オポチュニティーソリューションツリー

Opportunity Solution Tree(オポチュニティー・ソリューション・ツリー)の導入で売れるプロダクトを造る

OST/Opportunity Solution Tree(オポチュニティー・ソリューション・ツリー)とは何か?

テレサ・トーリスと Continous discovery (コンティニュアス・ディスカバリー/継続的探索)

ついには、世界の現代プロダクトマネジメント界のスターになることになる、ポーランド系アメリカ人のTeresa Torres(テレサ・トーリス)は、ふと気づきました。

ソフトウェアって永遠に機能が成長し続けていくものなのに、なぜみんな、新製品開発はこのチーム、いったん出来上がった製品に関して聞き込み調査を行って改善するチームはマーケティング部門ってわけてるんだ……?」

そこで彼女は continuous discovery(継続的探索) という考え方を提唱し、いかなる機能であっても、造り始める前に、徹底的に顧客を理解し、顧客にとってのバリューをより提供できるよう、ソフトウェアを拡張し続けることをプロダクト開発の中心に据えました。

継続的探索とは、開発の前や途中に一度だけ調査をするのではなく、日常的に顧客理解と検証を回し続けるプロセスのことです。顧客インタビューや小さな検証を繰り返しながら、「本当に我々は価値があるのか?」を確かめ続けます。

では、なぜ「継続的探索」が必要になったのか?この考え方が広まった背景には、プロダクト開発現場の「あるあるな失敗」があります。

問題の一つは、「アジャイルの体裁をした」事実上のウォーターフォールの失敗です。本来は、顧客にぴったりくっついて、学習しながら開発を進めていくはずのアジャイル開発が、実態としてはいつの間にか

(顧客の言うことなんてろくすっぽ聞かずに)造ることだけに集中

し、自分たち本位で作成した要件を実現するためだけに開発を進めるだけの状態になってしまうケースです。結果、顧客価値の検証をせずに作るため、結果として「誰も欲しくないもの」をリリースして炎上する、という事例が後を絶たなくなりました。

もう一つ大きな問題は、組織の分断です。「新製品開発はプロダクト側の仕事」「顧客理解や市場はマーケの仕事」と切り分けてしまい、顧客理解がチームの外に追い出される構造です。

この状態では、開発する側が顧客を知らないまま意思決定をしてしまいます。

こうした反省から、「開発チーム自身が継続的に顧客と向き合うべきだ」という考えが強く求められるようになりました。それがテレサの体系化した、継続的探索です。

私はこの考え方は、ソフトウェアばかりでなく、製造業に是非とも当てはめるべき考え方だと主張します。なぜなら、アジャイル開発をやっている!と自称なさっている製造業の中には、顧客から口頭で事実上のダメ出しをあらかじめ食らっているにもかかわらず、そのまま猪突猛進して最終的に売れずに炎上している(つまり、仕様の改良=イテレーションは申し訳程度にしても、ピボットすなわち企画自体の破棄は決して実行しない)企業が、数多くあるようにお見受けするからです。

いかにContinous discovery (継続的探索)の「進捗管理」を行うのか?

アジャイルで開発したはずのソフトウェアなりハードウェアなりが最終的に出荷され、値段をつけられて売られる段階になって、さっぱり売れないのであれば、開発手法がアジャイルであろうが、ウォーターフォールであろうが、

開発期間中、顧客価値はまったく生み出されていなかった

と考えるしかありませんよね?したがって、Continuous Discover(継続的探索)では、この顧客価値の創造の進捗を、どうしても測る必要が出てきます。

ウォーターフォール型のプロジェクトで進捗を測ろうとすると、ガントチャートを使いたくなるものです。一方で、アジャイル(≒ 今日日はスクラム)で進捗を測るときは、皆さんバックログを使います。アジャイルで開発しても売れないプロダクトは往々にして出来上がる、という構造的な欠点は、バックログの使い方に引きつけて言うと、バックログに、

このバックログに含まれるイシュー、ユーザーストーリーは、本日すべて無効になりました。なぜならば、顧客に聞いたところ、このプロダクトそのものに対するニーズが全くないと言われたからです。開発チーム、ごめんなさい

というメタレベルの、ふざけたユーザーストーリーを放り込むプロダクトオーナーが、事実上存在しない、ということを意味します。

これらのツールが顧客価値の創造を促せないのであれば、継続的探索では、いったい何を用いて進捗を測るべきでしょうか。そのツールとして、テレサ・トーレスが発案したのが、Opputunity Solution Tree/オポチュニティ・ソリューション・ツリー(事業機会と解決策を木構造で整理する図表)と言うツールです。

 

Outcome(大目的)/Opportunity(事業機会)/Solution(ソリューション)/Experiment(テスト)

このツリーは、以下のような構造になっています。

レベル1:アウトカム(大目的)

テレサ・トーリスは、アジャイルが失敗するのは、それが構築するものがハードウェアだろうがソフトウェアだろうが開発の本当の目的を見失っているからだ、と喝破しました。開発者は皆、開発チームは皆、開発することそのものを目的に動いてしまう。そのことが致命的な誤りとなって、いざ値段をつけたあとに不毛な努力が表面化、炎上するわけです。

だからテレサは、このツリーのトップレベルに、必ずアウトカムを持ってくるよう奨めています。

彼女の著書『Continuous Discovery Habits』では、この「アウトカム」を、単なるスローガンとして掲げるのではなく、チームが日々の意思決定をするときの、最上位の判断基準として置くべきだと、繰り返し説かれています。つまり、何を造るか?より先に、

どんな行動変化を、顧客にひき起こしたいのか?

を明確にしなければならない、ということです。ここが曖昧なままでは、開発チームは、どうしても

  • 今月は何を作ったか
  • どれだけ実装したか
  • どれだけチケットを消化したか

という、顧客価値の創造ではなくて、機能開発の進捗で測るしかありません(スクラムでいうベロシティも、顧客価値の創造のペースは、原理的に測りようがありません)。

アウトカムに、「我々にとっての顧客行動のいい方向の変化とは、こう定義する」と謳っておけば、チームの全員が自分たちの本当に達成したいことについて、ブレずに仕事を進めることができます。

レベル2:オポチュニティ(事業機会=顧客の「モヤモヤ」)

アウトカムの下には、顧客が抱えている、困りごと、欲求、不満、ためらい、未充足のニーズ……と、もろもろのモヤモヤがぶら下がります。

ここで重要なのは、実際にはほとんどの場合、オポチュニティ=モヤモヤは、階層構造になっているということです。大きなモヤモヤの下に、より具体的な下位のモヤモヤがぶら下がる。そういう構造として捉えないと、現実の顧客理解はできません。

たとえば最上位では、「サービス導入の手間が障害になっている」といった大きな事業機会が見えていたとしても、そこからさらに、その背景たる

  • 長期のコスパが読めない
  • 導入事例がないので、社内承認を通しにくい
  • 初期設定が難しい

といった、より具体的な下位の事業機会へと、枝分かれしていくわけです。つまり、オポチュニティを一枚の平面的な箇条書きとして並べるのではなく大きな問題領域から小さな問題領域へと、木構造を下り名から細分し、整理していく必要があるのです。この構造を取ることによって初めて、我々はいま、どの市場の、どの事業機会のどの細目を注視しているのか、その中のどの下位の事業機会を優先するのか、というように、切り分けて議論することができるようになります。

実は、私は、このオポチュニティが複数あって、それが枝分かれしていることが、OSTおよび継続的探索のメリットがいちばん大きい部分だと思っています。なぜなら、必ず複数の事業機会=モヤモヤを意識しておけば、顧客が

そんなニーズなんか全くない

と仮説を容赦なく全否定してきても、さほどショックではないからです。したがって、確証バイアスでフォルスポジティブに陥る弊害は免れます。

また、もう一つ、テレサがここで強調しているのは、このレベルのノードに、決して解決策を書くな、ということです。多くのチームは、アジャイルであっても、

  • トップが口にした思いつき
  • 営業が持ち込んだ顧客の(どこまで本気かわからない)要望
  • プロダクトオーナーや開発者が思いついた便利機能や仕様

を、そのまま「やるべき(何を?)こと」として盛り込んでしまいます。けれども、それらは本来、顧客が抱えている課題の一候補に対する解決策の、さらに一候補にしかすぎないわけです。

だから、それは事業機会などでは決してないし、ソリューションレベルに自分たちの開発したい解決策を書き込んでおいて、そこから逆算してオポチュニティをでっち上げることも厳禁です。これをやってしまうと、顧客にヒアリングしに行ったとき、強烈な確証バイアスにハマるからです。

レベル3:ソリューション(解決策)

そして初めて、そのオポチュニティの下に、複数のソリューション案を並べます。ここで重要なのは、最初に思いついた解決策を正解扱いしないことです。開発現場では、一度ソリューションが決まった瞬間に、それが既定路線になってしまいがちです。その結果、本当はもっと筋のいい案があるかもしれないのに、
チーム全体が「決まった案を予定どおり作ること」に集中し始めます。

しかし、コンティニュアス・ディスカバリーの前提では、ソリューションは仮説です。しかも一つではなく、複数並べて比較されるべき仮説です。

つまり、オポチュニティ・ソリューション・ツリーは、「正解の機能」を一つ選んでそこへ突っ込むための道具ではありません。顧客が抱える事業機会に対して、どの解き方が筋がよいのかを、いくつか並べて考えるための道具なのです。

レベル4:エクスペリメント(テスト)

ここで重要なのは、コンティニュアス・ディスカバリーでは、ソリューションそのものをいきなり検証するのではない、という点です。テレサが繰り返し述べているのは、私たちが検証すべきなのはソリューションそのものではなく、そのソリューションが成り立つと私たちが信じているアサンプション(前提仮説)だ、ということです。

たとえば、ある機能案を思いついたとします。このとき本当に問うべきなのは、

  • 顧客は本当にこの課題を強く感じているのか。
  • この解き方は、その課題を本当に軽減するのか。
  • 顧客はこの使い方を自然に理解できるのか。
  • 技術的・法務的・運用的に実現可能なのか。

といった、ソリューションの背後に隠れている、そのソリューション仮説を成立させている前提仮説です。したがって、オポチュニティ・ソリューション・ツリーの「テスト」の段階で行うべきことは、「このソリューションのプロトタイプを市場に出してみること」ではありません。そうではなく、このソリューションが成り立つために、絶対に正しくなければならない前提は何かを特定し、その中でも最も危ない前提仮説から順に、小さく、早く、安く検証していくことです。

この考え方に立つと、コンティニュアス・ディスカバリーの進捗とは、「どれだけ機能を作ったか」ではなく、どれだけ重要な前提仮説を潰せたか、あるいは、どれだけ危険な思い込みを早く否定できたか、で測るべきだ、ということになります。

つまり、ガントチャートが予定との差分を示し、バックログが作業の一覧を示すのに対して、オポチュニティ・ソリューション・ツリーは、顧客理解がどこまで進み、どの事業機会が本当に重要だと分かり、どの解決策の筋がよさそうで、どの前提仮説が正しいと証明され、どの思い込みが否定されたのか、を可視化するための道具なのです。

私がこの考え方を高く評価しているのは、このツリーが、開発チームの視線を「造ること」から「顧客価値とは何か?を考え抜くこと」へと、強制的に引き戻すからです。そして、新規事業や新製品開発で本当に必要なのは、まさにこの視線の切り替えだと思っています。

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