イントロダクション(読み飛ばしていただいても構いません)
ビジネスプランの欠点
①社員が無償のPoCをこなした実績で評価されてしまう?!
②「フリーミアムで獲得した顧客をどう活用してよいかわかりません」
大成功した WealthFront 社の事業再生
イントロダクション
先年の人間ドックで、
疑いと診断されました。
一般には「悪玉」と呼ばれるLDL(Low Density Lipoprotein:低比重リポタンパク質)の数値が非常に高く、
コレステロールを下げる治療をしてください、というわけです。
結論言ってしまいまいますと、コレステロール下げる治療、やっていません。
からです。
私は10年来、LDL高めとされてきたので、
コレステロールのメカニズムについては、めちゃめちゃ調べできました。
その結果、複数のペーパー、医学論文を読んで、上記の医学的な事実を突き止めています。
特に下記の参考図書は、LDLが悪玉とされたのは、
草食のウサギに無理やり肉を食べさせ、当然、ウサギの体が異常な反応を見せるのを、
LDLのせいにしたというアンフェアな医学論文のことを教えてくれ、
問題なのはLDLではなく、
だけだということを教えてくれました。
診断下してくださった女医さん、なかなか面白い若いドクターで、
と、ユーモラスな喩えで、私の疑問に答えてくれました。
で、この診断の後、私は、「LOX-index」という、
血中の酸化したLDLを狙い撃ちで計測する、保険のきかない高価な検査を受け、
という結果を得たので、新たに1時間の散歩を日課に加え、
定期的にコレステロール値を測るだけで、治療は行っていないわけです。
ここで取り上げたLDLの総量のように、
を、The Lean Startup Method/リーンスタートアップメソッドの生みの親エリック・リース氏は、
ビジネスプランの欠点
申し訳ないのですが、しつこくビジネスプランがもたらす弊害について議論し続けます。
- 一度策定し承認されてしまったら、PoCをやるまでは、大きな方向転換(ピボット)がしにくい
- よいROIが出ますと主張するが、そのRが全くの妄想であり、信じられないことに、
事実上、妄想であってもよいと、社内で公認されている - 鋭意努力をつぎ込めばつぎ込むほど、かわいくなって、捨て去りにくくなる(イケア効果)
- PoCの開始時期までに製造を完了させることそのものが目的にすり替わる
- 記載されている数値がことごとくバニティ・メトリックスである
新規事業開発のタブー:社員が無償のPoCをこなした実績で評価されてしまう?!
=自分の会社の経費を使ってしまったのは確実だが、顧客に価値を生み出したかどうかはわからない
顧客に価値をもたらさないすべて(のもの、活動)は無駄だ。
(J. J. デルガド氏、リース氏の書籍 “The Lean Startup” の Linkedin 上の書評にて)
でも、その会社の経営陣の苦しいお気持ちも、察してあげていただきたい。
新規事業など当たり外れがある、だから顧客の価値を将来生み出すかどうかわからない
しかし、人事評価上のインセンティブが何らない状態だと、今度は社員が何もやろうとしない
このジレンマを解消するために仕方なくこうしているのだ
この困ったジレンマはどこから来るのでしょうか?
原因は3つあります。
- 新規事業は、無償のPoCができる「Minimum」Viable Product まで
少なくてもプロダクト開発が進まないと、価値が測れないと、思い込んでいる - そもそも、Yコンビネーターが絶対の禁じ手としている「無償のPoC」を実施してしまっている
α版とかβ版とか、僕には定義がよくわからんけど、とにかく、顧客に対する課金はASAPでしろ
(YコンビネーターCEO マイケル・サイベル氏、スタートアップの創業者に対して) - 新規事業を含めたすべての事業を、P/Lとくに新規事業の場合は RoI で測るしか手段がない
②は別の記事で詳細に論じます。
③については、前の記事で議論しましたが、後にさらに深く議論します。
①みたいな
に経営陣がしばられると、どうなるでしょうか?
経営陣は、その新規事業が本当に顧客にとっての価値を創造するかどうか極めて疑わしいにもかかわらず、
で、新規事業を評価するしか、なくなるのです。
このKPIの中のどこに、顧客にとっての価値、含まれてますでしょうか?
以下のような悲劇を、この計測方法で、避けることははたしてできますか?
Minimum??? Viable Product を会社の資金1千万とチームの半年の工数かけてつくり、
一年間無償のPoCをつつがなくまわして人事評価は高かったが、
ついに誰も買わなかった。
事業再生の道が見つからない:
「フリーミアムで獲得した顧客/ユーザベースをどう活用してよいかわかりません」
(これらは、リーンスタートアップ運動の中では、バニティ・メトリックスと称される)。
エリック・リース氏は、自らが手掛けた3社目のスタートアップIMVUの成長を示す
を、自著 THE LEAN STARTUP で例示し、自らこう解説しています。
これらの顧客からの収益は、次月に投資され、さらなる新しい顧客を獲得する。
この(ホッケースティック状の)成長はここからきている。
(太文字筆者)
IMVUは新しい顧客を追加し続けているにもかかわらず、 (コホートの)それぞれのグループからの収益は改善していない。
IMVUの(成長)エンジンはチューニングされているが、そのチューニングの努力は大した成果を生み出していない。
伝統的なグラフのみからでは、IMVU が持続可能なビジネスを順調に構築しているかどうかは、読み取れない。
もちろん、IMVUのチームがどれだけ効率的に経営しているのかも、見当がつかない。
イノベーション会計は、グロスの数値などの、このようなバニティ・メトリックスでミスリードされていると機能しないのだ。
代替手段は、自分たちのビジネス、自分たちの学習のマイルストーンが判断できるようなメトリックス、私が
と呼ぶものである。
Vanity Metrics の例 |
Gross Revenue/益金 |
Gross Profit/粗利益 |
Growth Rate/成長率 |
総ページビュー数とその伸び率 |
総ビジット数とその伸び率 |
総いいね!数とその伸び率 |
アプリ/コンテンツの総ダウンロード数とその伸び率 |
残念ながら、と書いたのは、読者の皆様お気づきの通り、
このような数値こそ、ビジネスプランにしばしば出てくるものだからです。
ホッケースティック曲線式に粗利が積みあがってきていたとしても、
あるコホート(使い続けてくれているユーザ群)からの利益が拡大していないのであれば、
それは経営のパフォーマンスが上がっていないということです。
また逆に、PayPal がスケールアップに悪戦苦闘していた時期のような、逆の状態もあり得ます。
バナー広告で顧客を獲得するのはコストがかかりすぎると判明した。
しかしながら、サインアップしてくれた人々に直接ペイバックし、
口コミで紹介してくれたらさらに報酬を支払うというやり方で、PayPalは目覚ましい成長を成し遂げた。
このやり方のコストは$20/顧客だったが、7%/日で成長した、
つまり、我々のユーザベースは10日ごとにほぼ倍に増えていった。
四、五か月で、数十万のユーザを獲得し、
CACを最終的にははるかに上回る小額の手数料の送金というサービスで
巨大な企業を築く持続的なチャンスをものにした。
出典(上記は原著からの意訳):
この節のタイトルにさせていただいた
大成功した WealthFront 社の事業再生
これらのバニティ・メトリックスに振り回されるのを防ぐためには、
エリック・リース氏のいう、
をきちんと定義し、トラッキングしていく必要があります。
イノベーション会計を本格的に語りだすと多数の記事を新規に書き起こす必要があるので、
本記事の中では、バニティ・メトリックスをちゃんとそれと認識して、
これも上掲の THE LEAN STARTUPに掲載されていたものです。
kaChing.comは、
Value Proposition: 面白いオンライン投資ゲーム+同じアルゴリズムを使った投資信託分析サービス
というビジネスを展開していました。
ちなみにkaching/カチンとは、レジが動くときの「チーン」という擬音です。
このオンライン投資ゲームはフリーミアムで、
ものゲーマーが参加する、人数だけを見れば、「大ヒット」ゲームにたちまち成長しました。
彼らが創業当時掲げていた価値仮説は、以下のようなものでした。
アマチュアながら、ファンドマネージャーとして、実戦でも儲けられる才覚を示し、
アマチュアの中にも投資信託で成功する者が現れることを示すだろう
才覚のあるアマチュアFMをしり目に、自力では十分にうまくお金を増やせないと自覚した一般的なプレイヤーは、
現実の投資信託分析サービスが提供されたら、有償でもそちらを使うだろう
そして実験結果は以下の通りとなりました。
KPIと実験結果 | データの意味 | 実験結果 |
450,000人ものゲーマーがプレイ |
ゲームはフリーミアムなので、意味なし | |
7人しか、ファンドマネージャーとしては、才覚をあらわさず | アマチュア投資家は、現在のサービスのターゲットとして顧客としては魅力的でない | ×価値仮説を否定 |
有償サービスへのコンバージョン率:ほぼゼロ | このサービスは全くスケールしない | ×成長仮説の否定 |
7人のプロ投資家が電話してきた | プロが自分たちのアルゴリズムを評価している | 〇新しい価値仮説を示すサイン |
し、以下のような事業を始めました。
Value Proposition: 資産管理サービス
着目すべき指標はフリーミアムのサービスに積みあがったユーザベースではなく、
無料サービスから有償のサービスへのコンバージョン率でした。
これがほぼゼロということは、いまのサービスはサービスとして失格ということです。
ゲームのシステムもタダで維持できるわけではないので、いまのサービスは、
やればやるほど赤字が積みあがるだけです。
一方で、意外なことに、アマチュアでなく、プロの投資家がこのサービスに興味を抱いてくれました。
すなわち、提供しているものはよかったが、刺さるお客様に刺していなかったのです。
これは、新しいサービスの萌芽であるわけです。
そこで、kaChing.comはカスタマーセグメントピボットを決行しました。
かなりの出血をもたらしたであろうピボットですが、
この事業が、ロボット資産管理サービスの草分け WealthFront の基礎を築いたのです。