2,3度乗りましたけど、ロンドンのタクシーは、自費負担ようできんお値段です。)

ポストCOVID-19のホームズ

さらに時代は一気に進みに進んで、このブログを執筆している、2021年です。

背景の解説は不要ですよね。

 

事象/表彰 英語のカテゴリ 日本語のカテゴリ 説明
車両 Good(s) 物品 ただのモノ
馬車/自動車 Wants / Product ウォンツ/プロダクト 顧客の捉え方で変化する、ニーズを
満たすための特定のプロダクト
速く移動したい Needs (潜在)ニーズ 本当に顧客が欲しいもの
生き残るために必要な大事なもの
表情見ながら、
相手から話を聞きたい
job to be done ジョブ 顧客が片づけるべき用事
ウォンツとニーズとジョブの違い
「ワトソン君、行……く必要もないかな、彼が犯人かもしれない、ズームの予約をしておいてくれたまえ」
「いや、ホームズ、それくらい自分でやんなよ。うち、あんたの雑用係ちゃう」
「………………」

ニーズの中には、解釈する側の思い込みが含まれる

はい、もうお分かりかと思いますが、

本当は移動した後が勝負

なわけです。ここでイタいのは、

ニーズの中に解釈する側の思い込みが含まれる(コンタミネーション)

という、極めて大きな弊害が、顕在だろうが潜在だろうが、

「ニーズ」という御大層な概念

にはつきまとう、ということ。そう、ここで最も大切なのは

顕在だろうが潜在だろうが、「ニーズ」は、事業開発者側の概念

vs.

「ジョブ」は、解釈によらない、顧客側の概念

ということです。「ニーズ」には、いわば、

不確定性原理

が働くのです。

キーエンスが「潜在ニーズ」を捉えられたのはなぜか?

いきなり余談から入りますがね。

マーケティング理論を私に教えてくださったくだんの経営学のセンセも思い切り誤読していたのですが、

「捉える」の読みは、「とらえる」

でも、

「捉まえる」の読みは「つらまえる」

ですからね。

とらまえるじゃないです。

学者とかコンサルファームの執行役員とか、

先生?

とか、日々うっかり呼ばれちゃっている人が国語を正確に使えないと、こっちが恥ずかしくなります。

さて、本題。

この本に、キーエンスが蛍光顕微鏡BZシリーズをどうして開発できたのか?という秘話が載っています。

蛍光顕微鏡とは、蛍光性を持った試料を観察するための顕微鏡で、細胞などの観察のために生物学や医学の研究分野でよく使われる。
キーエンスの蛍光顕微鏡が導入される前までは、顧客はシグナルとバックグラウンドのコントラストを損なわないように、顕微鏡を暗室のなかで使わなくてはいけなかった。
そこでキーエンスは、顕微鏡全体をプラスチックの筐体で囲み、本体のなかに暗室を作った。
(上掲書、第6章「価値創造の実際」)

キーエンスの(たぶん技術営業さんの)動き自体は、これは、もう、さすがというしかないです。

こんなことを徹底してやるのは、日本の大企業では、ほぼキーエンスのみでしょう。

しかし、この本の著者はこれを、

暗室を組み込むというニーズは顕在化していなかったが、キーエンスの開発者は、
顧客を細かく観察し、既成概念にしばられず考え抜いて、潜在ニーズを発掘した

と、ジョブ理論を知らないゆえに、解釈してしまいます。

で、ここで読者は、

それ、私もやりたいのだけど、どうしたらいいのか?

と、はたと困るわけです。実際にはキーエンスの技術営業が実施したのは、

ビジネスエスノグラフィーと顧客インタビューによる、カスタマージョブ(ズ)の洗い出し

で、これには定式化されたやり方があり、誰でも再現可能なのです。(おいおい紹介していきます)

 

事象/表彰 英語のカテゴリ 日本語のカテゴリ 説明
蛍光顕微鏡・暗室 Good(s) 物品 ただのモノ
暗室で利用する蛍光顕微鏡 Wants / Product ウォンツ/プロダクト 顧客の捉え方で変化する、ニーズを
満たすための特定のプロダクト
シグナルとバックグラウンドの
コントラストを損なわずに、
顕微鏡で蛍光性もつ試料を観察する
Needs (潜在)ニーズ 本当に顧客が欲しいもの
生き残るために必要な大事なもの
研究を進めるため、対象を拡大して
分析的に、蛍光性もつ試料を観察する
job to be done ジョブ 顧客が片づけるべき用事
ウォンツとニーズとジョブの違い

 

ジョブの要素 要素の値
Progress/推進したいこと 研究を進めるため、対象を拡大して分析的に蛍光性もつ試料を観察する
Conditions/おかれた状況 研究仲間のいる研究室で
Obstacles/その状況での障害 既存の蛍光顕微鏡を使うとなると、通常の研究室では明るすぎる
Imperfect Solution/イマイチの解決策 暗所に蛍光顕微鏡を移動する
Quality/妥協できる、下辺の品質基準 シグナルとバックグラウンドのコントラストを損なわず観察できれば良い
キーエンスのBZシリーズが推進してくれる A Job To Be Done

キーエンスをさすがだとほめるしかないのは蛍光顕微鏡で観察するのはあくまで研究の一環だから、、

一人の研究者だけが見るのではなく、外部モニターで研究者全員と共有できたら最強だろう

と、そこまで、なぜなぜで、ジョブを浮き上がらせたことです。

この部分は、なかなかできることでは確かにないです。しかし、

ビジネスエスノグラフィーと顧客インタビューによる、カスタマージョブ(ズ)の洗い出し

の知識を身に着け経験を積めば、顧客の、わざわざ暗所に行くというこの行動を、省かせることはできないだろうか?

と思いつくことは、決して不可能ではありません。

以降は、この方法について詳説していきます。

コメントを書く

送信いただいたコメントは承認後、表示されます。

CAPTCHA