なぜ市場調査/マーケティングリサーチは新規事業開発で無効なのか?

なぜ市場調査/マーケティングリサーチは新規事業開発で無効なのか?

なぜ市場調査/マーケティングリサーチは新規事業開発で無効なのか?

「ここで言っておきたいのは、あのときどんなに市場調査をしても、
そこからは「ウォークマン」のアイデアは出なかっただろうということだ。
ましてや、同じような製品が続出するような大成功になろうとは……」
—盛田昭夫
[出所] 盛田昭夫 著, 「MADE IN JAPAN―わが体験的国際戦略」, 朝日新聞出版刊

 

 

市場調査が未来を予測できたはずのない歴史的事例

帝政ロシアにおけるジャガイモ:市場シェア分析、業界動向と統計

ロシアは、寒冷に強い作物であるジャガイモを、世界で最も多く消費する国です。

ところがロシア帝国の時代まで、そんなことは全くありませんでした。その理由が振るっています、

ジャガイモは聖書に1度も出てこない

からです。

ピョートル大帝は最初のヨーロッパ視察旅行のとき、

ロシア帝国へジャガイモが導入されたといわれています。

大帝は、旅先のアムステルダムからペテルブルグの側近に、

ジャガイモをロシア各地に配布し、増殖に努めるべし

との親書を添えて送り届けましたが、

若い皇帝へのロシア正教会の反発もあってか、

ロシアにおける最初のジャガイモ栽培は立ち消えになってしまいます。

司教たちは、聖書に登場しないジャガイモを「不幸の実」とか、「悪魔のリンゴ」と呼んで、

ジャガイモに呪いあれ

と繰り返し罵っていたほどでした。この後、エカテリーナ2世が

小麦より寒冷なロシアで育てやすいジャガイモをもっと力を入れて育てなさい

と言うおふれを出した後、徐々にジャガイモが作られる風潮へと変わっていくのですが、

立ち止まってちょっと考えてみていただきたいのは、

ピョートル大帝のこの当時、酔狂なコンサルティングファームが、

市場調査

を行って、

帝政ロシアにおけるジャガイモ:市場シェア分析、業界動向と統計、成長予測

というレポを創ったとします。

果たして、どんな結果になりましたかね?

てやんでぇ、江戸っ子はトロがでぇ嫌えでぇ

宗教上の理由が事業開発に影響するケースなど稀ではないか、という声が聞こえてきましたので、

もう一つ、今度は日本における歴史的な事例。

マグロは、日本列島に住む人々によって、縄文時代から食べられてきました。

ところが、あなたも大好きかもしれないトロ、

これは寿司文化が勃興した江戸時代では、全く食べられなかったどころか、

捨てられていた

のです。

日本人が家畜の肉を食べるようになったのは、海外から食肉文化が入ってきた、明治以降です。

牛を食べる習慣のなかった日本人は、脂っこいものを口にする習慣が全くなかったのです。

その当時、抜群のリサーチ能力をもったコンサルタントが江戸にいたとして、

寿司に関する市場調査を行った結果、

今の現代日本のようにマグロのトロが高い値段でもたくさん食べられる=大ヒットする

と言う未来を、果たして予測できたでしょうか?

「市場調査会社は、過去を予測することに非常に長けている。
(中略)もし彼らが未来を予測する天才なら、とっくの昔にヘッジファンドを運営しているはずだ」
—リーンスタートアップ運動の嚆矢、スティーブ・ブランク(太字は引用者)

 

現代でも市場調査は外れている

さて、今度は

大時代的、かつ、タイムスパンの長すぎる例を聞かされても説得力がない

という指摘が聞こえてきましたので、つい最近の話をしましょう。

あなたの身の回りの、市場調査がバリバリ予測を外している例です。

iPhone 日本へ来寇

時は、3Gのカバー率でドコモとKDDI相手に長らく苦しんだソフトバンクモバイルが、

起死回生の一手として、スティーブ・ジョブズ氏から

iPhone

の専売契約を勝ち取った時にさかのぼります。

栄耀栄華を誇っていた当時のガラケーメーカーたちのマーケティング部門は、

iPhoneが果たして日本市場に受け入れられるかどうか

という調査を行いました。どのような結果が出たでしょうか?

こんなもの、日本では売れない

彼らは異口同音に結論付けました。理由が凄まじい。

キーボードがついていない・ワンセグや絵文字、FeliCaがついていない・片手では使えない

は今振り返ってみれば、全てハナ○ソみたいな理由ですよね。

恐ろしいことに、絵文字以外はすべてオワコン、それも

iPhoneに駆逐されてオワコンにさせられた

ものばかりです。

[出所] 新井宏征, 「実践 シナリオ・プランニング 〜不確実性を「機会」に変える未来創造の技術〜」, 日本能率協会マネジメントセンター刊

そもそもiPhoneは、そもそも2007年の初代誕生時に、

キーボードもついていないのにスマホとして売れるわけがない(爆)

と、当時のスマホマーケットを寡占していたマイクロソフトの社長、スティーブ・バルマー氏に嘲笑されています。

大外れした、この予測の結果は?

……往年のガラケーメーカーのうち何社が、いまだに携帯電話端末業界で頑張っている企業を、

あなたは何社思い出せますか?

「アレクサンダー・グラハム・ベルは、電話機を発明したときに、市場調査をしたとでも?」スティーブ・ジョブズ
マッキントッシュを発表したとき、記者の、市場調査はやったのかという質問に答えて

全く資金を調達できなかった、クラウドファイル共有システム

どうしてこうなるのか?という理屈を説明する前に、

もう一例、「とどめ」とも呼ぶべき事例を挙げていきます。これは、

いち製品にとどまらず、いまは生活にかかせない一つのインフラに完全になった、あるサービスの業界が、

現時点の市場の状態から、未来を予測しようとした人たちによって死刑宣告をうけた事例です。それは

クラウド上のファイル共有システム

です。

ドリュー・ヒューストン氏は、Yコンビネーターのメディアで自社のサービス企画に対してスタートアップたちの激賞を受け、

意気揚々として

Dropbox

を起ち上げようと、資金を募りました。

しかし、これが全く集まらない。

投資家たちは、今までいくつもいくつもクラウド上のファイル共有システムサービスが立ち上がっては使われずに消えていった

悪しき事例を引用して、ヒューストン氏にNOを言い続けました。

ヒューストン氏は後にエリック・リース氏が激賞することになる、ある新規事業開発ハックを使って

資金調達には成功しますが、ウェブ広告を張っても張っても、全然売上が上がらない現実に悩まされ続けます。

その当時の世の中はまだまだ皆ローカルにファイルを保存するのが当たり前、

便利なUSBメモリが世の中に現れたばかりだし、ネット回線もまだまだ細いという背景もあり、

誰もクラウド上にファイルを保存しようなどとは考えなかったのです。

([出所] Eric Ries, “The Lean Startup”, Crown Business刊)

実は、のちにDropboxの最大のライバルとなる

BOX

もまた、全く同じ苦悩を抱えていました。

BOXは、熱心に使ってくれるユーザを学会にようやく見つけ、

営業で口説いて、初期の顧客になってもらいます。

([出所] Peter Thiel, “Zero to One: Notes on Startups, or How to Build the Future”, Crown Business刊)

すなわち、DropboxもBOXも、見込みのあるおいしい市場に参入したのではなかったのです。

そうではなく、彼らは、

巨大市場自体を、自分で0から創り上げた

のです。

見込みのあるおいしい市場がいまいまはないのだから、

市場調査

が有効なはずがありません。

「市場調査は、まあ、やめといたほうがいい」
アッシュ・マウリャ

いかにしてAirbnbは自分の市場を作り上げたか?

Airbnbが創業された2008年、その当時の大ホテルチェーンの上客はベビーブーマーでした。

ベビーブーマーたちは最低でも42歳以上の、脂ののった、文字通り

太客

ぞろいでしたが、たった1つ、欠点とも言えない欠点がありました。

その欠点とは、彼にとって最新の電子機器と言えば、なんと

液晶テレビ

だったことです。スマホおろか、ろくにPCも使えない世代だったのです。

さて、ここで当時、3大ホテルチェーンのどれでもいいです、

一社がコンサルティングファームを雇って、Airbnbのように

スマホやPCでしか予約できないような、
民泊サービスも我々ホテルチェーンも始めようとしているが、
それを使いたいですか?

という類いの市場調査を行ったとします。

果たして、はかばかしい結果が得られたでしょうか。

お気づきの通り、これは典型的な

イノベーションのジレンマ

です。

すなわち、現在のキャッシュカウの既存事業が上客のニーズにばかり合わせていると、

そこまで品質を求めない顧客に対して、別のプレイヤーが破壊的イノベーションをしかけた時、

もともと既存事業の顧客ばかり熱心に囲っていた既存企業は、

気づいたらいつのまにか叩きのめされて逆転できなくなっている言う現象です。

この時も同じことが起きました。

エアビーは創業者たちが属していた、

ミレニアル世代

すなわち最も金を持っていない、若いと言えば聞こえはいいが要するに子供の世代に対して、

しつこく自分たちのサービスを働きかけ、そのサービスの質を向上させていきました。

その結果どうなったかと言うと、イノベーターとしてのミレニアル世代どころか、

最終的にはベビーブーマー世代まで違和感なくAirbnbを使うようになったのです。(アイキャッチ画像参照)

Airbnbもまた、

すでにある市場に参入したわけではなく、自分でそこに巨大市場を創出した

のです。

「需要がそこにあるのではない。われわれのアイデアがそこに需要をつくりだす」
本田宗一郎
[出所] 梶原一明 著, 「得手に帆あげて: 本田宗一郎の人生哲学」, PHP研究所刊

その結果、上場時の時価総額は約10兆2000億円にも達し、

三大ホテルチェーン全てのそれを合算しても全くかなわないところまで巨大になりました。

繰り返し申し上げますが、ポイントは本田宗一郎が指摘する通り、

既にある市場に製品を投入するのではないと言うことです。

むしろプロダクトもしくはソリューションも非常に小さな市場に投入し、

その市場自身をコツコツ耕して大きくしていくということをやらない限りは、

新規事業が大ヒット(Product/Market Fit達成)することはありえないのです。

最後に、盛田昭夫の、コンサルタントに関するもう一つの名言をひいておきます。

「優秀なコンサルタントは、確かに有益な情報や新しい考え方を教えてくれるが、
コンサルタントを使った結果、 マイナスになることもありうる。
彼らの市場調査が間違っていたときには、
調査後に市況が変化したのだといった言いわけをすればそれまでである。
それではなんのための調査だかわからないではないか。
要するに、アメリカ人が頻繁にコンサルタントを使おうとするのは、
自分の責任をのがれる口実をつくるためのように思えるのである」

 

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