新規事業開発に 3C は必要ない

Tesla

新規事業開発に 3C は必要ない

イントロダクション:タピりと4P

かつてコンサルファームに勤務していたとき、

そこで初めて 3C/4P/5 Forces をまなんだ

ので、よく4Pを3Pを間違えてハズい思いをしていました。

3Pといえば、街中を歩く女性にお声がけをさせていただく

を職業にしていて、私にスキルを伝授してくれたひとが、面白いエピソードを語ってくれました。

彼がピックアップした女子大生が、かつて粘着系の男子と付き合っており、
よしゃあいいのに、いくつかのSNSでつながっていたそうです。
あるとき、タピオカの入ったお菓子を二つ買って一人で食べた様子を
ダブルたぴりー♪
とツイートしたら、すかさず、粘着彼氏から恐ろしいLINEが。
一人で一度に二つなんて食ったわけないから、男と一緒だろ!
そこで彼女がすぐに思ったのが、
これで3つ食ったら、じゃあ3Pしたってことかよ!
だったそうです。
これ、ウケませんか?
………あ、面白くないですか。これはまた失礼しました………

事業開発にはまるで役立たず:3C と 4P

上記のエピソードで何が言いたいかというと(?)、
コンサルファームに入って40代後半になり初めて 3C/4P/5 Forces をまなんだ

ということを、

これっぽっちも後悔しなかったし、学んでこなくて心底よかったなと思った

ということです。

事業再生はともかく、新規事業開発には、これらフレームワーク、有害無益だからです。

イントロダクションに書いた話で笑い飛ばすくらいでちょうどよいですよ、こんなの。
3C/自社(Company)、顧客(Customer)、競合(Competitor)
4P/製品(promotion)、価格(price)、チャネル(place)、プロモーション(promotion)
だそうですが。
あはははは、どーでもいいわ。
いや、いま嗤ったの、私じゃないですよ。
嗤ったのは、天下のイーロン・マスク氏です。まず、
Teslaは、他のオートメーカがそう簡単に「競争できない」スキームのビジネスになっています。
したがって、最後の C を意識するようなビジネス造るやつは頭が良くない、とマスク氏はいうでしょう。
マスク氏は、
「電気自動車が普及してくれれば、それが競合によって製造されていてもよい」
とまでいいきり、その証拠に、Tesla のEVに関する知財を無償で公開したりしています。
以前の記事で説明した、ピーター・ティールの第一定理です。
次に4Pですがね。
みなさん、ウエブでもTVでもいいです、Tesla の広告見たことありますか?
………ないですね?あるわけないです、広告を打っていないから。マスク氏は、
広告が大嫌い
なのです。だから、Teslaには広報はあっても広告部門はない、というか、そもそも、
マーケティング部門がない
いやあ、さすがの Tesla、あんたほんまにすっきりや。いい会社ですねえ。
ちなみに、若き日のベゾス氏も広告大嫌いでした。最近になってベゾス氏心変わりしまして
ようやくAmazonブラックフライデーとかウェブ広告見かけるようになりましたが、
ずっと長い間、Amazon.comの広告はうたれませんでしたし、
自社サイトに企業の広告を打つこともありませんでした。
要は、Yコンビネーターの現CEOマイケル・サイベル氏も繰り返し指摘している通り、
MBAは既存企業のマネージャー向けのもので、スタートアップ/新規事業向けではない
ということなのです。

新規事業開発のとき、なぜ競合を考える必要がないか?

簡単に言ってしまうと、
競合を意識する/せざるをえない
=既存のプロダクトがある市場に参入する
=あなたのアイデアは、言っちゃ悪いが、だれでもおもいつく陳腐な代物なわけですね
=Googleみたいにプロダクトがとびぬけていない限り、事業が非常にスケールすることはない
とこうなるからです。

スマホ市場に断固参入「しなかった」iPhone

P&G出身でMicrosoftのCEOまで上り詰めたスティーブ・バルマー氏が、

iPhoneのランチ時にその非常識ぶりをあざ笑うインタビューの様子が、

YouTube上にいくつも動画として挙がっています、かわいそうに………。

この中でバルマー氏は、iPhoneを徹頭徹尾、スマホ扱いして、

従来のスマホの常識から言って売れっこないと決めつけています。

ところが、スティーブ・ジョブズ氏は、iPhoneを、スマホなんていう、

彼が嫌い抜いている、ダサいプロタクトのせせこましい市場に投入するつもりは毛頭ありませんでした。

ユーザの体験そのものを全く新しくして、電話の世界をひっくり返す、

電話の再発明=電話を電話でなくする

ことを狙っていたからです。だから彼は、有名なマックワールドのプレゼンで

iPodに、電話機能と、快適なブラウザをつけた

という説明をしたのです。幹が iPod で、電話機能は枝葉なのです。

(実際には、画面こそ確かに広いものの、EDGEしか対応しておらず、ブラウザはめちゃくちゃ遅かったのですが……)

2008年の世界の携帯電話市場は、フィーチャーフォン 10.8億台に対し、スマホは「たったの」1.4億台でした。

スティーブ・ジョブズ氏にとり、iPhoneがスマホにカテゴライズされるかどうかは、どうでもいい話でした。

リリースされたiPhoneは、膨大な数のフィーチャーフォンユーザを、直接iPhoneへとたちまち塗り替えました。

そして、十年前を思い出してください、ソフトバンクからリリースされたiPhoneは、日本人に

ガラケーはダサい

と思わせたのです。

それまでは、日本市場に海外の携帯電話端末が入ってきて、大成功した事例は一つもありませんでした。

しかしiPhoneだけは日本の携帯勢力図を塗り替え、日本の携帯電話メーカーの事業を瓦解させました。

Weeblyの創業者デビット・ルセンコ氏は、

iPhoneはスマホ市場に参入したのではなく、iPhoneの新しい市場を生み出したのだ。
キーボード付きのスマホが駆逐されたのはあくまでその結果だ

と、非常に正しい指摘をしています。
スティーブ・ジョブズ氏が、
スマホ市場に参入しよう→マーケットリサーチしよう→競合分析しよう→プロダクトを出そう
と、つまらない当たり前のやり方をしていたら、iPhoneは絶対に生まれていないのです。

電気自動車市場のマーケットリサーチなどしたことがない Tesla

The cars are absolutely our main product, but we are also an energy company and a technology company.
車はもちろん我々のメインのプロダクトではあるが、我々はエネルギー企業であり、テクノロジー企業である。

出典:Vance, Ashlee. Elon Musk. Ecco. 訳及び下線は筆者。

このマスク氏自身による Tesla の定義通り、Tesla はもはや、EVの会社などとは呼べません。

発電装置製造会社 兼 蓄電技術会社 兼 AIソフトはおろかチップセット開発をも含めたコンピュータ企業

です。だから、 Tesla Motors から Motors をとったのです。売り物も、

ZEVクレジット、太陽光発電装置、蓄電池、エアコン、AIロボット……

と、彼らが「四輪のついたコンピュータ」と呼ぶEVなど、

メインであっても、その一部だに過ぎないと、確かに感じさせるプロダクトライン群です。

しかも Tesla のすごいところが、このすべての事業を、たぐいまれなる一貫性をもって提供しているところです。

RIZAPのような、ストーリーが不明確な「多角化」などではありません。

管理人に言わせると、Teslaは、一言でいうなら、

蓄電池とその制御を根本的な 事業コア/強み とするテクノロジー企業

 ということになります。

ストローベル氏が Tesla Motors 起業時に「狂っている」と蔑称され、マスク氏以外に相手にされなかった

7000個の普通のリチウムイオン電池をつなげて、EVに必要な、高出力かつ高レスポンスの電力を出す

という荒業を商用化までもっていくには、大変な研究開発を必要としました。

Teslaはこれを粒粒辛苦やりぬき、血と汗の結晶たるこのあたりのバッテリー技術の特許を握っておいて、

Appleにとってのホンハイよろしく、中国のBYD(比亜迪)やCATL(寧徳時代新能源科技)に自社のバッテリーをライセンス生産させるのみならず、

ネバダ州の泥からリチウムを採掘する権利まで抑えて、蓄電に関しては完璧なサプライチェーンを構築しています。

そうして量産したバッテリーを、今度は本来競合であるべきオートメーカに販売することで、

オートメーカに、競合したくてもできないようにさせています。

(ちなみに、ZEVクレジットやパワートレインもオートメーカに販売しています。)

こちらも明らかに、

EV市場に参入しよう→マーケットリサーチしよう→競合分析しよう→プロダクトを出そう
などと、明らかに全くやっていません。
そもそもマスク氏、人まねが死ぬほど嫌いだそうです。さもありなん。
ピーター・ティールのいう、
負けないように競争するんじゃない、そもそも競争したら負け
という当たり前の原則を徹底的に貫き通しているのが、ティール氏のもと同僚で、よく絶賛するマスク氏です。

「お願いだからこのコンセプトを真似してください」

The Lean Startup Method/リーンスタートアップの生みの親、エリック・リース氏は、
Lean Startup Co.の、あるポッドキャストでとても興味深い発言をしていました。
プロダクトを世に出したら既存大企業がまねっこしてくるのではないかと戦々恐々としているのなら、
コンセプトの段階で、大企業のところへ行って、こうお願いしなさい。
「お願いだからこのコンセプトを真似してください」
大丈夫、誰もまねしたがらないから(笑)
スティーブ・ジョブズ氏がMicrosoftのバルマー氏のところに iPhone の企画をもっていって、
いいアイデアだろ?パクっていいよ
といったら、バルマー氏に大笑いされたわけです。同じことは、2002年に
7000個のバッテリーをつなげてEVを造りませんか?
とオートメーカに企画を持ち込んでも起こりましたし、
Netflix の創業者の一人、ランドルフ氏は、ヘイスティングス氏と一緒にBlockbusterをおとずれたときのことを、
Netflix を50億円で買収しないかと持ち掛けたら、(当時のレンタルビデオ最大手)Blockbuster の社長は、
明らかに笑いをこらえていた
 と述懐しています。

終わりに

思ったより記事が伸びてしまったので、

スタートアップはなぜ広告をうったりブランディング戦略をまず考えてはいけないか?

は別の記事で議論します。

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