現代のビジネス環境は非常に競争が激しく、新製品は素早く市場を開拓する必要があります。そんな中、
というキーワードが注目されています。
ところがこのMVP、新規事業界隈の世間一般で、根本的にその意味をはき違えられています。
以下の定義式が成り立つことを指摘したページは、私が探した限りでは、一つもありません。
MVPとは何か?
MVPは、「顧客の財布のひもをかけたフィードバックを得るのに、最短かつ最小コストで作ることが出来る何か」を迅速に市場に投入する手法です。
MVPの定義
MVPとは、Minimum Viable Product (ギリギリ問題解決のために使えなくはないプロダクト)の略で、一般には、製品の機能最小限バージョン(プロトタイプ)を指すとされますが、この解釈は必ずしも正しくありません。
日本語にするとどうしても誤解されやすいので仕方がない面もありますが、このMVP、決してプロトタイプだけを意味するものではないからです。
そもそも英語の「product」は、「なにがしか produce されたもの」というラテン語からきた言葉です。その証拠に、例えば「プロデューサー/producer」は、決していわゆるモノづくりにかかわっている人物だけを指す言葉ではないですよね?
このように、productも、必ずしも形あるものとは限らないのです。
Yコンビネーターなどは、このMVPを、「プロセス」だと定義しているくらいです。
MVPを利用することで、開発チームは市場からのフィードバックを効果的に受け取り、製品の改良、もしくは
判断に役立てることができます。
ここでもう一つ、英語を深く解しない日本人には特に、誤解されていることがあります。
それは、
ということです。
MVPはリーンスタートアップの重要な概念の一つであり、試行錯誤を繰り返しながら最適な製品を作り上げるプロセスの基盤となります。
最も分かりやすい例として初期のプロトタイプがMVPとして扱われることが多いのですが、本当の意味のリーンスタートアップでは、この Minimum (最小限) VP がいつ
に「昇格」したのか、見分けのつかないケースがほとんどです。したがって、
その証拠に、Yコンビネーターの前CEOマイケル・サイベル氏は、
と、ぶっちゃけた発言をしています。
いずれにせよ、これ「ら」(MVPは一つ出しておしまいではありません!)MVPにより、市場からの直接の意見が迅速に収集可能となります。
MVPの役割
MVPの主な役割は、「市場ニーズ」(この、曖昧な概念について詳しくは、「あわせて読みたい」の別記事に譲ります)、迅速に理解し、事業企画のあり方を、客観的に定めることです。
MVPを利用することで、企業は顧客からのフィードバックを早期に受け取り、事業企画の変更や、製品の改善に役立てることができます。このプロセスにより、無駄な開発を避けることができ、コストと時間の節約につながります。
MVPはリスクを最小化する手段としても有効であり、最初に製品の基本的な機能だけを提供することで、市場に受け入れられるかどうかの確認が容易です。
繰り返しますが、全く受け入れられなければ、出血を止めるために開発を止めるべきです。
MVPを開発する目的
MVPを開発する主な目的は、市場のニーズを迅速に理解し、リソースを効率的に活用することです。
市場ニーズの迅速な理解
MVP(Minimum Viable Product)の開発は、市場ニーズを迅速に理解するための重要な手段です。ここで「市場ニーズを理解する」とは、
STEP 2. 顧客はどれだけの対価を、その問題解決に支払うか?
この2段階をそれぞれ検証する、という意味です。そして、全機能を揃えた製品を最初から作るのにはコストと時間がかかりすぎるため、最低限の機能を持つMVPを作成し、顧客からのフィードバックを基に改良を加えていく方法が有効というわけです。
このプロセスにより、企業は早期に顧客の反応を確認し、仮説を検証することができます。新規事業全般にとって、迅速な市場ニーズの理解は、リソースを効率的に配分し、事業の方向性を早期に決定するための鍵となります。また、顧客観点からのフィードバックを得ることで、市場に受け入れられる製品を最終的に提供することができます。
Google や Dropbox、Stripe といった大企業も、初期段階ではMVPを用いて市場ニーズを迅速に把握し、顧客の声を反映した改良を重ねることで、現在の地位を築きました(覚えていますか?最初期のGoogleには、広告が全く表示されていなかったのです!)。
こうした過程を経て、企業は市場にどのような価値を提供すべきかを明確にし、事業の成長の基盤を固めていきます。
開発コストと時間の削減
MVP(Minimum Viable Product)の開発は、企業にとって大きなコストと時間の削減を可能にします。
人気のSNSであるInstagramも、初期段階では写真のシェアリング機能だけを持つシンプルなMVPとしてリリースされました。その後、ユーザーのフィードバックを基に徐々に機能を追加し、現在の形に進化しました。
このようなアプローチにより、企業は無駄な開発コストを削減し、顧客のニーズに適応した製品を効率的に提供することができます。
Instagram 以外の具体例は、「無償のPoCはダメ、絶対」で丁寧に説明しています。
MVP開発のステップ
MVP開発にはいくつかのステップがあります。ここでは主要なステップについて説明します。
仮説の設定
MVP開発の第一歩は、仮説の設定です。仮説を設定することで、今後の開発やテストが明確になります。
仮説を立てるためには、まず顧客の行動パターン(ジョブ)を徹底的に調査します。
このとき、ジョブを果たそうとする顧客の行動上に、どのような摩擦(問題、ペイン、面倒くさいこと)が生じているかを把握します。
この情報から仮説として、どのような機能が求められているかを具体的に決めます。仮説の設定には、インタビューなどの手法を駆使して精度を高めることが重要です。
例えば、新しいアプリを開発する場合、仮説として
という仮説を立てます。
この仮説が正しければ、この面倒ごとを十分に解決する機能を世に出せば、顧客が満足する可能性が高くなります。
しかし、仮説が間違っていると開発コストや時間が無駄になる可能性があるため、独りよがりにならないよう、顧客の証言というエビデンスをもとに、慎重に設定することが重要です。
仮説を立てたら、それを検証するための具体的な指標(KPI)を設定します。
これによって、仮説が正しいかどうかを定量的に判断することができます。
MVPの作成
仮説が設定されたら、次に実際にMVPの作成に進みます。
MVPを作成する際には、コアになる価値提案に焦点を当て、そこが検証できる「何者か」を、必要最低限のリソースと時間で開発します。
例えば、新しいウェブアプリケーションを開発する場合、STEP 1.の検証の段階では、せいぜいが、下記で説明するランディングページで十分でしょう。実際に、この段階でFacebook広告→ランディングページというMVPで検証を行った有名な事例が、スマートHRです。
STEP. 1 で「手応えあり」となった場合のみ(注:スマートHRの創業者の場合、ここまで行き着くのに、実に9個の事業アイデアを捨てたそうです)、STEP 2. の検証のため、基本的なユーザー登録機能や主要なサービスの一部だけをまず実装し、
します。このようにすることで、そのアイデアが市場で受け入れられる(対価を払ってでも顧客が買う)可能性があるかどうかをテストできます。
プロトタイプ作成の際には、
また、
ひたすら、製品を世にだすスピードだけに、こだわり倒してください。
この発言の真意の一側面を、Yコンビネーターの前CEOマイケル・サイベル氏は、こう言い換えています。
念入りに作り込んだら最後、人間誰しも、自分の作品に対する執着が生じます。そうなったら最後、そのMVPが顧客に受け入れなかったら、
と言う、事業にとってマイナスにしかならない、倒錯した心理状態に陥るのです。その結果、売れない原因を営業やマーケターのせいにするという、非生産的なループが始まります。
ユーザーテストとフィードバック収集
上に書いた通り、プロトタイプが完成したら、すぐさま値段をつけて、売ります。これが、MVPと「正式な製品」の区別がつかないという意味です。
以下のように一般に定義されるようなユーザーテスト/無償のPoC だけはご法度の理由、お分かりになりますか。
理由は簡単です、以下の問いを自分に問うてみてください。
- 試食コーナーでもらった試食品が口に合わない時、試食品を配っている人に「まずいよ、これ」と正直に指摘し、突き返したことは、一生に何度ありますか?
- ポケットティッシュを街頭でもらって、その店に行ったことは、何度ありますか?
集めたフィードバックは、チーム全体で共有し、実行可能なアクションプランを策定します。このフィードバックループを繰り返すことで、顧客が何の支障もなく用事をこなすための行動をとることのできる製品を開発することができます。
MVPのタイプと種類
MVPにはさまざまなタイプがあり、具体的な目的や状況に応じて選ぶことが重要です。代表的なタイプとして、ランディングページ、コンシェルジュ型、オズの魔法使い型があります。
ランディングページ
ランディングページは、MVPの一つの形式として非常に効果的です。主に、製品やサービスのアイデアを検証するために用いられます。
この方法では、ユーザーが特定のアクションを取るよう促すシンプルなウェブページを作成します。例えば、ユーザーが興味を示した場合にメールアドレスを登録するよう促すことが一般的です。
ランディングページのメリットは、低コストで迅速に市場の反応を得られることです。これにより、正式な製品リリースの前に、ユーザーがどの程度興味を持っているかを把握できます。また、ユーザーからのフィードバックを早期に収集することで、製品の方向性や機能改善の参考になります。
具体例として、新しいアプリのアイデアを持っている場合、そのアプリの主要な機能や価値を説明するランディングページを作成します。ユーザーがメールアドレスを登録することにより、アプリへの興味を測ることができ、この情報を基に開発を進めるかどうか判断します。
コンシェルジュ型
コンシェルジュ型のMVPは、ユーザーが製品を実際に使用する前に、そのニーズに応じたパーソナライズされたサービスを提供する形式です。これは、技術的な開発が必要な製品やサービスに対して特に有効です。
この形式では、手作業や人的リソースを活用して、ユーザーの問題を解決するためのサービスを提供します。このようにして、ユーザーが実際に製品やサービスに対してどのように反応するか、どれくらいの価値を感じるかを直接的に観察できます。コンシェルジュ型MVPは、特にユーザーの具体的なニーズに対する洞察を得るための貴重な手段です。
具体例として、新しいヘルスケアアプリを開発する場合、このアプリが提供するサービスの一部を人力で行います。例えば、ユーザーが健康に関する質問をするたびに、専任のスタッフがそれに答える形でサービスを提供します。このプロセスを通じて、ユーザーの反応や実際のニーズを把握し、アプリの開発に活かすことができます。
オズの魔法使い型
オズの魔法使い型のMVPは、ユーザーには完全な自動化されたシステムに見えるが、実際はバックエンドで人が手動で操作している形式です。この手法は、システムの背後でどのように機能するかをテストしたり、ユーザビリティを確認するのに役立ちます。
この形式の最大の利点は、少ないリソースでプロトタイプを迅速に検証できることです。ユーザーには自動化されているように見せかけるため、開発初期段階での技術的な投資を最小限に抑えられます。また、リアルなユーザーインタラクションを観察し、得られたデータを基に製品の設計や仕様を見直すことができます。
具体例として、AIチャットボットの導入を検討している場合、ユーザーにはチャットボットが自動応答しているように見せかけますが、実際には人間のスタッフが裏で手動で対話を行っています。この方法を用いることで、ユーザーの反応や需要を迅速に把握し、製品の改良点を見極めることができます。
MVPを活用するメリット
MVPを活用することにより、迅速な市場適応や効果的なフィードバックループ、新技術の迅速な導入と改善が実現できます。
迅速な市場適応
MVPを導入する最大のメリットは、迅速に市場に適応できる点です。従来の開発手法では、製品を完成させるまでに多くの時間とコストがかかります。しかし、MVPを活用することで、市場の需要にすぐに対応できるようになります。例えば、製品のアイデアをプロトタイプとして開発し、その初期バージョンをリリースすることで、実際のユーザーからのフィードバックを受け取ることができます。
このフィードバックを基に、必要な修正や機能追加を素早く行うことができるため、製品の市場適応速度が格段に向上します。また、市場のニーズやトレンドに迅速に対応することで、競合他社に対する優位性を確保することが可能です。これにより、ビジネスの成功確率が高まるとともに、無駄なリソースの浪費を防ぐことができます。
さらに、MVPは早期に市場に投入するため、顧客の実際の使用状況や反応を観察する機会を得ることができます。これにより、事業戦略や製品の方向性を迅速かつ柔軟に調整することができるのです。
効果的なフィードバックループ
MVPを活用するもう一つの大きなメリットは、効果的なフィードバックループを構築できる点です。MVPの初期リリースにより、ユーザーから直接フィードバックを収集することができます。この情報を基に、事業企画の欠点や、製品の改善点を迅速に識別し、反映させることが可能です。
つけたいのは気をつけたいのは、最初のMVPには、決して複数の機能を持たしてはならないということです。複数の機能を持たしてしまい、顧客に「どの機能があれば使えますか?」と聞いた途端、顧客は「どの機能があってもこのサービスを使いません」と言うようには答えられなくなってしまうからです。これに比べて、MVPが単機能なら、単にその機能がいらないから売れなかった、と言うように、速攻で自分に厳しい現実的な判断をすることができるのです。
このように、MVPを通じて得られるフィードバックは製品の開発プロセスにおいて非常に貴重です。リアルタイムで得られるデータを元に、継続的に改善を繰り返すことで、最終的な製品品質が大幅に向上します。結果として、市場での成功を収める確率が高まるのです。
フィードバックループは製品開発のサイクルを短縮するだけでなく、チーム全体のスキル向上にも寄与します。特にアジャイル開発の手法と組み合わせることで、一層効果的なプロセスを構築することができるでしょう。
新技術の迅速な導入と改善
MVPのもう一つの重要なメリットは、新技術を迅速に導入し、改善することができる点です。特にスタートアップ企業や新規事業においては、新しい技術やアイデアを市場に投入するスピードが競争力の鍵となります。MVPを活用することで、初期の段階から新技術を試し、その有用性を検証することが可能です。
例えば、あるスタートアップが最新のAI技術を使ったプロダクトを開発する場合、最小限の機能を持つMVPを迅速にリリースすることで、顧客の反応や技術の実用性をリアルタイムで確認できます。こうしたプロセスを通じて、技術的な問題点や改善点を早期に把握し、迅速に対応することができます。
また、MVPを通じて得られる顧客のフィードバックは、新技術の改善にも役立ちます。ユーザーが実際にどの機能を必要としているか、どの部分が使いやすいかなどの情報を基に、新技術の開発方向性を調整することができます。これにより、無駄な開発リソースを削減し、最終的な製品の競争力を高めることができます。
さらに、MVPは継続的なイノベーションの促進にも寄与します。新技術の導入と改善を繰り返すことで、企業全体の技術力が向上し、今後の製品開発においても一層の競争力を持つことができるのです。このように、MVPを活用することで、新技術の迅速な導入と改善が実現し、事業の成功につながるのです。
MVPを成功させるポイント
MVPを成功させるためには、いくつかの重要なポイントがあります。これらは顧客ニーズの徹底理解、アジャイル開発の導入、効果的なフィードバックループの確立です。これらの要素を組み合わせることにより、MVPの開発がスムーズに進行し、市場での成功率を高めることができます。
顧客の行動の徹底理解
MVPを成功させるための第一歩は、顧客の行動の徹底理解です。顧客がどんな用事をこなすためにどんな行動をとっているのか、その行動の際、どのような問題を抱えているのかを正確に把握することが不可欠です。これには、ターゲット顧客へのインタビューが重要な手法となります。顧客の意見やフィードバックを収集し、それを基に製品の方向性を修正することで、より顧客にマッチしたMVPを開発することが可能です。このようにして、顧客の行動パターンを中心としたMVP開発を進めることで、市場での受け入れ率を高めることが期待できます。
アジャイル開発の導入
アジャイル開発は、MVPを迅速かつ効率的に開発するための有力な手法です。この方法では、短期間での開発とフィードバックの反復を重視します。アジャイル開発では、小さな機能を順次リリースし、その都度ユーザーからのフィードバックを得ることで、製品を段階的に改善していきます。これにより、時間とコストを抑えながら高品質な製品を作り上げることができます。特にスタートアップや新規事業の開発において、アジャイル開発は柔軟性と迅速性を兼ね備えた方法として非常に有効です。このようにして、アジャイル開発を導入することで、製品の市場適応性を高め、顧客満足度を向上させることができます。
まとめ:MVP開発の効果と次のステップ
MVP(Minimum Viable Product)は新規事業やスタートアップにおいて、迅速かつ効率的に市場の需要を確認するための重要な手法です。市場ニーズを迅速に理解し、コストと時間を削減することで、事業の成功率を高めることができます。また、MVPは顧客からのフィードバックをもとに製品を改善するための効果的なフィードバックループを確立します。このプロセスを通じて、新技術の迅速な導入や改善が可能となり、競争力を維持することができます。
次のステップとして、MVP開発においては顧客ニーズの徹底的な理解が不可欠です。アジャイル開発の手法を取り入れることで、柔軟性を持って事業の方向性を調整しやすくなります。最後に、得られたフィードバックをもとに、更なる改善や新たな仮説設定を行い、次のMVP開発に繋げていくことが重要です。このように、MVPを活用することで、リスクを最小化しながらも、持続的な成長を目指すことができます。
あわせて読みたい
興味関心 | ほかの記事 |
---|---|
Yコンビネーター | Y-combinator/Yコンビネーターとは何者か? |
MVPとプロトタイプの違い | 事業開発のポイント:MVPとプロトタイプは違います |
リーンスタートアップ | 新規事業開発手法リーンスタートアップとは何か? |
サービスローンチやPoCの注意点 | 新規事業開発の常識:無償のPoCはダメ、絶対 |
「市場ニーズ」という曖昧な概念 | 「市場ニーズ」を理解して競争力を高める方法 |
顧客の行動(ジョブ理論) | ジョブ理論で、他社を寄せ付けない オンリーワンのプロダクトを … |
顧客インタビューの手法 | 事業開発に必須:「潜在ニーズ」を見つけ出す顧客インタビュー |