Yコンビネーターとは何者か?
Yコンビネーターとは、海外では知らない人がいない、世界最強のシードファンドです。
このブログの管理人が創出→構築を目指している事業は、この、Yコンビネーターの日本版です。
1. Yコンビネーター誕生秘話
3. Yコンビネーターの強み
3-1. パートナーは全員、(シリアル)アーントラプレナー
3-2. 数々のスタートアップの挫折をつぶさに観察してきて、膨大な知見を蓄積している
3-3. スタートアップ同士のコミュニティや、スケールに必要な人脈が得られる
5. 終わりに
1. Yコンビネーター誕生秘話
Yコンビネーターを創業したのは、イギリス生まれの実業家、PG/ポール・グレアム氏とその仲間数名です。
(PGというのは、Yコンビネーター内での彼の通称です。)
ポール・グレアム氏といえば、
ハッカー(ポール・グレアム氏はよく nerd(s)/オタクと表現する)
の世界では、その当時から知る人ぞ知る存在でした。
氏はLISPの鬼のようなコーダーであり、
Yコンビネーターを退いて引退した後も、
LISPのダイアレクトを自分で書いてしまうような、
ちょっと まつもとゆきひろ 氏を連想させる人です。
学歴も変わっており、ハーバードでコンピュータサイエンスの博士まで取った後、
フィレンツェで絵画の描き方を学んでいます。
イタリアから帰国後、ボストンで起業し、絵画好きが高じて
なるサービスを提供したのですが、
ようです。
(後知恵でいうなら、これは、Product/Market Fitの条件の一つ
が欠けていただけかもしれません。メタ盛んなりし昨今、
Sotheby/サザビーは、Decentralandにバーチャルなアート・ギャラリーを出店しているからです。)
ここから、Yコンビネーターの金科玉条の一つが生まれます。
次に起ち上げた会社は、PGいわく、
世界最初の ASP/ Application Service Provider である、Viaweb社。
この事業企画は、Windowsが大嫌いだったPGが、
使用マシンがマックだろうがMSだろうが、関係なく使えて
さくっとウエブショップを構築できるサービスを
と起ち上げたものでした。
これは大いにあたって、米国Yahoo!/ヤフーに買収され、Yahoo! Store となります。
PGは、スタートアップの創業者気質が災いしてか、
Yahoo!が肌に合わなかったようで、あっさり退職します。
そして、自分がスタートアップの創業者として苦悩した、以下の3点で、
start a startup/スタートアップをスタート
しようとしている、若い創業者たちを支援できるような組織を起ち上げられないか?
と思って、仲間から少量ずつの資本を募り、Yコンビネーターを起ち上げます。
- 当座の運転資金、生活費がない
- 投資家に伝手がないから、資金調達に苦労する
- 周囲にスタートアップ仲間がいないから、
どうをやればいいか?見当もつかない
かなり高額のエグジットをしたにもかかわらず、なぜかそんなにお金持ちにはなっていなかったようで、
このとき、パートナーが各々持ち寄った額というのが、だいたい1000万ずつくらいだそうです。
これを小分けにして、150万ー200万ずつ、
集まってきたプレシード/シードにばらまいて①の条件をみたし、
エッセイストとしてのPGの顔で②のための投資家を集め、小規模実験をしてみたら、
そこそこうまくいったので、
2. Yコンビネーターの実績/トラックレコード
Yコンビネーターの実績というのは、見ていて、もうほとんどばかばかしくなるほどの代物です。
成功した(=Product/Market Fitを達成した)スタートアップは、そうそうたるメンツ。
リストはここにあります。
この記事を書いている 2021年11月時点で、$400B越えの時価総額を創出しています。
この総額は、2021年3月にバイデン大統領が打ち出した経済刺激パッケージの額と同等です。
事業内容 | バッチ | Exit/IPO時の 時価総額 |
エグジットの方式 | 備考 | |
Dropbox | オンラインストレージ | 2007 | $11B | 2018年上場 | 創業時は、機能開発に着手する前に、Explainer video をユーザに視聴させ、反応を確かめた |
Twitch | ライブストリーミング配信プラットフォーム | 2007 | $970M | Amazon.comが買収 | Co-founderの一人、Michael Siebel は、Airbnb 創業者らにもにも重要な助言を与え、現在のYコンビネーターのCEO |
Heroku | PaaSの草分け | 2008 | $200M | Salesforceが買収 | |
Airbnb | 民泊プラットフォーム | 2009 | $98.5B | 2020年上場 | PGは「本当に顧客などいるのか?」と最初思った |
Stripe | オンライン決済のSaaS | 2009 | ー | (未上場) | Yコンビネーター卒のユニコーンでは、2021年時点で時価総額最大 |
Coinbase | 仮想通貨取引所 | 2012 | $65.3B | 2021年上場 | 創業時は仮想通貨の市場は非常に未熟で、顧客の教育に苦労した |
Doordash | 米国フードデリバリー最大手 | 2013 | $59B | 2020年上場 | 学生によって創業され、創業時は、すべて創業者がシステムを代行する「コンシェルジュ型MVP」を採用した |
Cruise | 自動運転 | 2014 | north of $500M | GMが買収 | バッチの最中に、高速道路の自動運転のシステムをあっという間にに書き上げた。現在も、自動運転タクシーなど、野心的なテクノロジーを作り続ける |
このYコンビネーターの実績というのはずば抜けているので、
本来は競合であるはずのSequoia Capital/セコイア・キャピタルがYコンビネーター自体に出資し、
3. Yコンビネーターの強み
3-1. パートナーは全員、(シリアル)アーントラプレナー
Owlerによると、Yコンビネーターには現在30人ほどパートナーがいるようですが、私が調べた限りでは、
その全員が、だいたいYコンビネーター卒の、(シリアル)アーントラプレナーです。
前のCEOサム・アルトマン氏は、
Yコンビネーターが輩出した Loopt というスタートアップのCEOでしたが、トラクションが得られず失敗。
パートタイムのパートナーとしてYコンビネーターに入り、のちにPGにCEOを任され、
「中興の祖」として成果を出します。
現CEOマイケル・サイベル氏は2回のバッチに参加、
Twitch (JustinTV) と SocialCam の二社をProduct/Market Fitまでもっていった猛者で、
Airbnbを最初の苦しい時期からメンタリングし、
資金難の同社をYコンビネーターに紹介した人物としても有名。
サイベル氏は、Airbnbの創業者たちの「絶対にめげない七転び八起きぶり」を評価したと語っています。
Craiglist をうまく活用した、同社の有名なグロースハックの発案者ともいわれます。
ピーター・ティール氏も、トランプ大統領を支持して摩擦をおこすまでは、
Yコンビネーターのパートナーでした。
創業者ポール・グレアム氏はメンタリングという言葉を嫌っていますが、
(実際にPGがCEOだった時代はかなりの放任主義だったようで、
「Yコンビネーターからバッチ参加中に言われた唯一のアドバイスは
『もう製品(MVP)をランチしたか?』
だけで、『まだです』というと、不機嫌に電話を切られた(笑)」
マイケル・サイベル氏談)
フィンテックの雄 Brex/ブレックス社のバッチ参加中の見事なピボットの示唆など、
実際に起業の修羅場を踏んだ経験者
3-2. 数々のスタートアップの挫折をつぶさに観察してきて、膨大な知見を蓄積している
マイケル・サイベル氏は、
と自社を定義しています。
Yコンビネーターといえば、私自身も何十と講義をYouTube上で拝見している
スタートアップスクール
https://www.youtube.com/c/ycombinator
であまりに有名ですし、
(めちゃくちゃ勉強になるので、ぜひチャネル登録して、見てください、
PGとザッカーバーグ氏の対談もあったりします)
ハーバード出のポール・グレアム氏が同社を起ち上げた意図の一つが
「スタートアップは直観に反し(counter-intuitive)、
MBAでは how to start a startup を全然教えてくれないから、創業者が挫折するのだ」
というインサイトからきていることからも、
世間のイメージが全く的外れとは思いません。
しかし、同社が有形・無形でため込んでいる
に関する情報が、スタートアップからあがってくる質問、悩みのほとんどを FAQ にしてしまい、
といったほうが、いわばブラックボックスとしてのYコンビネーターの働きをよく定義していると思います。
ちなみに、公開されている有形資産の一つが、私が毎日コツコツ読んでいる同社のブログです。
3-3. スタートアップ同士のコミュニティや、スケールに必要な人脈が得られる
Yコンビネーターバッチの最後のデモデイには、千単位の投資家が参加します。
のみならず、Yコンビネーターでは直接間接に豊富なコネが得られ、
同じ事業企画をはなひらかせようとして失敗したスタートアップの創業者や、
参加者が攻めようとしているインダストリーの業界通につながりやすくなることは間違いないです。
「ボストンではコネが全然得られない」
という、PGが抱えていた悩みに対応しているのが、Yコンビネーターですから。
最近では Hacker news はあまり使われていないようにみうけられますが、
DropboxのMVP(エクスプレイナービデオ)がYコンビネーターの Hacker news に載って、
その反応をみて需要があると判断し、
創業者ドリュー・ヒューストン氏が Dropbox の本格的な構築を始めた
というエピソードは(管理人の中では?)非常に有名です。
そしてバッチに参加しているスタートアップ200社あまりの仲間同士での切磋琢磨も、
Yコンビネーターのバッチのメカニズム
いよいよ本ページの扉絵(アイキャッチ画像)にある
Yコンビネーターのバッチ
のメカニズムの説明です。
このバッチのシステムは、
という、過酷なまでにリアリスティックな考え方に基づいています。
実際に、どの程度のスタートアップが成功するのか?
年に2回あるこのバッチには毎回6000社以上(2021年のそれには1万社)が
世界40か国以上からアプライしてきます。
このうち、合格してバッチに参加できるのが、100社―200社。
その中でエグジットして、Yコンビネーターにリターンを与えるのが、たったの1社か、せいぜい2社。
これはつまり、Yコンビネーターにアプライしてくる熱心なスタートアップの生存率すら、
1/10,000 = 0.01%
ということを示します。
ちなみに、沖縄海戦で特攻した戦艦大和の乗員の生存率は8%なので、
それより厳しいということ。
したがって、Yコンビネーターは、
とわりきっている、ということです。
ほとんどうまくいかないのだから、
少数の「見込みのある」(でも、実際は成功するかどうかわかりっこない)スタートアップに
億単位の資金をつけるより、
多数の、創業者にレジリエンスのある(しぶといという意味)プレシード/シードに、
100万円から200万円の小額投資をつけて(100社×200万円でも、もとでは2億ですみますね)
そのうち1社が大成功したら御の字だろう
という考え方をします。
合格した一握りのスタートアップたちには、3か月間で、上述の通り、
カネ・コネ・チエ
の三つを与え、
3か月目のバッチで多くの投資家の前でピッチさせます。
そして7%のエクイティをもらって、スタートアップを世に送り出すわけです。
おわりに(参考文献)
以上が、本ブログの管理人が是非とも日本になくてはならないと思い、
構築を狙っているYコンビネーターの、本家本元の解説です。
これだけYコンビネーターの機構/組織を穿った日本語の記事というのは
珍しいと自負しています。
Yコンビネーターに関してはまだまだ語りたいことの1割も語っていません。
たとえば、シリーズA以降に関して、Yコンビネーターがどう考えているか、など。
おいおい記事をアップしていきます。
〈参考文献リスト〉
1. Yコンビネーター
ちょっと古いが包括的な参考文献。
珍しく諸事情あって邦訳から読みましたので、
翻訳のよみやすさは確認しておりますし、原著にはない「訳者あとがき」が参考になります。
ただし、原著と比べたら、訳者が startup(s) という言葉を、すべてご丁寧に
「ベンチャー企業」
に翻訳しているため、これが和製英語でないと勘違いなさる方も出るかと思います。
(英語で a venture firm といったとき、それは間違いなく
スタートアップに投資する側の会社
を指します。
気をつけてください。)
2. Hackers & Painters: Big Ideas from the Computer Age
PG/ポール・グレアム氏の辛口のエッセイ満載の楽しい本。
特に、
「君はお金についてどう考えるのか?」
という章が、創業者や社長にとっては参考になるかと思います。
邦訳。当然(?)未読です。