究極の顧客開発ZARA

究極の顧客開発インディテックス

究極の顧客開発ZARA

イントロダクション(読み飛ばして差し支えないです)

オミクロン株登場前に、ビジネスモデルの取材がてら、あるアパレルショップにいってびっくりしました。普段全くテレビを見ない私でも知っているジャニーズの方がモデルのポスターが貼ってあったのですが、いや、コーデがひどいのなんの…………使用している色に統一性がないし、その当時のトレンドから言って、着用がご法度とされていた黒や、濃い原色が入っていたのです。

その当時のトレンドではお洒落な色は、ペールベージュ、ライムグリーン、ライトブルーでしたから、冗談だろとつぶやいたほどギャップが大きい。

よくこんなポスターを、よりにもよって、アパレルショップに貼ったなあ、ともはや感服しました。(ちなみにこのブログの私のプロフィール写真は2,3年前の合格水準で、恥ずかしいのですが、この状況かでうっかり写真館にも行けないので、我慢しているという…………。)誰よりも本人がかわいそうです。どんなにイケメンだって完全に台無し、むしろイケメンほど、本当にモテる女性の目には痛々しく映ります。私だったらこのスタイリスト、クビにしますね。

私の周りの若くておしゃれな女性はほとんど例外なくジャニーズに関心が全くないのですが、理由は、そろいもそろって、コーデ(髪型含む)がダサいから。誰のせいかよくわからないのですが、日本という国は、最新トレンドの男性のファッション(と本当の意味でのリーンスタートアップ)の導入で周回遅れの「ガラパゴス」なのです。証拠をつかむのは簡単で、インスタで人気の、欧米の最新トレンドをトラックしているアカウント2つ、3つを追いかけてみると、このすさまじいばかりのカルチャーギャップ、というかもはや、

カルチャーデバイド

にぶち当たります。

日本国内のポスター/雑誌でおしゃれとされている男性のコーデは、ことごとく的外れもいいところなのです。そして厄介なことに、日本国内のおしゃれな女性は、欧米でおしゃれとされているトレンドを、ほとんど時間差なく取り入れ、これが猫の目のようにクルクル入れ替わります。

この結果どうなるかというと、私の周りのおしゃれな女性たちが異口同音に評しているのは、「日本人男性の99%のコーデがク〇、イケオジは千三つ」です。すさまじい状況になっています……。

わたしはこの展開にどうついていっているのかというと、プレCOVID-19の時代は、幸いにも働いていた場所が渋谷だったため、街中を歩く女性のコーデをしっかり追いかけるアパレル業界に女性の知り合いをつくって、自分のコーデをチェックしてもらうというやり方をしていました。すなわち、エスノグラフィーです。これをコツコツやってきたので、上の女性たちの酷評を彼女たちから聞き出すことができたといえます。なぜなら、私のコーデが全然いけてなかったら、面と向かってこんなことをいうはずがないからです。

Inditex/インディテックスの誕生秘話

女性受けする外見を手に入れたかったら、自室で男性アイドルの出ている動画を見たり、美容院でファッション雑誌を眺めているのではなく、さっさと街にでて(get out of the building)女性のコーデを観察したり、女性に直接インタビューしろ

これはすなわち、以下の顧客開発の原理そのものです。

顧客受けするサービスを造りたかったら、オフィスで有能と評判の同僚相手に参考意見をきいたり(壁打ち)、市場をデスクトップリサーチするのではなく、さっさとオフィスの外にでて(get out of the building)顧客の行動を観察(ビジネスエスノグラフィ)したり、顧客に直接インタビューしろ

スペインが販売するアパレルを製造していたメーカーの社長だったアマンシオ・オルテガ氏は、あるとき、スペインの街中を闊歩する女性たちのおしゃれをつぶさに観察して独自のアパレルをデザインし、絶対これは売れますから、店においてみてください、今のトレンドにばっちりあっていますと、スペイン最大の百貨店チェーン EI Corte Inglés (エル·コルテイングレス)のバイヤーのもとに持ち込みます。

ところが、これが、そのバイヤーの好みに合わないという理由で、にべもなくはねつけられ、そのバイヤーが求める製品の形の要求が出されます。ちょうど、イントラプレナーの持ち込んだビジネスプランが、社内の壁打ちでこんなもの売れるはずがないと上長に却下されたのと同じ状態です。

オルテガ氏はこの理不尽の対応を恐らくばかばかしいと感じたのでしょう、だったら、いっそのこと自社で小売りのところまでやってしまえばいいと思い立ちます。オルテガ氏のアイデアは、画期的なイノベーションでした。期初(というより、「季初」といった方が適当なのでは)にその季節に売る製品を多数計画して生産するのではなく、街中やショップの現場から吸い上げた情報に基づいて、期中に早いサイクルでどんどん新製品をデザイン、少数ロット生産、売れたもののみ追加生産しよう

これまた、びっくりするほど、顧客開発≒The Lean Startup Method/リーンスタートアップメソッドそのものですね。

事前に念入りにビジネスプランを練り上げ、完成させて市場に投入するのではなく、できたそばからMVPを限られたマーケットに投入、受けが良かった部分を研ぎ澄ませていこう

このコンセプトで造り上げられた企業こそ、世界最大のアパレル企業Inditex/インディテックスです。

出典:齊藤孝浩 著, 「ユニクロ対ZARA」, 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版)刊

ZARAのアパレルは顧客開発ランチパッドで生み出されている

ZARAを筆頭とする世界で最も売れているブランドをもつInditexの組織体制はおよそ直観に反する奇妙なものになっています。全てのカントリーマネージャの席が、風光明媚とはいえはっきり言って片田舎の、ガリシア州ア・コルーニャ県アルテイショにある同社の本社にあるのです。

いいえ、あなたの読み間違いではありません。

日本のカントリーマネージャの席も、渋谷や表参道などではなく、スペインにある

のです。

カントリーマネージャの役割は、オンラインオフラインで自国とスペインを行き来することにあります。渋谷の街を行きかったり渋谷の店舗に入店してきたお客様のコーデを観察したりして、どの製品のどの部分がどのようなトレンドに訴求できているかを最もよく知っている渋谷の店長から、日本のカントリーマネージャは渋谷の情報を得ます。そうして刻々と変わりゆくトレンドの情報を現場から直接すいあげ、それを携えてスペインに戻ります。

スペイン本社には、約1000人のデザイナー部隊が待ち構えています。このデザイナーたち、確かデザイナーという職種ですが、自分の発想から新製品をデザインすることは禁じられています。全世界からカントリーマネージャたちがもちかえってきた山のような現場の情報に基づいて、ここから年間2万点もの新商品を生み出していきます。

傍らにはミシンがあり、マネキンも多数。近くの工場も使ってサンプルをつくり、すぐ手直しなどができる。センター内の模擬店舗に商品を並べて、どう映えるか確認する。狙うのはどの国でも売れる商品。「商品分野によってはアイデアから商品化に至るのは10%程度」という厳しさだ。
出典:「最速ファッション、ZARA丸裸、最強アパレル、スペイン本社ルポ、「店舗が起点」本部即応、トレンド、2週で商品化」2017/05/26 日経MJ(流通新聞)もの

MVP/Minimum Viable Productを造っているわけです。そうしてできたMVP群に対して、カントリーマネージャたちの投票が行われ、厳しくふるいにかけられた一握りのMVPのみが、商品化に回されます。

ZARAの、究極のリーン生産方式

このとき生産・調達担当が、どの素材を使い、どこで作れば、

期中の適切な時期に店頭へ供給できるか見極め、商品化します。

ここまで出典:繊研新聞

そしてこの生産をつかさどるシステムこそ、

TPS/トヨタ生産方式

なのです。同社は初期にトヨタからコンサルタントを派遣してもらい、TPSをがっちり導入しています。このTPSは、2週間という驚くべきスピードで新製品を量産、といっても少数ロットらしいのですが、します。猫の目のように変化し続けるトレンドをリアルタイムに追うにはスピードが最も重視されるからです。このために同社は、本社に控除を持つほか、6割をポルトガルやモロッコなど近隣国で生産、遠距離のオフショア生産はしていません。このようにして、以下のような状況を創り出します。

1シーズンに投入する商品のうち、期初段階から決まっているのは3~4割にすぎない。アニマル柄や花柄など多くの選択肢を準備しておき、店から吸い上げた情報をもとにシーズン中に企画・生産する。そのため期初向け商品を担当する部隊とは別に、期中生産専門の部隊を設けている。
出典:最速ファッション、ZARA丸裸、最強アパレル、スペイン本社ルポ、「店舗が起点」本部即応、トレンド、2週で商品化2017/05/26 日経MJ(流通新聞)

リーンスタートアップメソッドの速いサイクルに追いつけるのはアジャイルのみですが、Inditexも、リーン生産方式で顧客開発ランチパッドに合わせています。こうして世の中に出ていったプロダクトたちに、同社は未練がましく執着しません。ZARAに行き馴れた人は全員知っていますが、ZARAでは、

先月あったはずのこの製品が今は店頭にない!

が極めて頻繁に起きます。シーズンが変わっていないのに、店全体が月単位でくるくる様変わりするのです。なぜかといえば、同社はなんと、

必ずしも売れ筋ではない製品に関しては、一色を売り切ったら、のこった全商品を店頭から躊躇なく取り除けてしまう

のです。そして空いたスペースを新製品で埋めます。このやり方をしていると、店頭には常に、売れ筋もしくは売れ筋になるかどうか実験中の新製品しかない、という状況がずっと続きます。このために、同社は必ず初期には少数ロットしか生産しないのです。この方式ゆえに同社はSDGs/ESGの視点から攻撃されるようになってしまった面もあるのですが、このせわしない新陳代謝は、まさに、「プロダクトでなく顧客を開発している」といっていいでしょう。Inditexがアパレルのジャイアントになったのもむべなるかなです。

ZARAの、リーンなDX

Inditexは、DXもリーンなやり方で進めています。同社ではZARAアプリにストアモードを導入しつつあります。このアプリのストアモード、欧米で普遍的になった「Click and Collect (オンラインで注文した商品の店頭受け取り)」や、スキャンした商品を家に持って帰ってゆっくり見る機能などが満載されています。

同社は全世界にZARAアプリのストアモードを導入する前に、まずは東京を含めた世界の数都市で実験を進めています。ということは、これも

ということです。イリジウムには、全世界一斉ランチにこだわって失敗した面があります。Small Start => Fail Fast にこだわり倒すInditexのやり方には、日本の企業が大いに参考になるところが含まれていると思います。

(正直、アプリに関してだけいうと、ユニクロのほうが先に進んでいると思います。)

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