バルミューダのビジネスモデル
事業のポイント:プロダクトそのものではなく、それにまつわる「経験」をユーザに消費させる
バルミューダのプロダクトが遂行する jobs to be done/ジョブズ
野心的な新規事業バルミューダフォンはどうなるか?
今回のプロダクトでは、同社の強みが生かし切れていない
携帯電話は単発売り切りでなく、リカーリングモデルである
iPhoneの特性であるプラットフォームとしての
終わりに
バルミューダのビジネスモデル
すでにサチッているとされてきた事業領域に次々と斬新な製品を出して、
ベストセラーを数多く世に出してきたバルミューダの業績が前期も好調です。
「携帯端末関連」はスマホ発売初年ながら25億4,900万円と、同社としては決して少なくない売上高を計上した。
出典:THE OWNER 「バルミューダ、売上約1.5倍に! バルミューダフォンはどうなる?好調の要因」
バルミューダのビジネスモデルは、
※英語で design というと設計の意味合いが強いため、ユーザ体験をデザインする力といいたいとき、
美的能力を意味するこの連語を使っています。

このビジネスモデルは従来、十二分に機能してきたのですが、
ここに来て同社がバルミューダフォンを上梓したため、ほころびが見えてきました。
これが、本稿のテーマです。
寺尾社長は、原体験からアイデアを得て、それを、一般的な消費財にカテゴライズされるが、実は今までになかった
に落とし込んで、
その付加価値により高価格帯であっても思わず買ってしまうようなプロダクトに昇華する才能にかけては、
非常に才能に恵まれている方です。
寺尾社長はスティーブ・ジョブズ氏を若年のころからリスペクトし、以下の3点で、
確かに似通ったところのあるイノベーターです。
- プロダクトそのものではなく、それで演出できる「経験」を消費者に提供しようとする
- プロダクトの詳細にこだわり倒す
- 市場調査を全く行わず、消費者が求めていると気づかなかった新規プロダクトを創造しようとする
事業のポイント:プロダクトそのものではなく、それにまつわる「経験」をユーザに消費させる
最初に大ヒットした扇風機 GreenFan のアイディエーションも、
エコロジーという考え方が底流にあるとはいえ、
小さいころ自転車に乗って味わった自然な風が原体験になって出てきたイノベーションだそうです。
GreenFan が一見単なる扇風機なのにヒットしたのは、
自然な風を、特に人間は涼しいという風に感じるのだ
2万を超える高価格にもかかわらず、大ヒットした The toaster も、
「我々が考えていたのはただ、『世界一のトーストをお客様に食べていただこう』ということだけ」
出典:GetNavi Web「【価格はカンで決めた】2万5000円のトースターを10万台売った社長に直撃! 「バルミューダ ザ トースター」が爆売れする理由」
The toaster は、水分を上手に使って抜群に美味しいトースターが焼きあがるだけのプロダクトというだけでなく、
かつてスティーブ・ジョブズ氏が生み出した NeXT Computer “Cube” をほうふつとさせるおしゃれなデザイン、
同社の加湿器と似た、注ぐのが楽しい構造の給水口に水を入れる方式など、
「作る楽しみ」にもしっかりアドレスされた機器に仕上がっています。ここが、
の面目躍如たるところです。
寺尾社長がスティーブ・ジョブズ氏に似て、製品デザインにこだわり倒すのは、
単に芸術家気質であるということにとどまらず、このように
に、プロダクトの外見が強くかかわってくるからでしょう。
The toaster の外見がおしゃれなのは、台所において生活する、その
からです。
これは慧眼で、上掲の NeXT Computer で、実はジョブズ氏が失敗したところでした。
“Cube”を含めたNeXTのコンピュータは、総計たったの5万台しか売れませんでした。
例えば “Cube”は、ワークステーションともパソコンともとらえられる中途半端なスペックで、
仮に当初企図していたワークステーションとして大学の研究室や企業のR&D部門がこれを利用した場合、
真っ黒なジェラルミンのおしゃれな外観など、研究室で働く上で、ユーザにとってどうでもよく、
それよりは無駄を削って価格を下げてほしいと、研究者なら誰でも思うわけです。
したがって、NeXTは、この事業領域でついに Sun Microsystems にかないませんでした。

しかし、トースターは、下手をすると20年も同じ台所で一緒に暮らすかもしれないアイテムで、
これの外見が洗練されていることは、確かにユーザにメリットが多分にあるといえるでしょう。
バルミューダのプロダクトが遂行する jobs to be done/ジョブズ
4万円以上するのにこれもよく売れたデスクトップライト BALMUDA The Light も、
子どもたちが絵や文字を書き始めると机に顔を近づける姿を見た寺尾玄社長が
と心配したことが始まりでした。
このエピソードを、レヴィット教授の論文
市場調査は過去のデータだ。
既存商品に対する顧客の好みは把握できるが、この世にまだ存在しない製品のウォンツ(潜在的なニーズ)は把握できない。
という、すがすがしい名言を吐いています。
しかし、ここからが微妙です。
このウォンツは、過去のデータの集計値である市場調査ではなく、マーケターの洞察でつかむものなのである。
(出典:文春オンライン「バルミューダの家電はなぜ独り勝ちするのか? “市場調査”に頼った商品開発が失敗するワケ」、ブロック体・下線筆者)
http://startupscaleup.jp/2021/11/10/job2/
上記の The Light が大ヒットした理由も、ジョブのテンプレに落としてみた瞬間に、
とやらが浮き彫りになり、一目瞭然です。
ジョブの要素 | 要素の値 |
Progress/推進したいこと | 勉強する |
Conditions/おかれた状況 | 室内のデスクで |
Obstacles/その状況での障害 | 日が落ちた時刻で、部屋の照明だけでは本が読みにくい |
Imperfect Solution/イマイチの解決策 | 既存のライト ― 手元に影ができてしまい、目を本に近づける必要がある ― 照明自体が目に優しくない |
Quality/妥協できる、下辺の品質基準 | 手元に影ができず、目に優しい |
ジョブマップに落としながら顧客のジョブをインタビューで聞きこんでいくことで、
を乗り越えることができます。
野心的な新規事業バルミューダフォンはどうなるか?
家電の印象が強かったバルミューダが初めて携帯電話を上梓するということで、話題になった
現在までの売上は、バルミューダフォン単体の売上計画27億に対して25億5000万(2021年会計年度)と、
ギリギリ未達で、絶好調とまではいかなくても悪くないという感じでしょうか。
私の見立ては、
これからも、同社のビジネスモデルの大幅な変更が必要なので、従来通りにはいかず苦戦するだろう
というものです。
理由は三つあります。
- 今回のプロダクトでは、同社の強みが生かし切れていない
- 携帯電話は単発売り切りでなく、リカーリングモデルであり、
バルミューダの従来のモデルとは異なる - iPhoneの特性であるプラットフォームとしての価値を生み出すようなアセットがバルミューダにはない
今回のプロダクトでは、同社の強みが生かし切れていない
私はバルミューダフォンをもっていないので、この動画など、ネット上のレビューに依存しています。
今回の寺尾社長一流の洞察が機能しているのは、
携帯電話は単発売り切りでなく、リカーリングモデルである
Y-combinator/YコンビネーターのCEOマイケル・サイベル氏が指摘している通り、
iPhoneの特性であるプラットフォームとしての
価値を生み出すようなアセットがバルミューダにはない
バルミューダとiPhoneのビジネスモデルを比べたときの最大の違いは、
の種類と数です。
iPhoneはジョブズ氏自身が定義した通り、
終わりに
バルミューダフォンに対しては厳しい見立てを披露しましたが、
しかし、バルミューダがほかのメーカーには決定的に欠落しているエッジ、
を持っていることは間違いないです。