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参考: LAYER “Netflix’s Gaming Strategy, IP Trends and the Licensed Games Revival”
要するに、どの事業が大成功するかを目利きするのは神にのみ許された御業ですが、どの事業がうまくいかないかを演繹的/帰納的に言い当てるのは誰にでもできる、ということです。
(ここで「帰納的」とは、過去の失敗事例群からの推測、という意味。)
事業再生のカギ:考え抜かれた多角化を実行せよ
この記事が書かれた2021年、Netflix/ネットフリックスが、ゲーム会社から役員を雇い入れ、ゲーミングインダストリーに参入しました。
実はNetflix/ネットフリックスは、創業時の戦略が極めて賢いもので、名前からして、
これからはオンデマンドの時代が来る!
と2000年代初頭にすでに予測していたと思われる向きもあるため、のちのち特集を組んで語ろうと思っているくらいです。
私の提唱する、
という「変形ロボット戦略」を確実に決行したと思われるからです。
その Netflix が(よせばいいのに(?))多角化に打って出たわけです。
加入者のみが遊べるゲームを投入している、ということですが、このニュースを知った時点で、
と思いました。
ヘイスティングス氏、サブスクコンテンツ事業の競争激化に伴い、アイデアが細ってきた感があります。
事業再生/事業再編でやってはいけないこと:強みに基づかない多角化
既存事業を守るための施策
2億人という、日本の人口より多い(!)加入者を全世界に抱える動画業界の雄 Netflix ですが、プロダクトライフサイクルが進んできて、その成長は鈍化しています。
要は、オンデマンド動画業界自体が
になりつつあるということですね。
それを踏まえたうえで、今回の施策は、Netflixは、既存のサブスクライバーにゲームを無償で提供するという形でゲーミングインダストリーに参入ということで、さっそく引っかかるのは、この動きが、どうみても、既存の顧客の流出(解約/Churn)を防ぐという、後ろ向きな目的をもつとしか思えないことです。
クロスセルの対象にならない新市場に打って出るというのは、レッドオーシャン化した、しかしキャッシュカウの目減りを防ぐためなわけで、守りの施策であって、攻めではない。
シナジー効果が不明
さらによくわからないのは、このゲームですが、
という点です。
これは、よくない兆候です。
例えば、Netflixで人気ナンバーワンの“Squid Game”の、それこそゲーム版を作るというのであれば、これは大いに意味があると思います。
が、実際にNetflixがやったことは、新規にゲーム企業を買収して(つまりわざわざケイパビリティをゼロから獲得して)、自分たちが持っている動画コンテンツとは直接関係のないゲームを開発、サービスに追加することでした。
事業開発のカギ:ストーリィの強化/amazon prime との比較
この施策は、Netflixが世間に語るストーリィを強化していません。ここで、Netflixについで動画サブスクビジネスの2位のシェアを占める
の施策と、Netflixのそれを比較することで、それを証明したいと思います。
比較すべきポイントになるのは、以下の2点です。
1. Amazon.comは、動画配信を本業にしていない
Amazon.comの売上のトップはマーケットプレイス、利益のトップはAWSです。動画はいずれでも、次点以下です。
Amazon.comが映画制作会社Amazon Studios/アマゾンスタジオを造った理由、後にMGMを買収までした理由は、実は、
だけです。それ自体で稼ごうとは、実はあまり考えていない。
世界に2億人存するというプライム会員は、通常会員の3倍、売上に貢献するという「ポチラー」たちであり、
というのが、真の狙いなのです。
その証拠に、ジェフ・ベゾス氏は、
という意味の、一見、奇妙な発言をしています。
2. ゲームは、本来的に、動画の視聴と顧客の時間を奪い合っている
サブスク型のNetflixにしてみれば、
カニバらないから、ゲームの導入で、Netflix上で過ごす時間が増えればそれでよい
という考え方でしょうが、ここで問題は、
という事実です。
すなわち、他人(The Pokemon Company International、Zwiftといったゲーム会社)のふんどしで相撲をとろうとしています。
にわかで参入したゲームで、いままでゲームにさほど関心のなかった顧客にゲームに対する興味を抱かせ(現時点までそこまで関心をひきつけてはいないようですが)、
という加入者を出してしまったら、本末転倒そのものですが、それは全くありえないシナリオではない、と懸念します。
一方でprime videoのほうは、買い物という行為との間で、この「顧客時間の奪い合い」が全く発生しません。
今後の予想と私の施策
Netflixが仕掛けるこの新たな施策は、同社のコストをかさ上げし、利益率をひっ迫させます。
そのわりに、同社のサービスのプライムユーザーをとどめ続けるには、今のどっちつかずのサービスだけでは、魅力が乏しすぎます。
私なら、以下の2つの施策を実行します。
1. 同社のゲームをプレイする動画をユーザが手軽にアップするメカニズムを導入
アップロードは無料、他者のプレイを見るのは、月5本まで無料、6本目以降は有料。
ビュー数が一定の閾値を超えたプレイヤーの月額サブスク料金を、逆に減額します。
これも Amazon.com に買収された Twitch が大成功したように、ゲーマーというのは自分でゲームする、ある意味以上に、他社がゲームする様子を見たいものです。
格ゲーのような、観戦しがいのあるゲームを導入して、それをプレイする様子のシェアを上記のようにビジネス化することは可能なはずです。
2. ゲームのコンテンツを既存の動画のメニューと結びつける
たとえば、Squid Gameのゲームを作る版権を持っているのは同社だけですから、これを
Netflixのプラットフォーム上で無料ではなく有料で提供し、ユーザがプレイしたらそのフィーの一定割合をそのゲーム業者に落とすようにすれば、版権だけで儲かるビジネスが構築できます。
これこそ、私の考える、事業コア=強みに基づいた多角化です。
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