地銀による新規事業開発のチャレンジ みんなの銀行はどれだけイケてるか?

地銀による新規事業開発のチャレンジ みんなの銀行はどれだけイケてるか?

ふくおかフィナンシャルグループが

みんなの銀行

という新しい銀行を2021年に開業しました。

管理人が個人的に気になるのは、「みんなの銀行 事業説明会」で上市された事業企画の中に、

リーンスタートアップという言葉がメンションされていたからです。

そのメンションのされ方自体は、若干ピントがずれているのですが、

企画自体は、失礼ながら伸び盛りのインダストリーとはいえない

地銀

から出てきたものとしては、上から目線で失礼ながら出色の出来栄えであり、

本ブログで取り上げる価値があります。

みんなの銀行の母体となった「iBankマーケティング」

みんなの銀行はその母体をFFGの「iBankマーケティング」というサービスにおいています。

この「iBankマーケティング」は、

iPhoneのようなイノベーティブな金融サービスを創りたい
という熱い想いから始まりました。
ウェブサイトを見てみると、FFGのファンドが確かに最大株主ではありますが、
九州中心の多くの金融機関、中にはなぜか九電も、出資した会社であることがわかります。
銀行法は基本的には縛りがきつく、オリックスのように
非金融業が銀行に参入してくるのはアリだが、銀行が小売り、サービス業など一般的な商売(他業)を始めるのはご法度
という不均衡なルールになっており、
(アメリカなどは、小売業が銀行業を開業することもできない)
加えて事業会社に対する出資にも規制が課せられているため、
iBankマーケティング(株)は、FFGの外に出て、多くの株主との共同出資によってこのルールを順守しています。
LEAD and DISRUPT の図6.1においては、
戦略的な重要度が高く、かつ、本業に直接裨益する新規事業は
両利きの組織
で運用せよとなっており、この場合は、
本業に課せられた法的な縛りを免れるためのカーブアウトです。
(蛇足ですが私はこの LEAD and DISRUPT の邦訳タイトル「両利きの経営」は誤解を呼ぶため、好きではありません。
同著が一貫して記述しているのは、あくまで「両利きの組織」です。)
同社は2016年に国内初の
ネオバンク NeoBank
として創業されており、同じくネオバンクの Moven が創業されたのが2011年であることを考えると、
新規事業起ち上げに及び腰のイメージが強い日本企業の、
しかもその中でも動きの遅い地銀としては、相当にクイックな立ち回りではないでしょうか。
ちなみに楽天やオリックスのように、
もともと金融業の外にいたプレイヤーが銀行業を開業することを、ネオバンクではなく、
チャレンジャーバンク(Challenger Bank)
といいます。これはアメリカでは、上記の通り規制され建てることができないため、
ヨーロッパに先達がいます。
この会社が始めたサービスが、利用者数180万人をこえる利用者を獲得し、
利用者数だけを見れば Product/Market Fitに達したかもしれないサービス、
Wallet +
です。
この Wallet + の特徴は、12行で使用できるダイレクトバンキングや
カードローンなど金融関連の機能は当然具備している上に、
ポイントをためたりお得情報をゲットしたりクーポンを取得したり、非金融機能を充実させていることです。
楽天証券と一緒で、ポイントをお金として運用できたりするようです。
同サービスのiPhoneアプリのレビューでは3万人が評価4/5をつけており、
グッドデザイン賞を受賞しただけあって、なかなか使い勝手は良さそうです。
最近の地銀の動きとして当たり前になってきた地銀ブランドの総合商社
エンニチ
にもシームレスにつながっており、
このエンニチの機能は地域のお店の様々なサポートです。
マネタイズは、メインの金融機能の手数料などと、アプリ内広告、
そしてエンニチが to B ビジネスであげる収益といったところで上げているようです。
広告収入は一般的には競合も多くかなりのユーザ数がないとペイしないモデルなのですが、
ここはおひざ元であるローカルに閉じており、さくらなどいなくても、
もともとFFGに預金しているユーザのうちデジタルリテラシーが高い層が
そのまま初期のユーザとして取り込めるところがミソでしょう。
このエンニチ社にも地銀ならではの特徴があり、
FFGと取引がある法人をマーケティング、ECモールなどで支援するプロデュース業を生業としており、
従来のFFGの銀行業が行ってきた、to Cの預金者と to B の法人を直接結び付ける
二面マーケット two-sided market
的なビジネスモデルになっています。
特に面白いのは、本来は、企業の資金調達の方法として銀行の融資のライバルであった
クラウドファンディング
ができるプラットフォームを造ることで、抜け目なく法人を囲い込んでいるところです。
唯一残念なのは、
高齢化が急激に進む地域社会で急減している若い世代をターゲットにしたサービスになっている
ことかもしれません。
本来地銀は、すでに地銀以外に口座を作る気にもなれない高年齢層に手厚くサービスを施すことだと思うのですが、
(この意味で、津田倫男氏が著書「銀行トリプル大崩壊」(徳間書房刊)で上げている、
高齢者向きカードローン
はアリではないかと思います)
FFGとしては、それは本体でやっているから、こちらでは
県境を越え地銀連合を作ってデジタルでチャレンジしたい、ということなのでしょう。
何パーセントがアクティブかは外部からはわかりませんが、実際に18万人もユーザ数を稼げているので、
この、高齢者のカバレッジ云々は、瑕瑾でしかないのかもしれません。
注意が必要なのは、FFGが持つ口座数が540万もの数に上り、
かつ、Wallet+は他行とユーザ数を共有していることを鑑みて、
そのうちごく一部がサービスを使っているだけ
だという事実です。
SAMに比べてSOMが非常に小さいわけですね。
以上出典:
iBankマーケティングホームページ
iBankマーケティングの地域総合商社事業 『エンニチ』
BizZine セミナーレポート「みんなの銀行永吉氏が語る、Appleのようなイノベーティブなプロダクトを生むデジタルバンクの作り方」

iPhoneみたいなアプリから、Appleみたいにイノベーションを起こす銀行へ

さて、本稿の真打である

みんなの銀行
の、いよいよ登場となります。
みんなの銀行は、今度は、Appleのように連続してイノベーションを起こしていける企業を目指すそうです。
Appleの歴史をつぶさに考究してきた私からしてみると、
えっ?Apple のプロダクト開発の歴史を振り返って、なぜイノベーティブって評価できるの?
失敗して葬り去られた products のほうが圧倒的に多いし、
iPad以降、せいぜい Watch くらいで、たいしたものだしてないじゃん?
とじゃっかん戸惑ってしまうのですが、実は連敗でも勝ち組の印象を与えてしまうのが、
Apple復帰後、懐に実弾(近い将来リリース予定の製品)が一発もないのに、
自分の名声と Think Different キャンペーンだけでブランドを復活させてしまった
マーケティングコミュニケーションの名手スティーブ・ジョブズ氏の魔法でしょう。
みんな騙されている…………ってほんとのこといってはいかん💦

ともかく機能面・組織面双方で、

みんなの銀行
は、iBankマーケティングの活動、特に Wallet+ をベースにしています。
この「みんなの銀行」は、まさに銀行業でして、株主はFFGだけです。
ホームページを拝見すると、冒頭でいきなり「お金のSNS」が謳われており、
iBankの狙いであった、
給料日でなくても頻繁に使う、普段使いの銀行アプリ
が引き続き一番アピールされていることがわかります。
(UI/UXがウリのはずなのですが、このポインタの形状を変えるのは、
シンプルであればあるほどいいはずの銀行サービスのUIとして、
個人的にはあまり好きではないです。どこまで顧客の声をとったのだろうか?)
このサービスとiBank事業との一番の相違は、機能うんぬんでは実はなくて、TAMだと思っています。
iBankは、中国地方の銀行もいくつか加入しているとはいえ、いっても九州が目玉の商圏でした。
しかし、みんなの銀行は、最初から全国を狙っています。
みんなの銀行アプリを自分のiPhoneにDLして使い始めてみたのですが、
日本国籍なら口座の開設をKYC/Know Your Customer で行うことができるようです。
KYCが日本の銀行業に現れたばかりのとき、典型的な新しもの好きのイノベーターである私は
いの一番に導入した北陸銀行で口座を作ってみようとしたのですが、
当該地方在住でないので、すげなく拒否されました(泣)。
ところが、みんなの銀行は無問題に口座を開設できます。
ということは、便利でありさえすれば、日本のどこに住んでいても
デジタルネイティブな層がこれを使うことができ、
九州に住む高齢者云々とかを気にする必要がないのです。
逆に言えば、iBankと異なり、以下の3つの懸念があります。
  1. 本業とのシナジーも必ずしも期待できない
  2. グループ内福岡銀行などとのカニバリゼーションが懸念される
  3. ほぼ同様の機能を持つ、楽天銀行などのチャレンジャーバンクとの真っ向勝負となり、競争が激しくなる

上記③に記述した通り、

楽天銀行のアプリと比較して、そのほかに何ができるのか?

が、機能的には目安になるかと思います。

口座開設、振込み、入出金、貯蓄といった機能はかぶっているように見えるため、その他の機能に注目です。

  1. バーチャルデビットカード
    アプリでデビットカード支払いができる機能。
    確かに、クレジットカードにはない、使ったらその場で残高を確認できるメリットがあります。
  2. カードレスの引き出し
    楽天銀行はセブン銀行などで引き出す際にカードが必要ですが、
    みんなの銀行はアプリがあれば引き出しができます。
    かなり便利です。
  3. Cover
    いますぐに現金が必要、しかし普通預金の残高は一時的にゼロ。
    そんなときはやむなくクレジットカードのキャッシングを利用することになるのですが、
    ご存じのとおり、カード会社からの借金はぼったくりの利率です。
    このCoverは、普通預金の残高が0円のとき、5万円まで無利子で貸し付けてくれ、
    返済も簡単、という秀逸なサービスです。

楽天にはクレジットカードサービスがあり、

本業であるはずのECサイトよりもよほど楽天グループの収益に裨益していますが、

楽天銀行と必ずしもシームレスに結合しておらず、今一つの使い勝手です。

しかし、みんなの銀行は上記の、ある意味クレジットカードを上回る機能をアプリに持たせており、

iBankマーケティングが運用するブロックチェーンを使ったポイント管理システムを組み合わせたら、

顧客獲得において楽天に勝てる局面が出てくるでしょう。

同行のロードマップには個人向け消費者金融や零細企業向けの金融のサービスも載っているようで、

これらがすべてアプリ内で完結して使えるようになるのなら、

都市銀にとっても脅威になる可能性すらあります。

また、同行の顧客獲得手段にも注目すべきです。

紹介した友達が口座を開設したら、

現金1.500円が、紹介した側・紹介された側双方に振り込まれるバイラルループを用意しており、これは

PayPal がスケールする際にうった施策
すなわち、eBay で支払いを行う際に
PayPalにサインナップして友達に紹介したら20ドルもらえるキャンペーン

と、顧客獲得戦略としては同じです(バイラル係数は1以上)。

サインナップしてくれた顧客にお金を払い、友達に紹介してくれたらさらに支払うことで、
私たち(PayPay社)は際立った成長を達成した。
この戦略は顧客一人当たり20ドルかかったが、同時に7%/日の成長をもたらし、
これは10日ごとにユーザベースがほぼ倍になることを意味した。
4,5か月もすると、私たちは何十万ものユーザを抱え、
最終的にはCAC(顧客獲得コスト)をはるかに上回ることになる小額の手数料をいただいて
送金を行うサービスを提供する、優れた会社を造ることが可能だという手ごたえを得た。
Thiel, Peter; Masters, Blake. Zero to One、拙訳

みんなの銀行は、今後3年で

単年黒字、120万ロ座、預金2200億円、消費性ローン800億円

を目指しています。

同行では開業2カ月目となる7月末時点で、8万口座の開設があったそうで、

このままの勢いでいけば、目標達成もまんざら夢物語ではないでしょう。

以上出典:
みんなの銀行ホームページ
BizZine セミナーレポート
「みんなの銀行永吉氏が語る、Appleのようなイノベーティブなプロダクトを生むデジタルバンクの作り方」
日経新聞 2021年9月2日 記事「みんなの銀行、個人ローンに来夏参入」

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