目次
イントロダクション(読み飛ばしていただいて結構です)
正直に言いますと……
「上司にスジのいいアイデア持って来いって言われる」
系の相談に対しては、
程度の「励まし」しか、助言として申し上げられておりませんでした。
それが近年もっと効果的な問題解決法をお勧めできるようになったので、非常にうれしく感じる今日この頃です。
この方法を用いれば、
にもかかわらず、
2. 成功事例だらけのレッドオーシャンを狙わないで済む
という、虫が良すぎるほど条件を満たした「きらりと光る事業アイデア」を、あなたも組み立てられるようになるのです。
実はこれ、源頼朝が大いに日本史の方向性を決定づけた、政治的なイノベーションに使われた手法です。
その名もバイアスブレイク、日本において随一のイノベーターである、濱口秀司氏が生み出した手法です。
なぜ鎌倉幕府は世界史上まれなイノベーションだったのか?
日本の歴史に登場する中でも私が出色の天才だと確信しているのが、源頼朝です。
彼はまさにこのバイアスブレイクの手法で、当時の大和朝廷において当たり前とされていたバイアスを根底から破壊し、世界でも珍しい
を成し遂げます。
彼のそのイノベーティブな政治思想は、実に大東亜戦争の幕開けにまで影響し続けました。
頼朝のバイアスブレイクの軸:権力=権威 <-> 権力≠権威
頼朝は、仇敵平清盛が、当時単なるボディガードと馬鹿にされていた武士のくせに太政大臣まで上り詰めたにも拘わらず、最後の最後で失敗してしまったのは、藤原家と同様の外戚政治を始めてしまったためだと正しく洞察していました。
おかげで、仲が非常に良かった後白河法皇と最終的に仲たがいし、それと争って軍事力で勝ち、平氏一門で政治の中枢を占めて、世間の大ひんしゅくを買ってしまいます。
俺はそんな愚かな真似はしない、と頼朝は考えました。
当時のバイアスでは、権力=権威だったのを、頼朝は意図的に分離したのです。
頼朝は権威の象徴である天皇から、征夷大将軍というロールだけを賜り、御家人体制という中央集権体制を自分の配下に確立しました。
ヨーロッパや中国の歴史では、よく前王朝を後の王朝がおびただしい血を流して滅ぼしていますが、頼朝の確立したこの政治システム、いっさいの軍事力をもたない天皇家はいわばレフェリーであり、国内の戦争の勝敗を采配する、しかし圧倒的な権威だとするシステムにより、日本は以降、この「前王朝殲滅戦」を避け続けることに成功したのです。
千数百年も天皇を象徴としていただくこの体制、実は中国がひそかにうらやんでいました。
濱口氏のSHIFT: バイアスブレイクの手法では、頼朝は、政治的なシステムを発想する際に、頼朝は「権力=権威 <-> 権力≠権威」の軸でアイデアを転置した、ということになります。
バイアスの虜囚だった義経
この当時の官職は、頼朝の推挙をもって初めて武士が賜れるものでした。
そうして初めて御家人たちは頼朝こそ実権を握っていると確認し、いざ鎌倉と、頼朝のために力を尽くすことになるわけです。
トップダウンの軍事政権、幕府にとっての中央集権のよりどころです。
この
こそ、頼朝の政治体制の最大のミソだったのに、異母兄弟義経が、うっかり直に官職を賜ってしまいました。
と頼朝は怒り狂って、義経とそれをかくまった奥州藤原氏を徹底的に討ち滅ぼします。
そうしなければ示しがつかず、自軍から同じような愚者があらわれるからです。
このとき、義経のもとには武士がたいした数 参集しなかったことが、頼朝の組織構築が、すでに非常にうまく行っていたことを証明しています。
このとき、義経が「おバカさん」というよりは、そちらが当時の標準だったというのが実態でした。
実際、義経は武将としては傑出した才能の持ち主だったわけで、馬鹿からは程遠いでしょう。つまりは、頼朝のほうが、時代を先駆けて頭が良すぎたのです。
300万人以上の日本人を殺した頼朝の「バイアス」
そして、時代ははるか下って大東亜戦争前、昭和天皇から「絶対に米との開戦は避けよ」と厳命された東條英機は、その時の事実上の「軍事政権」統帥権についに押し切られ、
日本必敗と初めからわかっている戦争に踏み切らされます。
東條英機が開戦させられ、詰め腹を切る形で絞首刑に処せられたのは、天皇といえど「君臨すれども統治せず」というスキームに則って行動せざるを得なかったからです。
つまり、この大日本「帝国」(天皇の国)憲法に、致命的なバグを結果として作りこむことになったのも、天才頼朝なのです。
このとき今度は、このイノベーション自体が、300万人の日本人を殺す恐ろしい
ということです。
愚者は今度は、それを疑わなかった、伊藤博文ら大日本帝国憲法の制定者たちでした。
えっ、今さらフードデリバリ……?
話を日本史から新規事業開発へと戻しましょう。
私かつてあるインキュベーターの、顧客インタビューに関するセミナーに参加していて、驚愕したんですよね。
とか、インタビューに関してもちょいちょいトンデモは語っていたんですが、そこはおいておいて、実際に事業開発を支援している事例として、よりによって
を出してきたのでね。
ああ、終わってるな、という感じです。
なぜなら、いまさらフードデリバリに「参入」するのは悪手中の悪手で、インキュベーターなら全力でアイデア段階で開発を制止すべきだからです。
2020年8月17日の日本経済新聞に、「食事宅配大競争、ウーバー・出前館をスタートアップ追う」という記事が載りました。
タイトルを見た瞬間、すぐに私が思ったのは、
でした。
私の悪い予想はよくない方向にあたってしまい、いくつかのプレイヤーはたちまち撤退に追い込まれました。
サービス | 提供企業 | 狙いなど、特記事項 |
DEMAE-CAN | 出前館 | 業界最大手。LINEの子会社となり、「LINEデリマ」とブランド統合。 |
menu | menu | もともとはテイクアウト可能な飲食店がわかるアプリ。加盟店数で出前館を追い上げ。 |
Uber Eats | Uber Technologies | 基本配達料の定額制を導入。 |
Wolt | DoorDash | 他のプレイヤーとは異なり、仙台から日本に参入し、地方都市で段階的に展開中。首都圏では唯一埼玉でサービスを展開。アルコールのデリバリも行う。 |
楽天デリバリー | Rakuten | ぐるなびとのシナジー効果と楽天ポイント商圏の拡張狙い。 |
出前館が赤字なのは、明らかに、
からです。
フードデリバリという「陳腐事業」を「新規事業」に生まれ変わらせる
しかし、ここでこのありきたりすぎて利幅が出ない事業アイデアを「フードデリバリの復讐」という感じで、一気に斬新なアイデアに生まれ変わらせる方法があるのです。
それが、濱口秀司氏の進める、SHIFTにおける
です。
Step 1. アイデアの背後のバイアスを取り出す
まず、フードデリバリという「真っ赤なオーシャン」の事業アイデアの背後に潜むバイアスを取り出します。私は、以下の2軸で分析してみました:
(1)宅配ベクトル
(2)だれが料理を作る?
いまの陳腐事業アイデア「フードデリバリ」は、
(1)宅配ベクトル=『レストラン→顧客』
(2)だれが料理を作る?=プロの料理
ですね。
これらをちょいとひっくり返すと、一瞬で、
(1)宅配ベクトル=『顧客→レストラン』
(2)だれが料理を作る?=素人の料理
となりますね。
あっという間に(キャッチ画像参照)
客がレストランに来て、配達可能な地域に住む、一般家庭の「ギグ・コック」の創った、バラエティー豊かな、そのときそのときでメニューが変わる、しかも一品ものの家庭料理を楽しむ
というサービスが出来上がりました。
レストラン側にはまあ、お酒程度を用意しておきましょうか。
この企画、稟議通りやすいはずです。
理由1. フードデリバリ業界という「成功事例」のパクリといえなくはない
理由2. したがって市場規模の算定およびターゲットの地域の選定が容易う↑私なら、DoorDash (日本では、同社に買収されたWolt)の狙った地域を狙いますね。
理由3. しかも、なんと、「家庭料理のあまり」というフードロスを抑える副次効果あり!
すぐに見える、日本市場におけるフィージビリティ上のボトルネックは、多くのギグコックたちが食品衛生法の基準を満たせないだろう、です。それがいわゆる先進国においてこのビジネスがまだ出てきていない証拠です。
しかし、だからこのビジネスが始められない、というのは早計で、アジアやアフリカ、南米を探せば、この事業が問題なく成長できる地域がいくらでも見つかると考えます(失礼に当たるので、どの国とはここに書けないのですが、私が渡航した国の中にもありました)。
ここでは、あくまで思考実験としてバイアスブレイクの威力をお見せした次第ですので、そんな馬鹿なと思われた向き、どうぞお許しください。
どうやったらバイアスブレイクできるのか?
ここで、事業アイデア発案に苦労してきたあなたは、気づくはず。
その通りで、私が濱口秀司氏の著作を拝読して、バイアスブレイク/SHIFTの批判すべきポイントの一つとして瞬間的に思いついたのが、
でした。(裏話ですが、濱口氏がアメリカ支社の社長をやられていた某P社グループのある新規事業開発部門の方が、全く同じ愚痴をつぶやいていらっしゃいました。)
バイアスの「転置の軸」を隠しているのはバイアスそのもの
冒頭の頼朝の話で指摘したかったのは、濱口氏のおっしゃるバイアスを破壊するための軸は、時代が念入りに造りこんできたバイアスがあるがゆえに、少なくても濱口氏のような天才ならざる身には、おいそれと見つからないということをいいたかったのです。
例えば
iPhone に AppStore を造ろうと言い出したのはジョブズ氏ではありません。
ジョブズ氏自身は、初期のマックのように、すべてプロプライエタリな(Apple独自の)アプリでiPhoneを固めるつもりでした。
ノキアはずっとタッチスクリーンのケータイを開発しようとしてできなかったのはその当時のケータイ業界の(スティーブ・バルマー氏ももっていた)バイアス
に邪魔されたのが主な理由ですが、iPhoneはこのバイアスをこの軸においては破っていたにもかかわらず、ジョブズ氏は
という別軸のバイアスは、破れなかったのです。
生成AIはバイアスブレイクの救世主足りうるか?
ところが、2022年から、誰でも可能になったのです。そう、ChatGPTが登場してしまったから。
だから、バイアスブレイクの思考法をコマンドプロンプトで教え込んでいただき、
と入力してください。
ChatGPTは超・学校秀才ではありますが、天才に原理的になれないのです。すなわち、世の中のすべてをひっくり返すようなアイデアは出せない。
理由は、生成AIのLLMは誕生時から以下のような設計になっているからです:
- 最も尤(もっと)らしい、すなわちあるあるの出力を生成するよう設計されている
※これを統計学上の概念で、最尤値(さいしゅうち)と言います。 - 大量のデータに含まれる「あるある表現」が学習され、生成AIの中で再生産される
私が見る限り、事業のアイディエーション上は、これが最も大きな問題です。
GPTの「P」は、Pre-trained(あらかじめ教師データで教育された)のP。この人は生まれつき、事業アイデアに関しては、バイアスまみれの、ごみのような教師データばかり貪り食って大きくなってきたので、斬新なアイデア出せといくら厳命しても、無理なのです。それは普通の人が「スジのいいアイデアだせ」と命じられても一向に出てこないのと、原理的に全く同じ。
つまり、生成AIが膨大に食べてきたデータのほとんどが「義経の発想」なのです。 - 開発企業はAlの出力に伴うリスクを最小化するよう設計しており、「無難」な出力をすることが技術的に優先されている
ChatGPTの画面に常に「ChatGPT の回答は必ずしも正しいとは限りません。重要な情報は確認するようにしてください。」と出てきますが、あれは恐らく、ChatGPT登場時に、それがファクトモデルでなく論理モデルだということが理解できなかったユーザの非難轟々を受けて表示されるようにしたものです。そんな手を打っている企業が、ユーザにとって「トンデモ」と感じられるようなぶっ飛んだアイデアを提供することを避けるのは、これは当たり前のことですよね。
そこで、この
に発想法を教えこむため、
(2)それを、パースのアブダクションで内部で理論化する方法をこんこんと説明する
必要があります。
実は、この手法を取り込んでいるのが、当社のベストセラー製品「AIディアソン」なのです。
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- 「課題インタビューのときは、こちらの事業アイデアをおくびにものぞかせちゃダメ」という発言がなぜイミフかという理由は、当サイトの人気記事「事業開発に必須:「潜在ニーズ」を見つけ出す顧客インタビュー」をご覧になると理解できます。
- バイアスブレイクの概要説明に関しては、「事業アイデアを出すためのフレームワーク 究極の3選」をご覧ください。
- iPhoneの生い立ちに関しては、当サイトの人気記事「iPhoneは、天才スティーブ・ジョブズの発明だという大嘘」で詳説しています。
- 出典:濱口秀司著「SHIFT:イノベーションの作法」ダイヤモンド社 刊