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イントロダクション:ポンペイで発見されたファーストフード店
というテーゼの証拠が、イタリアのポンペイから出土されました。かつてこの記事で日本マクドナルドの大復活を語ったのですが、スナックバー “thermopolium(テルモポリウム)”の一店舗が非常にいい保存状態で発掘され、シチューやパエリアといった温かい料理とワインを提供するファーストフード店だったようです。
出典:HYPEBEAST イタリアの古代都市 ポンペイでファストフード店が発見される
何をもって
と決めつけたのかよくわからないこの記事、微妙ですが、似たような機能を持っていたとしても不思議ではないですね。本記事は、他業種のプレイヤーと同様のビジネスモデルで飲食店をブレイクさせた企業を紹介していきます。
他業種のビジネスモデル:烏森百薬=セレクトショップ
ついに見つけましたよ、オリジナルなビジネスモデルで繁盛する飲食店!店に入った瞬間、 「おっ、こりゃ掘り出し物だ!」 とピンとくる店というのは希少なわけですが、烏森百薬というこの店自体が、まさにそれでした。SL広場の裏に入った、下町っぽさの残る新橋らしい風情のある道に、渋い日本家屋がまえの店が立っています。けっして広いとは言えないその店にはしかし、引きも切らずお客が入ってきます。
でググったうえでこの店を Business Insider で見つけ、電話予約しなければ、友人と一緒に飲むのに必要なカウンターのたったの二席も確保できなかったでしょう。
出典:飲食チェーン元カリスマ副社長が新橋で開いた居酒屋が画期的な理由
と一見変なことをおっしゃる創業者の大久保社長の主張を裏書きするように、黒板に書かれているメニューは、定番のくせに、どれも一癖オリジナリティがありそうです。店員の方もさりげなくお客様のコミュニティに溶け込む接客のうまい方ばかりで、めちゃくちゃ好印象。それだけで毎晩通いたくなります。塚田農場で伝説の大繁盛店を創り出し、若くして副社長まで上り詰めた 大久保社長が、店員の採用と育て方を知り尽くしているのだと思います。
この店のコンセプトは「食のセレクトショップ」。
アパレルのセレクトショップよろしく、店員が良いと思った食べ物、ドリンクを外から調達してきて、それを店に並べる新しい方式。友人と一緒にいろんなメニューいただいたのですが、どれもなかなか味わえない、間違いなく美味しい料理であり、お酒でした。お支払いはその晩はお一人様9千円なり!になっちゃったのですがこれはコロナ明けで久々に一緒に飲んだ友人とはしゃぎすぎただけで、お店の方針である「支払いは4000円内に収めたい」が十分に達成できる単価でした。
アパレルのセレクトショップ、私はユナイテッドアローズを使うことが多いのですが、のいいところは、
ところです。これが例えばDIESEL、このブランドは私好きだったのですが、に行くとすると、何を身に着けても、デザインが良くも悪くも DIESEL になるわけですね。画一的では必ずしもないのですが、トップスもボトムスも靴も、
と街を歩いていて一発と判る形、色になっている。逆に、そうでないと、1985年に Coca Cola が味を一新したときにファンに猛反対され、撤回させられたように、
と顧客に感じさせてしまうことになるからです。ところがセレクトショップだとその縛りがなく、バイヤーが、自分が気に入ったブランドの、その時点で最もイケてる服を店に並べられる。このビジネスモデルがアパレルで強いのは、特定のブランドが、猫の目のようにくるくる流行の変わるファッション業界で、おしゃれな客層を春夏秋冬唸らせ続けるのが極めて難しいから、です。
この烏森百薬は、顧客が望むものを店に並べるという徹底した姿勢で、セレクトショップのビジネスモデルをトレースすることで、店のメニューアイテムに 「掘り出し物感」を与えることに成功しているわけです。
※余談ですが、この店に行ったときは、ぜひトイレに下がっている掛軸を確認してみてください。思わず笑ってしまう、秀逸な張り紙がしてあります。ヒントはこのグラスです:
他業種のビジネスモデル:塚田農場=SPA
では、烏森百薬の創業者大久保氏がもともと副社長を務められていた
ですが、どんなビジネスモデルでしょうか?
第5波の緊急事態宣言明けに、久しぶりに行きつけだった塚田農場に行ってきたのですが、少し寂しく感じました。コロナの影響で、QRコードから注文する形式に代わり、 ちょうど繁忙時間だったせいもあって、浴衣姿の店員さんとのインタラクションがほとんどない。入店、退店のあいさつだって、飛沫を飛ばすことになりかねないわけで、自粛、というわけでしょう。
工夫した接客を強力な武器にしていた塚田農場としては苦しいところなんだろうな、と気の毒に思いました。しかし、塚田農場の歴史をさかのぼってみると、浴衣だの名刺だのあいさつだのは、あとから店舗レベルの声で追加されてきたサービスです。
そもそもは、創業者の方が宮崎から上京された際、当時の東京にはご当地料理という概念がなく、
とびっくりしたのが始まり。 そこで、
宮崎の農場→流通→東京の店舗
に至るまでのバリューチェーンを一社で丸抱えすることによって、美味いけれど安いという矛盾した価値を提供することを考えついたというわけです。これ、どこかで見たことないですかね? そう、ユニクロのSPAのビジネスモデルと全く一緒です。
もちろん両社は、原理が似ているだけで、バリューチェーンのオペレーションは異なるはずです。ファーストリテイリングが生鮮食品に手を出してやけどした話は、こちらに書きました。
他業種のビジネスモデル:トリキ=iPhone
というようなことが、イーサン・モリック氏の手による書物に書いてありまして、ですね。別に酒がどうしても飲みたいというわけじゃないのですが、仕事で煮詰まると、ときどき奥さんに無断でふらりとトリキに一人で飲みに行きます。
どうしても飲みたいというわけでは決してない。 あくまで仕事の一環として仕方なく飲みに行くわけですね。事業アイデアに詰まることなんて、いくらプロでもあり得ますからね。私はちっとも悪くない。
そんなときトリキは、劇場予告によると、
必ずしも人類のことが大好きじゃなかったみたいなシン・ウルトラマン
以上に、正義の味方です。一人でトリキに飲みに行くと、ここのValue Propositions/提供価値のうち最大のものは、「安心感」なのだな、とつくづくわかります。
どういう意味かというと、一皿ひとしなみに3百円なので、どんなに頑張って飲み食いしても、計 10皿/10杯 ぐらいが上限、したがって3千円/人超えるのは至難の業だという安心感があるわけです。
何せ酔っぱらってくると、どんどん酒が進んでしまうタイプなので、特に私にとって、この「目に見えないキャップ」には意味が大きい。
この均一価格は、100円ショップの登場前に生み出された、トリキのイノベーションです。鳥貴族を創業された大倉忠司社長は、当初は居酒屋も経営されていたようなのですが、鳥貴族一本に経営を絞られました。
狙いは、ティモシー・クック社長が、Apple の60日という驚異的な
を生み出している要因の一つと同じで、サプライヤーから仕入れを行う際のバイイングパワーの最大化です。クック社長はiPhoneのパーツの規格をとことん統一し、サプライヤーに専用の工場まで作らせて、大量に仕入れる代わりに、単価を下げさせ、買掛金の支払いをはるか先まで伸ばしています。
鳥貴族も似たようなことをやっているわけです。
そしてそれを、全店舗きっちり同じプロセスで仕込み、焼き、お客様に出すところまで無駄なく毎晩実行する。ここはICTの導入により更なる効率化を考えているようです。同社が一度入社した人間に対してのみ、のれん分けの形で店舗を持つことを許す「カムレードチェーン/comrade chain」と称する契約形態でフランチャイズを展開しているのもこの店舗レベルのプロセスを叩き込むためでしょう。
ようやく最近になってトリキバーガーを出すことでこのバリューチェーンのチューニングに例外を作りましたが、他チェーンに対抗する競争戦略を考えずに、自社のみが実行できることをとことんやりきるこの経営手法は、激しく管理人の好みです。
すかいらーく. ガスト. バーミヤン. しゃぶ葉. ジョナサン. 夢庵………
と、バラエティ豊かな多角化といえば聞こえはいいものの、
に比べればずっと潔く、何が強みでそれをどう生かしているのかが明確です。
出典:J-Net 21 「(株)鳥貴族」全品均一価格を謳う業態はどうして成功したのか?
終わりに
画期的なビジネスモデルを思いつくのは容易ではありません。その際の方法の一つは、他業種がやっているビジネスのビジネスモデルの要諦だけ盗んでくることです。同じ飲食店であっても、このように、ビジネスモデルの美点はバラバラだったりします。事業再生を試みる際は、他業種のビジネスを熱心に観察してみてください。