Continuous Discovery Habits/継続的市場探索の習慣とは、顧客理解を一度きりの調査で終わらせず、顧客との対話と小さな検証を続けながら、プロダクトの価値を磨いていく実践法です。
従来の事業開発では、事前に詳細な調査を行い、そこから要件を定義して、それに従って開発を進める方式が主流でした。これは、世にアジャイルと呼ばれている開発手法であっても、事実上、このやり方を実践している場合がほとんどでした。しかし、顧客のやりたいことがにわかには一意に定義しづらい現代においては、一度の調査や計画だけで成功を収めることは極めて困難です。
そこで注目を集めているのが、テレサ・トーレス氏が提唱したContinuous Discovery habitsです。
本記事では、この手法の核心にある概念から、具体的な実践方法、そして組織への導入に向けた課題解決までを網羅的に解説します。多くの新規事業開発が直面する「プロダクトが市場に適合しない」という致命的なリスクを回避するためには、市場機会の発見(ディスカバリー)のプロセスを有機的に開発プロセスに組み込むことが不可欠です。顧客にとって本当に価値のあるプロダクトを生み出し、機能ではなく市場価値を産み出していく羅針盤として、この記事ではこの画期的なアプローチの全貌を明らかにしていきます。自身のチームにContinuous Discovery habitsを導入し、より確実性の高いプロダクト開発を実現するための実践的なガイドとして活用してください。
Continuous Discovery Habitsとは何か
Continuous Discovery Habitsとは、プロダクトチームが顧客と継続的に接点を持ち、インタビューや検証を繰り返しながら、何を造るべきかを見極めていくアプローチです。単発の市場調査とは違い、開発と並行して探索を続ける点に特徴があります。
多くの組織では、顧客理解が開発チームの外に追い出されがちです。市場調査はマーケティング部門、要件定義は企画部門、実装は開発部門という分断が起きると、開発する側が顧客を十分に知らないまま進んでしまいます。Continuous Discovery Habitsは、この分断を減らし、開発チーム自身が顧客理解を担うための考え方でもあります。
なぜ今、重要なのか
いまの市場は変化が速く、一度の調査だけで正しい答えを出すのは困難です。開発が順調に進んでいても、顧客が欲しくないものを造っていれば、市場価値は積み上がりません。
だからこそ重要なのは、「どれだけ造ったか」ではなく、「顧客にとって本当に価値があるのか」を継続的に確かめることです。Continuous Discovery Habitsは、そのための土台になります。
従来型の進め方との違い
| 比較項目 | 従来型の進め方 | Continuous Discovery Habits |
|---|---|---|
| 顧客調査の位置づけ | 開発前の単発イベントになりやすい | 開発と並行して継続する |
| 意思決定の起点 | 社内の要望や計画が中心 | 顧客理解と検証結果が中心 |
| 方向修正 | 遅れやすい | 早い段階で軌道修正しやすい |
| チームの関わり方 | 役割分断が起きやすい | チーム全体で顧客理解を深める |
Opportunity Solution Tree(OST)の基本構造
Continuous Discovery Habitsを実務で回すときに役立つのが、Opportunity Solution Tree(OST)です。OSTは、顧客の課題、解決策、検証項目を木構造で整理するツールです。顧客の声を集めても議論が拡散しがちなチームにとって、非常に有効です。
OSTの詳しい考え方や造り方は、別記事の Opportunity Solution Tree(OST)の解説 をご覧ください。ここではContinuous Discovery Habitsとの関係に絞って要点を整理します。
| 階層 | 意味 |
|---|---|
| Outcome | 達成したい成果です。売上、継続率、利用率など、事業や顧客行動の変化を置きます。 |
| Opportunity | 顧客が抱える課題、不満、ためらい、未解消のモヤモヤです。 |
| Solution | 課題に対する解決策の案です。最初から一案に絞らず、複数考えるのが基本です。 |
| Experiment | 解決策そのものではなく、その案が成り立つ前提仮説を確かめる小さなテストです。 |
明確なアウトカムを置く
OSTの出発点は、機能ではなくアウトカムです。何を造るかではなく、どんな変化を起こしたいのかを先に定義します。
実務では、事業アウトカムとプロダクトアウトカムを分けると整理しやすくなります。たとえば、「継続率を上げる」は事業アウトカムです。一方で、「顧客が初回利用で価値を実感できるようにする」はプロダクトアウトカムです。この二つを混ぜると、議論がすぐに「この製品を売ること」に戻ってしまいます。
顧客の課題を見つける
Opportunityは会議室で思いつくものではありません。顧客インタビュー、観察、営業同行、問い合わせ分析、解約理由の確認などを通じて見つけます。
ここで大事なのは、顧客の「こうしてほしい」という言葉を、そのまま採用しないことです。顧客が口にするのは解決策の希望であって、課題そのものではないことが多いからです。まずは、その背後にある困りごとを言語化する必要があります。
解決策は複数出し、前提仮説を検証する
課題が見えてきたら、ようやく解決策を考えます。ただし、一案だけで進めるのは危険です。複数案を並べて比べながら、どれが最も筋がよいかを見極めます。
また、最初から完成品を造る必要はありません。重要なのは、その解決策が成り立つ前提仮説を小さく確かめることです。顧客は本当に困っているのか、その価値は伝わるのか、導入するだけの意味があるのか。こうした前提を一つずつ検証していきます。
継続的インタビューを成功させるポイント
Continuous Discovery Habitsでは、顧客インタビューを続けられるかどうかが大きな分かれ目になります。単発で終わらせず、日常的に回す仕組みが必要です。
| 項目 | 失敗しやすい進め方 | 望ましい進め方 |
|---|---|---|
| 対象者集め | 毎回手作業で募集する | 継続的に声をかけられる仕組みを造る |
| 質問内容 | 未来の希望や要望を聞く | 過去の具体的な行動を聞く |
| 結果の扱い | 議事録だけ残して終わる | OSTや仮説に反映する |
顧客との接点を日常化する
継続的インタビューの障害になりやすいのが、対象者集めと日程調整です。これを毎回ゼロからやっていると、すぐに止まります。したがって、顧客に声をかけやすい導線をあらかじめ造っておくことが重要です。
たとえば、既存顧客との定例接点、問い合わせ対応後のフォロー、営業同行、イベント参加者への打診など、自然に対話できる場を増やしておくと、継続しやすくなります。
過去の行動を引き出す
インタビューで重要なのは、将来の希望を聞くことではありません。「この機能があったら使いますか」と聞いても、精度の高い答えは得にくいからです。
それよりも、「最近その業務をやったとき、最初に何をしましたか」「どこで困りましたか」といった形で、過去の具体的な行動を聞くほうが有効です。実際の行動には、顧客の本音と制約が表れやすいからです。
プロダクトトリオによる協働体制の構築
Continuous Discovery Habitsは、一人で回すものではありません。プロダクトマネージャー、デザイナー、エンジニアが一緒に顧客理解を深め、仮説を検証する体制が望まれます。いわゆるプロダクトトリオです。
この三者が初期段階から同じ顧客理解を共有していれば、「なぜこれを造るのか」がぶれにくくなります。逆に、企画、設計、開発が分断されていると、情報の伝達ロスが起こりやすくなります。
| 役割 | 主な視点 | ディスカバリーでの役割 |
|---|---|---|
| プロダクトマネージャー | 事業性、市場性 | アウトカムの設定と優先順位づけを担います。 |
| デザイナー | 顧客体験、使いやすさ | 顧客の困りごとを体験設計に落とし込みます。 |
| エンジニア | 実現可能性、技術制約 | 技術的な制約を踏まえて、検証しやすい形を考えます。 |
プロダクトマネージャーの役割
プロダクトマネージャーは、何を目指すのかを明確にし、チームが事業アウトカムに向かって動けるようにする役割を担います。ただし、正解を一人で決める存在ではありません。顧客理解を深めるための対話と検証を回しやすくすることが重要です。
デザイナーとエンジニアを早く巻き込む
デザイナーとエンジニアを後工程で呼ぶのではなく、最初から巻き込むことで、顧客の課題をより立体的に捉えやすくなります。体験設計と技術制約の視点が早い段階で入るため、無理のある案に時間を使いすぎずに済みます。
Continuous Discovery Habits導入の課題と対策
考え方自体は理解できても、実際に導入すると壁にぶつかることがあります。典型的なのは、時間が取れない、意思決定が上意下達になっている、顧客理解が一部の人だけの仕事になっている、といった問題です。
| 課題 | 起こりやすい背景 | 対策 |
|---|---|---|
| 時間が取れない | 開発タスクが優先される | 週ごとの探索時間を先に確保します。 |
| 上層部の理解不足 | アウトプット中心で評価される | 小さな成果を示しながら理解を広げます。 |
| 権限がない | 仕様まで上から決まる | まずは小さな範囲で検証の裁量を確保します。 |
小さく始める
最初から全社導入を狙うより、まずは小さなテーマで始めるほうが現実的です。少人数のチームで顧客との対話と検証を回し、成果を見せながら社内理解を広げていくほうが定着しやすくなります。
重い調査にしない
継続的探索は、重厚なレポート作成を毎回行うことではありません。短いインタビュー、小さな検証、素早い振り返りを回すことがポイントです。完璧さより、学習の回転数を重視したほうが成果につながりやすくなります。
Continuous Discovery Habitsのまとめ
- Continuous Discovery Habitsは、顧客理解を継続するための実践法です。
- 開発の進捗だけでなく、顧客価値の進捗を見る視点が重要です。
- Opportunity Solution Tree(OST)を使うと、課題、解決策、検証項目を整理しやすくなります。
- 顧客インタビューでは、将来の希望よりも過去の具体的行動を聞くことが有効です。
- プロダクトマネージャー、デザイナー、エンジニアが一体となって探索を回す体制が望まれます。
- 最初から大きく始めず、小さく試して学習を積み上げることが導入の近道です。
Continuous Discovery Habitsは、単なるインタビューのやり方ではありません。顧客理解を起点に、何を造るべきかを見極め続けるための仕事の進め方です。
そして、その実務を支える道具がOpportunity Solution Tree(OST)です。OSTの構造や導入のポイントを詳しく知りたい方は、顧客の声から売れるプロダクトを創り出す最新ツール Opportunity Solution Treeとは? もあわせてご覧ください。

イントラプレナーとして、合計8つの新規事業開発を経験。1,300回に及ぶ顧客インタビューの実施経験を持つ。生成AIによるアイディエーションの世界初のサービスである、「AIディアソン」を、2023年の1月に上梓。それ以降も次々とAIサービスをローンチしている。
翻訳書の発行される前の版の、The Four Steps to the Epiphany (邦訳「アントラプレナーの教科書」、リーンスタートアップの下敷きになった本)を所持するほど、古くから事業開発の方法論を考究。最近はアメリカで最新とされるプロダクト開発のメソッドである、継続的発見(Continous Discovery)手法を取り入れ、エフェクチュエーションと組み合わせて事業開発に応用。
