2022年新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。
正月にちなんで富士にまつわる話をば。
アイキャッチ画像は昨年富士山に旅行に行ったときに撮影した写真です、なかなか荘厳でしょう?
富士グランヴィラ TOKI
Airbnb/エアビー
事業を守る防壁「モート」
事業を守る防壁「モート」が存在しない場合
結論:事業開発・事業再生の要諦:事業のタイプとモート
イントロダクション
そのときは、家族で2泊、全く別のタイプの宿泊施設に泊まりました。
富士グランヴィラ TOKI
一泊目に宿泊したのは
で、これは一棟貸切ヴィラです。 ヴィラが住宅展示場よろしく何棟も立ち並んでいる外見は、ハウステンボスの隣にある
をほうふつとさせますが、外見よりも内装にびっくりしました。
二階建てで屋上がついておりそこでバーベキューするというプランなのですが、
大人二人子供二人4人で泊まるというのに、居間とベッドルームが一階と二階に別々にあるというゴージャスさ、
調度も、写真を見ていただくとわかるように瀟洒で、 階段を上るとそれを追いかけるようにステップが光るという凝りよう、
要するに、ひと棟ひと棟がデザイナーズマンションです。
外装は変なホテルに似ていても、内装は圧倒的にこちらのほうが贅沢。
冷蔵庫を開けるとこれでもかというくらいバーベキューの素材がぶち込まれており、
ワイン1本、ビール、ラムネ、到底飲みきれないほどの量の飲み物。
小学生の子供たちは、この世の天国が訪れたように おおはしゃぎ。
もちろんこれほどの豪奢さ、週末に宿泊するとなると唸ってしまうほどの値段なので平日の割引を利用したわけですが、
にしてもすぐに私は、大きなお世話と承知の上で、やはり心配になってしまいました。
夜景では富士急ハイランドが映えるものの、住所は辺鄙なところで土地代は二束三文としても、
レバレッジとエクイティ、どういう配分でどこからいくらぐらいゲットしたんだろう?
運営している、資本金9百万の㈱ファイナンシャル・フリーダムという会社、勇気あります。
管理人ならビビッて良うやらないタイプの事業です。
ちょうどCOVID-19騒ぎが重なった、何十室も備えたホテルにうっかり泊まれない状況になってからオープンしたので、
ひと棟貸しのスタートダッシュは切れたはずなのですが、きっと損益分岐点は、10年以上先なのでしょう……
Airbnb/エアビー
その次の日に泊まったのは、普通に、久しぶりのAirbnbでした。
管理人は大のエアビーファンで、特に海外で利用するのが大好きです。
今回宿泊したのは富士周辺でいくつかの事業を営んでいる会社の所有するエアビー物件で、富士吉田にありました。
コストが富士グランヴィラ TOKIとは比較にならないので、もちろんぜいたくな気分満喫というわけにはいきませんが、
小ぎれいで、室内に甲冑が飾ってあり子供が触っても問題なく、インバウンド受けしそうな物件。
一泊目がワイン付きの、肉盛りだくさんのバーベキューだったのに対し、
二泊目は地元のラーメン屋と、ぜいたくさは比較にならぬダウングレードでしたが、これはこれで乙なものです。
なぜなら、こちらのほうが、ローカルな雰囲気・その住人の方々にがっつり交われるからです。
もともとAirbnbは贅沢を満喫するためのものではないですよね?
アパート代も払えないと金に困ったルームメイトの創業者が二人が、ブログにちょいと
と広告を出して、それを3人が利用したというMVPが始まりのサービス、楽しむところが全く異なるわけです。
事業を守る防壁「モート」
さて、長いイントロがおわっていよいよ本題。a moat/モートの直訳は、城を囲む堀という意味で、
事業の領域では、ウォーレン・バフェット氏たちが言い出した概念であり、
を指します。管理人が何より重要なものとして主張してきた、
とかなりかぶってはいますが、より
のカラーを帯びています。
中世の戦争のイメージからきているので、バフェット氏は、
to fortify the sustainable competitive advantage/その持続可能な競争優位性を要塞化する
なんていう、ちょっと大げさに聞こえる表現を使ったりしています。
出典:Warren Buffett on How companies can develop ‘Economic Moat’? How long does it take? (2002)
上記のフレーズが出てきた直後に、コカ・コーラの事例を持ち出しているのが興味深い。
よくある実験で、何種類かあるコーラを飲み比べてもらって、どれがコカ・コーラかを当ててもらおうとすると
ほぼ確実に外れる、だから人間の舌などおよそ当てにならない、ブランドの与える先入観に振り回さている、
というのがあるのですが、コーラで競争優位性を出していくのは、本来それだけ厳しいわけです。
ジョン・ペンバートンが創始したコカ・コーラは、無数の競合を数十年かけて駆逐して、
自分たちは秘伝のコーラのエキスのみを研究開発、製造して、ボトラーに最終消費財のコーラを詰めさせるという、
今の巨大なビジネスを築き上げます。
(すなわち、意外知られていないのですが、Coca ColaとCoCo壱番屋は、Microsoft や Adobe と同様、事実上、
のビジネスモデルなのですよ。最近出てきた例だと、レッドブルがそれです。)
つまり、Coca Colaは、
を掘って自社の事業を盤石にするために、長い歳月をかけているわけです。
この記事で取り上げた Brew Dog も、そのオリジナルのレシピを堂々と公開しても何ら痛痒も感じないほど、
がっちりしたモートを具備しているといえます。
さて、イントロダクションで取り上げた
も、この意味では、無類のモートを誇っているといっていいわけです。
しかし、このブログを読んで頂いている方々には、これには強烈なリスクを伴うことがお判りでしょう。
線形プロダクト開発(プロダクトアウト)で大失敗を喫したイリジウムもまた、
そのサービスに市場性があるのであれば、 当時としては最強に近いモートを備えていました。
今でこそウェザーニュースというスタートアップがWNISATシリーズという自社の衛星を2つ宇宙に打ち上げ、
ベゾス氏のBlue Origin など、数千個の衛星を打ち上げるのだと豪語する時代ですが、
当時としては、72個も成功裏に自社の衛星を打ち上げ、そのうち66個を無事にオペレーションしている企業など、
他にありはしませんでした。衛星電話のサービスはほかにいくつかありましたが、
システムが最もゴージャス・堅牢で、通信の品質が抜群に高かったのがイリジウムです。
しかし、これは果たして、何を守るためのモートでしょうか?
モトローラ社が外注して行わせた10年にも及ぶマーケティング調査が、
少なくても 4000万人 の潜在ユーザが全世界に存在するはずと結論したにもかからわず、
実際の加入者は、 たったの5万人 でした。このイリジウムの事例の場合、
は、いったい何を守るための堀だったのでしょうか?
なのです。 同じことは、たとえば、品質自慢の日本のメーカーが海外に出ていく際にも言えます。
ある、SI腕自慢の、日本の知る人ぞ知るメーカー相手に、リーンスタートアップを講義したときの話です。
海外事業担当の受講生がこのように慨嘆されていました。
になっていないというわけです。
事業を守る防壁「モート」が存在しない場合
イントロダクションで取り上げた2つ目の事例、Airbnbは、このモートが脆弱でした。
というか、ドイツの吸血鬼みたいなザムヴァールという姓の起業家兄弟3人が、
ということを、Airbnbの創業者チェスキー氏に見せつけます。
ザムヴァール氏にドイツの自社に招待されたチェスキー氏は、そこで慄然たる光景を目の当たりにします。
ザムヴァール兄弟の会社では、ブラウザにAirbnbの画面を表示しっぱなしにしたエンジニアたちが、
ドイツ国内とヨーロッパ圏でAirbnbそっくりのサービスを展開しているAirbnbのUI/ UXを、
恥も外聞もなく、もくもくと完コピしていたのです。
彼らの意図は、Airbnbに自社を買収させようとするものでした。
実際、ザムヴァール兄弟は、過去に米国の著名なサービス群
Facebook, eHarmony, Twitter, Yelp, Zappos, YouTube, Groupon
に対して同じ攻撃を仕掛け、ショットガンマリッジ的に、自分たちのクローンサービスを買収させていたのです。
参考文献:
(この実話を読んでから、私は
が大嫌いになり、某アパレルメーカー系のジムを速攻で退会しました。)
このあと、今までは筋肉ムキムキのわりに精神的にじゃっかんヘタレだったチェスキー氏が
この汚い攻撃を受けたことで逆に急に成長し、
それを決然とはねのけてワールドワイドのサービスへとAirbnbを展開していく様は、
とヘタレそのものだったアムロがブライトとフラウの一言ずつで立ちなおって出撃し、
事業開発・事業再生の要諦:事業のタイプとモート
モートには2タイプある;独占所有権のある資産とビジネスモデルの属性である。
出典:
この記事で主張したいことの要諦は、3つの文にまとめられます。
- 顧客提供価値の提供が困難(MVPを作成しにくい)タイプの事業には、強固なモートがあることがありうる
- しかし、いくら強固なモートが築けたところで、そもそも守るべきものがなければ意味がない
(TOKIの事例、私なら、ひと棟だけ半年間で建てて貸してみるという実験をすると思います) - 逆に強固なモートが築けない場合は、「ビジネスモデル特許」をとっておくという守り方もある
ここでしかし、総括として、もう一つ非常に重要なポイントを述べさせていただくと、
顧客提供価値の検証など、必要な実験が進まなくなって本末転倒
モートは大事だけれども、それを意識し過ぎるとスピード感が鈍るということですが、自社の強みを活かすことは前提という理解でよろしいでしょうか。つまり自社の強みを棚卸しそれを活かす形て検討は進めていくものの、自社でしかできないといった超強力なモートを狙いに行くのではなく、スピード重視で顧客にはまるサービスを検討していくということと理解しております。
>私の狙いは、我々のサービスが売れるとわかった段階で雨後の筍のように出てくるかもしれないライバルたちが決して追いつけないような量のノウハウと顧客ベースを構築し、先行者利益を十分に享受してしまうというものでした。
この内容についてですが、売れると分かった段階で初期ターゲットに対してヒトモノカネを割いて市場をとりにいくということだと理解しましたが認識相違ないでしょうか(全方位で取りに行くのではなく1点突破に近いイメージだと思いました。そうしないと資本力のある大手に勝てないと思ったためで、ある案件で全方位的に取り組んだばかりに後発の大手に全部取られたという痛い記憶を思い出しました)
ご質問ありがとうございます。
1. 最初からリソースをはたいて強力極まるリソースをゲットしに行くのはよく考えた方がよい、の意です。
イリジウムは自社の強みベースの超強力なモートを掘ってから事業を始めましたが、アメリカ経済史上、第三位のチャプター11を申請しました。
/2021/11/18/iridium/
2.「市場をとりにいく」のではなく、市場を造りに行くのです。全方位に関しては、すみませんが、ご質問の意図をはかりかねました。
記載がまずくすみません。
全方位というのは、例えば想定する客さまの業種が複数あった場合に、同時並行的に販売をしていくというものです。少ない資本をもってご記載いただいた「ライバルたちが決して追いつけないような量のノウハウと顧客ベースを構築」というやり方がイメージできなかったので、特定の業種に絞って展開していくという考えなのかなと考えた次第です。
お答えする前に気になるのですが。そもそも、その事業はピーター・ティールの第一定理に反していませんでしたか?
/2022/01/13/3c4p1/
私がPMFを初めて実現した、「ライバルたちが決して追いつけないような」リソースを準備した事業は、今まで誰もやったことない事業でした。
当時私が勤めていた企業は大企業からは程遠かったのですが、仮に企画段階で、「お願いだからこの事業企画をパクってください」と大企業にお願いしたとしても、決して誰もパクろうとしない企画でした。
/2022/01/13/3c4p1/
けれど世に出してみたらイノベーターのお客様がいきなり何社もついたので、雨後の筍のごとくコピーキャッツが現れたのですが、我々はコアの技術的な積み上げをあらかじめたくさんしておいたので、追いつかれることなくぶっちぎることができたのです。
カスタマーセグメントが単数複数云々の前に、「流行しているから」「この程度しか思いつかないから」と、他社の顰に倣ったら、競争を仕掛けられるのが当たり前ですよね?
Yコンビネーターも明言している通り、COVID-19がはやり始めてからリモートワークのソリューションを造るスタートアップを起ち上げたら、自ら破滅の道を選んだも同様です。
さらにもう一点。
ランチェスター戦略を勉強することをお勧めいたします。
/2022/01/09/lanchester/
よく理解できました。誤認識通りピーター・ティールの第一定理に反しておりました。
どうもありがとうございました。ランチェスター戦略も重要ですね(私が記載したことはランチェスター戦略になっていないと認識しております)
よく勉強して進めていきます。