事業の大目標 Product/Market Fit プロダクトマーケットフィットのその理解、間違いです

Product/Market Fitを達成

事業の大目標 Product/Market Fit プロダクトマーケットフィットのその理解、間違いです

以前、スタートアップが集まるイベントで、主催者のファシリテーターが、参加したスタートアップたちに、
それで、御社は何をもってProduct/Market Fitに達したと判断したんですか?
…………えっ⁉︎
いま何をおっしゃいましたか?……イミフ。

イントロダクション:究極のイミフ 対 至高のイミフ

いや、これは、
究極のイミフ 対 至高のイミフ
に出品可能なほどのイミフです。
しかも、
「わあっはっはっは!この程度のイミフで究極とは片腹痛いわ!
士郎、お前にイミフを語る資格などない!!」
と、海原雄山に嗤(わら)われない高度なイミフっす。
なぜか?
万人が合意可能な、正確なProduct/Market Fitの定義とは、
「自社がProduct/Market Fitに達したかどうかよくわからない状態は、
決して、Product/Market Fitに達していない」
というものだからです。
これは、エリック・リース氏の定義でも同一です。

Startups occasionally ask me to help them evaluate whether they have achieved product/market fit. It’s easy to answer: if you are asking, you’re not there yet.
Ries, Eric. The Lean Startup.

真のPMF/Product/Market Fitの定義

「自社がProduct/Market Fitに達したかどうかよくわからない状態は、
決して、Product/Market Fitに達していない」
上記の定義、ちょっと、高校時代にならった虚数の定義「実数ではない数」に似ておりますが、
似ていないところは、
体験することができ、体験することでしか、本当には意味が分からない
という点です。
私がこれを体験したときの感想を述べると、こんな感じです。
一方で、何をやってもビシビシ利益が上がるので
俺ら天才ちゃう?
もう一方で、めちゃくちゃ忙しいので、
こんな修羅場、もう、二度とごめんだー!
こんなアンビバレントな状況です。
私だけかと思っていたら、何のことはない、
Yコンビネーターのスタートアップたちは、Product/Market Fit達成後、
そっくり同じ所感を述べているらしいです。
Yコンビネーターの現CEO、マイケル・サイベル氏は、このYouTubeの46分ごろ、
Product/Market Fitに達したスタートアップの創業者から、以下のような電話 “the best call” をもらうといっています。
“Michael, you never told me that it sucks. And I was like, oh, yeah, sorry, I forgot. Yeah, it sucks. Like sucks.”
「『マイケル、Product/Market Fitがこんなにひでぇ状態だとは、あなたから聞いてないです!(泣)』
私はこんな感じに答える:
『あ、悪ぃ悪ぃ、いうの忘れてたわ。そうなんだよ、ク〇なんだよ、Product/Market Fitは。ひでぇもんだろ』」
つまり、これは、筆者ごとき、みなさんには海のものとも山のものともわからない人物が適当に定義したものではなく、
世界最強のシードファンド Yコンビネーターが定義し、
そのバッチに参加した、大成功したスタートアップたちが合意している概念
なのです。
Product/Market Fitとは、良くも悪くもお祭り騒ぎ、狂騒状態である

Product/Market Fitは決してKPIでのんびり計測するものではない

Product/Market Fitは、KPIで、その状態まで行ったかどうか判定するような代物では決してない
ということになります。
田所氏には申し訳ないのですが、
PMFが達成していると判断できるのは、およそ次の3つの条件を満たしていることだ。
●ユーザーの高いリテンション(定着率)を保てているか?
●カスタマー獲得から売り上げを獲得するまでの流れは確立できているか?
●リーンキャンバスの項目全体を見て成立しているか?」
(中略)
この3つの条件を満たすようになると、何も宣伝をしなくてもユーザーがプロダクトを求めて集まるようになる。
もしくは、SNSなどを通じてプロダクトのことが次々に広まるようになるなど、
創業メンバーが実感できる変化が出てくるようになる。
という「起業の科学」(田所雅之著、日経BP社刊)の定義は、これは、はっきりと、
間違い
です。
誤解、とか、誤記、とかではなく、
明らかに田所氏がProduct/Market Fitを達成を経験したことのないとこらからくる、
間違った定義
です。
一度でも、Product/Market Fitの狂騒状態を味わった人間なら、絶対に、こうは定義しません。
名指しで糾弾せざるを得ないのは、
この誤った定義に振り回されて変なところで不毛な悩みを抱えている
スタートアップ創業者、イントラプレナーを、何人も見てきているからです。
こう書くと、田所氏の信奉者は、
このような事象は、人によって定義が異なってもおかしくないのでは
と、いぶかしく思うかもしれません。
実は、Yコンビネーターのマイケル・サイベルCEOは、この Youtube の中で
聞き手のこのような反応を見越して、先手打っています。
Product/Market Fitって人によって定義が異なるとかなんとかいう人がいるけど、これね、そういう問題じゃないのです。

そして、4:16あたりでこう、的確に、短く定義しています。

Product/Market Fitに達したとは、利益を出しながら、成長 growth があなたの会社を危機に追い込んでいる killing you 状況

いったんProduct/Market Fitに達してしまうと、

社内外のだれが見ても明らかに

大ヒット満員御礼!状態

なので、

●ユーザーの高いリテンション(定着率)を保てているか?

●カスタマー獲得から売り上げを獲得するまでの流れは確立できているか?

●リーンキャンバスの項目全体を見て成立しているか?

上記を「科学的に」チェックする必要はないし、
そもそも顧客からガンガンCRとかサポートの問い合わせが来るので、
そんなもの、のんびり調べている暇がない!のです。

Product/Market Fitに達成して経験する2つのサイン

Yコンビネーターの初期のバッチの出身者で、ユニコーンを達成した、

手軽にECサイトを立てるのことのできるSaaSを提供する

Weebly/ウィーブリーの創業者デビット・ルセンコ氏は、

この YouTube の32分あたりで、Product/Market Fitのサインとして、2つ挙げています。

Product/Market Fitに達しているかどうか?

を判定するためのサインを、以下に列挙し、順番に解説を入れていきます。

  1. 顧客が万難を排してサービスを使おうとする。
  2. PMFがないと、何をやっても苦しく感じる。
    ところがいったん手にしてしまうと、すべてがすいすい運び、
    それどころか、すべてが勝手に成果に結びついていく。うちら天才だ!

①顧客が万難を排してサービスを使おうとする。

ルセンコ氏のスライドの英語表現 “beat a path” は、以下のような意味です。

beat a path through the jungle
ジャングルで草木を踏み倒しながら道を作る
(出典:英辞郎)

2021年10月初め、Facebookのサービスに大規模障害が起こりましたね。

一説によると、原因はルータの設定の間違いらしいのですが、

ともかく、こんな大障害が発生したにもかかわらず、

Facebookから何万人ものユーザが一気に離れた?

という噂は一向に聞かないわけです。

これが、創業当時、大学を渡り歩きながら一校一校Facebookを導入して回っていたとき

既存のSNSが存在している状況で新参者だった状況で似たようなサービス断が起こった場合、

同社はこうはいかなかったはずです。

これが、Product/Market Fitの威力の一つです。

ルセンコ氏は、上記の動画の中で、

ユーザが自分たちのサービスをハックして別の使い方を始めたら注視して、
そいつに賭けdouble down なさい

とも指摘しています。

この「ハック」という単語、日本人の平均的な感覚とは異なり良い意味合いなのですが、要は、

「現バージョンにはどんぴしゃりのほしい機能がないから、ユーザが自分で工夫して何とか補ってしまった」

ということが起こった、ということです。

これがProduct/Market Fit未達成の状況だと、

ユーザは、

ほしい機能がない、つかえないサービスだ

と、ぷいっと離れていくわけです。

②Product/Market Fitをいったん手にしてしまうと、すべてがすいすい運ぶ

Product/Market Fit、経験してみると、まさにこんな感じですよ。
よく考えて行動しなくても、やることなすこと、ぴしぴし当たっていく感じです。
まさに、聞くと見るとは大違い、の世界でして、そのお祭り騒ぎに巻き込まれてみると、
「こっ、これが、あの、Product/Market Fit なのかっ……」©️車田正美
と天を仰いで呻くことになります。
私が今までのキャリアの中で唯一のProduct/Market Fitを達成したときは、
AWSなんていう便利なものが使えない状況だったので
(事情があってどんなサービスだったかもほのめかせないのがつらい……)
急上昇したトラフィックに、まず、その段階では2人しか人員がいなかった保守チームがてんやわんや。
そして顧客開発チームには、
もっとこんな機能はないのか?
という問い合わせ、Change Requests が殺到します。
お祭り騒ぎであり、同時に修羅場です。
私はたまたま、それなりにリソースのいる規模の会社だったから人かき集めてなんとかなったのですが、
スタートアップだと、なまじ
Product/Market Fit達成してしまったからこその頓死
がマジでありうると思います。
スタートアップでは組織の規模の拡大のタイミングが非常に難しいと言われるのは、これが原因です。
Product/Market Fit達成前に会社でかくしてしまうと、
うまく軌道に乗らなかったとき、人を切らないといけなくなるかもしれない。
逆に、訓練されたリソースが少ないままでこの狂騒状態に達すると、今度は人が足りなくて破綻します。

「たった20%のスタートアップしかPMFを達成しない」?!

というタイトルのオンライン講演が、マジであったんですよね。

さすがスタートアップのガラパゴス、もしくはパラディ島の日本です。

みんな立体機動装置を使ってシューシュー空を飛んでいないと、

こんなピンぼけなタイトルのセミナーは成立しないです。

この YouTube の中で、

PMFってめっちゃめちゃ達成困難、信じられないほど難しい

とルセンコ氏は指摘しています。

マイケル・サイベル氏は、この Youtube の中で、

Yコンビネーター卒のスタートアップのほとんどがPMFを達成しない。
買収話(エグジットの一形式ですよね)のほうがまだたくさん聞く

とその難しさを表現しています。

実際は、

99%以上の新規事業がProduct/Market Fit なんか達成できない

のです。

このPMFを達成するのにグロース・ハック/Growth Hack なるものが使われるとされているのですが、

またの話にします。

→Product/Market Fitについての続編、こちらに書きました。

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