新規事業の「目利き」/偉大な事業家だとスジのいいアイデアがわかる?
事業転換/ピボットは新規事業開発と事業再生のきっかけ:一発で「スジのいいアイデア」を引き当てようとするから失敗する
①Founder/Market Fit
②Yコンビネーターのパートナーの助言で「本業」にもどった Brex
新規事業の「目利き」?/スケールする事業アイデアなんて誰も見極められない
ここにおいて、いわゆる
なんぞ、およそスケールしないという話をしました。
それどころか、極端に成功した事業に限って、アイデア誕生時はくそみそに言われたと。
YコンビネーターのCEOマイケル・サイベル氏は、スタートアップの創業者に語りかけています。
スジのいい事業アイデアと、そうでない事業アイデアの目利きの仕組みとして利用することだ、
思いついたアイデアがスケールしそうかどうかを、我々に判定させようとしても無駄である
なんとなれば、こっちもそんなものわかるわけないから、と。
どうも、いいアイデアを思いついたらまずはYコンビネーターに応募してみて、
通ったら創業してみようという、けしからん
がいるらしいのです。
そして、上記の事実の根拠として、しつこいくらい何度も繰り返し、
いろいろな機会にサイベル氏が語っているのは、
(創業者自身もYコンビネーターのパートナーも含めて)この地上には誰もいない
ということです。
新規事業の「目利き」/偉大な事業家だとスジのいいアイデアがわかる?
今では押しも押されもせぬ大事業に成熟した、エニグモ社が提供する、
ですが、ランチ当初は、事業が伸び悩んだそうです。
同社の創業の物語である
「謎の会社、世界を変える。―エニグモの挑戦 (須田 将啓 (著), 田中 禎人 (著))ミシマ社刊」
という本にこんなことが書いてありました。
BUYMAのアイデアをもんでいた際、こんなことを著者は考えます。
(上掲書)
事業企画に関する、熱い想いです。似たような思いをもって
フィル・ナイト氏は Nike を、
ハワード・シュルツ氏はStarbucksの前身となるカフェバーを、
創業していますから、アントレプレナーには必要な情念でしょう。
しかし、
だということを、私も含めた事業屋は絶対に忘れてはならないのす。
自らのアイデアが誰が何と言おうと絶対正しい、というこの確信は、
という名前の付いたバイアスで、
めちゃくちゃ頑張ったけど、結局残念ながら失敗した起業家(大多数)も、
等しく具備している
ものです。
この書物の中で、シーズ段階の同社に対して出資を考えている会社の紹介で
堀江貴文氏にアイデアをぶつけるシーンがあります。
堀江氏は圧倒的な決断の速さで、「やったほうがいい」といってくれ、著者たちは大盛り上がりです。
私は、このシーンを読んだ時、
と、全くピンときませんでした。
これが逆に、
なら、至極ごもっとも、と頷いたでしょう。
直感に反しますが、
からです。
どういうことか説明していきます。
日本ではテーマパークなどの観光施設でしかお目にかからないセグウェイは、
2001年12月のランチの前の段階では、
「人間の移動形態を変える革命的な製品」と絶賛した
プロダクトでした。
スティーブ・ジョブズ氏と一緒にAppleを起業した、
名機 Apple Ⅱの技術的な生みの親スティーブ・ウォズニアック氏も同機の熱狂的なファンで、
友だちと一緒に同機を多数そろえて、セグウェイに乗ってポロをプレイしました。
出典:
ベゾス氏に至っては、同機の Amazon.com での専売契約を結んだほどのほれ込みよう、
笑顔で同機に乗る、今となっては恥ずかしいベゾス氏の写真も残っております。
その後、セグウェイは売れたでしょうか?
友人が勤務している、私たち家族の大好きなテーマパークであるハウステンボスで、
かつて一度だけ、私はセグウェイを見たことがあります。
みんな、セグウェイを乗り回す自らの様子を、同行者に写メしてもらっていました。
10年以上前ならともかく、いまどき、家のルンバを自慢げにSNSにアップしたら、
友達にドン引きされませんか?
すなわち、セグウェイの開発者の当初の狙いのように
から、レアものの価値が出てしまっているのです。
セグウェイは、近年、残念ながら製造を停止してしまいました。
いいえ、私が指摘したいのは、そんな話ではないのです。
Airbnbの創業者、チェスキー氏は、世にランチされたばかりの Uber の熱心なユーザでした。
(後にカラニャック氏と対談し、そのあまりにアクの強いキャラにドン引きしています(笑))
上記のマイケル・サイベル氏は、チェスキー氏とゲビア氏をYコンビネーターに推奨した張本人であり、
Dropbox と Twitter のもっとも初期の(最初の数百人以内)の、アーリーユーザの一人です。
管理人は、上記の偉大過ぎる起業家たちに比べれば吹けば飛ぶような人間ですが、その私を含めて
全ての起業家は、一点で共通しています。
誰もやったことのない何かに、常にチャレンジし続けることで生きがいを感じる
のです。
したがって、新しいサービスが出てきたら、
周囲の評価に全く関係なく、まず自分がまっさきに飛びつきます。
常人であれば、水を飲むと一滴残らず全部吐いてしまうので、
最低でも入院を覚悟した絶不調な状態で、私のように、
どうせならスタートアップのサービスを使っている救命救急病棟にいって、救命を体験してみよう
などという、我ながら変態的といっていい発想をするわけがありません。
簡単に言えば、
イノベーターたち、すなわち、ベル曲線の端も端、たった0.25%の中に必ずいます。
ですので、失敗ばかりしてきた事業家にビジネスモデルを批判されたらこれは珍重すべきですが、
絶賛されたら、逆に、
と思うくらいでちょうどよいのです。
では、誰の意見を珍重すればよいでしょうか?
上掲書は、THE LEAN STARTUP刊行前の2008年に上梓されているくらいですから当たり前かもしれませんが、
エニグモの創業者たちは、BUYMAをランチするまでに、
全く顧客インタビューをやっていないように見受けられます。
そして、ランチしてみて最初は全く売れず、市場を読み違えたかと臍を噛みます。
そりゃあ、そうでしょう。
BUYMAの創業者たちは、堀江氏のレビュー結果を歯牙にもかけず、
プロダクトの本格的な開発開始前に、ひたすら顧客のもとに足を運ぶべきでした。
事業企画にお墨付きを与えられるステークホルダーは、たったの一人です。すなわち、顧客です。
BUYMAは売れたからいいじゃないか、とおっしゃるあなたの辞書に、
とか
とかいうボキャブラリーはありますか?
事業転換/ピボットは新規事業開発と事業再生のきっかけ:
一発で「スジのいいアイデア」を引き当てようとするから失敗する
Founder/Market Fit
では、Yコンビネーターがバッチに参加したスタートアップに対して放置プレイで臨むかといえば、
もちろん、そんなことはないです。
Yコンビネーターは、アイデアは黙殺して、創業者を見るのです。
Customer/Problem Fit (その問題が本当にその顧客の中に眠っているか?)のはるか手前で、
アーントラプレナー/イントラプレナーが気にすべき別の Fit があります。それが
です。要は、
The Lean Startup Method/リーンスタートアップメソッド的には、
ほぼ完ぺきに起業を遂行したにもかかわらず
同社が失敗した原因の一つを、ハーバードの学生だったQuincyの創業者たち二人にアーントラプレナーシップを講じ、
同社に投資もしているトーマス・R・アイゼマン教授は、こう分析しています。
業界の経験がなかったために、彼女ら創業者たちはこれらのパートナー(アパレルを実際にデザイン、製造してくれる業者)たちとの付き合いは事前には一切なかった。
Eisenmann, Tom. Why Startups Fail. Crown.
付き合いが一切なかったがゆえに、
大ブランドからの発注に比べて、ぽっと出のスタートアップの発注がないがしろにされ
シーズンに合わせて速いペースで変化する製品を出し続けることができない、
という悲惨だがほぼ確実に出来すると予測のついたはずの未来を、
このリーンスタートアップ的には優秀な二人の創業者は予測できませんでした。
このように、Founder/Market Fitは、
がその創業者に備わっているかどうか?を判断する基準です。
これは、大企業のイントラプレナーに関しても当てはまるチェック項目だと思います。
Yコンビネーターのパートナーの助言で「本業」にもどった Brex
典型例なランチェスター戦略でフィンテックの世界をディスラプトし、
2021年4月時点で、$7.4Bもの圧倒的な時価総額を誇るユニコーン
は、創業者二人が南アメリカから渡米してYコンビネーターのバッチに参加した当時は、実は、
という、およそ原型のかけらも今は見当たらないプロダクトを造るつもりでした。
Yコンビネーターのパートナーが、彼らの事業アイデアを下記のチェックリストにかけました。
# | チェック項目 | スコア | 備考 | |
1 | 理論的なスケーラビリティ(TAMの大きさ) | その事業アイデアはどれほどスケールしそうか?(TAMがありそうか?) | 1-10 | Yコンビネーターのマントラ 「(多くの)人々が欲しがるものを造れ」 |
2 | Founder/Market Fit | その事業アイデアは、①そのスタートアップの創業者自身が欲しいと思い∧②世の中にそれを実現できるプレイヤーがそんなに多数いるとも思えず∧③その創業者なら高い確率で実現できそうか? | 1-10 | ①、②は、Yコンビネーターの創業者ポール・グレアム氏自身が設けた基準 |
3 | 実現容易性 | Demo Day までの3か月に、投資家を納得させるだけの fidelity を誇るMVPが準備できそうなくらい、実現が容易か? | 1-10 | 例えば、量子コンピュータのスコアは1 |
4 | 早期フィードバック | すでに何人の顧客候補からポジティブなフィードバックが得られているか? | 1-10 | BUYMAは創業当時はスコアが低かった |
VR製品は、ひどい点数でした。
特に、2,3,4は、軒並み 10点満点中、1点か2点という惨憺たる成績です。
そこで、創業者二人は、バック・オブ・ザ・ナプキンに描いたアイデアの段階で、
を決断します。すなわち、
という、現在のサービスです。
その結果、チェックリストの各項目のスコアは、爆上がりします。
# | チェック項目 | スコア |
1 | スケーラビリティ | 10/10(全世界のすべてのスタートアップが顧客になりうる) |
2 | Founder/Market Fit | 10/10(創業者自身がクレジットカードの調達に苦しんでいた) |
3 | 実現容易性 | 3/10(金融のルールは、南米と北米・欧では、大きく異なる) |
4 | 早期フィードバック | 8/10(もともと南米で同じ業態の事業を展開していた https://pagar.me/) |
出典:Yコンビネータースタートアップスクール/Dalton Caldwell – All About Pivoting
この事例は、まあ、元の鞘に収まっただけといえなくもないので、それほど印象的な事例ではありませんが、
いずれにせよ、大企業における新規事業のスポンサーである上長や、
スタートアップにとっての投資家や、
スタートアップが意見を「お墨付き?」とやらをもらいに行った有名な起業家といった
でなく、
をもって事業アイデアの良しあしを測ろうとする態度は、おわかりいただけたと思います。
さて次回は、上記の Brex のように、successful なピボットでスケールするアイデアをつかむ手法について解説します。