目次
この記事には、自らいくつも新規事業を開発してきた経験から、新規事業を考えている経営者、新規事業担当者にとって役立つ、事業化のメソッドについて、ありったけの情報を詰め込みました。
まずは事業化について他のネット上のいかなる記事よりも深く考えた上で、この記事で真っ先にお伝えしたい大切なこと、それは以下です。
事業化の過程は複雑で多くのチャレンジを伴う、と考えられている方が多いのですが、実際当社 StartupScaleup.jp は、サービスの事業化なら、ほとんど四半期にいっぺんのペースで成功させています。
様々なしがらみのない業態なら、事業化そのものは決して難しくはないと私は考えます。特に生成AIを使用してサービスを起ち上げれば、計画的なアプローチや綿密な準備など必要とせずに、ものの二週間という猛スピードで事業化は可能です。
実際、この記事の初稿を書いているのは2025年4月末ですが、4月の中旬から開発して、自分で毎日使い続けていた生成AIツールの初売り上げが、つい昨日 無事たちました。すなわち、
ですよね?売り上げが実際に立ったのだから、このサービスはもうすでに企画の段階ではなく、事業になっているわけです。
しかも、そのツール、説明会のプレゼンしたときにとったお客様のアンケートの声も上々です。
このサービスは、うまく顧客開発していけば、順調に軌道に乗りそうな匂いがふんぷんとしています。
そして、この
と言う原則を打ち出したのは、私ではありません。世界最強の新規事業開発の専門家、かのYコンビネーターなのです。だから、Yコンビネーターを卒業したスタートアップでユニコーン化した企業でも、みなデビュー戦は、この鉄則に従って戦っています。
事業化とは何か?
事業化の定義とはとても単純です。それは、そのビジネスがお金を稼ぎ始める瞬間のことです。
事業化の重要性
事業化は企業にとって非常に重要なプロセスです、これは間違いありません。
いくら革新的なアイデアや技術があっても、それを市場に投入し、収益を上げることができなければ意味がないからです。
ただし、事業化に成功したからと言っていきなり企業の競争力が向上したり、売上や利益の増加が期待できるなどということは、全く保証されません。
そのようなことを期待する方は、もしかしたら、事業化と収益化をごちゃごちゃに考えられているのではないでしょうか?
私は「なかなか事業化できないのが悩みだ」とおっしゃる方に、私は「素で」問いかけます。
何年もの間、ずっと赤字を垂れ流す事業でも、事業化には、とにもかくにも成功しているはずですが、御社は本当にそういうものをわざわざつくるのが目標ですか、と。
事業化成功→収益化失敗の事例
ペットロボットLOVOTを開発・運営するGROOVE Xは、2025年2月時点で「オフィスLOVOT」の導入が1,000法人を突破するなど、法人・教育・福祉分野への展開を強化しています。
また、個人向けにもコロナ禍で需要が伸び、納品待ちの状況が続いた時期もありました。生産拠点を海外から日本国内へ移転し、品質管理やアフターサービスの強化にも取り組んでいます。
ここまでの話を聞くと、間違いなく、LOVOTは事業化に成功、しかも華々しく大成功しているといっていいでしょう。
しかし、この事業そのものが成功したかどうかは2025年6月の現時点では全く分かりません。むしろ、2025年6月時点では、
ともいえるのです。
なぜなら、LOVOTはいまだコスト割れの値段で販売されているからです。
同事業は開発開始から10年以上たった今も損益分岐点には届いておらず、GROOVE社は2024年発表の第9期決算では純損失が33.1億円と赤字が再拡大しています。
ペッパー
この記事の最後「あわせて読みたい」の有償PoCのメソッドを説明した記事で取り上げたソフトバンクの事業ペッパーは、
です。
「バズりのスタートアップ」Fast
Fastは、Amazonの「1-Click特許」が切れたタイミングで登場し、「クレジットカード情報やパスワード入力不要の超簡単決済」を売りに、メディアや投資家の間で一気に注目を集めました。
大規模な資金調達(特にStripe主導で1億ドル超の資金を調達)も成功し、従業員も急拡大しました。
しかし、事業の実態はPRほどの勢いがありませんでした。Fastの2021年の売上はわずか60万ドルで、一方で月間のキャッシュバーン(支出)は最大1,000万ドルにも上りました。
支出が売上を大きく上回る状況が続き、さらに追加の資金調達に失敗。
企業価値を10億ドル超(ユニコーン)に設定して資金調達を目指しましたが、投資家が応じず、最終的には従業員の半数を削減する案も出しましたが、それでも資金調達は叶わず、突然の事業停止・倒産となりました。
Fastもまた、
しました。スタートアップメディアの The Information は、Die Fast(速攻で死ぬ)と揶揄しました。
事業化の定義再考
私はあるスクラム(アジャイル開発の一派)に関するセミナーを聞いていて、講師のベテランのスクラムマスターが
と、「ハイキュー!!」の日向翔陽が変人速攻を目を開いて打てるようになったとき並みのハイテンションでおっしゃるので、zoomのチャットに、このような質問を入れてみました。
そのときの私の質問には、
のです……。
自慢じゃないですか、そのセミナーの中で、私は最も本質的な質問をしたと言う自信があります。
当たり前ですが、事業自体がヒットしない限り、素早く世に出した意味が全くないからです。
しかし、なぜか講演者のスクラムの専門家は、私の質問をスルーした。私にとっては大きな謎です。
私は恨みをぶちまけているわけではありません
そのマインドセットが、どこかおかしくはないですか?、それはむしろ恥ずべきことなのでは、と指摘しているのです。
二週間で事業化し、最後はユニコーンになった、スタートアップの雄たち
Yコンビネーターの卒業生のスタートアップの中には、二週間の爆速事業化に成功した例が、枚挙にいとまがないほどあります。
例えばAirbnbの最初の「サービス」は自分たちのブログに「うちに泊まりませんか?」と、簡単な広告を出したもので、ものの数時間で仕上げられ、すぐに「事業化」しました。
3人の新し物好きの若者が、まんまと Airbnb の創業者の自宅に泊まり、創業者たちは何とかその月の家賃を支払うことができたのです。
また、フードデリバリの雄 Door Dash は、45分で造った非常に簡単なサイトで、最初の売上を建てています。
静的なHTMLで書いたホームページ一枚に、その当時パロアルトでおいしいと人気のお店、8店舗のメニューをPDFでアップ。
子供にご飯を食べさせたいママたちがこのサービスを利用、とにもかくにも、ちゃんと売り上げは建ったそうです。
いずれも、今では、押しも押されもしないデカコーンになっています。
まだユニコーンになるには距離があるようですが、「あわせて読みたい」で取り上げた別記事で取り上げたスタートアップ Plusidentity も、二週間で最初のサービスを作り上げ、たちまち10社に販売して、瞬時の事業化に成功しています。
それらは、長い間の研究開発を要しない、簡単な事業案だからだろう、とおっしゃる方に対して、同じくYコンビネーターの卒業生で、ソリューゲンという、やはりユニコーン化したスタートアップの例をご紹介したいと思います。
ソリューゲンの事業は、グリーン過酸化水素の生成です。いまでは巨大なプラントを米国内に建て、大量に過酸化水素を作って販売しています。
しかし、この企業の出発点は、ガレージの中のお店で自分たちのやり方で造った過酸化水素をコツコツ売るという、神社のお祭りに集う屋台みたいな形態だったのです。
もちろん、Airbnb や Door Dash のようにアイディエーションから いきなりこの店ができたはずはありませんが、少なくても最初の資金調達をしてからこの「お店」を開くまでに、3か月以上かかったとはとうてい思えないわけです。
なぜ、事業化を目的にした事業は失敗しやすいのか?
事業化に成功↑→収益化に失敗↓が起こる原因 その1
本来事業の目的というのは、あけすけにいってしまえば、金儲けのはずです。
そして、投資したお金のほうが儲けたお金を上回っている間は、その事業は、失敗のままである、と言わざるを得ない訳です。
そして、非常に残念なことですが、失敗のまま撤退、廃業に至る新規事業は毎年 山のようにあります。
「あわせて読みたい」に取り上げた当サイトの人気記事でとりあげたiPhoneですら、天啓でアイデアを得ていきなり「事業化」→「収益化」できたものからは程遠い、という事実が、その証拠の一つです。
事業化をゴールにしている事業開発者はしかし、「自分たちは『成功』した」と、自己認知してしまいます。つまり、
のです。
事業化に成功↑→収益化に失敗↓では、その企業にとっては、プラスとはいえないのではないでしょうか。
これは、別記事で取り上げた、次の事象の構造にそっくりです。
繰り返し確認をお願いしたいのですが、本当に御社が勝ち取りたいものは何ですか?PoCの成功でも、事業化そのものでもないですよね?
手段を目的化させないためには、最終目標「金儲け=利益」を、常に額縁に入れて作業机の前に掲げておく必要があります。
事業化に成功↑→収益化に失敗↓が起こる原因 その2
二番目の原因は、「お客様に見せられる完成品」を構築するまで、大変なリソースがかかるから、です。
でも、これは、多くの場合、単なる思い込みにすぎません。
私はある化成メーカーの新規事業開発担当者の方と話したときに、
と仰るのを耳にしたことがあります。
それを聞いたとたん、私は疑問に思いました。
と。
この超円安の昨今、わざわざ世界一、品質に高い期待を持つ日本人に最初から話しかけるのではなく、最初は品質はどうでもいいから、とにかく喫緊の課題を解決してくれ、と身を乗り出してくる世界のお客様相手に、有償PoCを実施すればいいだけの話ではないでしょうか?
生成AIをフル活用した、有償PoCの最新のフレームワークについて知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
事業化に成功↑→収益化に失敗↓が起こる原因 その3
次に厄介なのは、スタートアップたちも含めて、
事業者が極めて多いことです。
少なくても、
のですから、改善の余地は必ずある、と言うことです。
利益を上げ続けることができないというのが原因ですから、営業をたくさん雇うことも、web広告を盛大に打ち上げることでも、問題を解決しないどころか、状況を改悪する可能性すらあります。
顧客が「頼むから売ってくれ」とお願いしてくるような状態(PMF)になるまでは、ビジネスモデルキャンバスはナプキンの裏にサラサラと書いて、顧客にダメ出しを食らったら、その時点でどんどん破り捨ててください。
事業化のプロセス収益化までプロセス
「事業化」は、収益化までの長いプロセスの一環にしか過ぎない
では、事業化は重要ではない、ということでしょうか?いいえ、むしろ、スピーディな事業化は、疑いもなく、事業の成功にとってキモであり、とてつもなく大切です。それは、
と言う行為なのです。
出典:Michael Seibel – Building Product
無償のPoCを経験して、手痛い失敗を経験され、当サイトの人気記事「PoC(Proof of Concept)とは?」を読まれた方は、この記事で「事業化」と言う言葉が意味するものとは、「有償のPoC」/「MVP」に他ならないことにお気づきになるはずです。
事業化収益化のプロセス
従来、事業化までのプロセスは、以下のように考えられてきたきらいがあります:
そして、このプロセスにきれいに従って、事業化成功後 半年余りで、いまだにチャプター11(米国の事業再生のための破産法)のワースト3位と言う天文学的な破産額の大失敗を喫したのが、モトローラの新規事業、イリジウムです。
このプロセスを通ることには、莫大なリスクが伴うわけです。
生成AI時代の事業化のプロセスは、こうです:
- 事業戦略を決める
- 組織体制を整える(責任の所在を明確化する)
- 新規事業案をアイデア出しする
- 顧客インタビューを実施する
- MVP (Minimum Viable Product) を設計、せいぜいが300万円程度の、最初の資金を調達(稟議)
- 二週間を目処にMVPを開発して上市(事業化)
- ピボット(事業転換)とイテレーション(プロダクトの改善)により、MVPを事業企画レベルから改良、収益化を目指す
ステップ1 事業戦略を決める
最初のポイントは、
ことにあります。世の中には、
と言う、非常にフワフワした状態で、ステークホルダーの頭の中で何年も漂流している「単なる誰かの掛け声に終わっている」新規事業が山のようにあります。
これはなぜそうなるかというと、当社の事業戦略はどのようなもので、戦略上必要な問題解決の一環として、足りないピースのこの部分に新規事業が必要だ、と言う明確な構想が、誰の頭の中にもないからです。
その結果、最悪、
と、開発チームが終始様子見で、わかりやすく、かつ、確実な人事評価の得られる既存事業ばかりに時間を注ぎこむという、最初から失敗が確定した
に陥(おちい)ります。
こんなフワフワの状態で新規事業を起ち上げようとする「ふりをする」よりは、
と経営陣が堂々と謳(うた)う方が、何百倍も生産的だということです。
新規事業ブームに乗せられず、これをいいきれる経営者は、すがすがしいイケメンだと思います。(こんなことを私が堂堂と書けるのは、私の生成AIサービスやコンサルティングが、顧客の声をより深く聞いて、既存事業を成長させるためにも有用だという自信があるからです。)
ステップ2 組織体制を整える(責任の所在を明確化する)
富士フィルムのように、社名どおり今まで専門としてきた写真銀塩フィルム市場が「蒸発」し、ゆでガエルどころか危急存亡の秋に立たされている場合、事業戦略的に、
という状況のときは、むろん、新規事業を起ち上げるべきです。その際、経営者が最も留意すべきは、
という点です。なぜなら、この種の項羽タイプの猛将は、部下が事業案を持ってくると
と極めて俗人的な表現でへこませ(ここでポイントは、「スジの良さ」をご本人も客観的には定義できない、ということです)、稟議を通す際にも、
と、誰の何の役に立たない、神ならぬ身には保証不能に決まっている、脅迫じみた発言を行うことが多々あります。
これはその人物が役立たずだと非難しているわけではなく、なまじPDCAで確実に改善することのできる既存事業の組織内で出世してしまったことの弊害であり、単に向き/不向きの話です。
この「不適材不適所」は、この部門長にとっても、部下のチームメンバーにとっても、結果として不幸な人事になってしまうでしょう。
新規事業開発には、並大抵ではない時には捨て身ともいえるモチベーションが必要ですが、このタイプのマネージャーは、今までの自分の成功メソッドを信じるあまり、部下のなけなしのそれを、卵のように潰してしまう危険性があります。
最も適しているのは、劉邦タイプのマネージャーです。
ものすごい切れ者という訳では必ずしもなく、新規事業を自分でやったこともないけれど、
という太っ腹な発言をなさるタイプです。
このタイプのマネージャーが新規事業開発部門のトップに立ったとき、その企業のイノベーションは最も活性化されるでしょう。
また、事業化までいきつくためには、適切な人材を社内外から登用するのが重要です。
登用/採用する人材の要件で重要になるのは、スキルセットというよりも、ときに蛮勇を発揮して大胆な施策で事態を切り開く気概があるか、だと思います。
良くも悪くも、サラリーマン根性が強い方には、新規事業開発は必ずしも向かないものです。既存事業と異なり、新規事業は誰もやったことのない荒野に切り込んでいくに等しい業務だからです。
ステップ3 アイデア出し
事業化の初期段階では、アイデア出しと調査が重要です。
アイデアの創出(アイディエーション)の方法には複数あります。紙面の関係でここで深く語ることはしませんが、概要を紹介しておきます。
バイアスブレイクシナリオプランニング
事業戦略と非常に相性の良い、「世の中がこう動いたらこの新規事業をあてる」という発想が可能な方法です。
デザインスプリント
デザイン思考とは無関係な出自をもつ、アイディエーションの手法です。弊社 (株)StartupScaleup.jp では、シナリオプランニングと連動させてこのデザインスプリントの手法で画期的なアイデアを生み出していただいています。
SHIFTのバイアスブレイク
濱口秀司氏による、陳腐なアイデアを二軸で分解して、背後にあるバイアスをあぶりだし、ひっくり返すことで、画期的な発想を生み出す方法です。
ステップ4 顧客インタビュー
事業アイデアが固まったら、事業アイデアが対象/ターゲットとしている顧客の行動パターンと、その結果生じるもろもろの問題に関して、1対1のインタビューで聞き取り調査をします。ここでポイントになるのは、
にインタビューを行うのではない、ということです。むしろ、事業アイデアは話のきっかけくらいに考えて、聞き取っていくうちに、思いもよらぬ角度から思いもよらない別の事業アイデアが生まれることを狙います。
詳しくは、「あわせて読みたい」の別記事をお読みください。
ステップ5,6 MVPの開発と事業化
MVPに関しても、直感に関する話なので、これも「あわせて読みたい」に取り上げた別記事を読んでいただきたいと思います。
アイデアを事業化するためのフレームワークの利用
ビジネスモデルの検討
ビジネスモデルの検討は事業化の成功にとって非常に重要です。詳しくは本記事末尾の「あわせて読みたい」に取り上げた、ビジネスモデルキャンバスの解説記事に譲ります。
有償PoCのフレームワーク
MVPを有効活用するとは、有償でPoCを行うことにほかなりません。
生成AIをフル活用した、その最新のフレームワークについて知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
大企業が試作品レベルの製品で事業化した例
大企業の方から
との感想をしばしば頂くのですが、そもそも、あのiPhoneにしてからが、2007年にデビューした当時は箸にも棒にもかからないガラクタレベルの試作品だったことから考えると(秘めやかに葬られた、2000年の同社の大失敗事業 Power Mac G4 Cube のほうが、製品としての完成度ははるかに高かった)、日本の大企業にもまだまだ工夫の余地はあるといえるでしょう。
ちなみに初代iPhoneのトンデモぶりに関しては、「あわせて読みたい」の当サイト随一の人気記事に詳細をゆずります。
人を馬鹿にした?製品、Google Cardboard
Google Cardboardは、2014年にパリのGoogle Cultural Instituteで開発されました。
彼らはGoogle社員に与えられる「20% 制度(業務時間の20%を自由なプロジェクトに使える)」を活用し、段ボールで作る低コストのバーチャルリアリティ(VR)ヘッドセットのプロトタイプを作り上げました。このアイデアは、VR体験を誰でも手軽に楽しめるようにすることを目指したものでした。
2014年のGoogle I/O開発者会議で、Cardboardは公式に発表されました。参加者全員にCardboardキットが配布され、大きな話題を呼びました。
この時点でGoogleは、設計図をオープンソース化し、誰でも自作できるようにしました。また、AndroidとiOS向けのソフトウェア開発キット(SDK)もリリースされ、VRコンテンツの開発と普及を後押ししました。
発表後、Cardboardは低コストVR体験の代名詞となり、多くのサードパーティ企業が設計図をもとに完成品を販売するようになりました。
Google自身もGoogleストアで販売を開始し、2015年末には出荷台数が200万台を超える見込みと発表されました。
さらに、YouTubeアプリと連携することで360度3D動画の視聴が可能となり、VR体験の幅が広がりました。
Google Cardboardこそ、MVPがそのまんま「正式な」製品になった典型例といえるでしょう。
ガラクタを大量に売りさばいた、Amazon.comのダッシュボタン
アマゾン・ダッシュボタンは、2015年3月に発表された、特定の日用品を「ボタン一つ」で再注文できるIoTデバイスです。開発のきっかけは、Amazonの「1-Click注文」を物理世界に拡張し、買い物のハードルをさらに下げることにありました。
ボタンはAmazon.comにWi-Fi接続され、押すだけで注文が完了する仕組みで、バッテリーは搭載されていますが、初期モデルはリチウム電池がタブ溶接されており、交換や再利用はほぼ不可能な設計でした。
この製品狙いは、消費者が「もうすぐなくなりそう」と感じた瞬間に、すぐに注文できる「究極の便利さ」を提供することでした。
ダッシュボタンは発表直後、「本当にリリースされるのか?」と話題を呼びました。発表が3月末だったため、一部メディアは
と報じるほどでした。
しかし、いざ、最初は Amazon Prime 会員限定で低価格で販売が開始されると、「便利さ」と「ガジェット好き」の間で人気沸騰し、我が家を含めて(!)、異なるデザインのダッシュボタンが複数ある家庭まで現れました。
「バッテリーが交換できない」「ボタンが増えすぎて管理が面倒」「価格や商品情報が分かりにくい」といった批判をうけ、Amazonは物理デバイスの販売を終了し、Dash Replenishment Service(家電内蔵型自動発注サービス)でその機能を巻き取りましたが、これは明らかにAmazon.com一流の「実験」であり、損益分岐点をはるかに上回った、すなわち収益化にもきっちり成功したことは間違いありません。
参考文献:John Rossman, “The Amazon Way on IoT”, John E. Rossman刊
まとめ
事業化にとって最も重要な要素は、スピードです。
それはいいかえるのなら、有償PoCをいかに最低限の手間と資金で行うか、ということにほかなりません。
有償PoCなら、その場で事業化できるからです。
日本でおそらく唯一、自身の失敗体験からPoCを有償で行う手順を組み立てて記事化したのが、下記です。次に是非お読みください。
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