バルミューダの新規事業「バルミューダフォン」の失敗を正確にいい当ててしまいました

バルミューダの新規事業:「バルミューダフォン」のこれからを占う

バルミューダの新規事業「バルミューダフォン」の失敗を正確にいい当ててしまいました

バルミューダのビジネスモデル

すでに「サチッている」とされてきた家電の事業領域に次々と斬新な製品を出し、

ベストセラーを数多く世に出してきたバルミューダの業績が、前期も好調だったようです。

最も伸びたのは「キッチン関連」、

新しく出たバルミューダフォンは、スマホ発売初年ながら25億4,900万円と、

同社としてはまずまずの売上高を計上したとされています。

バルミューダのビジネスモデルは、

同社の誇る、圧倒的な製品開発能力、特に Aesthetic Ability※ による究極の単発売り切り

※英語で design というと設計の意味合いが強いため、ユーザ体験をデザインする力といいたいとき、

美的能力を意味するこの連語を使っています。

このビジネスモデルは従来、十二分に機能してきたのですが、

ここに来て同社がバルミューダフォンを上市したため、ほころびが見えてきました。

本稿の第一稿は、2022年2月末に上梓され、バルミューダフォンの失敗を言い当ててしまいました。

寺尾社長は、原体験からアイデアを得て、

それを、一般的な消費財にカテゴライズされるが、実は今までになかった

価値提案/Value proposition(s)

に落とし込んで、

その付加価値により高価格帯であっても思わず買ってしまうようなプロダクトに昇華する才能にかけては、

非常に才能に恵まれている方に見えました。

寺尾社長はスティーブ・ジョブズ氏を若年のころからリスペクトし、

以下の3点で、似通ったところがあるとされてきた方です。

  1. プロダクトそのものではなく、それで演出できる「経験」を消費者に提供しようとする
  2. プロダクトの詳細にこだわり倒す
  3. 市場調査を全く行わず、消費者が求めていると気づかなかった新規プロダクトを創造しようとする

プロダクトそのものではなく、それにまつわる「経験」をユーザに消費させる

最初に大ヒットした扇風機 GreenFan のアイディエーションも、

エコロジーという考え方が底流にあるとはいえ、

小さいころ自転車に乗って味わった自然な風が原体験になって出てきたイノベーションだそうです。

GreenFan が一見単なる扇風機なのにヒットしたのは、以下のインサイトのゆえです。

単に風が当たれば人間が涼しく感じるというは実は間違いだ、
自然な風を、特に人間は涼しいという風に感じるのだ
GreenFan は、この自然な風を生み出すことができる扇風機です。

このように寺尾社長は、体験ということを非常に重視されるイノベーターです。

2万を超える高価格にもかかわらず、大ヒットした The toaster も、

「世界一のトーストをお客様に食べていただこう」

というインサイトから始まっており、

世界一のトースターを造りたい

ではなかったようです。

ここで、寺尾社長いわく、扇風機とトースターが

しかし決定的に異なっていたのは、調理器具に関しては、

作る楽しみ+食べる楽しみ

の両方があるということでした。

The toaster は、水分を上手に使って抜群に美味しいトースターが

焼きあがるだけのプロダクトというだけでなく、

かつてスティーブ・ジョブズ氏が生み出した

NeXT Computer “Cube” をほうふつとさせるおしゃれなデザイン、

同社の加湿器と似た、注ぐのが楽しい構造の給水口に水を入れる方式など、

「作る楽しみ」にもしっかりアドレスされた機器に仕上がっています。ここが、

Aesthetic Ability/デザイン力

の面目躍如たるところです。

寺尾社長がスティーブ・ジョブズ氏に似て、製品デザインにこだわり倒すのは、

単に芸術家気質であるということにとどまらず、このように

ユーザ体験

に、プロダクトの外見が強くかかわってくるからでしょう。

The toaster の外見がおしゃれなのは、台所において生活する、その

生活そのものをユーザ体験と見立てている

からです。

これは慧眼で、上掲の NeXT Computer で、実はジョブズ氏が失敗したところでした。

“Cube”を含めたNeXTのコンピュータは、総計たったの5万台しか売れませんでした。

例えば “Cube”は、ワークステーションともパソコンともとらえられる中途半端なスペックで、

仮に当初企図していたワークステーションとして大学の研究室や企業のR&D部門がこれを利用した場合、

真っ黒なジェラルミンのおしゃれな外観など、研究室で働く上で、ユーザにとってどうでもよく、

それよりは無駄を削って価格を下げてほしいと、研究者なら誰でも思うわけです。

したがって、NeXTは、この事業領域でついに Sun Microsystems にかないませんでした。

しかし、トースターは、下手をすると20年も同じ台所で一緒に暮らすかもしれないアイテムで、

これの外見が洗練されていることは、確かにユーザにメリットが多分にあるといえるでしょう。

新規事業バルミューダフォンが失敗した理由

(この節は、2022年2月末時点の初稿のままです。)

家電の印象が強かったバルミューダが初めて携帯電話を上市するということで、話題になった

ですが、この事業はどうなるでしょうか?
この製品こそ、ジョブズ氏と氏が生み出したとされる(実際は違う
iPhone
に対するリスペクトとオマージュの結晶みたいな新規プロダクトです。

現在までの売上は、バルミューダフォン単体の売上計画27億に対して25億5000万(2021年会計年度)と、

ギリギリ未達で、絶好調とまではいかなくても悪くないという感じでしょうか。

私の見立ては、

今回のワンショットでは「iPhoneには遠く及ばない」とだけしかいえない。
これからも、同社のビジネスモデルの大幅な変更が必要なので、従来通りにはいかず苦戦するだろう

というものです。

理由は三つあります。

  1. 今回のプロダクトでは、同社の強みが生かし切れていない
  2. 携帯電話は単発売り切りでなく、リカーリングモデルであり、
    バルミューダの従来のモデルとは異なる
  3. iPhoneの特性であるプラットフォームとしての価値を生み出すようなアセットがバルミューダにはない

今回のプロダクトでは、同社の強みが生かし切れていない

私はバルミューダフォンをもっていないので、この動画など、ネット上のレビューに依存しています。

今回の寺尾社長一流の洞察が機能しているのは、

持ち運びしやすいという一点のみ
のようです。
すなわち、ジョブ理論に基づいていないという結論になりますでしょうか。
カレンダーのUXが秀逸らしいのですが、これも、パソコンなどでも使えればともかく、
プロプライエタリーなバルミューダフォンのみで動くアプリとなっており、そうなると画面が小さすぎ使いにくい。
指紋認証の位置もピンボケみたいです。
ネット上の評判を信じると、よく2万4千台も売れたな、というのが率直な感想です。

携帯電話は単発売り切りでなく、リカーリングモデルである

YコンビネーターのCEOマイケル・サイベル氏が指摘している通り、

みんな忘れているが、2007年に現れた初代iPhoneはボロボロだった
のです。

iPhoneは天才スティーブ・ジョブズ氏の天才的な洞察から降ってわいた

最初から完成された、歴史上最も売れた消費財などではなく、

Appleがハードウェアを1年に一度更新し、iOSを何十回も書き変えて

イテレーションしてきたからこそ、今の形があります。

このように、バルミューダが従来やってきた、十年以上もつ家電を単発で提供して、

後続機を出さないビジネスモデルとは根本的に異なる、息の長いカテゴリのプロダクトなのです。

バルミューダフォンにもしたがって同じ要件がのしかかってきます。

アプリケーションの間断ない更新も含めた長期の保守費として同社のコストに響いてきます。

iPhoneの特性であるプラットフォームとしての
価値を生み出すようなアセットがバルミューダにはない

バルミューダとiPhoneのビジネスモデルを比べたときの最大の違いは、

KP/キーパートナーズ

の種類と数です。

iPhoneはジョブズ氏自身が定義した通り、

電話できる iPod

でした。

そして iPod の背後には、無数の楽曲という最強のアセットをもつレコード会社が控えていました。

そして、初代iPhoneには備わっていなかったものの、

iPhoneは初代からベストセラーになったので、Appleはすぐに AppStore を投入出来ました。

こうして同機はプラットフォームとなり、

単機でこの上なく強力なエコシステムを築いてしまったのです。

iPhoneは両面マーケットのフライホイールを回して化け物商品になりました。

「iPodからの乗り換え」という形で iPhone 初代もベストセラーになり、

その勢いを殺さずに iPhone 自体をどんどん更新することで消費者を増やし、

その魅力で無数のアプリメーカーをひきつけ………

アプリが増えてきたからフィーチャーフォンからさらに消費者が乗り換え………

と、雪だるま式に魅力を増幅させていったのです。

バルミューダフォンは、持ちやすさが優れているというその点では、

箱を開ける瞬間からワクワクする iPhone と似た、経験を演出する魅力を持っています。

が、こういう言い方をすると申し訳ありませんが、いまのところ

それだけ

です。

このまま無策で行くと、単なるiPhoneオマージュで終わってしまう懸念があります。

バルミューダフォンの悲惨な末路

この記事の初稿がアップされたのが2022.02.28。

同年の5月、バルミューダフォンは投げ売りを開始しました。

14万円で当初売られていたバルミューダフォンは、実質1円、

回線契約ぬきでも85%オフの正真正銘の投げ売りを開始しました。

バルミューダフォンに関しては、

復活しようがないのでは?

というのが、管理人の見立てです。

2万人以上の人が、世間ですでに「ゴミ」というレッテルの張られた

このバルミューダフォンをお買い上げになってしまいました。

本家本元のiPhoneも、初代の後すぐに3Gの第二世代を安値で出して顰蹙を買ったにもかかわらず、

初代、第二世代ともに、ヒットしたのとはわけが違います。

投げ売り=もう携帯電話は造りません、という宣言としか思えません。

なぜならすでに2万人の消費者を裏切って激怒させ評判を下げてしまったので、

バルミューダフォン第二世代が出たとしても、まず誰も初見では買わないからです。

バルミューダは家電メーカーで、携帯電話端末はデビュー戦でした。

加えて、上で議論した通り、

iPhoneを大ヒットさせたようなエコシステムは

これから構築するしかないのです。

これでは、バルミューダの社長がいかにスティーブ・ジョブズ崇拝のポエムを奏でようと、

しょせん偽物だ、あなたは消費者を裏切った

という、でかでかと刻印されてしまったレッテルをはがすことは容易ではありません。

iPhoneは、実はスティーブ・ジョブズ氏の発明ではありませんでした。

ジョブズ氏が発明したのはそのビジネスモデルであり、

Appleの真の偉大さは、最初からドカンと傑作を出すことができなくても、

うまずたゆまずのイテレーションで徐々にiPhoneを傑作に仕上げていったことにありました。

バルミューダフォンの致命的な失敗は、

バルミューダ社がこのことを全く理解していなかったことの

如実な証拠となってしまったのです。

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